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地方装生_concept
31 October 2025
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「Clothes make the man. Naked people have little or no influence on society. (服装が人をつくる。裸の人間は社会に対してほとんど影響力がない。)」──

これは、米国の作家マーク・トウェインの言葉です。少し極端に聞こえますが、装いが人に与える影響を明快に示しています。ひとりの印象が装いで変わるなら、街を歩く人々の装いによって、その都市の見え方や空気も変わっていく。装いが、そこに住む人の肯定感やプライドを育て、この土地のプレゼンスを高めてくれる。私たちが掲げる「地方“装”生」は、こうした確信から生まれた提案です。それは、人口や経済の数字だけでは測れない“カッコいい街”という感覚を、地域の力に変えていこうというスローガンでもあります。ただし、ここで言うカッコよさは、単なる見た目や流行のことではありません。Ethos(信頼)、Pathos(情熱)、Logos(論理)が立ち上がったものに、視覚的な魅力が加わった状態。当誌では、それを「Three Appeals with Style」と呼ぶことにしました。とはいえ、「地方“装”生」の出発点は、トウェインの言葉が示すように、服装や髪型といった「装」であるのが自然だと思います。

今回の巻頭特集では、個性とアプローチの異なる岡山のヘアサロン3社に協力をお願いしました。「地方“装”生」をテーマに、それぞれの解釈によってつくられたモデル作品を当誌が県内各所で撮影しています。この特集は、2年前の vol.60 で〈ファッションモデル〉×〈デザイナーのコレクションルック〉(※いずれも岡山出身)という非日常的な組み合わせで制作したページの延長にあります。あのときは、人と装いが変わることで、見慣れた街の印象がまるで違って見えることを表現しました。今回は領域を絞り込み、ファッションの中でも「ヘア」と「メイク」にフォーカスしています。〈秘すれば花〉のペイントを添えたデニムのクラッシュリメイクに、倉敷の街灯と装いを重ねた『反骨のカウンターカルチャー』、ハイトーンが一般化した時代にギリギリを狙った『カラーで日常に違和感を差し込むデザイン』、韓国×Y2Kを融合させ、パールやスパンコールを散りばめた『可愛らしさを半歩先へ進めたスタイル』──三者三様のクリエイションを収載しています。
美容師は、その職能によって人の印象を生まれ変わらせると同時に、存在自体が身近な人たちのセンスを形成するリファレンスとなってきました。「地方“装”生」の支え手であると同時に旗手でもある美容師がつくる作品から、日常のローカルな風景を揺さぶる、そんな力を感じてもらえるはずです。
本誌の創刊期を支えてくれたのは、地元の美容師の方々でした。クーポン誌全盛の時代、カウンターとして立ち上げたヘアスタイル・カタログに多くのサロンが掲載をしてくださったおかげで本誌のいまがあります。私たちは、誌面づくりを共にするなかで、美容師のクリエイティブに向き合う姿勢、ストイックに技術を研鑽する努力を目の当たりにしてきました。その中で、岡山の美容業界には、一致結束できる独特の関係性があることに気づきます。今から10年前、美容師が主体となり、「岡山にバックボーンをつくる」というコンセプトで立ち上がった「OKAYAMA HAIR COLLECTION(OHC)」というイベントがありました。リアルなスタイルとクリエイティブが交わり、世代やサロンを超えた多様性と団結力から生まれる圧倒的な熱量。そこには、美容師の内輪を越えて、地域の根幹をかたちづくるバックボーンになり得るものがあると肌で感じたのを覚えています。それはまさしく、私たちの言う「Three Appeals with Style」そのものでした。
時代は流れ、SNSの普及やコロナ禍を経て、本誌を含む地元媒体と美容師との接点はかつてより薄れつつあります。私には、いまの美容業界の全体像は十分に掴めていませんが、細分化した個々の活動は強さを増す一方で、業界としてのまとまりは見えにくくなっているのではないでしょうか。
ヘアサロンはそれぞれが独自性を追求し、個の強さを競い合ってきました。その「独立」の動きは多様性を生み出す源泉です。一方で、「協働」によって全体の底上げを図り、シーンに厚みを生成することも欠かせません。離合集散を繰り返しながら、独立と協働の両輪で活力を与えていく。この動きは美容業界に限ったことではなく、共同体を形づくるあらゆる分野に共通する原理だと思います。
かつて本誌は「PLUG NIGHT」というファッションイベントでヘアショーを企画し、多くの美容師に出演してもらいました。SNSでは実感できない人間のダイナミズム。オシャレを実践できる刺激的な空間。遠ざかってしまった当時のリアルな環境を、私たちは再びつくりたいと考えています。
冒頭で引用したトウェインの言葉を踏まえれば、「裸の王様」ばかりの地域に未来はありません。黄金の王冠を戴いても裸のままの王に敬意は集まらないでしょう。そして、数字のために服を作る企業や、味ではなく店舗数を競う料理人といった人たちも、私から見れば同じく“真っ裸”なのです。 例え、お金や地位があっても、裸であることに気づかない“ダサい人”は何のプラスにもなりません。岡山をヌーディストビーチにしてはいけない。だからこそ、装いには意味があるのです。美容師や地域の表現者とともに、その力を社会的資本へと変換していかなければなりません。 「カッコいいへの渇望」と「本質に向き合う態度」こそが、社会をあるべき方向へ近づけるのだと思います。 / 読者の皆さんもまた、岡山の「地方“装”生」を担う一人です。日々のコーディネイトに真剣に向き合うことも、自分のスタンスを貫くことも、単なる趣味や自己満足に矮小化されるべきものではなく、それ自体がソーシャルアクションになる、私はそう信じています。Clothes make us. Style shapes the vibe. 岡山を、もっとカッコよく。

プラグマガジン編集長 YAMAMON

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