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古市大蔵の岡山表町慕情_vol.14
12 May 2025
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岡山のまちづくり・ひとづくりの立役者であり世話人、古市氏による表町を舞台にした考察コラム。
Photo:Masatoshi Kaga(BEARMON) text: PLUG


古市 大藏
(株)トミヤコーポレーション  代表取締役 会長
1945年岡山市生まれ。世界の一流品を扱う時計・宝石などの専門店を岡山県内に12店舗展開する㈱トミヤコーポレーションの代表取締役会長。岡山商工会議所副会頭のほか様々な地域経済団体でも役職に就き、長年に渡って岡山のまちづくりに尽力し、地域を担う若手の育成や教育にも携わっている。商人の精神「三方よし(売り手・買い手・世間)」に(地球・未来)を加えた「五方よし」の精神で地域の未来を見据える。


ーー表町に新たなカルチャーの拠点が誕生

今年の春、表町に新たな書店 「正夢書房」と「BOOK CAFE TSUNAGARI」をオープンします。また、併せて「Agedor」を「アートギャラリー」としてリニューアルすることにしました。これら新店舗をつくる一番の目的は、表町の活性化。現在の表町には岡山芸術創造劇場ハレノワと岡山シンフォニーホールといった文化施設がありますが、これらを中心とした表町全体のカルチャーゾーン形成を促進する働きを目論んでいます。「正夢書房」という店名には「夢を正夢(実現)にしよう」という思いを込めて。ここは従来型の書店のように、ビジネス書や専門書、小説や雑誌などを取り揃えます。「BOOK CAFE TSUNAGARI」は、カフェを併設してゆっくりと本を選べる空間に。絵本や児童書、ときには読み聞かせのイベントを開催するなど、子育て中の人たちが楽しんでもらえる場所にしたい。そして、ギャラリー「Agedor」は表町にアートの風を吹き込むスペースに。3店舗それぞれに設けたコンセプトが響き合い、新たなファン層を呼び込むことを期待しています。 


ーー文学の街おかやまの拠点として

いま、岡山では若者の県外流出が加速しています。富裕層もどんどん離れており、地域の活力低下が危惧されている。中でも顕著なのは若い女性の転出でしょう。20歳前後の女性たちに理由を尋ねると「岡山にはディズニーランドがないから」と。では巨大エンターテイメントを作ろうといっても、それには莫大な予算が必要になる。そこで着目したいのは、岡山市が国内で初めて「ユネスコ創造都市ネットワーク」に文学分野で加盟したこと。しかし多くの方がこの事実を知りません。私は、表町から「文学創造都市おかやま」を市民に広く浸透させていきたいのです。“リテラチュア(=文学:文芸)”という要素を表町に取り入れ、書店を通じて多くの人に触れていただく機会を提供していければと思っています。また、ここを若者から高齢者まで多様な年代・立場の女性が活躍する、新しい働き方を創出する場にもしていきたいと考えています。今回、スタッフを募集した際に70通もの応募がありました。「本屋」というものが多くの人にとって魅力ある場所なんだと再認識した次第です。今回採用した書店のスタッフには、ただ本を販売するだけではなく、自分の趣味や特技を活かして「100人のファンを作る」ことをミッションとして課しています。例えば、お店の一角でヨガや手芸など、自分の得意な分野で教室を開くのも良いでしょう。「書店+得意分野」で若い人に活躍してもらいながら、新しいファン層を獲得し、ここがコミュニティの拠点になっていけば、それは表町の若返りと活気にも繋がる。私はそう思っています。

ーー「ヨコの百貨店」に再び活気を

今回の出店は、商店街の空き店舗対策でもあります。この3店は、いずれも既に空き店舗だった場所もしくは退去予定のお店跡地につくりました。以前、「表町商店街は《ヨコの百貨店》ですね」と言ってくれた人がいました。天満屋さんのような《タテの百貨店》に対して、商店街は一つひとつのお店が「ヨコ」に連なって賑わいを生み出していると。それが個性になっているということを改めて気付かされました。穴が空いてしまっては、断続した「点」になってしまい、力は損なわれてしまいます。商店主は、その街全体の一部であるという意識をもっと持たなければなりません。

ーー歴史と向き合い、新たな価値を創造する

現在、岡山駅前には新しい街が生まれていっています。アクセスもよく、必要なものは一通り揃っていて、確かに利便性は高いでしょう。しかし、他の地方都市と同じような顔になりつつあり、そこに「岡山の個性」はない。対して表町商店街には450年の歴史があります。ここは宇喜多直家公が西大寺などの商人を呼びこんでつくった町で、言うなれば「必然性があってできた町」ではありません。だからこそ先人の功績を語り継ぎ、歴史をつないで価値を高めながら、さらに新しい価値を付与していかなければなりません。表町は《ハレの商店街》。「お腹が空いたから」と必要に駆られて訪れるような場所ではなく、精神的な充足や、生きがいを見出せる場所として機能させることで活性化を図りたいと思っています。此度の3店舗の開店は、若い世代を中心に多様な年代の人たちが集まれる場所を作ることで、地域の文化発信拠点としての役割を担うことを期待してのプロジェクトでもある。現在は、あらゆる面で日本の世界的ランクが下がっていますよね。我々の年代は、日本が隆盛を誇った頃を知っている。もっと日本はやれると思っているんですよ。しかし私に日本を動かすほどの力があるわけではありません。だからせめて、岡山の地域が再び活況を呈する一助になれたらと思うわけです。



(株)表町ルネサンス 正夢書房
岡山市北区表町2-2-51

TEL/FAX 086-206-1411


郷土にゆかりのある書籍から一般書まで幅広く扱うブックセレクトショップ。誰かの夢を後押しするような本との出会いを提供し、「文学創造都市おかやま」の一つの拠点となるような場を目指している。4月上旬オープン予定。



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