COLUMN
道_vol.27
31 May 2023
#TAGS
  • #COLUM

presented by INOUE HOLDINGS CO.,LT

Where there’s a will,there’s a way
葬祭業界と地域社会の活性化に邁進し、儀礼文化の形骸化に警鐘を鳴らす井上万都里が連載する対談企画。それぞれの道を強い意志で歩み続けるゲストの言葉から、あなたの人生を切り拓く明日のヒントが見える。

“THE RITUAL CULTURE IN THIS COUNTRY IS ALWAYS VERY INTERESTING.”
「この国の儀礼文化への興味は尽きない」 ーMATSURI INOUE


水平分業化で強みの《人間力》に特化し、グループシナジーを創出。

ー井上万都里 株式会社イノウエホールディングス 専務取締役

失われつつある伝統、慣習を緩やかに押し留めるのも我々の使命。

ー井上雄人 株式会社イノウエホールディングス 常務取締役


挑戦の連続で業界を牽引《人間力》追求で次世代へ

――2023年1月に創立110周年を迎えられました。次代を担う経営陣として御所見を教えてください。


井上万都里専務(以下専務)〉弊社で制作した記念誌「温故知新」の編纂にも携わり、大正時代から昭和、平成、そして令和、自分が生まれるずっと以前から連綿と続いてきた歴史を改めて振り返る契機となりました。歴史の重みを実感します。私たちの父親でもある現社長井上峰一が3代目社長であるわけですが、当社は事業継承のたびに改革を断行してきました。110年続く老舗企業となりえたのは変化を恐れない挑戦の連続の成果であると思います。この先さらに150年200年と時代を乗り越えていけるよう、私たちも新しいチャレンジを続けなければなりません。一昨年ホールディングス化に踏み切り、新たな企業形態としての一歩を踏み出したところですが、やみくもに変革に捕われてはいけません。受け継ぐべき伝統や価値観を保守、踏襲していくのも我々の使命です。「伝統と革新のバランス」を兄弟で見極めながら舵をきっていきたいと考えています。


井上雄人常務(以下常務)〉私も、歴史という重いバトンを受け取る責任を改めて強く感じています。我々が注意しなくてはならないのは変化のスピード。ほんの20〜30年で葬祭業界も大きく様変わりしましたが、今回のコロナ禍によってさらに加速度が増し、日に日に目まぐるしく価値も文化も移り変わっています。ビジネスとしてだけ考えると安定した成長が難しい時代になってはいますが、私たちはただ自分たちの会社のことだけを考えていればいいという立場ではないと自負しています。岡山の葬祭業界をリードする企業であるという矜持と誇りを持ち、視野と裾野を同時に見通す力を発揮していかなければなりません。


――110年の歴史の中でも、特に大きな転換点となった出来事は?


専務〉自宅葬がまだ主流だった時代に、先んじてホール葬を提案したことです。現社長が「葬儀屋ではなく葬儀社となれ」と号令し、組織そのものが変化したのもその頃。私たちはまだ幼く、企業規模もようやく社員30名になるかどうかの小さな会社でした。現在のようにスーツではなく、大人たちが作業着で幕張などの現場装飾を行っていたのをよく見ていましたね。それからまもなく、1990年6月に中四国初となる綜合葬祭式場「エヴァホール倉敷」が誕生しました。岡山に限らず、全国的にも葬儀会館が主流になるかなり前であり、当社にとってはもちろん、業界的にも大きなエポックメイキングだったと思います。


常務〉お寺や集会所、自宅での葬儀というのがまだまだ根強い時代でしたから「なぜわざわざ葬儀会館で葬儀をするのか」など、当時は各方面から多くの反発や疑問の声があったそうです。ところが30年後の現在では会館での葬儀が一般化しており、むしろ主流になっている。社会潮流とニーズを汲み取り、半歩先を取る適切なタイミングで導入できるか否かは非常に大切だという訓示的な出来事でもありますね。――企業が100年続く確率は0.03パーセントとも言われます。企業永続に大切な条件は?


