FEATURE
社研部_KIMI ONODA×YAMAMON
26 May 2023
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JOUNALISM × REPOTAGE

2004年創刊時から続く不定期連載。政治家へのインタビュー、社会問題に関する取材、時事コラムを掲載する社会問題研究部、略して「社研部」。

Photography: Shinichiro Uchida, Interview&Text:YAMAMON (PLUG MAGAZINE),Design:RADIO DESIGN




万学の祖と呼ばれる古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、政治学をマスターサイエンス(諸学の王)だと位置づけました。今号のテーマである「岡山の未来」を考える上でも、「政治」は間違いなく重要なファクターです。しかし、多くの人にとって、身近な地方政治はまるで存在感がなく、国政は画面の向こうで弄られるワイドショーのネタでしかありません。依然として低い投票率からも、政治には関わらず、頼らず、期待せずといった空気感があります。ただ、SNSを使うことや動画共有プラットフォームでコンテンツを視聴することが一般化したことで、少し前に比べて政治は格段に可視化されました。政治家のリアルタイムな私見をTwitterで読み、Instagramで活動の近況を知り、YouTubeなどで放送時間に縛られず国会質疑を視聴することもできます。こうした環境の変化により、才能のある人が自力で世に出る可能性を得たように、知名度や当選回数、論功行賞に関わらず、本当に私たちのために仕事をしてくれている政治家が誰なのかが明るみになりはじめました。そんな政治家のひとりとして注目を集めているのが、小野田紀美参議院議員です。一部のメディアからは岡山のジャンヌダルクとも評されましたが、これは正鵠を射ているとはいえません。若手女性政治家、鋭く力強い弁舌、是々非々で挑む勇ましさなどは、彼女の個性であって、それだけで何かのイメージと結びつけるのは俗見です。また、当然ながら彼女を支持していない人もいるでしょう。しかし、そうであっても、小野田議員は数少ない本物の「国士」である、私は強くそう思います。今回は、そんな小野田さんに選挙区である岡山のこと、国政のこと、私自身が気になっていることを訊きました。センシティブな個別の問題を掘り下げるのではなく、中心に据えたのは小野田議員の政治の肌感覚を知ること。同世代として、それは示唆あるものでした。政治にもっと興味を持とう、そんな安易な言葉に企画を集約したくはありませんが、政治の良し悪しは私たちの未来そのものであり、私たちが選ぶ政治家はその大切な担い手です。



正義の味方への憧れ、怒りを力に変える。

― 小野田さんが政治家を目指した理由を教えてください。


「幼い頃から『正義の味方』になるんだという夢を持っていた私にとって、政治家は手段であって目的ではありません。そもそも私が政治家になるんだって決めたのは小学校一年生の時です。「まんが日本の歴史・卑弥呼」を読んで、古代日本に女王として国を治めた卑弥呼の存在を知ったことが当時の私にとって衝撃でした。一つずつ悪事を潰すのも正義の味方だけど、理不尽の起きない国を作れたらそれは最強の正義の味方だ!と。当時、長期化していたとされる国内の内乱を鎮め、魏との外交など、国を強く豊かに、平和に導いた彼女の働きは、まさしく政治家の仕事であったと思います」 ― 政治家は、選挙戦をはじめとした並々ならぬ労力やリスクの割に、努めようとする人ほど報われない仕事のようにも映ります。決して人気が高いわけではなく、誹謗中傷やマスコミによる恣意的な報道のされ方など、若者がなりたい憧れの職業というわけでもありません。世の中を正す、社会課題を解決するのであれば、政治家以外の選択肢もあったのでは。 「例えば、保育園で悪いことをしている子たちに『やめろ』って止めたとしても、今度は隠れて同じようなことを繰り返すようになる等、一つずつ悪事を潰すのは限界がある。私の目の届かないところでも理不尽な事が起きているということを考えると、そうしたことが起こらないための根本的なシステムやルールを作らなくちゃいけない。警察に憧れたこともありますが、警察官は法律の中で仕事をしてくださっています。法律や仕組み自体を変えるために、私にとってはやっぱり政治家がベストな選択だと思っています」


― 政治家であり続けること、掲げる政策を実現するにはとてつもないエネルギーが必要だと思います。小野田さんが政治家を続けられる原動力や、モチベーションを維持し続けられるのは何故か教えてください。


