#1. INTERVIEW
伊原木 隆太 岡山県知事
#晴れの国おかやまの愛称
「ザ ランド オブ サンシャイン!」
海外の人に「晴れの国おかやま」を説明するときは、 「The Land of Sunshine」と言って紹介しています。 気候が良いのは、 我々が思っている以上に凄いことなんです!
時の人」が続出。 止まらない “岡山旋風”!!
「生き活き(いきいき)おかやま」 知事としての《覚悟》と《誓い》
誰もが実感する岡山の躍動
ここ最近、〈岡山旋風〉が巻き起こっている。パリ五輪で団体総合、個人総合、鉄棒で3冠を達成した体操の岡慎之介選手、AIG全英女子オープンで初出場ながら初優勝を飾った渋野日名子選手、世界中で人気のシンガーソングライター藤井風さん、2022年のM-1で優勝したウエストランド、テレビで見かけない日はないお笑いコンビ千鳥のお2人など、これまで岡山からはなかなか輩出されなかった「時の人」が次々と現れ始めた。また、岡山学芸館高等学校サッカー部は2022年に全国大会で初優勝を果たし、多様な分野で全国レベルを目指す学生たちも目を輝かせている。プロサッカーチーム「ファジアーノ岡山FC」がJ1に昇格した興奮はまだ冷めやらぬままだ。「岡山県にこれまでに無い勢いを感じています」。そう語るのは、伊原木隆太岡山県知事だ。岡山の顔として第4期目を務める知事が、「晴れの国おかやま」とは別に、初当選の時から掲げ続けてきた政治家としてのキーフレーズがある。それが「生き活き岡山」だ。
苦労して作り上げた造語
このキャッチフレーズは、知事が悩みぬいた末にアウトプットしたもの。多岐にわたるマニフェストを、誰にでも一言で伝わるようにするために推敲と熟考を重ねたという。身近な人や信頼のおける人にも意見をもらいながら、時間をかけて練り上げられたフレーズだ。「生き活きは造語です。そのまま〈いきいき〉と読むことで、岡山の元気で活発な様子を表現しています。また漢字の部分だけ読むと〈生活〉という意味になります。岡山県で暮らす皆さんの生活を守るという誓いを込めました。短い言葉ですが、私の決意と願いが詰まっているんです」。〈生き活き岡山〉は、キャッチフレーズというよりも、私たち県民一人ひとりの躍動と健やかな暮らしを実現するためのスローガンなのだ。
「晴れの国おかやま生き活きプラン」は急がば回れの長期構想
「晴れの国おかやま生き活きプラン」は2040年代半ばまでの岡山の将来像を見据えた行動計画である。地方自治体の好循環はすぐには形成されない。知事は「急がば回れ」の構想が今こそ必要だと説いた。暮らしやすさを守るため、知事就任直後から力を注いだのが「教育」だ。「人生の最初の3分の1を占めるのは〈学ぶ〉という行動、つまり教育です。1期目は、教育の土台づくりからスタートしました。手厚い教育を受けた世代が、社会に出て活躍し、良い職場を作ると、産業の振興につながり、岡山の活気につながるという考えに基づいています。遠回りですが、土木建築や福祉分野の水準も教育によって引き上がっていくはずです」。直近の第4次晴れの国おかやま生き活きプランでは、特に喫緊の課題である「人口減少対策」に重きを置いている。「そもそも生まれていない子どもたちに教育は授けられないですよね。全ては、地域の将来を担う〈人〉の存在があってこそ。そのため、第4次プランからは人口減少対策を拡充しました。現在の県の課題や将来像を見据えながら、日々プランのアップデートを考えています」。
岡山県のキャッチフレーズ「晴れの国岡山」に対する、他県や海外の人の反応はどうなのだろうか。知事に尋ねると、海外の方に岡山を紹介する際には「The Land Of Sunshine」という愛称を使っているそうだ。「一言に晴れていると言っても、いろんな定義があると思います。岡山県の場合は、降水量1ミリ未満の日が日本で一番多い県という基準です。気象庁のデータを見ると、全国平均と比べて、岡山は晴れた日が丸々1ヶ月分くらい多いんですよ。天気は人間の精神に大きな影響を与えます。『天気を誇るだけでは意味がない』と揶揄されることもありますが、これは自治体として、そこに暮らす県民の方にとってもかなり重要なことですよ」と、知事は語る。知事は自身がスタンフォード大学に通っていた頃に経験した西海岸の天候の良さと暮らしやすさを例に教えてくれた。スタンフォード大学はカリフォルニア州に本部を置く名門私立大学だ。「スタンフォード大学は世界の数ある名門校と比較すると新興大学なんですよね。オックスフォードが約930年、ハーバード大学が約390年、イエール大学が約325年の歴史があるのに対して、まだ125年ぐらいの歴史しかないのです。しかし、何故スタンフォードが世界有数の名門大学になったかというと、ひとえに気候の良い場所であることが関係しているのではないかと考えています」。
岡山の気候は優秀な人材を集めるファクターに
なる!?
