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LIFE HUNT JOHN THOMAS WELLS
07 January 2019
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ありのままの自然と古来の伝統が息づくこの地が私に「和の心」を教えてくれた。

雨に濡れ湿り気をおびた土、樹木に青々と生えた苔。そんな自然の情景が浮かぶような、あるがままの美しさを醸し出す風合い。良質の陶土で一点ずつ成形し、絵付けも釉薬もなしに、作品の詰め方や松割木の焚き方の工夫と千数百度の炎の力によって、十二昼夜かけてじっくり焼き締めたジョンさんの備前焼は、一つとして同じものがない。岡山は備前焼の里、備前市に築窯し、備前焼の古来の伝統を守り伝えながら素晴らしい作品を生み出し続ける備前焼作家、ジョン・トーマス・ウェルズ。彼が岡山に居を構えたのは32年前のこと。

備前焼を通して「侘び寂び」という美意識を知り、会得したいと思った。

アメリカ、ミズーリ州に生まれカリフォルニア州で育ち、幼い頃から美術に興味を抱いていたジョンさん。大学のサマースクールで当時初めて備前焼の陶工として人間国宝に定められた金重陶陽に師事したリロイ・ピーターソン氏の講義を受け、備前焼の奥深さに魅了された。備前焼を、日本の文化をもっと知りたいという探究心でその後すぐに早稲田大学の交換留学生として来日。必死に勉学に励んだ。しかし1年間の留学期間は瞬く間に過ぎ、後ろ髪を引かれながらも帰国。まだ足りない、と、悶々とした日々を送るなかある友人からこんな言葉をかけられた。「日本の文化を本気で知りたいと思うならば日本人と同じように学ばなくてはならない。すなわち、弟子入りをすることだよ。」このことをきっかけに、自分の人生を変えた備前焼の陶工、金重陶陽氏の長男、金重道明氏に弟子入りするという決意を胸にすぐさま日本に戻った。偶然と幸運が運命的に重なり弟子入りが叶うと、そこから3年間、来る日も来る日も修行に励んだ。質問すれば教えてもらえるという環境は一切なく、「技を盗む」という言葉があるように、雑用をしながらひたすら師匠の所作を観察した。技巧と日本人の心のあり様を学び、磨き続けて1年後、やっとろくろを触れるように。自分に向き合い続けた修行期間だった。『美しいものをつくるには人間性が美しくなければいけない』師のそんな教えは、数多の栄誉を得てきた現在も変わらず彼の人生の道標になっている。

良質な備前の土を活かし、なるべく土に触らず、自然の美しさを表現したい。

日本六古窯のひとつ、越前のたいら窯で何百年も昔から伝わる「輪積み技法」のひとつである越前ねじたて技法を守り続けてきた伝統工芸士、藤田十良右衛門氏に指導を受け、備前焼に活かすなど、備前焼作家として真に日本文化を学び、伝承に励み、自らの経験を以って備前焼の美しさ、奥深さを表現し続けているジョンさん。備前焼の真髄を世界に広く正しく伝えようと現在は原点に立ち戻って、大学院生になり勉学に励みながら博士論文を執筆している。「一千年もの長い歴史を持つ備前焼ですが、まだまだ正確に理解されておらず、魅力を発信しきれていないと感じます。備前焼に、日本の文化に魅了された私の役割は備前焼とこの土地の奥深い魅力を正しく発信すること。博士号を取り、いつか英語で備前焼に関する書籍を出したい。備前焼の真の魅力を広く世界に向けて伝えていければと思っています。」原風景が多く残る備前の山奥に築窯し、自然と共に暮らしてきた32年。

「備前は、ありのままの自然と古くからの歴史が息づく素晴らしい場所。そして、そんな地に住まう人々の心もまた豊かで美しい。人の優しさに触れ、心を磨き、美しく移り変わる四季を感じながら暮らす日々はとても心地良いです。」

自然に囲まれた工房で閑寂と創作活動をしながら、新たな目標に向かい勉学に励み、余暇には備前焼作家の仲間達と10年以上続けているブルースバンドを愉しむ。自然と人がゆるやかにつながり、離れてはまた戻る。川が流れるように、木々が擦れあうように淡々と流れる日々の中で、ジョンさんの創作人生はこれからも続いていく。

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