「私が目指すのは、正直者がバカを見なくても良い世の中をつくること。あまりにも理不尽なことが多すぎて、真面目で勤勉な人、純粋な人が不当に損をしたり、傷ついたりするのを看過できない性分なんです。この夢を叶えるためにも、手段として政治家を続けることに意味があると思えるうちは政治家であり続けたいと思っています。政治家には2パターンの志向があると感じていて、一つは困っている人を助けてあげたい、守ってあげたいという動機で動く優しいタイプ。もう一つは、困っている人を生み出しているシステムがとにかく許せない、なんだこれはという憤りをエネルギーにする怒りのタイプ。この分類に当てはめると、私は後者の怒りのタイプで、議員活動全ての原動力は何かに対する怒りです。人はどんなに辛いことや困難に直面しても、怒りさえあればそれを力に換えることができると思うんです。ハーフだったことから幼い時にいろんな差別やいじめにも遭ってきましたが、私は悪くない、絶対にこんなことは許さないっていう怒りを糧に、折れそうな膝を何度も立ち上がらせてきました。いまも、なんでこんなに頑張っていろんなことを訴えているのに叶わないんだろうっていう悔しさは毎日のようにあります。良くも悪くも許せないことを変えたいっていう怒りは尽きることなく湧いてくるので、モチベーションは勝手に維持されていると言えるかもしれませんね」


― 政治や社会に対して同じように怒りや憤りを覚える人は少なくないと思いますが、ほとんどの人はニュースに愚痴をこぼして消化したり、時が過ぎれば忘れてしまいますよね。小野田さんの怒りの持続力、凄くないですか(笑)。


「日々いろんなところで納得できないことが多すぎるのでしょうがないですよね(笑)。かといって普段から怒りっぽいかといえば、自分の日常生活のことはあまり気にしないし、周りに怒りを当たり散らすなんてこともありません。何か嫌なことがあっても大好きなゲームをしたらすぐ忘れちゃうタイプだと思います」






― 秘書の方も頷かれていますね、何か失礼があったら怒られるかもしれないと思ってびくびくしていたので安心しました(笑)。ただ、いかに正しいと思うことでも、法律や制度を変えるというのは一筋縄ではいかない。虚無感とか徒労感みたいなものに襲われることは?


「世の中の理不尽とか、それこそ、その根元に悪のようなものを感じたら、止めどない怒りのマグマみたいなものが腹の底から湧き上がってくるんです。挫けそうになっても、『いやいや、絶対に許さない』ってすぐ怒りが奮い立たせてくれます。そして、歴史の間に立っているんだという責任感。この国を思い、ふるさとを思い、自分の生涯を尽くして繋いできてくれた先人たちのため。子供たち、これから生まれてくる未来を生きる人たちのためにも、ここで自分が折れるわけにはいかないという強い気持ちが自分を支えています」


― 行き過ぎた正義は歪みを生んでしまう、といったこともあると思います。また、正義は立場によって異なることもある。政治家として掲げるには難しい言葉のようにも思います。


「アニメやゲームでも、前作の主人公が次回作では悪のラスボスに堕ちていた、みたいなパターンがありますよね。あまりに真っ直ぐ正義を突き詰めていくとダークサイドに転がり落ちてしまうこともあるんだろうと思います。仮面ライダークウガで主人公の五代が敵のグロンギを殴り続けてハッとなる瞬間があるんですけど、正義を振りかざすことの怖さも認識した上で、正義とは何かに向き合い続ける姿勢が大切なのだと思います。世の中が全部許せないっていう感情に押しつぶされそうになったら、美しいものを見ることにしています。それは、漫画やゲームだったり、この国の風景だったり、子供たちの笑顔だったり。守るべきものが何なのか、自分が何のために闘っているのかを再確認することで、考えと気持ちが整理されますね」


