FEATURE
「制服」に、挑戦する企業の姿勢あり
01 May 2025
#TAGS
  • COMPANY
  • FEATURE
  • INTERVIEW

Special Coverage



--岡山で働く誇りをカタチに--

今春、岡山を代表する企業グループ「SUENAGA Group」の 「岡山土地倉庫」と「岡山通運」のユニフォームが一新された。デザインを担当したのはファッションデザイナーの相澤陽介氏だ。数多くの企業の制服やユニフォームを手掛けてきた相澤氏に、本プロジェクトを引き受けた経緯や、ユニフォームに対する考え方を訊いた。

Interview&Text:YAMAMON




視認性・機能性を追求した実用的デザインを搭載

ハンティングウエアをベースにした《視認性》と《機能性》を兼ね備えたデザインが特徴。
「岡山土地倉庫」は、本社屋のアクセントとなっている赤を挿し色に使用。
パーツごとに色を変え、倉庫内での視認性を高めている。
また、ポケットでは収まりきらない小物を入れるため、ベストを用意した。
一方、「岡山通運」は、トラックとの相性を考慮したダークネイビーとブルーを採用。
伸縮性や吸収性のある素材を使用し、動きやすさと快適さを両立させた。さらに、
顧客の荷物を傷つけないよう、表面からファスナーやボタンなどの突起物を排除している。


For workers, uniforms are the clothes they wear most in their lives.
制服は、働く人にとって人生で最も着用する洋服。



― 地域の物流を担う企業の表象 ユニフォームを一新。



岡山県を代表するグループ企業「SUENAGA Group」は、物流事業やトヨタ事業、マクドナルドフランチャイジーなど、多岐にわたる事業を展開する12の企業が集まり、地域に欠かせないサービスを提供し続けている。その一員である「岡山土地倉庫株式会社」と「岡山通運株式会社」は、グループの中でも地域の物流の中核を担う企業だ。岡山土地倉庫は、物流関連の総合的な事業を展開し、高速道路や空港などの交通の要衝5ヶ所に物流拠点を配置。全拠点の延べ床面積は岡山県内でトップシェアを誇る。岡山通運は全国への荷物の輸送から保管、荷役まで一貫して対応できる物流サービスが強みだ。今春、長年にわたって西日本の物流適地である岡山の産業を支え続けてきた両社は、ユニフォームのデザインを一新することとなった。デザインを手掛けたのは、世界的に活躍するファッションデザイナーの相澤陽介氏だ。自身のブランド「White Mountaineering(ホワイトマウンテニアリング)」を展開するほか、多数の企業の制服やユニフォームのデザインを手掛けたことでも知られている。2018年、相澤氏はトヨタ自動車のディーラーである全国の「トヨペット店」のメカニックスーツを制作。2024年には、岡山トヨペットの社内レーシングチーム(現(株)K-tunes)の車両とレーシングスーツのデザインを担当した。今回の制服デザインを引き受けた経緯について、「代表の末長さん直々にオファーを頂き、その熱量と丁寧さに背中を押されました」と相澤氏は語る。 「いろんなプロジェクトのお話を頂くことも多いのですが、実際にカタチになるのは稀かもしれません。双方にとって良い仕事にする上で、その企業のトップがデザインの価値に対して理解があることは重要なファクターだと思います」。



―  現場の声を反映した機能美で 仕事のパフォーマンスを最適化。 経営陣と従業員を繋ぐ制服。


これまでにヤマトホールディングス株式会社やリーガロイヤルホテルグループなど、多数のユニフォームのデザインを手掛けてきた相澤氏。ファッションデザイナーとして、自身の表現とクライアントの意向のバランスをどのように取っているのだろうか。「ユニフォームをデザインする際は、常に〈自分目線ではないもの〉を作るようにしています。与えられた題材の中で、まずはクライアントに納得してもらえるデザインに仕上げることがデザイナーとしての重要なミッションです。僕はSUENAGA Groupの社員ではありませんし、今回のユニフォームを着ることもありません。だからこそ、従業員の皆さんの気持ちや経営陣の方々の想い、ユニフォームを作る目的などを踏まえた上で、『どこか相澤らしい』と感じてもらえることを大切にしています。やはり“僕らしさ”を出すことも求められていると思うので」。ユニフォームは一般的な洋服とは異なり、外見だけでなく、優れた機能性や高い耐久性が求められる。何十回洗濯をしても破れない頑丈さや使い勝手の良さなど、クリアすべき項目は多い。「『ユニフォームとして快適に着用できるか』という基準を満たしつつ、僕自身の考えや、その企業に対して感じたことをデザインに反映しています。これによって、クライアント企業が自社のアイデンティティを見直してもらえる機会になることもありますね」。



