COLUMN
古市大蔵の岡山表町慕情_vol.12
09 November 2023
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岡山のまちづくり・ひとづくりの立役者であり世話人、古市氏による表町を舞台にした考察コラム
Photo: Masaki Saito(O.C photo studio) text: PLUG


古市 大藏
(株)トミヤコーポレーション  代表取締役 会長
1945年岡山市生まれ。世界の一流品を扱う時計・宝石などの専門店を岡山県内に12店舗展開する㈱トミヤコーポレーションの代表取締役会長。岡山商工会議所副会頭のほか様々な地域経済団体でも役職に就き、長年に渡って岡山のまちづくりに尽力し、地域を担う若手の育成や教育にも携わっている。商人の精神「三方よし(売り手・買い手・世間)」に(地球・未来)を加えた「五方よし」の精神で地域の未来を見据える。


ーーデジタルはアナログにすべて置き変わるのか

これからの世の中、どの分野でもデジタル化に置き換えられないことは消滅するのではないかと危惧するほど、進化のスピードは速まっています。既にGAFAをはじめ国内大企業も、デジタルのプラットフォームを持つ企業はどんどん事業を拡大しています。しかし私たち小売業としては、やはりお客様にマインドを伝えるには、アナログ的な手法やアプローチが切り離せないものだと考えています。機械で処理した方が合理的な側面もあります。例えば顧客管理データや業務効率化のシステムなどはデジタル化したほうが良いでしょう。それでもAIですら、過去のデータを基にしているわけですから、時流や人の感情を測り商品を提供するということに関しては、感性の鋭いアナログ人間の方が優れているのではないかと思うのです。日中の最高気温が30度のときアイスクリームを売っていても、37度になったらかき氷を売った方が良いと商売人なら判断しますね(笑)。顧客への提案にしても、データに基づいた理詰めだけでは、人の琴線に触れることは難しいのではないでしょうか。


ーーアナログとして残すべき6つのテーマ

デジタル化がいかに進もうとも、やはり「心」のベースはアナログだと考えます。トミヤでは今、大切にしたい6つのキーワードを掲げています。1つ目は「ラグジュアリー」。心を豊かにしてくれる逸品です。2つ目は「ファッションジュエリー」。表町にはファッションの要素も必要ですね。3つ目は「ライフスタイル」。トミヤで扱っている商品でいえば、「バング&オルフセン」や「ライカ」といった、アナログの技術で培われた、暮らしの中にあるこだわりの逸品です。そして4つ目は「ヘルスケア」。ヘルスケアサービスは、今やデジタル技術が大いに活用されていますが、個人の達成感など感覚的なものも重視されます。5つ目は、表町で推進していきたい「カルチャー」。表町の文化を表現するには、アナログがふさわしいと考えています。6つ目は、「サイトシーイング」。おもてなしは、表町の大きな課題。今やロボットもサービスをする時代ですが、やはり岡山のおもてなしは、細やかな人の心遣いが伝わるアナログの良さを活かしたいと、私は思っています。この6つは、すべて人間技でないと良さが伝わらないものばかりです。これまでもお話してきましたが、私は表町から発信していくべきは「文化」と「アート」だと思っています。それに加えて、「観光」という要素も必要。装置や仕組みはデジタル化しても、心のベースにはアナログがあるべきだと考えます。例えば旅館。ビジネスホテルなら、ロボットが応対して、チェックインもキャッシュレスで、と限りなくデジタルなサービスで事足りるかもしれません。けれど、心が満たされるような豊かな時間を過ごすなら、やはり旅館のようなおもてなしが求められます。商店街もまた、アナログ的な、人間らしい温かみを残した場所として再生していきたい。ハートのある年配者たちが、「人間のもてなしとはこういうものだ」と若い人たちに示していけるような場所でありたいものです。

ーーキーワードは「ハートにタッチする」

デジタルとアナログで言えば、時計においても感じるところがあります。アップルウォッチ以降、いろんなメーカーがスマートウォッチを発売してきました。精度やヘルスケアなど機能でいえば、スマートウォッチの方が利便性は高いのかもしれません。ですが、高級時計への憧れや、それを愛でる文化は失われません。人間というのは、必ずしも「便利=最上」とはならないのです。人間関係がデジタルに置き換わることはないように、人の心を打つのは、やはり人間によるものではないでしょうか。そうでなければ「感動」は生まれません。何かに感動して涙を流す、これは人ならではの情緒的で素晴らしい一面。大切なのは「ハートにタッチする」こと。6つのキーワードも、すべてそれが基準なのです。そしてこれは、岡山や表町を発信するうえで大きなキーワードになるはずです。商店街に、遠方からでも足を運びたくなるような専門性や独自性をもつお店が集まれば、間違いなく表町の活性化につながります。デジタル化の波で、コンビニエンスストアなどは、ますますデジタル化、無人化が進むでしょう。一方ではそういった合理化も必要です。機械やデジタルに変えられるものはどんどん移行すればいい。しかし、まちづくりや商店街の振興にはアナログの要素が必要なのです。地域の歴史を伝承し、つないでいくのも、また「人の成せる技」。心に安らぎや憩いを与え、そこにいけば情報や交流が得られるような、そんな場所が私は必要だと思っています。アナログな人間くささや温かさと、デジタルの便利さを融合した、「ハートにタッチ」できる商店街の未来を、表町に託したいですね。




私にとって時計はお守り。妻がプレゼントしてくれたもの、息子から節目に贈られたものなど一つひとつに思い出があり、愛おしいものです。カジュアルアパレルなどで必要にかられて買ったものは忘れ去られてしまうが、思い入れがあるものは人生の傍らにずっと残ります。



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