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特集:WAY TO INVEST TIME_vol.04
14 November 2024
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台風が過ぎ去ったばかりの9月、日曜日。県立岡山南高校の空は、清々しいほどに蒼く晴れ渡っていた。 校門から、ひとり、ふたり…次々と登校してくるのは、今回の特別授業を希望してくれた生徒の皆さん。 私たちが企画した「時間」をテーマにした特別授業は、高校生たちにとってどんな時間になるだろうか。




岡山南高校 新聞部 × プラグマガジン
【特別授業】

4時限目
#4.Lecturer

YASUHARU ISHIKAWA
石川 康晴
イシカワホールディングス株式会社
代表取締役社長・CEO

いしかわやすはる○
イシカワホールディングス株式会社 代表取締役社長・CEO
石川文化振興財団 理事長

岡山県岡山市生まれ。岡山県立岡山南高校商業科出身。岡山大学経済学部卒業、京都大学大学院 経営管理教育部修了。株式会社ストライプインターナショナル創業者。株式会社Merciや
株式会社 Waistline Groupなど小規模ビジネスから地域・社会の課題解決に取り組む。
岡山芸術交流総合プロ デューサーのほか、オカヤマアワードや瀬戸内デザイン会議の発起人を務め、文化振興に深く携わる。著 書に『アース ミュージック&エコロジーの経営学』
『学びなおす力 – 新時代を勝ち抜く「理論とアート」』他。


HP. http://www.ishikawaholdings.com/
FACEBOOK. ishikawasns
INSTAGRAM. yasuharuishikawa



20 代で事業を興し、一代でレディスアパレルの概念を一新。
さらに地元に文化芸術を根付かせた「ゼロイチ」の才能。
その感性と素養を磨いたのは受講する学生たちと同じ学舎 後輩たちへ伝える言葉は
飾りのない彼自身の本音 紆余曲折を経て、今なお挑戦を続けるナラティブが紡がれる。






同じ学び舎で育まれた素質の
クロスポイントを探れ




ポテンシャルを磨いた母校へ、再び



校門から見える白い校舎、緑の木々が連なるビオトープと校庭、そして生徒たちの高らかな笑い声が響く教室や廊下。ここは、石川康晴にとって忘れ得ぬ3年間を過ごした母校だ。これまでに岡山南高で何度か講演を行ったこともあるが、今回はかなり久しぶりの来訪となった。 「earth music&ecology」「Maison de FLEUR」など、レディースのリアル・クローズや服飾小物を中心に多くのブランドを展開し、全盛期の売上高1300億円、店舗数1000店舗(海外拠点含む)を数えた株式会社ストライプインターナショナルを一代で築き上げたアパレル界の寵児、石川康晴。2020年には同社代表を退き、2021年からイシカワホールディングス株式会社の代表取締役社長CEOに就任。現在は小売業のベンチャー企業を中心に投資と経営を行っている。 幼少の頃から服が好きで、中学生ですでに「洋服屋になる」と将来を心に決めた。商業科へ進学し、経営の基礎となる学びを岡山南高校から得た。卒業後は専門学校を経て紳士服チェーンに入社、2年半後に退職し、念願のセレクトショップ「CROSS FEMME」をスタート。この時1994年、石川は23歳。 翌年にはストライプインターナショナルの前身となるクロスカンパニーを設立。退任するまでの25年間、海外への積極的な出店攻勢と新たな事業創出を続け、その快進撃は業界を超えて世間を驚かせた。