専務〉私たちの事業はサービス業にあたりますが、事業継続、成長にあたって《人間力》を最も重視しています。私たちの提供するサービスとは、社員の人間力そのもの。これを地道に研鑽し続けることが、企業の存続には欠かせないと思います。ITの進化に伴って、特に都市部では葬儀や法要、墓参りの概念が大きく変わりました。昨今のコロナ禍も追い打ちをかけ、現在ではインターネットを介しての墓参りなども行われる有様です。しかし、形骸化しつつある様式とは別に、人を喪う哀しみや寂寥感といった《感情》は時代の変化に関係なく存在し得るもの。いざというとき、深いところで寄り添い、お支えするのは人間にしかできないことであると考えています。《人間力》でご遺族を支え、儀礼文化を守る。この精神が我々の変わらぬ礎です。


常務〉現社長も常々「葬祭業は人間産業である」と語っています。業界内で当社が先んじて新卒採用に着手したのも《人》が企業の基礎であるという確たる信念があればこそ。会館設備や演出もサービスの価値ではありますが、やはり《人間力》に勝るものはありません。これからも志ある人材の獲得と社員教育に取り組んでいきたいと考えています。専務)AIなどの技術革新によって、この先も新たな葬祭サービスが乱立することが予想されますが、それらに代替されないものは《人間力》に尽きます。どんなに時代が変わってもシナジーを発揮できる。それが我々イノウエホールディングスの強みです。




形骸化する儀礼文化精神性の重要性を今こそ

――葬祭業界が大きく変化する中で、御社の課題となるのは?


専務〉私たちは儀礼文化企業として人間の尊厳といった精神的要素や、伝統文化の継承と発展を尊重しなければなりません。そのため、深く考えずに「家族葬」を選択されるご遺族が増えていることに危惧を抱いています。故人の交友関係などを省みず、家族以外の方はご葬儀が終わった後にたった一枚のハガキで知ることも少なくありません。まず、あくまで主役は故人であるということ。そして、人間関係が希薄化している現代だからこそ、本来の葬儀の意味や意義をお伝えしなければならないと考えています。葬儀とは、人と人をつなぐ接点になり得るもの。大切な方の最期には、離れた場所にいても駆けつけたいと思われるでしょう。我々としては、よほどのお考えやご事情がなければ、安易に家族葬はお勧めできません。


常務〉家族葬が世間に浸透してきたのは20年くらい前ですが、当時はまだ自宅葬も多く、遺影も白黒からカラー写真になりつつある時代。現在は遺影写真の代わりに映像を使うこともありますが、当初は「宗教的に間違っている」と批判されていた方々も、口を閉ざすしかないほど一般化していますよね。家族葬はコロナ禍で急激に増加し、お葬式=家族葬といった常識になっているように感じています。遺影写真のように新しい技術で置き換えても良い部分と、ご葬儀の形式のように何となくの空気感に流されてはいけない部分がある、と考えます。2040年を境に死亡人口が減少に転じると言われていますが、今後ますます縮小化していく儀礼文化をどう守っていくかは大きな課題です。


専務〉自宅葬に変わって主流になったホール葬は、形態は変われど人の縁をつなぐという役割を失いませんでした。儀礼文化を次の時代に継承していく観点から言えば、自宅葬の良さを改めて見直す視点も必要です。

人間的成長を見据えた次世代育成を強化

――新卒採用での学生の反応、社員教育の力点を教えてください。


専務〉当社へ入社を希望される学生さんたちは、ご家族の葬儀を当社でご経験された方が多いというのが特徴だと思います。故人と遺族に寄り添う当社スタッフのホスピタリティの高さや言葉遣い、所作にふれて「こんな仕事に携わりたい」と思ったと話してくれます。これは非常に嬉しくもあり、誇らしいことですね。


常務〉誰かに感謝される仕事はほかにも沢山ありますが、涙ながらに「ありがとう」を繰り返される葬祭業のような仕事は他にないと思いますね。私自身も現場で実感していることではありますが、「やりがい」を求める学生さん、求職者の方にとっては非常に魅力的な仕事だと思います。


専務〉当社では、現在ではあまり登場する機会の少ない幕張を新入社員研修で必ず経験する他、葬祭ディレクターの資格試験にも含めています。また、使用する幕は昔ながらの仕様のものを採用しており、簡略化された既製品に比べて設営までの時間と技術は何倍も要します。わざわざ非効率なことにこんなにも時間と労力を割いているのは、おそらく業界でも当社くらいではないでしょうか。幕張はあくまで一例ですが、我々は儀礼文化企業として、技術や文化の継承にも責任を持って取り組んでいます。