見えないだけで、 本気の政治家はいる


― 小野田さんの議会質問を拝見していて、コロナ制限、選挙費用、マイナンバーカード経過措置の問題など、国民の多くが質すべきだと思うことを力強く追求してくださっているなと感じます。しかし、そうした質問に対しての答弁がはっきりとしないことが少なくありません。もちろん、大臣や立場ある人の言葉には影響を及ぼす重さがあり、発言に慎重にならざるを得ないというのは理解しているのですが、自分が質問者の立場だったら、『おいおい、何の答えにもなっていないじゃないか』、『質問聞いていました?』ってうんざりしそうです。逆に答える側になった場合でも、致し方なく歯切れの悪いことを言わざるを得ないこともありますよね。私は、国会中継を全て視聴しているわけでも、部会や委員会の内容を把握したり、提出された法案を熟読しているわけでもありません。というか、そんなことはできそうにもありませんが、政治がきちんと機能しているのか漠然と不安になることがあります。正直、まともじゃないような受け答えや発言をしている人もいて、大丈夫かと。


「きっと皆さんは国会を見てグダグダしているなぁって思いますよね。ただ、これを言うと国会が形骸化しているとお叱りを受けてしまいそうですが、国会の見えないところでの闘いが本当の正念場なんです。私にとって一番の勝負の場所は自民党の部会。諸課題に対して喧々諤々の議論をそれこそ毎日のように行っています」


― 国民からは見えないところで国会議員も役人も仕事に全力で取り組んでいて、高い能力や見識を備えた人材も大勢いると。


「めちゃくちゃたくさんいますよ。議員でいられさえすれば良いとか、さぼっているような議員ばかりじゃありません。それぞれの分野のスペシャリストが強みを持ち寄って、国のためになんとかしたいと努力しています。野党とも敵対関係というわけではなく、他党の中にも素晴らしい政治家はいるので、情報交換をしながら超党派で議論することも少なくありません。メディアでは何でもかんでも反対ばかりしている人たちと映ることもあるかもしれませんが、全員がそうではない。また、一緒に問題を解決したいと訪れてくる役人もいて、本気でこの国のために尽くしたいっていう志で働いている人間は確実にいる。なかなか進まない現実に苦しみながらも、共に歩んでいます。どうしても悪いニュースばかりが目につくのだとは思いますが、そういった議員や役人がいて、着実に前にことを動かそうと頑張っている事実だけは知っていただきたいと思います」


― それが聞けて安心しました。ただ、どんなに小さな改正でも決着するまでに何年もかかる、なんてことはざらだと思います。進みが遅い、決断までが遠いということは、ある意味では民主主義がきちんと機能していると言えないこともないですが、あまりの遅さにストレスはありませんか。検討ばかりで。


「もちろんイライラすることはありますよ。国会で何かを変えるには物凄く時間がかかります。それこそ、石を1ミリずつ目的地に動かしていくような根気強さが必要ですね。以前は地方議会議員としても活動していましたが、国会議員として国の事案を決定するには地方時代の何倍もの時間を要するなと感じています。ただ、党内の部会でしつこく訴えていたら、手を挙げなくても『小野田さん、今日も言いたいことがあるんでしょ』と向こうから発言の機会を振ってくれるようになる。そして、初めの頃の質問では、『検討しておりません』という答弁だったのが、回を重ねるごとに、『課題として受け止めます』とか、『検討してまいります』と前向きに変わっていって、いまはそれが決定事項として進んでいる件もあります。コロナ対策などで、独裁国家の危機に対するスピード感や決断力を良しとするような声も聞かれましたが、これは非常に恐ろしいことですね。独裁政治はハイリターンかもしれないがハイリスク、民主主義はローリターンだがローリスク。ベストではないがベターであるといえます。民主主義は決してキラキラはしていないけれども、一気に地獄に落ちることはない仕組み。決まるのが遅いからといって民主主義を捨て、誰か一人のカリスマに委ねるようなことは危険が伴う。例え正しい人間であっても、必ずしも正しい選択ができるわけではないので。それは歴史が証明していると思います。ただし、決断が遅すぎるのは問題なので効率化は考えて然るべきだと思います」


―決める裁量が大きい立場、総理大臣になりたいと考えたことはありませんか。


「私はトップ向きではないと思うと同時に、国に仕えているという気持ちで仕事をしています。こういう言い方をするとすぐ軍靴の足音が聞こえてくるみたいな言い方をする人がいるんですが、違う、そうじゃないと。国に尽くすと言っている意味は、政府ではなく、あくまで国を愛しているんだっていう純粋な気持ちなんですけどね。ある程度自由のある状態で、問題ごとに仲間を集めて一つずつ解決しては次の課題に向かっていく、そんなスタイルが自分には合っていると思います。これからも問題の最前線で国のために尽くしていきたい」

