INTERVIEW
THE OWN WAY 大橋拓三(芸人)
10 January 2019
#TAGS
  • #OKAYAMA
  • #FEATURE
  • #INTERVIEW

2016年、ファッショナブルな若者で溢れかえる原宿の竹下通りに、前代未聞のお笑い劇場「ラスタ原宿」が産声をあげた。クラウドファウンディングで支援を集めながら、先輩芸人たちからの応援もあって完成した奇跡の劇場だ。立ち上げたのは自身も現役お笑い芸人として活動する延藤ミッツェル五朗こと大橋拓三。昨年ブレイクした“ブルゾンちえみ”や“にゃんこスター”なども輩出した若手芸人の登竜門としても注目を集める小劇場は連日満員御礼!今日も軽妙な掛け合いと絶え間ない笑い声が響いている。

「お笑い芸人の生き方に選択肢をつくる」

 「カワイイ文化」の聖地、原宿竹下通りは、若者や観光客で賑わう東京の一大名所。溢れ返る人混みの中で「あの〜、芸人なんですが、ちょっとお時間ありますか?」と道ゆく人に声を掛ける人たちがいる。彼らは、竹下通り沿いで営業するお笑い劇場「ラスタ原宿」で出番を控えている若手芸人たちだ。2016年にオープンしたばかりで、まだ歴史も間もない劇場ながら、既にブルゾンちえみなど次世代のお笑いスターを輩出したことでも脚光を浴びた原宿の新名所。この劇場を立ち上げたのが、岡山出身・元にわとりヘッドの延藤ミッツエル五朗こと、大橋拓三さんだ。M-1甲子園に出場したことをきっかけにお笑い芸人になることを決意し、高校卒業後、岡山からお笑いのメッカである大阪のNSCへと進む。進学校に通っていたという大橋さんは「当然のごとく家族から猛反対されました。そんな中、唯一応援してくれたのが祖母でした。祖母や応援してくれた人たちのためにも、お笑いで結果を出すことをいつも考えています。そして結果を出すまでお笑いはやめられないですね。」と当時を振り返る。劇場をつくる構想は、自分が現役の最前線で舞台に立っていた時から持ち続けていた。

上京してから、大阪には小劇場を中心とした芸人が育つ土壌があるのに、東京にはそうした文化がまだ根付いていないと実感したことが、その思いをさらに募らせていったという。大阪には寄席小屋がいくつもあり、若手芸人が、引っ掛け橋(戎橋)辺りでお笑いに興味のある人、ない人関係なく声をかけて自分たちの芸を見て欲しさにお客を呼び込むという日常の光景がある。「同じネタを違うお客さんの前で何度もやることで完成度が上がっていきます。しかし、劇場に足を運ぶ習慣があり、不特定多数のお客さんの前に立てる大阪に比べて、東京は固定客が多く、若手芸人にとっては決して恵まれた環境とは言えませんでした。当然、東京にも売れたい、たくさんの人を笑わせたいという情熱を持った若手が大勢いる。だから、大阪のように芸人が芸を磨ける場所、お笑いの文化を伝える装置をどうしてもここに作りたかった。竹下通りを選んだのは、人通りの多さと訪れる人の多様性、何より雰囲気が大阪のひっかけ橋に近いものを感じたから」。しかし、若手芸人が劇場をつくるのがそんなに簡単なはずもない。一番の難関は資金の調達。貯金までつぎ込んで入れ込む様子を見て、芸人仲間でさえ出来るわけがないとバカにする者もいた。しかし、クラウドファウンディングで協力を呼びかけると、大橋さんの思いに賛同してくれる芸人やお笑いファンを中心に想像を超える支援が集まった。「実は劇場が欲しいと思っている芸人さんはたくさんいるんですが、芸人を続けながらの劇場運営はなかなか難しいんです。

自分もいまコンビで活動をしていますが、どちらかというと一線引いたところで若手を後押しする役割を踏まえて舞台に立っています。僕のスタンスを知って本気度を感じてくれた先輩芸人さん、特に小島よしおさんからの周囲への後押しと資金的な応援が大きかったですね。」いまでは毎公演ほぼ満席を繰り返すほどの盛況ぶりだが、オープン当初の1ヶ月は数人しか客が入らず、やむなく公演を中止しなければならない時もあったという。若手芸人にもお客にもまだまだ知られていないという危機感、潰れてしまうかもしれないという不安だけを持ちよった会議も回数を重ねた。しかし、そんな現状を変えてくれたのも、大橋さんの周りにいる芸人だった。テレビで活躍する先輩芸人や、もっと大きな舞台を主戦場にしている大物芸人まで、彼の熱意を知った芸人がこぞってラスタ原宿の舞台に立つことで、劇場としての認知度は飛躍的に高まることとなる。この起死回生は、ひとりの芸人として最前線で切磋琢磨してきた大橋さんのキャリアと人脈が呼びよせた奇跡だったのかもしれない。

「もうすでに2店舗目に向けて動き出しています。テレビに出られなくても芸を見せられる場所があり、そこでギャラを貰い、有名無名を問わず芸人の活動だけで食べていける装置をたくさんつくっていきたい。とにかくまずは東京でお笑いの文化をつくってから、いつか岡山にも劇場をつくりたいなと思っています。」芸人として稀有なセカンドキャリアを選択した大橋さんの挑戦はまだまだスタートラインに立ったばかりだ。

○大橋拓三/芸人
1985年生まれ、岡山県出身。芸名 延藤ミッツェル五朗として活動中。NSC27期生。2008年お笑いコンビ「パプワ」を結成し大阪を拠点に活動。M-1グランプリ準決勝にまで駒を進めるがほどなくして解散。2010年新たにお笑いトリオ「にわとりヘッド」を結成し上京。吉本からサンミュージックに移籍。「有田チルドレン」など地上波に度々登場して人気を得るも再び解散。現在はお笑いコンビ「ザ ビリーバーズ」として活動しながら、自身が立ち上げたお笑い劇場ラスタ原宿の代表を務める。

BACK TO TOP