文化・アートを地域に根付かせる


2015年には「文化、経済、教育への支援を通じて社会に高揚感を提供するとともに、未来を担う人々の教育に邁進したい」と公益財団法人石川文化振興財団を設立した。石川康晴は、世界でも有数の現代アートのコレクターとして知られた存在。当財団と岡山市との協働で3年毎に展開する「岡山芸術交流」は、国内では珍しい市街回遊型のアートプロジェクトであり、芸術鑑賞と街歩きを同時に楽しめるミニマルさでも話題を呼んでいる。この芸術祭によって、優れた芸術・文化を有しながら、本来あるべきプレゼンスを発揮できているとはいえなかった岡山が世界から注目を集めたことは間違いない。ビジネスの才覚もさることながら、岡山に「文化・アート」の機運を高めた功績は大きいと言える。建物を中心に据えた街の景観づくりも話題だ。2021年にオープンした福岡醤油ギャラリーは、明治時代に建てられた歴史的にも価値が高い建造物。かつて醤油製造蔵や銀行の窓口にも利用されていた建物をアートスペース、ギャラリーとして再生した。また、2024年には岡山県知事公舎跡地にイシカワHDの新社屋を竣工。設計を建築家・谷尻誠が手掛けた社屋の内外には、現代アート作品がパブリックに展示されている。自身について「起業家という生物」と称し、終わりない挑戦と地域振興に向き合う石川康晴。今日は、後輩たちへ何を伝えるのだろうか。



タイパとDXがビジネスを変えた

今日は「タイパ」をテーマに話をしてほしいと頼まれたので、何を話そうかなと1ヶ月くらい真剣に考えてきました。でも皆さんの方が詳しいと思うから、まず皆さんに伺ってから僕の考えを伝えたいと思います。「タイパしてる」って方はどのくらいいらっしゃいますか?(挙手はまばら) 皆さん意外とやってないんだね。じゃあどんなことをやってますか? (動画を倍速で観る)(音楽をサビだけ聴く)(教科書を開いてテレビでバラエティを流しながらスマホでゲームをする)、なるほど。 僕は昭和世代ですが、ITやSNSを活用して、タイパ重視でビジネスをしているほうだと思います。例えばお店の管理。今僕のスマホで、店舗の様子がライブで見えるようになっています。僕は岡山に住んでいるので、東京まで行こうとすると新幹線で3時間以上。以前は店舗管理のために日本全国、海外まで全店舗を回るとなると何年もかかっていました。今は一瞬で到達でき、従業員の皆さんの勤務状況や、商品の陳列を確認することができます。こうした技術を採用することをデジタルトランスフォーメーション(DX)といいますが、DXを活用して効率を高め、空いた時間で、商品開発やマーケティング、販売戦略といったところを深く究めようとしています。また、いまの時代、就労環境を向上したいと親身にコミュニケーションを図っているつもりが、相手にはよく思われないこともある。従業員と経営者の距離感でさえ、DXへ置き換えることも必要です。僕にとって、DXを含めるタイパという概念はビジネスの枠組みだけでなくコミュニケーションの在り方を大きく変えました。 しかし、便利でいいことばかりの「タイパ」ですが、万能ではありません。それは、自分が好きなことや必要だと思うことに関しては、時間と手間を惜しむべきではない、ということ。長時間かけて遠い場所へ行く、対面で人に会う、現地調査をするといった非効率そうな時間が重要なことも当然ある。好きなこと、興味のあることに対しての時間と、そうでもないことへの時間のかけ方を徹底的に分けています。

