COLUMN
道_vol.30
26 November 2024
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presented by INOUE HOLDINGS CO.,LT

Where there’s a will,there’s a way
葬祭業界と地域社会の活性化に邁進し、儀礼文化の形骸化に警鐘を鳴らす井上万都里が連載する対談企画。それぞれの道を強い意志で歩み続けるゲストの言葉から、あなたの人生を切り拓く明日のヒントが見える。

“THE RITUAL CULTURE IN THIS COUNTRY IS ALWAYS VERY INTERESTING.”
「この国の儀礼文化への興味は尽きない」 ーMATSURI INOUE





傾聴と教導のバランスが人の支えとなる。

ー井上万都里 株式会社イノウエホールディングス 専務取締役

感謝は、日々の稽古で保たれる。

ー岩本信治 金光教乙島教会 教会長






ーー 神と人をつなぐ「取次」に専念

井上)浅口市金光町に立教し、165年の歴史がある金光教ですが、教えの中で大切にされているのはどんなことでしょうか。

岩本)万物を生かし育む天地のはたらきを、「天地金乃神(てんちかねのかみ)」と称えて拝んでいます。7月にお隠れになった前教主金光平輝様(五代金光様)は、神と人が共に立ち行く「神人の道」と表現されました。その中身である「世話になるすべてに礼を言う心」を大切にしているのが金光教です。

井上)幕末三大新宗教の一つで、広く信仰されているかと思うのですが、特徴について教えてください。

岩本)参拝される方の願い事や悩み、苦しみを、取次者である神職が聞いて神様にお届けし、神様の御思いを、取次者が参拝者に伝える。これが、神と人をつなぐ「取次(とりつぎ)」のはたらきです。この取次に専念するようになったのが、金光教の教祖である生神金光大神(いきがみこんこうだいじん)。ご神前に向かって右手に、「神の世界」と「人間の世界」を結ぶ「結界」を設けているのが、ぱっと見てわかる金光教の特徴でもあります。教会の外観や内装は教会によって千差万別ですが、それもまた金光教らしいと思います。



――苦労し改心した初代が設立


井上)乙島教会の創設は終戦間近の1942年だったそうですね。初代教会長の岩本寅雄さんが教会を創設されるまでは並々ならぬご苦労もあったようですが、これまでの成り立ちをお話いただけますでしょうか。

岩本)私の祖父、初代・岩本寅雄は、父親が九州でも有名な事業家 でしたが、莫大な借金を背負い、一家離散してしまいました。苦労した祖父は、妹の誘いで金光教に参拝。そのとき結界におられた先生は、「借金の恨みをお届けされましたが、親はみんな子供がかわいいもの。子に借金を残そうと思って残したんじゃない」と仰いました。そこで親の気持ちに気づき信心に目覚め、天王寺教会(大阪)で教師として修行し、病気の静養で過ごした乙島の当地が図らずも教会になっていきました。101歳の長寿を全うし、2003年に他界。父の徳雄が二代目を受け継いだのち、2022年に私が教会長を拝命いたしました。

井上)岩本教会長は、会社員から神職に入られたというご経歴ですが、その経緯とは。

岩本)私は乙島教会に長男として生まれ、いずれは教会に戻ることを祖父と約束し、一般企業に入社しました。人の役に立ちたい一心で仕事に邁進していましたが、二代目である父から「初代の霊様が帰るように言っている」と連絡があり、悩みながらも後継の道を選びました。そこで2010年より金光教学院での1年の修行を経て、こちらで取次者(とりつぎしゃ)としてご用に立たせていただいております。


ーーWEB悩み相談が活況に


井上)教会長に就任されてから、様々な取り組みをなさっています。特にWEBで悩み相談を受けるのは、現代的なあり方だと思います。開設の経緯を教えていただけますか。

岩本)世の中の難儀が教会を素通りしている現状をどうにかしたい思いがありました。毎日忙しくされている方、誰にも相談できない悩みを抱えている方が、手軽に参拝できるようになればという願いから、ホームページ「こころの宮」を開設しました。サイトを開いたことで、毎日のように相談が寄せられるようになり、多くの悩み相談を受けています。



ーー「聞いてほしい」に寄り添う


井上)人の悩みに寄り添うというのは大変なことですよね。しかし、その取り組みは多くの方の救いになっているかと思うのですが、教会長自身がその活動の中で感じられたことは?

