COLUMN
VOL.22 道
22 October 2020
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葬祭業界と地域社会の活性化に邁進し、儀礼文化の形骸化に警鐘を鳴らす井上万都里が連載する対談企画。
それぞれの道を強い意志で歩み続けるゲストの言葉から、あなたの人生を切り拓く明日のヒントが見える。

日本人の精神的な崩壊は「宗教離れ」が遠因なのではないか。

400年以上の由緒ある真言宗派の示現山 千光寺

井上)地域の方にとって桜の名所としての存在感も大きいと思いますが、貴院は400年超の歴史を誇る真言宗の寺院ですよね。

竹井)戦国史上有名な「高松城の水攻め」の際に、豊臣秀吉側の武将、加藤清正と渡り合い命を落とした毛利方竹井将監公の菩提寺で、供養塔は町の重要文化財にも指定されています。創建当初は現在のコンベックス岡山周辺にあったのですが、約400年前の寛永8年、現在の早島の地に移されました。本堂は京都・御室(おむろ)の流れを汲んで約270年前に建立されたもので、屋根瓦の形状などに御室の名残を感じさせながら、耐震を含む改修工事を繰り返して現在もその姿を保ち続けています。

井上)そんな由緒正しい寺院の住職でありながら、矢沢永吉さんの大ファンでコンサートにも足しげく通われ、それをまたブログでざっくばらんに発信されてらっしゃる。実際お会いするとより一層、とても気さくなお人柄が伝わってきます。

竹井)今年はすべて開催中止になってしまったんですが、例年3回は矢沢永吉さんのコンサートに行っていて、DVDにも映ったことがあります(笑)。ブログのテーマもそうですが、寺院の敷居を低くすることを何より心掛けているので、気さく、と言っていただけると嬉しいですね。「誰にでも来てもらえるお寺」を目指していて、その考えを現代様式に当てはめながら受け継いでいる、とでも申しましょうか。私は、宗教や儀礼文化という伝統を継承していくためには、ある程度は時代に合わせて変化していくことも必要だと考えているんです。当然「変えてはいけないもの」もある中で、守るべきものは守りながらもアプローチの手段はわかりやすく変えていくべきではないか、と。

井上)まったく同感です。本企画で何度か話してきたことに《踏襲と進化のバランス》があります。文化や伝統に固執するばかりでは継承のハードルが高くなってしまうと思うので、ニーズや新しいツールを駆使しての進化への試みは大切です。ただし、その《バランス》こそが命題で、『伝統を守る』・『新しいことを採り入れる』どちらかに偏るならばそんなに難しいことではないのかもしれません。「儀礼文化」には“文化”と、宗教という“思想”が内在しているため、センシティブかつ変化への対応が難しいという側面があると感じています。 竹井)本当に《バランス》は難しいですね。正直なところ、伝統を守るばかりでは飯は食えないというなかなか表には出せない本音もあると思っています。事業として成り立たなければ継続すらできないし、綺麗事だけではとてもやっていけない。仏教にも「中道」というものがありますが、持ちすぎても持たなすぎてもいけない、どちらかに偏らず生きることが重要という教えです。

特に若い世代の宗教離れが加速、伝統文化継承への課題

井上)年々、日本は世界的に見ても宗教離れが加速しています。他国は宗教に基づいた考え方が根本にあって、その上に自分の考えを模索して人生をつくっていくイメージがあります。仏教と神道、優れた2つの教えが本来は根付いている国なのに、ごく当然のように無宗教だったり、実家の宗派を知らなかったりと、特に若い世代の宗教離れが顕著になっていることを危惧しています。

