COLUMN
古市大蔵の岡山表町慕情_vol.11
07 June 2023
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岡山のまちづくり・ひとづくりの立役者であり世話人、古市氏による表町を舞台にした考察コラム
Photo: Masaki Saito(O.C photo studio) text: PLUG


古市 大藏
(株)トミヤコーポレーション  代表取締役 会長
1945年岡山市生まれ。世界の一流品を扱う時計・宝石などの専門店を岡山県内に12店舗展開する㈱トミヤコーポレーションの代表取締役会長。岡山商工会議所副会頭のほか様々な地域経済団体でも役職に就き、長年に渡って岡山のまちづくりに尽力し、地域を担う若手の育成や教育にも携わっている。商人の精神「三方よし(売り手・買い手・世間)」に(地球・未来)を加えた「五方よし」の精神で地域の未来を見据える。


ーー「はれの国おかやま」の《ハレの町》

表町へ林原美術館には、昔の岡山の人々の装束が展示されています。現代の感覚で見ても、それらは驚くほど洒落ており、かつての岡山にはれっきとした「ハレ」の装いがあったことがわかります。ところが今は『普段着』だけの岡山になってしまいました。どこもかしこも同じ雰囲気で、“ハレ”と“ケ”が混在しています。表町が今後再生を目指すためには、特別な日に、特別な人と訪れる《ハレの場所》として再構築すべきだと考えています。「はれの国おかやま」の「ハレの町」、表町。ここを訪れれば日本の流行が見つかる、そんな町を目指したいのです。宇喜多家、小早川家、池田家が脈々と守り続けてきた岡山の格式というものを改めて考えれば、装いの啓蒙にとどまらず、むしろ岡山ブランドを全国に発信することで、人を呼び込む方に舵をきるべきではないかと。例えばシルク・ド・ソレイユのような舞台演出や芸術、イリュージョンのようなイメージ。きらびやかでユニークな公演を表町で開催し、食やファッション、歴史ある佇まいをゆっくりと楽しんでいただく。さらに文化的な体験もできる、といった企画をAgedorで計画しています。全国から多くの人が訪れ、格式ある岡山の装いと佇まいに触れ、魅力を体感していただるような舞台をつくっていきたいと思います。


ーー郷土にこだわり、《光》を見出す郷土に

「こだわる」ということは、「守る」という意識にもつながります。岡山の本質的な魅力の一つは、いわばホスピタリティ。まず本州・四国へ直結する鉄道やバス、飛行機、船など交通の結節点であることは、岡山の大きな強みです。そして由緒ある歴史。晴れの日が多い気候や食の恵みの宝庫であるなど、誇れる点がたくさんあります。岡山の真髄というのは表面をなぞっただけではなかなか伝わりません。最近、アジアの富裕層が長期滞在しているといわれる北海道ニセコのように、岡山もゆっくり滞在していただくことで内面的な魅力をもっと知ってもらうことができるのではないか。例えば、高度な医療が提供できるというメリットを生かして保養地として滞在してもらう方法もありますよね。他府県にはない岡山ならではの魅力を発信し未来へと「守って」いくためにも、若い人には郷土に向き合い、こだわってほしいのです。私は常々、岡山すなわち表町のキーワードは「文化」と「アート」だと考えていますが、それに加えて「観光」という要素が必要になってきます。銀座にはなぜあれほどのブランド力があるかというと、世界から多くの人が集まるだけの価値があるから。とはいえ、人が集まりさえすればいいというのではありません。一時的なブームのようなもので人を呼び込んでも、それは一過性のもの。岡山の魅力を正当に評価すれば、世界に誇れる価値があり、それは未来にもつながります。トミヤは世界の一流ブランドの時計を扱っており、現在は全国有数の品ぞろえで九州や名古屋からもお客様が来店します。かつての表町がそうだったように、「岡山で一番」「西日本で一番」という店が集まれば、全国に発信することができる。「観光」というのは、地域の<光>を観に人が来るということ。その<光>を正しく磨き、発信することが大切ですね。

ーー歴史を知り、戻ってきたくなる岡山に

Agedorでは3・4階のフロアで、岡山県立大学や中国学園大学、中国短期大学と連携し、学生の人材育成に取り組んでいます。学生の皆さんと接して感じるのは、女性の主体性がより高まってきて、優秀な人材は県外へ流出するケースが増えていること。「女性は家を守らなければいけない」といった古い考え方から解放されていることを実感しますね。その反面、男性が自立した女性を必死に追っているような弱さすら感じます。一方で、「都会ではやっていけない」と自分の限界を決めつけている人もいます。そういう人には「広い世界を見てみよう、頑張れ」と元気づけるんですが、元気になると県外に出て戻らなくなってしまう。それは岡山にとってはマイナスになるわけなので、ジレンマもありますね。しかし、人材の流出を避けるために学生を最初から引き留めるという方法よりは、まず岡山を好きになってもらうことが先決ではないか、と改めて思っています。若い時は東京や海外に羽ばたき、思う存分に世界を見てほしい。そして年齢を重ねた後、懐かしんで戻ってきたくなるような岡山であるべきだと。そのためには、やはり岡山の歴史や成り立ちを知ってもらうことが大切だと感じます。岡山が辿ってきた道のりを深く知ることで、「ああそうか、岡山はこうだったんだ」と、思い返してくれる時が来ることを願いたい。そう思える岡山にすることが、地域に根差した我々のような企業や人間の役割だと思っています。




いまから30数年前、地元経済団体の要職に就いた記念にと妻が贈ってくれたパティック・フィリップの腕時計。大切な商談や人前で話す時など、特別な「晴れの場」で着用。今号の「装いの力」を語る上で、時計は人の気持ちも繋ぐ実用品であり、欠かせない装飾品です。


貴金属を扱うショップにギャラリーや学生サロンを併設した複合店舗。ギャラリースペースで地元アーティストや作家の作品の展示販売を企画するほか、暮らしにまつわるインテリア商材や工芸品なども販売予定。3・4階は学生たちの情報発信拠点として運営している。

Agedor
岡山市北区表町2-1-44
☎ 086-225-1038
11:00~19:30 
定休日:火曜日

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