低投票率=悪い国ではない、ただ、諦めであってはダメ


― 選挙のたびに、「投票に行こう」といったいろんなプロモーション活動も見られますが、投票率は依然として低いままです。どんなに騒いでも、結局は『過去最低』や『若者の低投票率』が話題になることが多いですよね。また、人口動態から見ても、数で劣る若者が投票行動を起こしても無駄だという論調もあります。小野田さんは日本の投票率に対してどのような見解をお持ちですか。


「政治や治安が不安定だったり、国内情勢が厳しい状況にある国等は投票率が高い、と言われることもありますよね。どこが政権を握るかによって明日の自分の生命に関わってくるような場所だと、みんな必死に投票に行くので」


― その話とは少し違った極端な例ですが、北朝鮮なんかも選挙の投票率はほぼ百パーセントですよね。


「誰が政治を担っても明日私の命がすぐ脅かされることはないという安心感の元に選挙への関心が薄いのだと仮定すれば、低投票率イコール悪い国とは思いません。ただ、政治が決めていることは、いま目の前のことだけではなくて、五年後、十年後、五十年後の日本の在り方も決めているといえます。あの時、きちんと自分の意思表示をしておけばよかったと将来国民が思うのは辛い。投票に行かない人たちに、未来を決める権利を放棄しないで欲しいとは伝えたいですね」


― 以前、ある選挙区で過去最低の投票率で当選した政治家に、そのことについてどう受け止めているか、若年層の低投票率に対してどのように考えているか取材で質したことがあります。『若い人は政治に頼らなくても生きていける。高齢者や社会的弱者に寄り添うのが政治であるから、全く問題ではない』と答えられて、ものは言いようだなと。


「それはちょっと違うと思いますね。むしろ若い人の方が困っていることも多い。若者が数では高齢者に勝てないということも踏まえて、実態を議論するべきだと思います。私は“選挙に行く、投票するメリットは何ですか”と問われたら “特にありません。ただし、デメリットはある”と答えています。国会議員のことを代議士と呼ぶこともありますが、皆さんに代わって議論する人を選んでいるわけで、票を投じなければどんなに納得がいかない政策が進められていても、貴方からは票を預かっていませんと言われかねません。勿論すべての政治家が投票してくれた人の方だけを向いて政治を行っているわけではありませんが、投票に行かないというリスクをあえて取る事はしない方が良いと思います。投票を罰則付きの義務にしている国もありますが、私は強制にはしたくありません。やはりあくまで権利として行使してもらいたいですね。民主主義的で公正な選挙に参加できる権利は世界においてプラチナチケットですし。低投票率という現実が、政治に無関心でも平気な平和な国、の表れならよいのですが、諦めからくる低投票率であっては欲しくない」






被選挙権行使のため、選挙ポスターを無くせ!


― 小野田さんは、民主主義にはある程度お金はかけるべきだと前置きをされた上で、一人につき四千万円から五千万円ほど支出される立候補者に対する公費負担が大きすぎるのではないか、使途要件が時代に沿っていないのではないかと国会で質問をされたことがあります。被選挙権に関してはどのようにお考えですか。


「もっと新しい人たちが政治の世界に踏み込んでいける、被選挙権を行使しやすくできる制度にすべきだと考えています。公費で負担する部分が多ければ多いほど、供託金を下げることはできず、お金持ちしか選挙に臨めなくなってしまいます。一番問題だと思っているのは選挙ポスター。今の時代、組織に頼らずとも選挙戦を戦うことができるようになってきました。ホームページや動画を自分で簡単につくることができ、選挙カーを使わなくても政策を訴えることができます。昔に比べて、お金をかけずに選挙戦を組み立てることができるようになってきた。ただ、選挙ポスターを何千という掲示板に貼ることだけは、とてつもない組織力がいるんですよ。そういった組織力を持つことのできた人間しか実質的に選挙に挑戦できない現状は問題だと思います。これまで、昔ながらのやり方で選挙戦を勝ち抜いてきた議員からは反発があると思いますが、選挙ポスターを無くせば、志ある若い人たちがもっと政治の世界に進出しやすくなるのではと思っています」


