LOCAL PRIDE -GUNMA-
田中仁(株式会社ジンズ 創業者・代表取締役CEO)

直営・FC店合わせて511店舗、2018年8月期の売上高は548億円。それまでのアイウエア業界の常識を覆した「JINS」創業者であり代表取締役CEO、田中仁氏は故郷群馬県と前橋市への様々な地域活動が話題となっている。彼を地元に向かわせる、その原動力を探った。

群馬県前橋市で始めた雑貨事業。2001年にアイウエア事業に進出後は、みるみるうちに成長し、わずか5年で上場。「レンズの追加料金無料」の価格体系を構築、軽量メガネの市場を開拓し、爆発的にヒットした「Airframe」を開発。その後も「JINS SCREEN(旧JINS PC)」「JINS MOISTURE」など、数々の改革と画期的商品を世に送り出してきた「JINS」。国内に留まらずアジアへ、世界へと店舗を拡大し現在はFC店含めて511店舗、年間販売本数は604万本と、アイウエア業界の最先端にいる。創業者であり代表取締役CEO、田中仁氏は、事業の成功を収めながら「Gunma Innovation Award(GIA=群馬イノベーションアワード)」など、地域活性化に向けた積極的な取組みが評判だ。「こうした群馬に対する活動を始めたのは、ストライプインターナショナルの石川社長が行なっている《岡山アワード》に感化されたからなのです」。

田園風景と事業にいそしむ家族の姿

子どもの頃に慣れ親しんだのは、市内の中心部を穏やかに流れる利根川と雄大な赤城山に囲まれたのどかな田園風景と、ガソリンスタンドを営む家族だった。「母方の実家が事業をしていましたし、中学生の時には父親が起業。私にとって《商売》はごくごく身近にあったものでした」。起業への夢を抱きながら、高校卒業後は経営ノウハウを学ぶために地元の信用金庫に就職。顧客に浴びせられた言葉から起業への思いに火がつき、転職から服飾雑貨製造卸業の開業に至る。「企画、デザインを自社で行い、工場で生産するというメーカーとしての一連の流れをここで経験することができました。これが後に、アイウエア事業の基礎となってくれたのです」。韓国で出会った安くて手軽、ファッショナブルなメガネにインスピレーションを得て、アイウエア事業へ参入。創業から上場まではスピーディだったにも関わらず、まもなく高い壁にぶつかってしまった。

上場廃止の危機から事業を再構築

成功を見るや、メガネ販売社がこぞって販売形態を真似はじめ、さらに事業戦略も曖昧なまま続けていたことがダブルパンチとなり、経営状況は急降下。「時価総額はあっという間に10分の1まで低下してしまいました。上場廃止のカウントダウンがはじまってしまったのです」。そのとき出会ったファーストリテイリング(ユニクロ)柳井会長に厳しく指摘され、事業ビジョンを一から洗い直すことで再起の道をたぐり寄せることができた。「《いいことは長続きしない》と、身をもって知りました。課題の改善はもちろん、新しいことへの挑戦は止めてはいけない」。《商売》が好きという気持ちと群馬県民特有の新しいモノ好きの気質は、今も彼を助けている。

ビジネス支援と活性化活動で郷土貢献

群馬の次代を担う起業家の発掘を目的とした「GIA」も5回を数え、同時期開講したビジネススクール「群馬イノベーションスクール」と共に、多くの意欲的な人材を輩出してきた。「特に高校生部門が面白い。入賞者が慶應義塾大学のAO入試を受験できるシステムを導入したらさらに面白さが増しました」。これまで実業高校が中心だったのが進学校からの応募が相次いだというから反響が大きかったことがわかる。 2015年に発足した《前橋まちなか活性化プロジェクト》は、「田中仁財団」と地域企業が中心となり行われている。「すごく大変ですし、パワーも必要ですが、地元の若者たちと商工会の皆さんがバックアップしてくれています」。県内企業を巻き込み、自身の保有するキャピタルゲインはほぼ投入。「もちろん大変だと思うこともありますよ。けれども起業家の習性で、《壁があると乗り越えたくなる》んです」。中には批判する人もいたが、その都度本気を突きつけてきた。「最後の決め手は結局、本気度です」。

《東京に近い田舎》新たな価値の創出へ

当初、群馬の人たちにとって田中氏は《東京に出て行った人》。実際、群馬から東京の距離はあまりにも近く、若者たちのほとんどが東京を目指していく。そのため、地域文化が形成されにくいというのだ。「東京にはない《良いもの》が群馬には多くある。時間の流れがゆっくりしていて、良い意味で開発が進みすぎていない。これからデジタル化がどんどん進んでいく中、人の拠り所は必ず《自然》へ戻ってくると思っています。《東京に一番近い田舎》であることが価値になってくる」。営業以外の部分で企業活動のセパレートも可能となると考えている。「《Think Lab》もそういった働き方の多様性を提案するために創ったものです。今後オフィストレンドは《コワーキング》から《Deep Think》にシフトしてくる。生産性向上のための集中できる空間が必要とされると考えています」。 今後「JINS」が目指しているのは《Magnify Life(マグニファイ ライフ)》。田中氏は、アイウエアに留まらず、新たな事業展開の中で人々のライフスタイルに変革を起こし、それぞれの人生が拡大していくイメージを提供したい、と話す。「会社の枠を越えて様々な企業と協働していると、多くの新たな発見やビジネスに応用できるヒントが生まれてきます。社内だけでは聞こえてこない、多様性を知ることができるチャンスをもらっていますね」。お互いに競い合い、高め合う。田中氏に一本通ったビジネスの背骨は、小さい頃のクワガタやカブトムシを捕って皆で見せ合っていた頃からすでに培われていたに違いない。

たなか・ひとし

慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 修士課程修了。1963年 群馬県生まれ。 1988年 ジェイアイエヌを設立。2001年アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始。2006年大証ヘラクレス(現ジャスダック)に上場。2011年『Ernst&Youngワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011』モナコ世界大会に日本代表として出場。2013年 東京証券取引所第一部に上場。2014年 群馬県の地域活性化支援のため「田中仁財団」を設立。起業家支援の為「群馬イノベーションアワード」や「群馬イノベーションスクール」を開始。現在は前橋市中心街に「前橋まちなか研究室」を設け街づくりにも携わる。17年4月ジンズへ社名変更。著書に『振り切る勇気』がある。

Think Lab(シンク・ラボ)

世界一集中できる環境を目指し“進化し続ける”ワークスペースとして、2017年12月にオープン。予防医学研究者・石川善樹氏の監修のもと、科学的根拠に基づいて集中に最適な環境を研究し、より高い生産性を生み出す働き方を提案する。

編集者PLUG

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