COLUMN
VOL.06 古市大藏の岡山表町慕情。
22 October 2020
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岡山のまちづくり・ひとづくりの立役者であり世話人、古市氏による表町を舞台にした考察コラム。

Photo: Yukari Fujii text: PLUG

「withコロナ時代」商店街のあり方

昨今のコロナ禍において多くの企業が影響を受け、変化を余儀なくされています。当社も例外ではなく休店や営業時間の短縮などを実施し、目に見えて打撃を受けました。しかしながら、7月に開催した当社のイベントにおいては、広告も出さず、入場制限など徹底した感染症対策を設けていたにも関わらず多くのお客様にご来店いただき、過去最高に並ぶほどの成果が見られたのです。かねてより“会社が成長を遂げるための要素”として、「ESG(Environment[環境]Social[社会]、Governance[企業統治])」および「SDGs(持続可能な開発目標)」の実現を掲げてきましたが、今回のコロナ禍とこのイベント成果は、今後いっそう我が社のステークホルダーとの協創を高め、新たな価値を創っていく必要があるとの考えを固める出来事でした。東日本大震災が発生した後、結婚指輪や婚約指輪の需要が飛躍的に高まったことがあります。これは、人々が《絆》を確かめるための拠り所を求めたことにあると考えます。自身を投影する、いわばアイデンティティとなり得るもの、そして自分の子どもに伝えたいもの——ただ価格が高いからということではなく、想いや心がこもったものを購入する際の「特別感」の演出こそ、これからのビジネスが目指すべきものではないでしょうか。《商いの質が変わる》今まさに、その節目に立っているのです。

《心を満たす》特別感を磨き上げる

商店街という商圏においても、おそらくコロナ以前の大量動員・消費促進を求める店舗運営は難しくなっていくでしょう。トレンドに合ったものを大量に売るという手法ではなく、特別感を提供し、「心の満足」に触れる場所であるべきだと思うのです。文化・歴史を重んじ《まちそのもの》を大切にするいわばヨーロッパ型の展開。つまり、精神的な充足を感じられる「しっとりとした落ち着きのある」まちづくりが鍵を握っています。それは、それぞれの文化や伝統が残る地方都市にしかできないことでもあります。もっと言えば、「消費」という言葉にも疑問符を抱いています。食品ですら身体をつくるものとして健康志向が高まっているご時世です。ユーザーの意識もいっそう高くなっている中「儲かる」商売は一過性の場合が多く、万能な価値を長期間確保するのは困難です。オンライン接客や通販などに力を入れようという向きもありますが私はあくまでリアルのためのオンラインだと思っています。お店でしかできない体験、充足感の創出、いわば「自分だけの特別な居場所づくり」。自分の存在を大切に感じられる《しっとり》とした空間と自分らしくいられる時間。高級感だけでなく、質の高い接客も含めて訪れる人が心を満たし、生きることを楽しめるようなステージを表町でつくり上げていけたらと考えています。しかし、実はこのビジネスモデルは究極。100人中100人が同じように満足するモデル構築は不可能です。だからこそ、企業のフィロソフィーを確立させながら、それに共感していただける方に来ていただく。そして、その方に対して深くアプローチすることが大切なのです。具体的に言えば、高級時計を購入された方がすぐ「もう1本」とはならない。「その時計に合う生活空間」や「大切なあの人を紹介したい」と顧客の求めるフィールドが拡大していくことが肝要です。これには、“あなたの生活を豊かにするために我々がある”という気持ちを接客する側が持っていなければなりません。ここで考えるべきは従業員満足とは何か、ということです。ここ数年、離職を恐れてお客様を二の次にした従業員優遇策が先行していたように感じます。本当の従業員満足とは、お客様なくして成し得ないのです。従業員がもっとも満足でき、モチベーションを高めることができるのはお客様を満足させたとき。今一度、トミヤの原点である「互恵」の精神に立ち返り、“お客様の満足こそが仕事のやりがい”それを理解していただける社内教育を進めるのも重要だと考えます。

次世代を担う人材教育プロジェクトも

岡山県立大学のカリキュラムのひとつとして、前述の「ESG」と「SDGs」をテーマにした地域の企業活動考察を連携して取り組むことが決まりました。withコロナ時代の理想のまちづくりと商店街、さらに消費構造の転換などを学びながら「生まれた街をもっと大切にする」ことについて考えるきっかけになればと考えています。地方から東京を目指す学生さんは今まで多くいましたが、これからの社会において都市圏は必ずしも絶対的存在ではなくなっていくことでしょう。つまり今は地方都市にとってはチャンスなのです。「故郷を大切に想う」という学生への啓蒙は商店街活動にもつながっています。今、商店街は「覚悟を決める」時期。金儲けだけに終わらない、新たな価値を見出し、創出する時代になっています。

〇古市 大藏(株式会社トミヤコーポレーション 代表取締役 会長)
1945年岡山市生まれ。世界の一流品を扱う時計・宝石の専門店を岡山県内に11店舗展開する㈱トミヤコーポレーションの代表取締役会長。岡山商工会議所副会頭のほか様々な地域経済団体でも役職に就き、長年に渡って岡山のまちづくりに尽力し、地域を担う若手の育成や教育にも携わっている。商人の精神「三方よし(売り手・買い手・世間)」に(地球・未来)を加えた「五方よし」の精神で地域の未来を見据える。

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