竹井)本当にそうですね。私は、先ほどお話しした《敷居の高さ》も原因の一つではないかと感じています。ブログなどのデジタルツールでも、お寺での説法でも、難しいことは言わないように心掛けています。他のお坊さんはあまり出さないパーソナルな部分をどんどん発信しているのも、「住職オモロイなー」的な小さな思いこそが敷居をぐっと下げ、気軽に行ける場所だと気づいてもらえればいいなという考えからなんです。今年は開催を中止しましたが、毎年実施している「せんこうじのなつまつり」もそうした《体験》の機会を広げるために企画したもの。元は檀家さんからの「神社は夏祭りはあるけど、寺はせんのんか?」という雑談から生まれた企画が、200〜300人に来ていただける一大イベントに発展しました。多くの子どもたちが来場してくれて、楽しんでいるのを見ていたら自分の子ども時代をふと思い出し、子どもの頃の思い出が将来のきっかけにつながることもあるなあと気づきました。夏まつりのようにただ楽しいだけのちょっとしたきっかけでも「お寺で遊んで楽しかった」とか、仏様に手を合わせると「安心できた」といった体験や思いをつくり出すことも、寺院の役割なのではないかと考えています。

井上)宗教心というか、道徳心と言い換えてもいいかもしれない、そうした人間の根本となる考え方は、外から教わるものではなくてそれぞれの家庭に伝わっているもので、現代においてはそういう心を伝えられる人が少なくなっているのかもしれません。そういう意味では、《拠り所》として寺の存在をオープンにする試みはとても現実的で、理にかなっていると思います。少なくとも近隣の方には夏はお寺で楽しいお祭りがあると知っていただけているわけですから。

コロナ禍で露呈した日本人の精神的な崩壊

井上)このコロナ禍で露呈した、日本人の《精神的崩壊》。陽性者や医療従事者への差別や批判を目の当たりにして、本当に嘆かわしいことだと感じました。

竹井)比較的早い時期に早島地区で陽性者が判明した後に起きたのは、いわゆる《魔女狩り》でした。お名前、お住まい、あっという間に知れ渡ったと聞き、私も恐怖を感じました。目に見えない未知のものに対する恐怖心、自粛続きの環境によるストレスなど、遠因はあるかもしれません。でも絶対にやってはいけないこと。なぜなら「自分も罹る可能性がある」からです。仏教における10つを戒めた「十善戒」というお経の中に4つの「口業」への戒めがあります。嘘、中身のない言葉、乱暴な言葉、他人を仲違いさせる言葉の4つを言わない、ということですが要は《口は災いのもと》という戒めです。

井上)日本は、個人への《口撃》においては世界ワーストレベルだそうです。SNSなどネット媒体では、罹患した人だけでなく“3密”が発生しやすい業界叩きも凄まじいものでした。日本人のDNAには相手を思いやり、助け合う儒教精神が根付いているはずなのに、このような事態になってしまったのは、ウイルスの蔓延よりも大変なことなのでは、と感じています。これは、宗教をはじめとした精神的な拠り所が消えていることも、原因になっているのではないでしょうか。

竹井)コロナ禍は、これまで隠されていた考え方や廃れ始めていた慣習などを一気にあぶり出した感がありますね。宗教離れによる意識変化だけでなく葬祭儀礼の是非も問われていると思います。

井上)コロナ禍以前から葬儀、法要は縮小傾向にありましたね。家族葬などの小さな儀礼から、墓前で祈祷するだけのプランへのニーズが年々高まっていましたから。5年、10年後に起こるだろうと考えられていた事象が今回急スピードで起こったという印象があります。

竹井)葬儀や法事の縮小は都市部ではすでに始まっていたことなので、地方都市にも起こりうるだろうとある程度の予測はしていました。コロナ禍に関わらず、現代社会というのは変化のスピードがとてつもないなあと。正直ついていけない方も多くいらっしゃるでしょうね。例えば今後、ワクチンが開発されて、ウイルスに対する怖さがなくなりさえすれば以前の生活が戻るかというと、そこまで楽観視できることではないと考えています。世の中の流れに合わせてやっていくしかありません。

井上)葬祭はともかく、法要の文化継承は難しいと思います。法要の主役は「故人」であって、年数が経過すればするほど、故人の生きた証を形にして手を合わせ、墓前に参るという行動を続けていけるのか。我々儀礼文化企業としては、長く継続する法要とはどういったものか模索し、今後の時代に合わせて考えていくことも課題だと思っています。

竹井)そうした儀礼文化を継承していくためには、携わる者すべてが共に考えを巡らせて、共存共栄していく術を求めなければならないでしょうね。

withコロナ時代、《リアル》が日本を救う!?

