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特集:地方“装”生×制作舞台裏
30 January 2026
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The expression of “Styled For Regional Revival” revealed in the hair and makeup of three individuals.

サロンワークを通して〈装いが人を活かす瞬間〉を何度も見てきた。 その積み重ねが「地方装生」につながると信じている。

(by Ryoma Ishimura)


プラグマガジンが掲げる「地方“装”生」は、「創生」ではなく「装生」。
人口や経済の数字ではなく、“この街はカッコいい”と感じられる感覚を地域の力へ変えていく考え方です。
そのカッコよさは、単なる見た目や流行ではなく、
Ethos(人の魅力)、Pathos(情熱)、Logos(論理)が交差するときに立ち上がるもの──
私たちはそれを「Three Appeals with Style」と呼んでいます。
しかし、入り口にあるのは髪型や化粧も含めた「装い」。
今回は、地域の“装”の担い手である3サロンの美容師に、このテーマをそれぞれの解釈で作品にしてもらいました。
60年代カウンターカルチャーを思わせる反骨の表現、
街の日常に小さな違和感を差し込むカラーとデザイン、
等身大の可愛らしさを半歩先へ進めるスタイリング──
本企画では三者三様の「地方“装”生」を街中で写真に収めています。

撮影後に集まってもらった今回のつくり手5名。次ページからは、美容と街のこれからについて訊いた対談インタビューです。






Location : STAND TOKYO
Instagram @stand_tokyo2024

今回の特集を撮り終えて、対談のため一堂に集まった一夜。
写真右から、yuki、lulu(共にbaho IZM)、石村亮馬(Rilie)、米井大介、田中亜依(共にParveMix)



結局、街が元気になることがゴール。大切なのは「岡山から何を見せるか」。 僕たち美容室は、お客様を元気にする、地域の自信をつくる仕事をしていると言える。

(by yuki)

3サロンが示した スタイルの解釈

編集部:まずは今回の企画で手がけたスタイルについて教えて下さい。また、岡山の街中での撮影にはどんな手応えがありましたか?

木下) 今の流行に沿うのではなく、あえて「カウンターカルチャー」をテーマにしました。60年代の反骨的カルチャーを意識し、デニムブルーを基調に洋服も自分たちで加工。退廃的で反社会的なムードをまとわせました。お尻に「秘すれば花」と書いたのも遊び心です。〈プラグ愛〉で頑張りました(笑)。倉敷の夜は街灯と装いを重ねた〈グランジ〉の世界観に。オーバーオールやネルシャツをクラッシュリメイクし、ルーズに着崩して仕上げました。さらにおもちゃ王国や児島の展望台では、スタッフのはなめらモデルがクラッシュペインティングのデニムをまとい、クールさと可愛さを際立たせています。街の光や日常の風景に装いが溶け込んだとき、「めちゃかっこいい」と実感できる仕上がりになったと思います。



石村) 僕は「街の日常に少しの違和感を添える」ことを意識しました。ハイトーンが一般化した時代に、〈挑戦できそうでできない〉絶妙なカラーを狙って。街に溶け込みながらも引っかかりを残す髪色です。衣装もレイヤードや質感にこだわり、ロケーションとのコントラストをつけました。

米井) ParveMixはスタイリスト=デザイナーなのでクリエイティブといっても、その人らしさの延長線上にあるものを活かす(似合う)ことだと考えていて。今回、メイクの田中さんや関わってくれたスタッフとチームで何かを一緒に作ることはとても刺激的で楽しく感じました。

田中) 普段はナチュラル寄りのスタイルが多いので、今回、米井さんから「韓国×Y2Kの融合」というテーマを任されたときは正直びっくりしました。パールやスパンコールを大胆に使い、チークやアイシャドウも普段以上に濃く入れたんです。「ここまでやるのか!」と自分で驚いたくらい(笑)。でも仕上がった写真を見て、メイクの楽しさを改めて実感することができました。

ルル) yukiさんの発信で「カウンターカルチャーでいく」と決まったので、私も改めて〈カウンターカルチャー〉を掘り下げて調べ直しました。価値観を壊すとか、今ある枠を壊すという意味をどうメイクに落とし込むか。倉敷の新旧が入り交じる街並みにどう馴染むか正直不安もありましたが、撮影後の写真を見た瞬間「バチンとハマった!」って思えたのは本当に気持ちよかったです。


美容師が考える 「地方“装”生」

編集部:美容師として、今回の『地方“装”生』という テーマをどのように受け止めましたか?