― 一般的には政治家に陳情などをする人はごくごく少数で、デモや何かの政治的メッセージを発信する集会に参加する人も減少していると思います。政治に直接的に関わるには、立候補するか投票するかのいずれか。間接的には、大多数がワイドショー的に傍観するか、よほど言いたいことのある人がSNSで私見を述べるくらいしかしていません。今の時代の日本で、一般市民は投票以外にどのように政治に関わるべきだと思われますか。


「投票にはできるだけ足を運んでもらいたいし、政治の新陳代謝を上げる意味でもやる気のある若い人にはどんどん選挙に挑戦してほしいと思います。それ以外では、やはりきちんと国民の目線で政治を監視してもらいたい。ただ、注目が国政に偏り過ぎているなというのは感じます。地域の未来を決めているのは地方自治体であり地方議会ですが、国政に比べて厳しい視線が向きづらい。身近なところにこそ、もっと目を光らせるべきではないでしょうか。これは国会議員にも地方議員にもいえることですが、発信をしてこなかった政治家が割と多い。選挙前になって候補者のSNSを見ると4年前から更新が止まっている、なんて人もざらにいます。活動報告のビラを配ったり、PDFをダウンロードできるようにしていることで発信しているつもりになっている人もいますけど、それだけでは情報提供として不十分な時代だと思います。ちゃんと自分の仕事を発信しなければ政治家が生き残れ無いという状況になってくれば、有権者にとっても政治がもっと身近に、分かりやすくなるはず。そして、政治家からの発信も大切ですが、有権者の皆さんにも誰がどんな仕事をしているのか可能なかぎりチェックしてもらいたい。好きなアーティストやタレントのSNSをフォローするように、政治家の動きに関心を寄せてもらえればと思っています。特に身近な地方議会議員や首長の仕事、行政の取り組みを知ることは大切です」

埋めるギャップは世代間より価値観。


― 年長vs若者の構図はいたるところに散見されます。本来はもっと大きな枠組みで捉えるべきだと思いますが、小野田さんは政治の世界の世代間についてどのような見解をお持ちでしょうか。また、派閥力学や年功序列、論功行賞によってポストが決まる慣習があるように思いますが?その点については。コロナ禍では台湾のオードリー・タンのような若手で実務にも精通した大臣が注目されました。


「自民党の部会では、一期生だろうと当選回数に関わらず等しく発言する権利を与えられています。若手は黙っていろなんていう空気感は自民党にはありませんね。 それに、高齢議員の中には、私たち若手より優れた知見やバイタリティを持っている方もいます。一概に年齢で区切るのはどうかと思いますね。小野田事務所はデジタル化が進んでいますが、そのツールを最初に教えてくれたのはいま六十代の他事務所の秘書さんなんですよ。また、若手が重要なポストに就くことが絶対的に必要だとも思いません。誰でもいいから三十代が大臣になればいいわけでもありませんよね。極端に偏るのは問題かもしれませんが、得手不得手や年齢も含めたバランス、それぞれの適性に重きを置くべきだと思います。ベテランの高齢議員が大臣であれば副大臣と政務官には若手を起用するとか。お互いをカバーしあって仕事を進められる采配であれば良い。基本的には年齢よりも適材適所である事が大切だと思います」


― 世代間ギャップで苦しめられたことはあまり無いと。


「国会ではあまりありませんけど、国会の外で感じることは多々。高齢の方の方が多い気もしますが、世代というよりも価値観ですかね。女性だから、若いから、サラブレット議員じゃないからといった理由で露骨に侮られたりすることは今でもありますし、新しいやり方を取り入れようとしたら頭ごなしに否定されたり。ただ、新しい世代の社会を見る目は変わってきているので、そういった古い価値観に縛られている人たちはきっと少なくなっていくと思います」

帰属意識は信頼。国と地域を省みる。


― 小野田さんは、日本人が愛国を語って非難されるのは問題であると国会で指摘されました。しかし、経済的に豊かな人が税制が優遇される海外に移住する、各自治体が打ち出す住民サービスの内容によって居住地を変えるなど、『愛国心』や『愛郷心』よりも、『条件』によって流動する人が今後ますます増えていくのではないかと思います。日本人、岡山県人といった数値で計れ無いような帰属意識は今後どう変わっていき、どうあるべきだと思われますか。


