COLUMN
古市大蔵の岡山表町慕情_Special Interview
02 December 2024
#TAGS
  • #COLUM

岡山のまちづくり・ひとづくりの立役者であり世話人、古市氏による表町を舞台にした考察コラム。
今回は、対談特別編。今号の巻頭特集テーマである「時間」について、人生の達人である古市、小嶋両氏に訊きました。二人は終戦の年に生まれた同い年。志を同じく、青年経済団体で活動を共にし、それぞれの事業領域で岡山の発展に向き合ってきた二人は、盟友の関係でもあります。
話題はやっぱり「まちづくり」に及び、この先への希望と憂いが語られました。


Photo: Masatoshi Kaga text: PLUG, Ayuko Nakahara

進む二極化、見解が 二律背反する「時間」
そこに「目的」はあるか

「タイパ」とは無縁の 青春時代

ー 青春時代、どんなことに時間を費やしていましたか。また、そこに「時間配分」という意識はありましたか?

小嶋) 大学時代は航空部でグライダーに夢中でした。風を読み、風を使って飛ぶグライダーは空のヨットとも呼ばれますが、非常にエキサイティングなスポーツです。ただし、飛ぶためにわざわざ山形、広島など滑空場のある遠方に行くため、そもそもタイパが良い競技ではありませんね (笑)。 長期合宿や遠征も多く自由時間のほとんどをグライダーや海外事業研究会という部活に割いていました。また、ゼミやアルバイトにも勤しんでいたので、大学生ながらに可処分時間と言える時間は僅か。それでなくても、航空部は本気でやると4年では卒業できないと言われてもいました (笑)。私は中学生の頃から将来は経済人として社会のお役に立つと決めていたので、専門分野や単位取得、ゼミの研究活動といった大学生としての本分も疎かにはできません。時間配分というよりも、限られた時間でいかに学業で成果を出すか、といった時間の密度を高める工夫をしていたように思います。

古市)高校時代は漕艇部で、旭川をボートで漕いでいました。同志社大学ではヨット部に入部しましたが、先輩との折り合いが悪く、早々に退部することに。私は小嶋さんのように華やかな学生生活を謳歌していません(笑)。 大学三回生の時に先代である父が急逝したことで、人生が大きく変わりました。若干二十一歳にして経営者として会社を率いる立場になってしまったわけです。幼い時からヨーロッパに憧れていた私は、本当は世界を飛び回る商社マンになりたかった。苦労している親の後ろ姿をみて育ったことで、事業を引き継ぐつもりもありませんでした。しかし状況はそれを許しません。週に一度、準急電車の鷲羽号に乗って岡山から京都まで通いながら大学を卒業しました。仕事をしながら、それでも学業を修めようと毎日必死です。時間配分など考える余裕もありませんでした。とてもじゃないけど大学生という気分では無かった。当時、私の保証人だった方が京都で商社を経営されている方で、若くして祇園や地元の高級店などに連れていってもらうという多少贅沢なことはありましたが、正直なところ学生時代に大した思い出はありませんね。私の青春時代は、苦学生だった記憶と共にあります。


時間の捉え方 時間の使い方

ーお二人は「タイパ」という言葉をどのように受け止められますか。

小嶋)先般のパリ五輪を観ていても、今の若い人たちは我々の世代より格段に能力が高くなっているなと実感しますよね。それは、身体能力に限りません。人類はあらゆる活動を通して「タイパ」を求めてきたし、日本人は「コスパ」を得意にしてきました。こうした積み重ねが、私たちに豊かな生活をもたらし、若者の能力を伸ばすことにも繋がっているのだと思います。しかし、今にはじまったことではないですが、自分を燃やせることに一生懸命打ち込む層と、目的や夢を持たず時間を消費している層との二極化がさらに進んでいるきらいを感じます。タイパによって可処分時間が増えたとするならば、稼いだ時間で何をして過ごしているんだろうという感じがしますね。