「無駄なことは無駄」を肌身で知った高校時代

高校時代の目標は経営を学ぶ・アパレルを学ぶ・お金を貯めるという3つのみ。商業簿記と経営法規だけ真剣にやって、他の勉強はほとんどやりませんでした。一番時間を費やしたのは開業資金を貯めるためのアルバイト。本当は禁止されてたんだけどね。焼肉屋やハンバーガーショップ、他にもレストランでの皿洗い、弁当屋、コンビニエンスストアなど、いろんな業種で働きました。確かに少しだけお金は貯まったけど、タイパ的にはかなり悪かったなあ。高校時代に戻れるとしたら、小さなビジネスでも構わないので起業しますね。学校が終わった後の4時間、少ない時給と重労働に費やした時間を経営に使っていたら、もう少し違っていたかも知れません。職業に貴賤の上下は無いし、どんな仕事も尊いとは思うけど、同じだけの時給を稼ぐのなら、方法はいくらでもあったなと今になって思います。それに、焼肉屋でのニンニクの皮むきの経験は、今の自分にとって何の役にも立っていない。どんなことも経験値として活かされるといった言説もあるけど、その人によって無駄なことは無駄でしかないという冷静な見方も必要だという気がします。当時は将来やりたいことをやるためだと割り切っていたけど、やっぱり学校もバイトも面白くはなかったかな(笑)。でも、やっと思い焦がれていた起業ができたからといって、本当に好きなことができるようになったわけでもありません。23歳で起業したばかりのときは、自分が着たいものを売りたかったから最初はメンズショップをオープンしました。でも、メンズ商品はまったく売れずに、端に置いていたレディース商品の方が売れていくんですよ。この時、「自分が好きなものが必ずしもビジネスになるわけではない」ということに気づいたんです。岡山南高の生徒にはオシャレな女子が多かったので、レディース服を選ぶ感性と分析力の土台は、もしかすると母校のおかげかも知れませんね。本当はメンズアパレルで成功していたらもっと幸せだったのかもしれない。でも、「大好きな服に関われている」ことを思えば、半分だけは夢が叶ったと言えるかもしれないですね。皆さんは、大人から「探究心を持ちなさい」とか「一つのことを深く掘り下げる力を持ちなさい」なんてことも言われると思うんですけど、正直困っちゃうよね。好きなことじゃないと知りたいと思わないし、掘り下げようとも思えない。そもそも好きなことがまだ見つかっていないし、よくわからないっていう人も多いと思います。でも自分の気持ちに少しでも引っかかってくるものがあれば、それに向き合ってみてほしい。自分のパーソナルに完全に一致する必要はないんです。




「社会課題を解決したい」
起業家としての宿命

本当に自分の実力か?
答えを得るための再挑戦

25年かけて、創業社長として会社を大きくしました。最初のお店は僅か4坪。本当に手作りで、レジは中古で3000円、カウンターは粗大ゴミから拾ってきて、ハンガーは100均のものを使っていました。開店資金は40万円ほどだったかな。本当にお金の無いところからの船出でした。それが売上高1400億くらいになったのだから、世間から見ればまあまあな成功なのだろうけど、僕自身はプライドや誇らしさをまったく感じていなくて、逆に自分自身を疑っているんです。「お前の能力でできた事業、大きくなった会社だったのか?」と。僕を支えてくれた周囲の方たちがとても優秀だったから、その上に乗っかっていただけの飾りものの経営者だったのではないか、という疑念。ストライプインターナショナルで築いた実績が、自分の能力の成果なのかどうか、自分ではわからないんですよ。だから、もう一度いろんな事業や会社を興して、自分が納得できるビジネスができたら、「プロの経営者だ」と自分で自分を認められると思うんです。つまり、今イシカワHDでやっているのは自分自身への挑戦。本当に自分がプロの経営者なのかを試しているんです。石川が考え、生み出したブランディングやマーケティング、ファイナンスがビジネス戦略として組み合わさり、それがしっかりと利益につながるのかどうか。自分の立ち上げたビジネスモデルが、アパレル以外の別の事業でも通用するのかどうかが知りたい。これは、好奇心や興味といった類ではなく、起業家としての宿命のようなものだと思います。多少の財産を築くことはできたかも知れないけど、正直お金には興味がない。社会の課題を見つけて、起業家という職業を通してソリューション、課題解決していくのが僕の軸というか、大切にしたい価値なんです。イシカワHDの事業は、すべてが社会課題を解決するために立ち上げたものばかりです。女性のためのフィットネス事業「ウエストラインフィットネス」は、僕の祖母が10年寝たきりになっていたことがきっかけでした。ご高齢の方も利用しやすい施設運営とプログラムで健康寿命の延伸を目指しています。一本2000円の高級ボトリングティーを生産、販売する「茶下山」の事業は、生産者の方の収入が少ないことを知ったことから始めました。日本ではお茶が当たり前のように無料で提供されていて、新たな価値を創っていかなければ日本茶の文化、岡山のお茶産業が危ぶまれると思ったことがきっかけです。それから、新見市哲多町で生産している「tetta」のワイン。皆さんはまだお酒が飲めませんが、岡山県北部の新見地方は、その類まれな土壌から、実は日本一のワイナリーになれるポテンシャルを秘めているんです。この可能性を展げなくてはならないと思いました。現在、どちらもミシュランの星を獲得する高級割烹やレストランでもご提供いただいています。パン屋さんの「メルシーライフオーガニックス」についても、健康志向の方が安心して美味しく食べられる、そんなパンを提供したいと思ったからなんです。歩けば歩くほど、現状を知れば知るほど、社会課題が見つかり、それらを解決するためのアイデアを考えてしまう。そして、そのための会社をつくる。僕自身がそういう生き物になっちゃっているので、多分僕は死ぬまで何か課題を見つけて、課題を解決するための会社をつくり続けるんだと思っています。