「いまの日本は帰属意識を持ってもらえるような国なのかどうか、これは省みないといけないことだと思います。私はとにかく日本が大好きなので、より良い条件の国や地域に移り住みたいなんて考えもしないのですが、これは自分が特殊だからかもしれません。人手が足りないから外国人をもっと受け入れろという人がいる一方、働き盛りの若い日本人が海外に流出してしまうというケースもあります。何をやっているんだ政治はってなりますよね。他所から条件で選んで移り住んできた人たちは、条件が悪くなれば一斉にいなくなってしまうかもしれない。帰属意識を少しの欠片でも持ってくれる可能性があるのはやっぱり自国の人であり、その郷土で生まれ育った人たちです。私たちより他国の人たちを大事にする国であったら、誰がこの国のために尽くそうと思ってくれるでしょうか。地方都市も同じで、若者が出て行くと文句を言う人がいますけど、そういった被害者意識は捨てなくてはいけません。いかに国民や住民を尊重し大切にできたか、それが自発的な帰属意識をもたらす重要なポイントだと思います」


― コスモポリタン、地球市民と称する人たちに自分は少し抵抗があって。かといって、縛られたり、固定化されることへの忌避もある。何かに強い帰属意識を持てと言われることに日本人は違和感を感じるようになってきているようにも思います。それこそ、日本人の海外流出や自治体による条件競争はそれを象徴しているのではないかと。


「外国人と比べて日本人の方が帰属意識が薄いと言われたら、そう思う人もいるかもしれません。確かにとても薄い人もいます。けれど、海外に出れば、日本人はどこまでいっても日本人なんですよ。帰属意識が全く無いという人たちは、世界的に信用を得られにくい。自分の国や地域を愛すること、誇りを持つことは極めてスタンダードなことです。帰属意識とは、自分の生まれた場所に対するものか、心から好きになった国や地域の人として生きていくためのものなのか、それは選べばいいと思いますが、自分の国や地域を『大切だ』と言えない人は世界では信頼されないでしょう。日本人にとって、緩やかな帰属意識は必要だと思います」 ― グローバル社会を生きていくからこそ、インターナショナリズムが重要なのは仰る通りかと思います。そこから話をがくんとスケールダウンさせると、実は岡山を離れたところで岡山弁を使うことにやや気恥ずかしさがあって。最近では、お笑い芸人の千鳥さんや岡山出身の著名人がテレビやいろんなメディアで岡山弁を使ってくれているので幾分か和らぎましたが、都会に出るとまだまだ臆してしまいます。 「それはよろしくないですね(笑)。私の育った邑久町虫明は結構どぎつい岡山弁のところだったので、東京生活が長くなったいまも染み付いています。方言を話すのは大事なことですよ。日本の古くからの方言はある意味消滅危機言語。若い人たちには誇りを持って郷土の言葉を使ってほしいですね」


国民、国土を守り抜く覚悟。


― ウクライナとロシアの実質的な戦争が始まって1年以上になります。これまで世界のいたるところでテロや紛争もありましたが、対中、対露、対朝への危機感、戦争への不安が日本の中にも以前より高まっているように感じます。現在、防衛大臣政務官を務められていますが、日本の防衛の課題と現状を教えてください。


「防衛政務官として、日本の防衛力について個別の詳細能力を問われれば、「我が国の防衛力が明らかになるために申し上げられません」といった答弁になることも多いですが、厳しい安全保障環境の中、あらゆる事態に対応できるようにせねばなりません。例えどれだけ非難されようとも、国民の命と財産を絶対に守り抜くための備えはしておかなければならない。国民の皆さんにもご理解を頂けるように説明をしていきたいと思います。防衛省の予算概要についてはホームページでも公開されているので、ぜひご覧頂きたいと思います。」