井上)今後withコロナ時代を乗り越えていくにあたって、どのようなことを意識されていますか?

竹井)実は私自身、コロナ禍は悪いことばかりではないのではないか、と考えています。これまで常識に縛られていたことを取捨選択できるようになったという側面もあるのでは。葬祭、法要についても「必要ない」と切り捨てられる一方で「むしろこんな時代だからこそ大切だ」と考える人も多くおられる。もちろんそのお考えを実現するには感染対策の徹底など準備は必須になりますが。

井上)選択の幅が広がるという意味で、オンラインなどの需要はいかがしょうか? 都市部では話題になっていますが、私は地方では実現が難しいのではと考えています。

竹井)私の立ち位置としては「“積極的に取り組みたい”とは思わないけれど、ニーズがあれば対応したい」、という感じです。例えば初七日法要、岡山では「おかんき(お看経)」と呼ばれていますが、以前はCDなどで読経音源を提供していました。それでご満足いただけていたものが、現在は動画配信サービス経由で映像提供を実施するようになり、読経ができないご家庭でも実際に近い雰囲気を味わっていただくことができますし、遠方在住のご家族のためのライブ配信も対応を検討中です。なぜこのようなサービスが求められるか、それはやはり「必要だ」と考える方がいらっしゃるからだと思うんです。たとえ宗教離れが加速し葬祭法要は必要ないと考える人が増えても、「大切な人を供養したいと思う心」は廃れることはない、と私は思っています。音楽やスポーツのライブにしても、開催中止や観客制限などが続いていますが、「リアルじゃないと意味がないことがある」。映像を見れば雰囲気は味わうことができますが、その場での一体感や温度、参加している熱量はリアルでないと味わえない醍醐味だと思います。もちろん、デジタルツールを否定する気はまったくありません。LINEアカウントも新設しましたし、ブログやSNSと合わせてつながりをつくることは重要ですが、それが全てではなく単なる一面なのです。 井上)その考え方もやはりバランス—《中道》なのですね。儀礼文化の継承は宗教家の皆さんと共に手を携えて成さなければならない一大プロジェクトです。後世のために共に伝えていく努力を続けていきましょう。

〇井上 万都里(株式会社いのうえ 専務取締役)
儀礼文化研究所の創設など文化伝承にも貢献する葬儀社、株式会社いのうえ専務取締役。オカヤマアワード副会長、葬儀社による全国大会ネクストワールド・サミットの実行副委員長も務める。

〇竹井 智隆(示現山 千光寺 住職)
1979年生まれ、大阪出身。高野山大学仏教学科に学び、2005年に入山、2015年に住職拝命。矢沢永吉とプロレスをこよなく愛し、ブログでは私生活さえもざっくばらんに語る気さくな僧侶として人気。

○示現山 千光寺
毛利方の戦国武将だった竹井将監公の菩提寺で、創建当時は奥坂(現在のコンベックス岡山周辺)にあったが寛永8(1631)年、現在の早島城址に仏教興隆と鎮護国家を願う道場として移転。御本尊は聖観世音菩薩で、慈覚大師の作と伝えられている。裏山にある早島公園は地域有数の桜の名所として知られる。
住所:岡山県都窪郡早島町早島1179 /電話:086-482-0114

○株式会社いのうえ
大正2年に井上葬具店から始まった株式会社いのうえは2013年に創業100年を迎えた。都市化を見据えた新たな葬儀スタイルの提案など伝統と革新を見極めながら成長する全国屈指の葬儀社。
住所:倉敷市二日市511-1 /電話:086-429-1000/HP:http://www.everhall.co.jp/

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