THE OWN WAY
那須 太郎(オーナー/ギャラリスト)

那須太郎の人生観_わからないものに向き合うことが人生の喜び。

現代美術の世界では知る人ぞ知る日本を代表するギャラリストの一人。先鋭的だった欧米に比べていまよりずっとマイナーとされていた頃から、アーティストたちとの信頼関係を築き、彼らの作品の価値と意義を日本で伝えてきた業界の重要人物。2016年に生まれ故郷岡山で初めて開催された現代アートの大型国際展覧会「岡山芸術交流」では総合ディレクターを務めた。アートの力で“OKAYAMA”をインターナショナルな都市に変えていく長期計画も進行中!この先も「わからない」に向き合うことの大切さを説く。

 今年4月、2016年に続いて2回目の開催となる大型国際展覧会「岡山芸術交流2019」の開催が発表された。那須氏は初回から総合ディレクターを務めているアートのエキスパートだ。幼少期は絵画が印刷された切手収集に夢中になり、中高生時代はセレクトショップを巡ってファッションにのめり込み、老舗レコード店で新しい音楽を探した。「当時は名画が印刷された切手がたくさんあって、コレクションするのが楽しみでした。そして、アートにはファッションと音楽が密接に関わっている。岡山で過ごした少年期はいまの仕事にも繋がっているなと感じますね。」大学卒業後、岡山の百貨店 天満屋美術部への配属を希望したことが那須氏の最初の転機となった。日本画や洋画から茶道具に刀剣まで、一月で10本くらいの展覧会を開いて顧客に販売するのが百貨店のスタイル。もともと美術には親しんでいたものの、異なる美術品をプロとして理解するため猛勉強の日々を過ごしていた。2年が経った頃、作家と直に仕事がしたいと思うようになったことから退社を決意。銀座の画廊に4年間務めた後に単身渡英。帰国後、スペースを持たずに美術品を販売するディーリングから事業をスタートさせ、98年秋に画廊を開いた。「作り手と仕事をしたいと考えた時に、アーティストが存命している現代美術が中心になりました。画廊に勤めていた時から、世代の近い同業者メンバーと一緒に、日本の現代美術を欧米に負けないような活気ある業界にしたいと話していたのを思い出します。90年代半ばから彼らも私も独立し始めました。それから20年近く経ちますが、当時からは想像できないほど現代美術のファンが日本で増えていることを実感しています。」画廊としての転機はイギリス出身のアーティスト ライアン・ガンダーとの出会い。2002年、バーゼルのアートフェアで隣に出展していたブースに彼の作品があった。「血痕のような刺繍が入った真っ白いadidasのトラックスーツを着た人が、オープン前になって周りがジャケットを羽織り始めてもずっと着替えないんですよ。まだ準備が終わっていないのかなと思ったら、なんとそれが作品でした(笑)。」彼の作品に感銘を受けた那須氏は、このときコンセプチュアル・アート一本でいくことを決めた。

《良い作家は良い作家を知っている》がギャラリストの鉄則と話す那須氏。現在ではライアン・ガンダーを含めて二十数名の作家と契約をしている。「一朝一夕のビジネスライクにはできないのがこの世界。我々は作家と喧嘩もできるくらいの信頼関係を築いた上で、買い手であるクライアントとの間に立ちます。審美眼だけでなく本質的なコミュニケーション能力もギャラリストには必要ですね。」また、那須氏曰く、一般的な絵画などに比べて難解なコンセプチュアル・アートは、分からないから面白いのだそうだ。「わかるものというのは既に知っているものです。それを繰り返し愛でるだけでなくその先にいきたい。わからないものを理解しようとした時、自分に何か新しいものを与えてくれるはず。それが醍醐味だと思います。」最初の転機から時を経て、故郷岡山にアートで関わるようになった那須氏。初回23万人を動員した岡山芸術交流は、世界のアート愛好者が注目する一大イベントになりつつある。「岡山は大原氏、福武氏、そして石川氏と三世代に渡って芸術を後押しする実業家を輩出した世界的にも稀有な都市です。そういう意味でも岡山にはアートのポテンシャルがあると思う。岡山の子供たちの教育はもちろん、世界からひとを呼び込むことによって、岡山をアートでインターナショナルな都市にしていくことを20年くらいの長期的視点で考えています。」ほかにもアーティストによる宿泊施設の建設など、既に複数のプロジェクトが動き出しているとか。アートに触れて学んだ20年、アートの底上げに尽くした20年。那須氏にとって次の20年はアートで故郷を『興す』期間になりそうだ。

那須 太郎/オーナー/ギャラリスト

1966年岡山市生まれ。早稲田大学卒業。天満屋美術部勤務を経て現代美術画廊TARO NASUを開廊。国内外の美術館等の公共機関との協働多数。著名な現代美術作家の展覧会を通じて美術の普及に努める。2016年秋開催の「岡山芸術交流 2016」及び、2019年に開催予定の「岡山芸術交流 2019」の総合ディレクターを務める。

編集者PLUG

シェアする