木下) 僕は結局、街が元気になることがゴールだと思うんです。僕たち美容室は常におしゃれの力で街を彩って、人を元気にする仕事をしているわけですよ。その中で、今の若い人たちはSNSの“いいね!”を気にして無難に収まりがち。でも僕はそれへのアンチテーゼでいたいんです。僕もう六十なんだけど、世間の〈60〉じゃない気がする(笑)。自由に楽しむ姿を見せることで、みんなもはみ出しやすくなるんじゃないか。そういう反動を大事にして生きています。今回の企画に参加したのも、岡山をもっと元気にしたいと思ったからです。

ルル) 今回は服を統一してヘアメイクを主役にしたので、髪やメイクに服を合わせる構成になりました。そこから〈装いの力〉をすごく考えさせられました。髪が変われば服も楽しめる。ヘアメイクが新しいおしゃれの出発点になれる人をもっと増やしていきたいです。

石村) 私たちは成人式や結婚式など人生の節目にも深く関わっていて、その人の生き方を引き出す提案ができる。日々のサロンワークや撮影を通して〈装いが人を活かす瞬間〉を何度も見てきました。外見の美しさだけではない力が装いにはあると思います。その積み重ねこそ地域を元気にする力であり、『地方“装”生』につながると感じています。

米井) 装いの中で「ヘア」はとても重要な要素です。服は気に入らなければ取り替えることができますが、ヘアはそうはいかない。Parve Mixでは、一人ひとりのパーソナルな部分に寄り添い、その人だけのデザイン提案を行っています。だからこそ、お客様の表情や雰囲気までも変えることができるのです。ヘアを通じて気分さえも変えられるのが美容師の仕事。自分を好きになり自信を持てる人が増えれば、街全体が自然と元気になる、そう信じています。

田中) 正直、『地方“装”生』と聞いたときは難しいテーマだなと感じました。でも実際に街で撮影してみて「もっと自由でいいんだ」と気づいたんです。クリエイティブな装いが雑多な街中にすっと馴染む瞬間を見て驚きました。地方だからこそ、もっと自由に装っていいんだなと思えました。



岡山という土地が もたらす感性

編集部:大都市にはない、〈岡山〉だからこそ育まれると思うことは?

米井) 地方では親子三世代でご来店いただくことも多くあります。美容師とお客様の関係が長く交差し続けることで、“スタイルの系譜”が紡がれ、それが〈岡山〉独自の感性を形作っている。 その積み重ねは、次代へと拡張する新しい感性へと変わっていくのだと思います。

石村) 岡山は時間の流れに余裕があって人との距離も近い。都会のトレンドをそのまま取り入れるのではなく、自分に合う形にアレンジしている人が多いです。自然や土地の色彩から受けるインスピレーションも大きい。逆に、新しい表現が受け入れられるスピードは遅い。でも、だからこそ独自性を貫く人は際立ちやすいのではないでしょうか。

木下) 温暖で災害も少ない土地柄で「おっとりしている」と言われがちです(笑)。でも逆に「見返してやる」という反骨精神が生まれやすい土壌でもある。美容師の中にもそのパンク精神で頑張っている人は少なくないと思います。

ルル) 岡山の人は都会の流行をそのまま受け入れるのではなく、自分らしく消化している印象があります。だからこそ、髪やメイクで個性を打ち出したときにそれが一層際立ち、その人らしさが強く伝わる。装いを通じて“芯”が浮かび上がるのは、この土地ならではの魅力だと思います。

田中) 今回の撮影で感じたのは、岡山には〈表現〉を受け止める余白があるということ。普段はナチュラルな提案が多いですが、多少奇抜な装いでも街に出ると自然に馴染むことを知りました。地方には、自由に挑戦できる余白が広がっているんだと思います。


岡山には オシャレな人は増えたか?