デザインの力で、制服を企業の〈象徴〉に。



こうした相澤氏の向き合い方から生まれたのが、岡山土地倉庫と岡山通運の新しいユニフォームだ。どちらも従業員の声を取り入れ、生地や細かなディティールに反映している。ジャケットに多機能ポケットを装着した岡山土地倉庫は、更なる収納力向上のためにベストを制作。背面を全面メッシュにすることで、夏も快適に作業できるよう工夫した。岡山通運では、パンツやショートスリーブに伸縮性の高い素材を採用し、トラックの乗り降りや作業時の動きやすさを追求。ジャケットの胸ポケットにペンホルダーを取り付け、必要な時にストレスなく素早く取り出せるよう配慮している。両社共に、現場で働く従業員のことを徹底的に考えられたユニフォームが完成した。 



― デザインが生み出す一体感。 其々の人生に寄り添いながら、 日々の働く誇りを支える。


両社のユニフォームとトヨペットのメカニックスーツには、どこか共通する雰囲気がある。「同じデザイナーが手掛けた」と聞けば、納得する人も多いだろう。「トヨペットは白と緑、濃い緑の3色構成にしたので、今回も色の組み合わせを意識しました。岡山土地倉庫と岡山通運、岡山トヨペットの従業員の方が3人並んだときに、自然とリンクするようにしたかったんです。SUENAGA Groupとしての一体感が生まれるよう意識しました」。さらに相澤氏は、「このユニフォームを着ることで、『会社が自分たちを大切に考えてくれている』と感じてもらえたら非常に嬉しい」と語る。「四半世紀近く勤める方にとっては、人生で最も袖を通す服がこのユニフォームになるかもしれません。仕事や家族との思い出とともに、そのユニフォームが存在している。『大切な服だからこそ、会社が時間をかけて用意してくれたんだ』と感じていただければと思いますし、私もその思いを込めてデザインしました。ユニフォームを丁寧に作ることは、ある意味で福利厚生の一環です。新しいユニフォームが従業員の方々の自尊心を高め、会社をより良くしようとする気持ちに繋がる。そんな好循環が生まれることを願っています」。SUENAGA Groupのように、地方企業が一流のファッションデザイナーを起用してユニフォームを制作する例はまだそれほど多くはない。地方におけるデザイン活用の可能性について、相澤氏はどのように考えるのだろうか。「企業がデザイナーを起用することは、自社の強みや個性を再発見できる機会になると思います。例えば、岡山土地倉庫のユニフォームに採用した赤色は、私が本社屋と倉庫を見た時に印象的だった鉄骨の色から採用しました。それまでは見過ごされていた建物の赤と制服の赤がリンクすることで、視覚的な統一感が生まれ、これも一つのブランディングに繋がると考えています。今回のようにデザインを取り入れることで、企業の個性が際立ち、良い意味で目立つことができます。デザインによって企業のアイデンティティを可視化することが他社との差別化になる。このアプローチは、企業が苦心している採用活動においても非常に有効なのではないでしょうか」。今回のような地方企業におけるファッションデザイナーの起用について、同氏は「もっと多くの企業が取り組んでくれると嬉しいです」と語る。「世の中には多くの制服がありますが、実はデザイナーがきちんと携わっているものは少ないのが現状です。世の中に溢れる画一的なデザインをオリジナリティある個性豊かなものにしていくことが、ひいては日本のデザインレベルの底上げに繋がるのではないでしょうか」。現在は東京と軽井沢の二拠点生活を送っている相澤氏。コムデギャルソンに勤めていた当時、岡山へは特に頻繁に足を運んでいたそうだ。それぞれの地方にある独自の素晴らしさ、地方で感じる熱量がクリエイションには欠かせないという。「デニムの産地である倉敷の生地屋さんを訪れる度に、素材の面白さを肌で感じました。東京は情報収集には適していますが、自分にとってはインスピレーションを得られる場所では無くなってしまったように思います。デザイナーとして、それぞれの地域が持つ魅力を感じ取り、活かしていくことが大切だと思っています」。制服はコーポレートアイデンティティであり、その街の景観にもなり得る衣服。SUENAGA Groupと相澤氏のリレーションによって生まれた二社の制服は、岡山に新たな彩りを与えてくれるだけでなく、地方企業がこれからの時代に示すべきアティテュードだと感じた。

相澤陽介
プロフィール/1977年10月25日生まれ。多摩美術大学デザイン科染織デザイン専攻を卒業後、2006年に〈White Mountaineering〉をスタート。これまでに〈Moncler W〉、〈BURTON THIRTEEN〉、〈LARDINI BY YOSUKEAIZAWA〉など様々なブランドのデザインを手掛ける。現在では、イタリアブランドの〈COLMAR〉にてデザイナーを務めるほか、サッカーJリーグ北海道コンサドーレ札幌の取締役兼ディレクターにも就任。その他、多摩美術⼤学、東北芸術⼯科⼤学の客員教授も務める。




〈 SPECIAL THANKS 〉

 岡山土地倉倉倉庫  https://www.okatochi.co.jp
  岡山通運   https://okatuu.co.jp
  White Mountaineering https://whitemountaineering.com




Categories:
Tags:
BACK TO TOP