変化を恐れず、脇役に譲ら無い、主人公は自分自身。


― 今号では、「岡山の未来は明るいか」といった問いをいろんな方に投げかけています。選挙区である岡山の未来をどのようにお考えでしょうか。


「政務官として日本中いろんなところを巡っていますが、岡山の気候や地理的なポテンシャルは非常に高いと思います。ただ、何にでも言えることですが、生き残るのは強いものではなくて変化に対応できたもの。政治だけではなく、地域や教育の在り方も含めて変えるべきことは変えていく姿勢が大切だと思います。ここに生まれ育った人が居続けたい、発展させたいと思ってくれるにはどうすれば良いかを本気で考え続けなければならない。首都岡山も夢ではないけれど、潜在的な優位性を理由に掲げるだけで選んではもらえません。明るいかどうかは、一人ひとりの向き合い方次第だと思います」


― 最後に、岡山の若者にメッセージをお願いします。


「岡山県の伊原木知事がある学校行事でお話しされていたことが印象的でした。在学されていたスタンフォード大学で学友と卒業後の進路の話になったとき、皆んながニューヨークやワシントンといった大都市で仕事をしようと考えているかと思いきや、「何を言っているんだ?生まれ故郷に帰って地元を良くするため働くよ」という人が少なくなかった。超一流大学の学生たちの言葉に衝撃を受けたと仰っていました。若者に岡山から出て行ってほしくないと思う大人もいると思いますが、自由に外に出てもらい、戻って来たくなるような居場所をつくるのが大人の仕事。若者がやりたいと思ったことに全力で向き合って行動することが、日本のため、郷土のためになる。常識や周りの大人の声に惑わされず、好きなことを、好きなようにやって欲しいですね。私も幼い時から政治家になるって公言していましたが、無理だ、と言う人は少なくなかった。でも、覚悟を決めたら、できないことなんてありません。あくまで貴方の物語の主人公は貴方自身。脇役に必要以上にでしゃばらせる必要なんてないので、自分の信念や正義を貫いて、幸せな自分をつくっていただけると嬉しいです。」

[取材後記]

『どんなに困難な時であっても、誰か一人を英雄視したり、過剰に持ち上げることは避けるべきである』。これは、取材の中でも持ち上がったトピックですが、特に政治の場合は過去に照らして慎重に鑑みる必要がありそうです。正直、社会から求められるメディアの中立性なんてあってないようなものですが、小さな地方誌といえど、一人の政治家をあまりに「推す」のは如何なものかと感じる人もいるかもしれません。それでも、「岡山の未来」、「日本の未来」を考えた時、小野田さんのような人をもっと力強く後押しできるような岡山であって欲しい。取材を終えて、そう思いました。彼女のことを知らない人は、ぜひ議会質問などを検索してみてください。そこには、アスリートの活躍を観るような感動があるかもしれません。




小野田 紀美
参議院議員(岡山県選挙区選出)防衛大臣政務官、元法務大臣政務官

アメリカ合衆国生まれ、岡山県瀬戸内市邑久町虫明育ち。旧邑久町立裳掛小学校、清心中学校、清心女子高等学校を経て、拓殖大学政経学部政治学科卒業。ゲーム、CD制作会社にて、広報・プロモーションを担当。TOKYO自民党政経塾5期生。平成23年東京都北区議会議員に当選し、平成27年2期目再選。同年10月3日に区議会議員を辞職し、ふるさと岡山に帰る。平成28年7月第24回参議院議員通常選挙にて初当選。現在、参議院議員2期目。

Twitter / onoda_kimi
Instagram / onodakimijimusho
YouTube / 「小野田紀美公式YouTube」






YAMAMON
PLUG MAGAZINE 編集長

岡山県建部町出身。平成16年プラグマガジン創刊のため立命館大学を中退し帰岡。政治家、著名人へのインタビュー記事やコラムを連載する企画「社研部」を創刊時よりスタート。地方誌ながら各業界、国内外で活躍する著名ゲストが多数出演。また、数千人を動員する地方としては国内最大級のドレスコードパーティー「プラグナイト」をはじめ様々なイベント企画も手掛ける。2010 年に創設されたオカヤマアワードでは運営事務局長を務めた。

Instagram / yamamon_plug


LOCATION
岡山市民会館

昭和38年に完成した市民会館は、鉄骨・鉄筋コンクリート地上4階地下1階。建築音響学の第一人者とされる佐藤武夫が設計し、正八角形の大ホール(1718席)を備える。令和4年にDOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築に認定された。岡山芸術創造劇場の開館により令和6年3月末で閉館となる。

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