米井) 今までより著しく増えたという目に見えた印象は少ないですがSNSやPLUGなど雑誌を拝見した際に『岡山にもこれだけ楽しんでいる人がいるんだ』と私自身刺激をいただくこともあります。

木下) かっこいい人はいるけど、全体的に見ると都会と比べて少ないと思います。

石村) ファッションに一生懸命な人もいるけど、そういう人は都会に出てしまうことが多い。ハイファッションのショップも減っています。若い子はトレンドを取り入れるのは早いけど、それがおしゃれかどうかはまた別。悔しいけど都会には敵わない。でも岡山で自分のスタイルを貫く人は際立つ。そこが面白さです。


装うことを支える 日々の仕事

編集部:美容師として大切にしている美意識や「装う」ことへの考え方を教えてください。

米井) お客様が持参されるヘアカタログをただ再現するだけでは美容師としての存在意義は生まれないと思います。常にその先を見せ、期待を一歩超えた提案をすることで、初めて美容師の真価が示される。そこで生まれるのは単なるデザインではなく、お客様との間に紡がれていく信頼です。提案を積み重ねることで関係は深化し、その人だけのスタイルや新しい感性へとつながっていく。それが私たちが最も大切にしていることです。

ルル) お客様にはまず、その人に確実に似合うスタイルを提案して安心していただきます。そのうえで、少しだけ枠をはみ出す要素を加える。小さな挑戦でも新しい自分を発見してもらえたときの喜びが、私にとっても大きなやりがいになります。

石村) 僕が大切にしているのは、その人の内面や生き方に合うデザインを一緒に作ること。だからこそ、自分にしかできない表現を常に追求してきました。サロンワークとクリエイティブな作品づくりは切り離せないものであり、両方を往復することで自分の引き出しを広げていけると感じています。

木下) 流行を鵜呑みにせず、一人ひとりの個性を引き出すことを心がけています。〈自信を持って自分らしくいられる〉スタイルを提供することが何より大切だと。

田中) 日々のサロンでも、ちょっとしたメイクのアドバイスでお客様が喜んでくださる。お客様の自信を後押しできるような接客を心がけています。



EMPOWERING “STYLE”

〈OHC〉の記憶と、 これからの岡山

編集部: 約十年前、岡山の美容業界にバックボーンを作るというコンセプトで始まった「OHC(OKAYAMA HAIR Collection)」というイベントがありましたよね。リアルなヘアデザインとクリエイティブワークが共存し、県内から多くのサロンが垣根を越えて参加されている様から、業界の熱を感じました。この先、OHCのような横断的な取り組みが再び必要だと思いますか? それとも、各サロンが個々に尖って活動していくことが重要だと思いますか?

石村) OHCは先輩方が築いた、岡山にとっていわば〈かけがえのない出来事〉でした。クリエイティブもリアルも同じステージに立ち、多くの美容師が一堂に会したあの場は、業界の土台そのものになったと思います。だからこそ、僕ら世代が次の若手に挑戦の場を用意しなければならない。SNSで発信できる時代ですが、リアルで顔を合わせて生まれる熱量は代えがたい。そうした場をもう一度つくりたいと強く思います。

米井) アシスタント時代に目の当たりにしたOHCの熱は、今も忘れられません。サロンの垣根を越えて全員が本気で臨む姿は強烈で、自分の記憶に深く刻まれています。最近は個の動きに偏りがちですが、再びああした場があれば必ず岡山の美容は変わる。互いに率直に語り、切磋琢磨できる機会をもっとつくっていきたいですよね。

木下) 〈個〉で尖ることはもちろん大切です。でも皆で集まって発信したときのインパクトは桁違い。OHCを体験した世代としては「もう一度やりたい」という思いが強い。若い世代には思い切って仕掛けてもらいたいし、僕らは全力で後押しする。岡山の美容を再び大きく揺さぶる場をつくるべきだと思っています。

ルル) OHCのようにサロンを超えて交わる場があれば、若い世代も挑戦しやすくなると思います。これまで私は東京発の情報を追うことが多かったのですが、これからは岡山から自分たちが発信する側に回りたい。中央に頼るのではなく、地方ならではの力を形にしていきたいです。

田中) 私にとっては、一歩を踏み出す経験そのものがすごく大きな意味を持ちます。今回の撮影でも「地方でも新しいスタイルは自然に受け入れられる」と体感できたのが大きな学びでした。挑戦の場が増えれば、若手も恐れず表現できるようになり、岡山の美容はもっと面白くなると思います。

編集部:岡山の美容業界、ファッションシーンはどうなっていくと思いますか?

