LIFE HUNT
JYUICHIROYAMASAKI

暮らしの中で気づいた生命の繋がりを映画に。

岡山県真庭市都喜足。一級河川 旭川の支流を臨む山間、集落もまばらな農村に、才能ある一人が暮らしている。2008年に発表された短編映画「紅葉」を皮切りに、「ひかりのおと(2011年)」、「つづきのヴォイスー山中一揆から現在ー(2013年)」、そして「新しき民(2014年)」と次々に作品を製作し、現在、国内外で高く評価されている映画監督、山崎樹一郎だ。山崎氏がこの地に移り住んだのは2006年のこと。当時住んでいた京都から父親の故郷である真庭を新天地として選んだ。「映画製作に行き詰まりを感じていたこと、親しい友人を失ったことが移住のきっかけ。でも決して、僕が求めていたのは東京ではなかった」。《住んでいる場所》からインスピレーションを得て作品に生かすクリエイターは少なくない。山崎氏はそんな作品製作に興味を抱いていたという。「ドキュメンタリー的要素というか、土地の息づかいが感じられる作品が、自分の中で共感できるものだったんです」。

《これまでの人生を一度すべて終わらせた》——知り合いもほとんどいない、山崎氏にとってまったくゼロからの再スタートがはじまった。「とりあえず食べ物さえあれば」まずは農業へのチャレンジから。《映画を撮る》気持ちよりも先に生まれたのは《農業》への思いだった。「例えばラーメン一杯にしても、スープ、麺、具と様々な食材が必要で。その食材も季節、生産場所だけでなく災害などの外的要因によってもどんどん変わってしまう」。身体を形作る《食》への無頓着さにも常々疑問を持っていた山崎氏。「とりあえず食べる物さえあれば、飢え死にすることはないかなって(笑)」。もちろん農業も初体験、それほど甘くないことも重々承知の上だった。しかしなんとか、新規就農制度の活用や先輩農家での実務研修を経て、トマト農家としてスタートすることができた。移住してから2年近くの間はただ夢中で農業にいそしんでいた山崎氏。「ずっと身近にあった映画などの文化や芸術にふれる機会がまったくなかった。『あれ、そういえば』と気づいた瞬間、映画に対する欲望みたいなのがあふれてきて」。地元農協と自宅近くのハウスを行き来するだけの毎日から一転、近隣で文化の香りがしていた勝山地区へと足を運ぶようになる。やがてたどり着いた「勝山文化往来館ひしお」にある「カフェうえのだん」のオーナーに相談を持ちかけた。「『上映会をやりませんか』って。そして生まれたのがシネマ+マニワ、《cine/maiwa》です」。

ひとつの映画が次への足がかりに

「上映会が5回を数えた頃には、評判を呼び仲間も集まってきました。『じゃあ映画撮ってみようか』という話になりました。この街で《映画が創れる》ことも知ってほしかった」。クルーはすべてノンプロ、勝山での暮らしを描いた作品「紅葉」は、思いも寄らず自主映画祭典 インディペンデント映画祭「シネドライブ特別賞」を受賞する。一気に地域で話題となり岡山映像祭にも出展した際、会場で他作品を発表していたかつての仲間に偶然再会。「『本格的に撮ろう』という話になり、この再会が『ひかりのおと』につながりました」。2作目「ひかりのおと」は近隣の落合地区にある「三浦牧場」が舞台。農業の手を止めるわけにはいかないため、製作に割ける期間は冬のみだ。「通常であれば10日くらいで撮影を終わらせて編集作業に移るのですが、撮影期間も延びた上にどうしてもうまくいかない部分があって。翌年の冬に追加撮影をお願いし、製作には結局3年もかかってしまいました」。その間、日本は東日本大震災に見舞われ、さらに上映にも困難を伴った。「会場の確保から宣伝、様々な人と場所との連携が必要でした。岡山県全域で巡回上映、上映会場は50ヶ所にまでなりました」。上映会場で多くの人と出会う中、そこで聞こえてきたのは忌憚のない意見、そして次の作品である「新しき民」への意欲だった。「それまでの作品製作で感じてきた《人のつながり》こそが『一揆』への気の高まりだと思ったんです。伝達手段もなく情報もない中、反旗を翻せたのはただ《信頼》だったのではないかって」。そしてまた、製作そのものも《見せ方》《作り方》を一変。撮影ばかりでなく、衣装や小道具、何よりも資金を集めるために手を差し伸べてくれたのは巡回上映の中で出会った人たちだった。3年の構想を経て完成した「新しき民」は、岡山芸術文化賞でグランプリを受賞した。

芸術文化賞でグランプリを受賞した。移住で気づいた《生命のつながり》

移住から13年。初夏を迎える前に新作「やまぶき」がクランクインの予定だ。「僕がここで暮らすのは『真庭を楽しもう』みたいな気持ちではない。ただ《ここで生きていく》。都会と明らかに違うのは、言葉にすると大げさなんだけど《人の営みの構造》みたいな、命と命のつながりのようなものがしっかりと目に見えること。人が多すぎる場所ではそれぞれ違う、色々な思いが渦巻いてしまって、見えないものもどんどん増えてしまう。僕みたいに『映画を撮りたい』なんて人間はここではそんなにいないから、感情も伝えやすいし、応援してくれる方とのつながりも、とても濃くなってくる。それがこの地だからこそ気づけたことだと思う」。若者が少なく、他に娯楽が少ないという面はあるにしても、人の交わりが見えやすい場所にこそ文化や芸術が必要だと話す。山崎氏の存在が、小さな街に灯火を点けたことは間違いない。◎山崎樹一郎監督作品「やまぶき」 クラウドファンディング募集ページ https://cinepu.com/crowdfunding/ (2019年4月撮影開始予定)

編集者PLUG

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