INTERVIEW
LOCAL PRIDE -Tokushima-猪子寿之(チームラボ)
09 January 2019
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曖昧さと狭間に宿る可能性とピース。

猪子寿之さん率いる『チームラボ』HP冒頭には、こんなメッセージが記されている。「サイエンス・テクノロジー・デザイン・アートの境界はすでに曖昧になりつつあり、今後のこの傾向はさらに加速する。その曖昧さを『実験と革新』によって表現したもの、あるいは表現するプロセスそのものを通して、あらゆるものごとのソリューションを提供する」II。現代社会で「曖昧さ」が忌み嫌われる場面は極めて多い。何事にも合理性が求められる社会においては、”迅速かつ正確な“判断を促すために”緻密で明確な基準“が求められるのも致し方ないことだ。けれどサイエンスやアートが互いに境界を曖昧にすることで大きく拓かれてきたように、地方の活路を含むあらゆる物事の次なる可能性も、実はその曖昧さを認めたその先にあるのかもしれない。

先進国屈指の豊かな森

昨年佐賀県武雄市で開催された「チームラボ かみさまがすまう森 – earth music&ecology」は、まさにその「曖昧さ」を象徴的にとらえた作品のひとつだ。『チームラボ』は1845年に造られた50万平米の大庭園「御船山楽園」を舞台に、「自然が自然のままアートになる」アートプロジェクトの全14作品を展示。170余年もの長きにわたって連綿と連ってきた自然と人との営みの相関関係を示した作品群と世界観は、世界的デザインサイト『デザインブーム』にも高く評価され、2017年のアートインスタレーション部門第1位にランキングされた。「日本の森林率は国土の約7割と極めて高く、先進国ではフィンランド、スウェーデンに次ぐ世界第3位。しかもその合間には空港や鉄道、道路などの社会インフラがくまなく行き渡っていて、日本国内どこからでもすぐ森に行ける。それは日本人が何百年も前から自然との間に境界を設けず、曖昧に連なり合いながら暮らしてきたことの証でもあります。その意味では日本は世界的に見てすごくユニークな国なんですよね。『チームラボ かみさまがすまう森 – earth music&ecology』はその森と庭園、自然と人の営みの緩やかなつながりを表現した作品ですから、当然『御船山楽園』あってこそできたものです。もし東京でまったく同じことをやっても、同じクオリティは絶対無理だし、この評価もなかったでしょうね」。

近世以前の風土が色濃く残る地元・徳島

佐賀に限らず、『チームラボ』はこれまでさまざまな地方でアートエキシビションを展開してきた。福岡、山口、そして猪子さんの故郷である徳島でも、もちろん。けれど猪子さんを徳島に導くものは、そこに世界競争力としてのポテンシャルを見て取っているからだ。「18年も住んだところですから、滝とか森とか、いい場所を見つけやすいっていうアドバンテージはやっぱりありますよね。あと、これはあまり知られていませんが、徳島って江戸末期まで藍染生産や貿易が盛んで、日本屈指の商業都市だったんです。でもそれが明治期に一気に衰退して、そのおかげで徳島には江戸・明治以前の文化や風習が色濃く残った。僕が近世以前の社会に興味を持つようになったのは、多分そんな場所で育ったからでしょうね。阿波踊りがこれだけ長く踊り継がれてきたのも、幸か不幸か時代に取り残され、大正・昭和期の発展によって伝統が分断されるのを避けられたからだと思います」。

阿波踊りに見る無秩序とピース

猪子さんは毎年百数十万人を動員するその阿波踊りについて、もうひとつ、面白いことを教えてくれた。

「テレビで取り上げられるようなメインストリートは別として、阿波踊りって基本的にはみんな自分で勝手に楽器弾いて勝手に踊ってるんです。中心や基準の概念もなければ、リーダーも指揮者も存在しない。なのに、始めはバラバラだったものが、だんだん一定のリズムにまとまっていくんです。イワシの群れやホタルの点滅に見られる、引き込み現象みたいに。もっと興味深いのは、そんなルールも秩序もないところに、ちゃんとピースな状態が成立してること。現代の平和は一定の秩序とリーダーシップの上に成り立っていると思われてるけど、実は、全然違う社会形成の在り方があるのかもしれない」。  地方創生に置き換えるなら、それは東京一極集中の解消だろうか。もしくはSNS上で誰もが気軽に繫がり合うような現代ならではの、新しい社会の創造だろうか。自然と人が緩やかに繋がり合ってきたように、テクノロジーとアートが融合して創造力を高めてきたように、都心も地方も優劣なく、互いに生かし合える日本であればいい。

○猪子寿之
チームラボ代表 1977年生まれ。2001年東京大学計数工学科卒業時にチームラボ設立。

○チームラボ
プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を曖昧にしながら活動している。47万人が訪れた「チームラボ踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」、「ミラノ万博2015」日本館、ロンドン「Saatchi Gallery」、パリ「Maison&Objet」、5時間以上待ちとなった「DMM.プラネッツ Art by teamLab」、シリコンバレー、台湾、ロンドンでの個展、シンガポールで巨大な常設展などアート展を国内外で開催。2018年5月15日より、フランス・パリにて「teamLab : Au-delà des limites」を開催。また2018年夏に森ビル株式会社と共同でお台場・パレットタウン大観覧車下に「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: teamLab Borderless」を開業。
http://teamlab.art/jp/

○チームラボ かみさまがすまう森 – earth music&ecology
https://www.teamlab.art/jp/e/mifuneyamarakuen2019/

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