岩本)ある時、私が教導に力を入れすぎて、相談者を傷つけてしまうという出来事がありまして。そのことがあってから悩みましたが、心のケアを提供する「臨床宗教師」を目指して東北大学で2年間受講する中で、傾聴の大切さを学びました。その後は、「認定臨床宗教師」として岡山市の病院の緩和ケア病棟で傾聴のボランティアをしたり、西日本豪雨被災地の真備町で被災された方へ訪問活動をしている団体のメンバーに傾聴の助言をしたりと、「教える」だけではない活動に取り組んでいます。2022年から、養育里親として2人の子どもたちと一緒に生活もしています。「こころの宮」は今年で10年が経つのですが、これまでに約400人の方とやりとりをさせていただき、ユーザー数は1万人を超えるまでに増えています。

井上)宗教家の方々が能動的に社会と関わる活動というのは、これからもますます必要になってきますよね。岩本さんは多くのご相談を受けていらっしゃると思いますが、どのような内容があるのでしょうか。

岩本)恋愛、金銭に関わること、病気、人間関係に関わる相談が多いですね。この10年の活動で分かったことは、圧倒的に「聞いてほしい」「認めてほしい」「理解してほしい」というのが、人々の抱えておられる願いなのだなと。なかには、親からの虐待を受けている方、生きづらさを抱えて頻繁に自殺を図っている方、親子関係に不安を抱えている方もおられました。そこに見られるのは、親子関係が希薄になり、神仏との繋がりが失われつつあるという時代背景です。現代の社会は便利で快適に暮らすことができ、家族や親族などの煩わしさが減った半面、親子の関係や先祖・神仏との繋がりといった「支え」を失っているのではないかと感じます。それゆえ、少しの問題でも揺らぎやすく、現実や目の前のことで精一杯。長い目、生死を超えた感覚というものを持ちづらくなっているようです。




ーー人生は「ここから」始まる


井上)「ここから広場」という場も開設されていますが、そちらでの取り組みについて教えていただけますか。

岩本)旧会堂を改装して作った、予約制の貸し切りスペースです。「ここから始まった」という歴史と、「ここから始まる」という人々の願いを重ねて命名。1⼈でじっくり考えを深めたり、複数人で1つのテーマについて思いを分かち合うこともできます。現代の世の中にとって、このような無色透明の場所に行くのが励みなのだという声をいただきます。逃げる場所があるということがとても重要だということに、これまでの取り組みから気づかされました。今後、この場所が、孤立した高齢者の居場所や、子供たちが集まる場、子育て中の親の憩いの場など、地域の実情に応じたコミュニティになっていけばありがたいなと思っています。そして、悲嘆や喪失感を語り合えるグリーフケアや、「生と死」を語り合うデスカフェの場も探っています。





――傾聴から共感、支えへ


井上)なるほど。そのような場は必要ですね。「コミュニケーションって何ですか」と言われると、なんとなく喋ることであるとか、その距離感とか、皆さん考えがちですが、僕もとにかく聞くことだと思っています。社内でも、やはり傾聴力が高いスタッフは成長が早いですね。傾聴というとインプットという側面もあるわけで、インプットができないとおそらく人へ教えるということもできないと思うのです。そういう意味でもやはり傾聴力というのはすごく大事ですね。

岩本)全く同感です。傾聴を続けていると共感が生まれて、その方の歩んできた物語を語っていただける、さらに私との間につながりが生まれ、おこがましいですがその方にとっての支えになれるならありがたいと思っております。つまり、まず傾聴をさせていただいて、繋がりができて、支えになり、教導を行っていくという二段構えが大事だなと思うのです。



ーーお世話になるすべてに感謝


井上)教導の前に傾聴があるという考え方こそ、神道ですね。

岩本)はい。金光教の教えのとおりに、「世話になるすべてに礼を言う心」を大切にしています。家族のつながり、過去の自分、今の自分、未来の自分、それから環境や出来事、宇宙や思想。そして神、先祖というつながりに、「ありがとうございます」とお礼をしています。現代は、神仏や先祖から離れた生活が続き、支えを失っている状態なので心が揺らぎやすいと申しましたが、そこで私たちが傾聴を重ねて支えになっていければ、「世話になるすべてに礼を言う心」が回復していく。すなわち、「神人の道」を歩んでいける。そういう意味で、支えとなる「取次」が求められているのだと気づきました。