新しい「日本一」を探し、「得意」で生きていく

社会課題を解決して次に何がしたいかというと、どうせなら日本一になりたいかな。僕は、まだ日本一がパッと思い付かないような業種に積極的かも知れません。パン屋さんもそうです。「メルシーライフオーガニクス」は1店舗から始まって今10店舗になりました。10店舗が100店舗になり、100店舗が1000店舗になるまでの道筋は既に描けています。なぜその未来を描けるのかというと、1300店舗まで出店した経験があるから。全国で一番のパン屋さん発祥の地が岡山、というのは皆さんにとっても明るい話題になるはず。僕は、自分で「できること」と「できないこと」をハッキリ理解しています。ITやテック系に関しての全体像を把握していても、僕自身がプログラミングをできるわけでもない。そうした「できないこと」への理解は大切ですが、自分でしようとはせず、信頼できる人に任せます。その代わり、新しい商品価値をつくり出すブランディングと、そのブランドを大きく展開していくマーケティング戦略の立案、それらを支えるマニュアルづくりや、オペレーションの構築といった自分が得意だと自負できることに集中すること。僕のブランディング、マーケティング、オペレーションを組み合わせれば、業種は関係なく一定の成果を出せるはずだと信じています。このように、僕は得意な事で生きていくって決めています。苦手なことをどんなに頑張ってもパフォーマンスは良くならないから。皆さんも絶対得意なことがあると思うので、自分の得意を活かすために時間を使ってほしいなと思います。

自分を成長させるために時間をどう使うか

皆さんが仕事や事業で結果を求めたり、成功を目指すのであれば、やっぱりヒントは「現場」にあると思います。どれだけ偉くなっても、机に座って数字だけ見て、指示を出すだけではいけないんじゃないかな。古臭い昭和の言い分かもしれないけど、こういう時代だからこそ、汗をかく人・行動する人・現場に入る人になってほしいなと思います。それから、タイパで空いた時間でやってもらいたいことがあります。今はピンとこないかもしれなけど、10年後くらいに「そうかこのことか」と思い出してもらえたらと思うことを最後にお話しますね。一つは《nature》。皆さんにはもっと自然に触れてほしいと思っています。便利な街の中だけではなくて、山や森、川や海、自然の中に身を置くことで、人間本来の察知能力が養われます。「何かが起こりそう」と察知する能力は、組織やプロジェクトのリーダーになったとき、「この商売は悪くなりそうだ」とか「良くなりそうだ」といった動物的感覚として咄嗟の判断に役立つ特殊能力になる。嫌なことやメンタルが弱ってしまった時にも自然を感じることはとても有効な対処法だと思います。岡山には身近に大自然がありますからね。もう一つは「出会い」。たとえ億劫でも、勇気を振り絞っていろんな人と会うことです。僕の経験では、正直9割の出会いは無駄。でも、残り1割の中に人生が変わる出会いが必ずあります。嫌だな、つまらなそうだなと思う人でも、話してみると感動する言葉やエピソードに遭遇することがある。それが、「自分が変わる瞬間」の訪れとなることもあるんです。いろんな人と出会い、タイパで余った時間を活かして、ぜひ自分を成長させてください。




可処分時間の使い方は、
「自然に触れる」「人に会う」こと





STUDENT IMPRESSIONS

生徒の感想文







TO THE NEXT LECTURER…..

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