古市)トミヤは高級時計の販売を生業としてきました。それは、まさしく《「時」を売る》を仕事にしてきたとも言えます。正確な時刻を刻む精度の高い時計は、お尋ねの「タイパ」を手助けする道具としての機能を備えている。一方で、私たちが扱う世界の一流品と呼ばれる時計は、その美しさや所有する満足感など、言うなれば「時を忘れる」ような瞬間を与えてくれるものでもあリます。こういった時計の個性にも通じますが、私はあまり「タイパ」という言葉を好みません。それは、意味の無いせせこましさや、時間を切り売りするようなマインドを助長してしまいそうな気がするからです。折角ならハイクオリティ・オブ・ライフを感じる、豊かな時間を享受したいものです。

小嶋)「タイパ」には、インターネットやSNSの普及から派生した、そういう価値観が収斂されているようにも感じます。しかし、速く、短く、たくさんの情報が得られるようになったけれど、「その情報を得て何をするの?」にはなかなか答えられる人が少ない。無目的に大量の情報を閲覧しても、そこからはきっと何も生まれませんよ。

古市)確かに映画を早送りで観るというのも時間は作れるでしょうが、意味があるのかなと思います。役者の表情やセリフから言語化できない表現を読み取るような深い洞察力は養われないでしょう。目先の情報を得ることや、空白の時間を生むことにやりがいを感じるのは本末転倒。広く浅くザッピングすることが悪いという訳ではないですが、それだけに終始していては空虚な人生になってしまうように思います。これからは、オールラウンダーよりも一極集中型のプロの方が生き残れるんじゃないか、というのが私の意見。そのために、他のことに費やす時間を削るのは然るべきですが。

AIで加速する 「タイパ」をどうするか

ーご自身がいまの時代に高校・大学生だったとしたら、何に時間を費やしたと思われますか。

小嶋)もっと身体を鍛えていたでしょうね。やはりフィジカルがしっかりしていないと、思考も精神も働かない。あとは、AIを駆使していたと思います。AIはまだ正確性は怪しいところもあるけれども、私の時代にこんなものがあれば、もっといろんな勉強や仕事ができたのにと、いまの若い人たちが羨ましいですよ。

古市)私たちの時代にAIなんかあったら、いまの小嶋光信も私もいないよ。いろんな理不尽や矛盾を感じながら、それを自力でどうやってクリアしていくかという若い時の葛藤と過程が我々をつくっているんだから。今の若い人たちはAIとどう向き合っていくか、よく考えなきゃいけないと思う。これは、携帯電話や新幹線といった時短の進歩とは全くの別物だから。

小嶋)ただ、日本人の性質とAIの親和性は高いと思うよ。もちろん、使う側に精査する力は求められるけどね。AIもどんどんと人間の脳に近づいているけど、結局の所、入力して出た答えを鵜呑みにしないだけの知識と見識はこちらに求められるんだから。

古市)個性や人生観を養うような体験を自ら選んでいくべきでしょうね。小嶋さんが言うように身体性を伴ったものであるほど、それは後々の人生でもワークする経験値になるはずです。

小嶋)いまの若者たちには、選択肢が多い分、「選び取る力」が大事ですね。

持続可能な 我が街の在り方

ーいま、青年会議所の時代に戻ったら、どんなことに取り組まれますか。

小嶋)「挨拶するまちづくり」ですね。みんなが互いに声を掛けられるようなフレンドリーなまちづくりをすれば地域の力になります。いくら立派な建物ができても、人が挨拶もせず、互いに交流もなく、足の引っ張り合いをするような街は滅びていく。やはり住む人たちが前向きで、力を合わせて支え合うようでなければ、何も生まれはしません。「まちづくりはひとづくり」です。

古市)いま現在も取り組んでいる表町商店街の再興です。「タイパ」を重視するというような人は、きっと街に出る時間などないとネット通販で買い物をするでしょう。働き方がリモートであれば外に出ることもない。おしゃれをして街に出かけ、買い物を楽しむというような人の行動が地域の活性に繋がるわけですが、「タイパ」を求めるのであれば、街は必要無いということになる。しかし、街がなければ、プライドやアイデンティティも失われてしまいます。私はそうはしたくない。