井上)人間は、何か制限をされると感謝の気持ちが芽生えるような気がするのですが、教会長は普段から「ありがとう」という感謝の気持ちをどういう形で保ち続けられているのでしょうか。

岩本)私の祖父も父も病気や仕事上の苦労をしてきましたが、まさに制限された中で改心していくという道理はあるかもしれません。私も会社員時代の苦しい体験をしたときにはすがる思いで「ありがとう」と言っていました。教主様は、いつも「金光様ありがとうございます」と仰います。祖父は生前「ありがとう」と1日1300回言うよう稽古をしていました。私自身も、朝目覚めたら「命をいただいてありがとうございます」、雨が降っても「ありがとうございます」と、ありがとうを励行しています。


――教導と傾聴のバランス


岩本)教えようとばかりしていた自分自身の反省から「余白」を持つようになりました。とにかくお話を聞くことにしたんですね。そうすると、見事に願いが叶うという事例がたくさん生まれました。ちゃんと余白に神様が現れてくださるのですね。私達の計らいとか価値観とか信仰、教義を超えたところに神様が現れてくださるということを、自分なりに整理しています。

井上)私は、今は伝える時代だと思っています。コミュニティがしっかりしていて、人のつながりがきっちりできているときは放っておいても伝わりますが、こういう場所というのは大切ですね。「伝える人」とはどういう人かというと、心が豊かな人。自分が幸せだと思っていないのに人を幸せにするとか、布教活動などはできないじゃないですか。私たちが行っている葬儀も、人の接点をつなげる仕事です。ただ顔合わせの場ではなく人とのつながりであるとか、人の命の大切さなどを伝える場だと考えています。我々の仕事も宗教家の方々の活動も、人間関係が希薄になっている世の中だからこそすごく重要なポジションになると思うのです。




――支えとなれる宗教に


井上)岡山の読者の皆さんに、今の時代に向けての金光教の教えやお言葉をいただければ。

岩本)「氏子あっての神、神あっての氏子」と仰せになる天地金乃神様の思いというものが、金光教の教えの根本にあります。しかしながら、氏子の方が神様や仏様の思いから離れてしまっているという現状があります。そのために支えを求め、支えが必要な世の中になっているなということを、今実感しているところです。皆さんの苦しみをともに負えるコミュニティ作りに、この宗教施設が少しでもお役に立てたらありがたいなと思っております。一方で「しっかり布教してほしい」という声もお受けしていますので、これからは教導や布教も進めていきたいですね。先日も、ある方が「この広前にいると、神様が遠くではなく近くにいるような、なんとも言えない感じがします。受け止めて支えてくれる場があることを布教してほしい」と言われました。そういう「支え」となれる場所が宗教施設なのだと伝えることも今後は大切だと思っております。







井上 万都里
株式会社イノウエホールディングス 専務取締役

儀礼文化研究所の創設など文化伝承にも貢献する葬儀社、株式会社いのうえ専務取締役。オカヤマアワード副会長、葬儀社による全国大会ネクストワールド・サミットの実行副委員長も務めた。



岩本信治

金光教乙島教会 教会長

広島大学卒業。株式会社パソナに勤務後、2011年に岡山に帰郷。2018年より東北大学で学び「認定臨床宗教師」として緩和ケアや被災地支援活動を開始。2022年に、金光教乙島教会教会長に就任。



LOCATION
金光教 乙島教会

金光教の倉敷市乙島にある教会。昭和17年に初代・岩本寅雄によって創設された。毎日参拝者の願い事や悩みなどを神に取り次いでいる。そのほか地域や被災地の復興支援活動などを行う。2004年よりWEBサイト「こころの宮」で悩み相談や祈願を受け付けている。

倉敷市玉島乙島1299-2
電話:086-451-6167
https://nayamisoudan-kurashiki.com/

金光教 本部

浅口市金光町大谷320
電話:0865-42-3111(代表)
https://www.konkokyo.jp/


株式会社イノウエホールディングス
大正2年に井上葬具店から始まった株式会社いのうえは2013年に創業100年を迎えた。都市化を見据えた新たな葬儀スタイルの提案など伝統と革新を見極めながら成長する全国屈指の葬儀社。
倉敷市二日市511-1
Tel.086-420-1000
http://inoue-gr.jp/




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