常務)若い新入社員にはとても新鮮な経験でもあり、日本の文化を学ぶ機会にもなっているようです。企業として、もちろん効率化を図る努力も大切だと思いますが、対極ともいえるこうした取り組みが、会社の軸となる精神を育んでいることも実感しています。


水平分業で強みを活かす多様化する社会に対応

――今後ホールディングスとしてどのような事業展開をお考えですか。


専務〉これまで培ってきた社員の高い《人間力》を活かせる業態に挑戦していきたいと考えています。新たに創立したグループ会社である「ライフトランス」では、既にフィットネス施設の運営を始めていますが、葬祭業のホスピタリティを取り入れることによって他社との差別化が図れ、業績も好調です。当ホールディングスの《人間力》は他業種にも転用できることが実証できました。これまでは葬祭業周辺の生花や仏壇仏具、お墓など、ワンストップ提供をグループで事業展開してきました。しかし、今後は葬儀以外の業態はアウトソーシングの方向に転換していきたい。いわゆる「水平分業」に着手します。「垂直統合型」サービスでは、全てを思い通りのレベルに到達させるのは困難でしたが「水平分業」であれば、社員教育といった我々の強みの部分に特化できる。各々を更に磨くことができ、スピード感を持って事業を加速できると期待しています。


常務〉今後は、私たち兄弟が舵取りを担うことになります。猪突猛進型の兄に対して、慎重な私。見事なまでに性格が正反対ではありますが、バランスの取れた判断ができるのではないかと思っています。


専務〉あまりに性格が違いすぎてたまにイラッとすることもありますが(笑)。小さなことでも相談し合い、お互いを尊重していきたい。お客さまも従業員も、ステークホルダーすべてを幸せにできる企業として存続できるよう、より一層努めていきたいと思います。


――「岡山の未来」に思うことは?


専務〉岡山に限ったことではありませんが、葬祭や儀礼文化に対して、決して若い世代の関心や理解が高いとはいえません。ただ、これらは《人》と《生》に関わる大切な事柄です。文化の担い手として、経営者として、これからも宗教者と連携しながら発信を続けていきたいと思います。


常務〉私たちの世代まではお寺や神社にお詣りするということも一般的でしたが、こうした慣習でさえ薄れつつある。その流れを岡山では緩やかに押し留めるのも私たちの使命だと考えています。消滅してしまった技術や文化は二度と取り戻すことができません。変えるべきは変え、残すべきは残す。葬儀の現場でも強く実践していきたいと思います。


専務〉ホールディングスとして、特に我々の創業地である倉敷の文化継承、地域振興にも大きく役割を果たしていきたいですね。



井上 万都里
株式会社イノウエホールディングス 専務取締役

儀礼文化研究所の創設など文化伝承にも貢献する葬儀社、株式会社イノウエホールディングス専務取締役。オカヤマアワード副会長、葬儀社による全国大会ネクストワールド・サミットの実行副委員長も務める。



井上 雄人

株式会社イノウエホールディングス 常務取締役

仙台の大手葬儀社で修行の後、いのうえに入社。岡山県霊柩葬祭事業協同組合青年部長などを務める。ペット業界、飲食業界を経験し現在全グループの財務などを担当。


photography PLACE
エヴァホール中央

美観地区からもほど近い倉敷の中心部に位置したモダンクラシックを採り入れた木造葬祭式場。株式会社いのうえの創業地であり現社長の生家でもある。併設されたギャラリィ「くらくろ」は昔ながらの蔵を改装しており、古民家の風情やタイルアートの設えも愉しめる。美術作家 高橋秀氏の作品などの常設展示に加えて企画展も開催している。

株式会社イノウエホールディングス
大正2年に井上葬具店から始まった株式会社いのうえは2013年に創業100年を迎えた。都市化を見据えた新たな葬儀スタイルの提案など伝統と革新を見極めながら成長する全国屈指の葬儀社。
倉敷市二日市511-1
Tel.086-420-1000
http://inoue-gr.jp/

Categories:
Tags:
BACK TO TOP