牽制より推進 排斥でなく集積

ー理想とする岡山の在り方を阻害する一番の要因は何だと思われますか。

小嶋)人を認める素直さがないことでしょうか。岡山にはそれぞれの独立心が強いという良い面もあるのですが、相手のことを認めないことがコミュニティを作るための接着を阻害していると思います。みんなが認め合ったらどんなことでも実現できそうなポテンシャルは持っているのですが。

古市)同業者が近くに来ると、互いに切磋琢磨しながらも集積することが地域の力なのですが、岡山は逆に排斥しようとしますね。そういう意味でもチャレンジ精神に欠けている気がします。言い古されたことですが、岡山は温暖な気候、少ない自然災害、、高度な医療があり、交通の結節点でもある。豊かで恵まれているがゆえに、向上心とハングリーさが生まれづらい。

小嶋)互いを認めはしないが牽制はする。推進力よりブレーキが強い。これは岡山特有の問題ではなく、多くの地方都市に共通する課題です。

古市)いま、岡山の二つの百貨店が地域ブランド作りを推進しています。地場産の野菜や果物、手工芸品などを集め、メイド・イン・オカヤマとして力強く売り出していこうという試み。個々ではなく、オール・オカヤマでまとまって魅力を創出しようとしています。こうしたモデルケースがもっと増えてくると良いですね。

小嶋)できるところから手を取り合って、共に歩んでいこうとするコンセンサスを図る。それができる地域がこれから伸びていくと思います。


人のため、 地域のために

ーお二人がいま一番大事にされている時間はなんですか。

小嶋)二つの個人的な夢があります。一つは富士山に登ること。これは一昨年実現しました。もう一つは自分の作った船で日本を一周すること。やり残した事業の夢もあります。岡山だけでなく、全国の地域公共交通をもっと利用しやすく、持続可能なものにすること。そのためには制度改正も必要です。これは是非やり遂げたい。

古市)450年の歴史がある、この表町商店街のプレゼンスを高めること。岡山の人の生きがいを創出する、その舞台を表町にしたい。昔ながらの祭りや行事といった文化を再び興しながら、新しい商店街の在り方を考えています。若者に主体的に参加していただける情報発信も心がけていきたい。また、高級ブランドが地方から撤退しつつある現在。街の格を守るという意味でも、本業である貴金属、時計販売を通じて一流のブランドを岡山に残したいと思います。


燃えるような時間を 三方良しの精神で

ー最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。

小嶋)怠惰に好きなことをする時間が増えたとしても、人生は面白くありません。無目的に生きても虚しいだけです。目的と手段を見誤るべきではない。何かに夢中になって「燃えるような時間」を過ごしてください。

古市)無駄だと思えるような時間にも、後々になって意味がある場合があります。大切なのは己に向き合い、乗り越えようとする気概です。自分さえよければ良いではなく、「三方良し」の精神を携えて欲しい。皆さん、表町商店街にぜひお越しください。







古市 大藏
(株)トミヤコーポレーション  代表取締役 会長
1945年岡山市生まれ。世界の一流品を扱う時計・宝石などの専門店を岡山県内に12店舗展開する㈱トミヤコーポレーションの代表取締役会長。岡山商工会議所副会頭のほか様々な地域経済団体でも役職に就き、長年に渡って岡山のまちづくりに尽力し、地域を担う若手の育成や教育にも携わっている。商人の精神「三方よし(売り手・買い手・世間)」に(地球・未来)を加えた「五方よし」の精神で地域の未来を見据える。



小嶋 光信
両備グループ  代表 兼 CEO
1945年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。両備グループ代表・CEO。同グループの多くの社長・会長を務め、ひと呼んで「地方公共交通の再生請負人」。2005年、和歌山電鐵を設立し、「たま駅長」などのユニークなアイデアで再建を推進。(一財)地域公共交通総合研究所代表理事、(公財)両備文化振興財団夢二郷土美術館館長、NPO法人岡山県スケート連盟会長なども務める。座右の銘は「忠恕」。




Categories:
Tags:
BACK TO TOP