石村) これからは「地方発信」の力がますます重要になると思います。岡山にはデニムなど全国に通用する素材もあるし、地域の感性を全国に届けられる可能性は大きい。僕ら世代がその土壌をつくり、次の世代が挑戦できる環境を用意することが未来を切り拓く力になるはずです。

米井) 岡山は閉鎖的だと言われることもありますが、視野を広げて他と交わればもっと変われる。今日みたいに率直に話し合えるだけでもすごく刺激になるし、やれることはまだまだある。そうした積み重ねが業界を動かしていくんだと思います。

木下) 未来を考えると、〈個々が尖ること〉と〈横のつながり〉の両方が必要でしょうね。どちらにしても大切なのは「岡山から何を見せるか」。そのためには世代を超えて動ける場をもっとつくっていくことだと思います。

ルル) 岡山からの発信は、これから確実に増えていくと感じています。これまでのように中央の流れを追うだけでなく自分たちが新しいムーブメントを生み出す存在にならなければならない。その意識を持って活動していきたいです。

田中) 若い世代にとっては挑戦の機会が広がること自体が未来を切り開く力になるはずです。地方だからこその自由さや柔らかさを活かして、新しい表現にもっと積極的に取り組んでいきたいです。

石村亮馬

Rilie オーナー・ディレクター、株式会社MONDO代表

いしむら・りょうま○ 岡山市で「Rilie」を主宰。スタイリスト歴20年以上、ダメージレスにこだわった提案と似合わせを得意とし、カット技術に定評がある。美容業界で最も名誉があるとされる「JHA」に3度ノミネート。2025年もファイナリストとして選出中。カットコンテストなど全国大会でのグランプリも多数受賞。サロンワークを中心に業界誌、コンテストなど幅広く活動している。

INSTAGRAM. @ryomaishimura, @rilie_design

yuki

有限会社アイ.エープロジェクト代表 (baho IZM、dubdumbdo9、倉敷芸能塾)

ユキ○ 倉敷市出身。1997年にbaho(現baho IZM)を創業し、2000年に法人化して代表取締役に就任。ミラノコレクションへの参加をはじめ、国内外でヘアデザインを発表し評価を受けてきた。震災復興を機に創作芸能「倉敷芸能塾」を立ち上げ、2021年には古着店dubdumbdo9を開業。美容と文化活動の両面から倉敷の魅力を発信している。

INSTAGRAM. @yukimick80, @bahoizm, @bubdumbdo9

lulu

baho IZM ヘアスタイリスト、メイクアップアーティスト

ルル○baho IZM所属。2016年「Tokyo Beauty Congress全国大会」岡山代表として出場、優勝し日本一に。その後も作品撮りやショーで経験を積む。ヘアと服装の関係性を逆転させるなど、新しい発想でメイクを組み立てるスタイルが特徴。倉敷の街並みを舞台にした撮影でも独自の感性を発揮し、地方から新しいビューティー表現を模索している。

INSTAGRAM. @lulu80lulu80

米井大介

ParveMix Group クリエイティブディレクター

よねい・だいすけ○ParveMixグループの新店NEMUを含む複数店舗のクリエイティブを統括。若い世代の育成に取り組んでいる。スタイリスト歴18年以上、雑誌掲載や全国ヘアカタログでの紹介実績も豊富。ダメージレスなパーマや遊び心のあるカラーを得意とし、日常に取り入れやすい「かわいい」スタイルを提案する。

INSTAGRAM. @parvemix_yonei, @parvemix_hair_make

田中亜依

ParveMix GALA ヘアデザイナー

たなか・あい○透明感のあるカラーや顔周りのレイヤーカットを得意とし、ガーリーで親しみやすいスタイル提案に定評がある。サロンワークでは、さりげないメイクやアレンジのアドバイスも加え、お客様の日常を彩ることを大切にしている。2023年以降はクリエイティブ撮影にも参加し、ナチュラルだけに留まらない表現に挑戦。

INSTAGRAM. @parvemix_ai

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