INTERVIEW
LOCAL PRIDE -Tokyo-遠山正道(株式会社スマイルズ)
09 January 2019
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「ほほ檸檬しなさい」。

「2人でカップルになりなさい。相手がいない場合は、現れるまでしばし待つ」「ほほ檸檬しなさい」――。2016年、人口800人の瀬戸内海の島・香川県豊島に、そんな突拍子もない指示からはじまるホテルが現われた。築90年の古民家をリノベートした客室は1日1組限定。宿泊客は、約400坪の広大なレモン畑ごと丸々貸し切って、非日常で濃密な時間を過ごす。瀬戸内国際芸術祭に合わせて「株式会社スマイルズ」が”出品“した体験型アート作品『檸檬ホテル』だ。仕掛人は、『スープストックトーキョー』やリサイクルショップ『パスザバトン』、ファミレス『100本のスプーン』など、数々の新ビジネスを世に送り出してきた『株式会社スマイルズ』代表の遠山正道氏。東京を拠点にビジネスを展開してきた遠山さんを、縁もゆかりもないこの島に導いたのは「アート」だった。「20世紀を経済の時代とするならば、21世紀は文化・価値の時代。じゃあどうやってその価値を創造しようと考えたとき、アートはとてもいいツールになると思ったんです」。

地方だからこそできるビジネスがある

芸術祭から既に2年が過ぎようとしているにもかかわらず、今も宿泊予約は数カ月先までぎっしり。アートを切り口とした地方創生ビジネスのなかでも、突出した成功事例と言えるだろう。だが遠山氏自身に、その気負いはない。「地方でやったのは、単純に地方じゃないとできなかったから。ビジネスには確かにロケーションも大切ですが、『ここなら地域貢献できる』とか『儲かりそう』みたいなマーケティング的な発想だけでは、多分うまくいかない。一番大切にしているのは、自分がなぜそれをしたいのかという能動的な動機。社内で事業プランを募るときも、必ず自らの経験に繋げるように求めています。そうすると『実家に戻ったとき、こんな話になって』とか『婆さん家の習わしが…』とか、ものすごくローカルなネタが出てくるんです。それでそこから『なにそれ、面白いじゃん』ってイメージがどんどん広がっていく。何か事を起こそうとするときって、そういう一種個人的な動機の方が、強力な引力になる気がするんですよ」。

経験に紐づく動機が強力な引力になる

そう語るのは、ローカルと密に結びついた経験が遠山さん自身の源泉となって、今なお息づいているからだ。生まれは東京都港区青山。生年の1962年といえば、2年後の東京オリンピックに向け街の風景が目まぐるしく生まれ変わりはじめていた時期だ。渋谷から外苑へ抜ける青山通りが拡幅整備されると、「アイビールック」で一大旋風を巻き起こした『VAN』をはじめ、『ニコル』や『コムデギャルソン』、『ヨウジヤマモト』といったDCブランドが続々と進出。当時の実家の周りには、24時間営業のスーパー『ユアーズ』や『アルフレックス』のショールームがあり、目に映るあらゆるモノやコトが、新鮮で美しい輝きを放って幼い遠山さんの好奇心を刺激した。「60年代という時代背景のせいももちろんあるんだけど、あの当時の青山にはきらめきがあった。『スープストックトーキョー』にわざわざ「トーキョー」を加えたのも、あのキラキラした感じを呼び戻したいという思いがあったからなんです。ビジネスにしろ、プロダクトにしろ、文化にしろ、自分が成してきたことを顧みるときに思い浮かべるのは、あの時代。あんな風に次の世代に喜んで受け取ってもらえるものが果たして自分に出来てるだろうか、って」。

相反するものの融合から創造する新たな価値

この夏に発足する「京都プロジェクト(仮称)」にも、その想いは宿っている。一環としてはじまった「ザ・チェーンミュージアム」は、土地土地の既存施設や風景に場所を借りた小さなミュージアムを世界中に広げようというユニークな試みだ。「スマイルズのコンテクストであるチェーンビジネスとミュージアムって、本来は相容れないもの。それをあえて組合せれば、今までにない文化や価値観が生まれてくるんじゃないかと期待しています」。60年代の青山に芽吹いたローカルへの憧れは、もはや「ローカル」の概念そのものに新たな価値を付加しようとしているのかもしれない。

○遠山正道
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立し、2008年2月MBOを経て代表取締役社長に就任。現在スープ専門店「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイブランド「giraffe」、全く新しいコンセプトのリサイクルショップ「PASS THE BATON」などを展開。著書に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)などがある。

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