INTERVIEW
LOCAL PRIDE -TOKYO-長場雄(アーティスト/イラストレーター)
17 June 2020
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アパレルブランドやホテルでのデザインワークをはじめ
個展も開くイラストレーター&アーティスト・長場雄。
作風に影響を与えた風景とは。

ミニマルな線で人物のストーリーを描く

シンプルな線画で人物イラストを描き、個展の開催の他、アパレルブランドとのコラボレーションや装丁、雑誌、広告など幅広いジャンルで活躍するイラストレーター・長場雄。雑誌『POPEYE』の表紙を飾ったことがきっかけで脚光を浴び、大きく知名度を上げた。人物の特徴をとらえた親密性の高いイラスト。ポップな楽しさに溢れていながら計算された繊細な線には、どこか人々の琴線に響く温かみがあり、多くの人を度量広く受け入れる。ポップのみに終わらず、実は短時間で特徴を大まかにつかみ、それを繊細な線に落とし込んでいく引き算の美学があり、コンセプチュアル・アートの趣すら感じられる。日本人のイラストでありながら、海外アートのような空気が漂う作風には、少年時代にトルコ・イスタンブールで暮らした2年間の原風景が息づいていた。

カオスなトルコでの2年間

東京・世田谷区に生まれ、父親の仕事の関係で10歳から12歳までの2年間トルコ・イスタンブールで暮らした。「子どもの頃から絵が好きだったので、家の近所に住んでいた油絵画家の女流アーティストに習いに行ったんです。昨年30年ぶりぐらいに再会したんですが、今はコンセプチュアルな作品をつくるアーティストになられていました。絵を描いて、発表してっていう流れを教えてくれたのもその先生」。トルコでは、日本のマンガを読みたくても手に入らず、DCコミックス発行の『Mad Magazine』や『タンタン』などを読んでいた。「よく『あまり日本人っぽくない絵ですよね』とか言われるのはそういうとこなのかな~って。イスタンブールって文化の交流地点みたいな所。エキゾチックでデコラティブな建物が多くて、カオスというかぐちゃぐちゃして、いろんなものがある世界っていうか。ヨーロッパやアジア、アフリカがミックスされたカルチャーがありました」。
高校生の時に母と死別。心にダメージを負い、悲しみが20年近く尾を引いた。「3人兄弟の末っ子で、母親に甘え切って生きてきたので、当たり前にある幸せが自分にはなくなっちゃったのが辛かったですね。そこから立ち直るのは難しかった。ポジティブに世の中に取り組んでいけないっていうか…」。浪人して美大に進んだが、自分が何を表現したらいいのか分からず、就職も決まらないまま卒業した。

『POPEYE』の表紙が転機

「何がしたいんだろうと模索しているうちに、そうだ、Tシャツを作りたいって思ったんです。それでTシャツを制作している会社に入って、最初は生産管理なんかをやってて、自分のTシャツ作りたいって言ったら「い~よ~」って割と軽いノリで(笑)。そっからがデザイナー人生の始まりでした」。
さらに大きな転機になったのは、雑誌『POPEYE』の表紙を飾ったこと。「最初はTシャツを作るという依頼だったのが、最終的にはイラストが表紙に載ることになりました。もともと『POPEYE』は大好きな雑誌だったので、それは夢のような話でした」。長場のイラストは多くの人の目に留まり、知名度も上がった。以後、さまざまなブランドのクライアントワークも手掛けるようになる。2017年12月に過去のクライアントワークを集積した作品集『I DID』を発表。マガジンハウス、BEAMS、東京メトロなどに提供したアートワークが掲載されている。また、現代アートやクリエイティブシーンに理解があるACE HOTELのメモ帳に描くイラストは、もはや長場雄の代名詞とも言えるワークにもなった。「ビジネスとクリエイティブを器用に切り替えているわけではないです。個展なんかの自分発信のものはアーティストとしてやって、クライアントワークはクライアントありきで。でも、アートの世界をちゃんと意識し始めて、ギャラリーで作品を発表したのは昨年ぐらいかな。アートを購入する人も、言うならばクライアント。自分を支えてくれる人に刺さる何かを開発しなきゃっていうのはありますね」。

巨大な作品への思い

2019年5月に個展を開催。『Express More with Less』というタイトルは長場の作風そのものだ。「イラストにおける自分なりの答えの中には、線を減らして伝えるみたいなことを課題にしている部分もあって。でもただ線を減らすだけだとピクトとかサインみたいに無機質になっちゃう。じゃなくて、そこに自分の温もりみたいなのを入れたら面白いんじゃないかっていうのが今の作風の始まりなんです」と長場は言う。無駄な線を極力省きながらも、「人物」というモチーフと、その周りにあるストーリーまでも想起させるようなドローイング。現在の作風にたどり着くまでにはグラフィカルな絵も描いてきた長場が、20代の頃から魅了されてきたのがミニマルアート。「ドナルド・ジャッドとかすごい好きなんです。あの意味のわからなさに想像力がかきたてられるというか…。あの頃は、現代アートを勉強した時期で。コンセプチュアルとかミニマルになるとわからない。そこがすごい魅力だったんですね。河原温とかも」と。
Instagramでもイラストをアップし続けている長場。最近では昨年12月に香港で個展『MEET YU NAGABA GALLERY – I’M YOUR VENUS』を開催。FRP製の巨大立体作品も展示した。「作品をどんどん巨大化したいっていう思いがあります。大きな絵が描きたいんです」。小さな帳面に描いてきたミニマルなイラストと、巨大な作品…イメージは少し乖離するが「圧倒されるじゃないですか、でかいものって。そこで伝えられるものはあるんじゃないかなと思ってるんです」。と夢見る少年のような目で語る長場。通りを歩くリアルな人物と彼の絵がパブリックな場でミックスする様に、きっと多くの人が心踊らされるはずだ。

○長場 雄
1976年東京生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。アーティストとして個展を開催する他、雑誌、書籍、広告、様々なブランドとのコラボレーションなど領域を問わず幅広く活動。昨年12月に香港で個展『MEET YU NAGABA GALLERY – I’M YOUR VENUS』を開催。今後も個展の開催を控えている。

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