気候の良さが優秀な人材を集める
アメリカでは、いわゆる「純粋培養」の人材が評価されづらいとされている。長年同じ組織に属していると世間知らずだと見なされるようだ。さまざまな組織や土地を経験し、他分野でも実績を上げた人材が高く評価される傾向にある。そのため、有名大学の優秀な人材は当時から複数大学を行き来することが多かった。東海岸の寒い地域からスタンフォードに転入した学生たちは、温暖な西海岸の住み良さから定着するようになったという。こうした地理的条件が、後発のスタンフォード大学を名門に押し上げた要因にもなっているのかも知れない。「スタンフォード大学が創立された当初は、西海岸地域の中では『それなりに良い大学』というくらいの評判だったようです。しかし、今ではスタンフォード大学が世界をリードする学府であり、優秀な人材を選べる立場になっている。特にビジネススクールとして、ハーバードとスタンフォードが双璧とされていますね。スタンフォードは晴れた気候のおかげもあってか、失敗してもカラリとしている人が多い印象でした」。気候の良さは単なる快適さだけでなく、高い能力を持つ人材の呼び水にもなっているようだ。スタンフォードの例をとっても、それが好循環の基盤となっていることが分かる。「晴れの国」であることは、我々が思っている以上に本来得難いアドバンテージなのだ。「スタンフォード大学周辺と同じように、岡山も非常に恵まれた場所です。どんな地方自治体も、どんな大企業であっても、ハワイを寒くできないし、アラスカを暖かくはできません。与えられた好条件を、もっと最大限に活かさなければならない。こんな住みよい場所は滅多にないですよ。ただ、県外や海外からお客さまが来岡された時に雨が降ると少し気まずいですけどね(笑)」とユーモアを交えて話してくれた。
「世界をもっと住みやすい場所にする」 という理念
知事の人生を変えたキャッチフレーズも、スタンフォードの理念にあった。在学していた当時の理念は 「make the world better place to live」(世界をもっと住みやすい場所にする)だったという。 「スタンフォード大学の学生がリーダーシップを発揮して豊かな世界をつくるんだという強い意気込みを感じるフレーズです。『住みやすい場所にする』 という目的意識は、 現在の知事という立場にも繋がっている。「『世界を変える』というとなかなか実感が湧かないようにも思いますが、学生時代からこのようなフレーズに親しみ耳にしたり口にしていると、本当に世界を変えられるんじゃないかと思えてくるものですよ」。 実際に、 世界の有名企業や重要な国際機関の多くをスタンフォードの卒業生が支えているという事実もある。「 優秀だとされる人たちが世界中のあらゆる分野に挑戦します。しかし、どんなに優れた人であってもその大半が失敗したり、運が良くてもほどほどの結果で終わってしまう。しかし諸般の課題や世界の問題に挑む人がいなければ、世の中は良い方向へと変わってはいきません。私は、生まれ育ったこの岡山で、愛すべき場所をもっと住みやすい場所にするための挑戦を続けていきます」。
「伝える責任」を フレーズに込めて
限られた時間で情報を的確に伝えるため、キャッチフレーズを用いてメッセージを短く凝縮することの重要性を知事は日々実感しているという。政治家、特に首長は自治体のあらゆることについて言葉を求められる立場だ。それは教育、福祉、観光、インフラ整備など非常に広範囲に及んでいる。一つひとつの課題とそれに対する施策は複雑で網羅的であり、本来は一言で語りきれないものばかり。しかし、県民に報道される場面を想定して、ワンフレーズで考えや想いを伝えなければならないことが往々にしてある。「大切にしているのは、とにかく大量の情報を一つにまとめることです。会見で記者の皆さんに一時間以上お話していても、ニュースで流れる私の言葉は10秒程度。新聞などでも、僅か数行に要約されてしまいます。いかに、短い言葉で、県民の皆さまに適切なメッセージをお伝えできるか。県政に対する誤解を生じさせないよう、瞬時に言葉を練り上げなければなりません。これが本当に難しい。いまだに悪戦苦闘しています」。また、知事は「伝わらなければ意味がない」と日々自分に言い聞かせているそうだ。「185万の県民と、一人ひとりゆっくり話し合うことは現実的にはできません。けれども、ここだけは伝えたいという想いを、根気強く伝え続ける努力だけは怠ってはいけない。言葉を磨くのはもちろんですが、それと同じくらい繰り返すことも大切なんです。あの人、あの話ばっかりしているよねと思われてもいい。一度言ったよね?というのは言い訳にしか過ぎません。多くの人に伝わっている状況をつくる努力が大切なんだと思います」。 第4次晴れの国おかやま生き活きプランの人口減少対策についても、これから重点的に発信していく予定だと知事は語る。岡山県民と言っても、行政に対するニーズやそれぞれのライフプランは当然ながらひとくくりにできない。多様な価値観に寄り添いながら、できるだけ多くの人々の希望が叶うよう、岡山県はさらに柔軟な行政サービスが提供できる環境づくり、仕組みづくりを進めている。「県民の皆様に生き活きプランの後押しをしていただくことで、岡山県のそれぞれの地域はより元気になっていくと考えています。これは私ひとりの力では実現できません。県民の皆さまにも、地域の課題や政策に興味をもっていただけると有難いなと思います。より明るい岡山を引き寄せるため、岡山県のみんなで一丸となり頑張っていきたいと思っています」。
PROFILE
○いばらぎりゅうた
1966年生まれ、岡山県出身の政治家。東京大学工学部卒業後、外資系コンサルティング企業を経てスタンフォード・ビジネススクールでMBAを取得、地元の百貨店「天満屋」の代表取締役社長を務めた後、2012年岡山県知事に初当選。「民間人で初めての岡山県知事」として、当選後はメディアでも大きく注目された。知事就任当初から「民間ならではの視点」を前面に打ち出し、数々の改革に取り組んでいる。
HP. https://www.pref.okayama.jp/
INSTAGRAM. okayamapref_japan
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