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岡山出身の二人が魅せた「装い」のチカラ、そこに垣間見るローカルの未来。
12 June 2023
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Feature//Interview

TETSUYA DOI×MUTSUE KOUBARA

INTERVIEW&TEXT: YAMAMON (PLUG MAGAZINE)

同じ岡山出身、同学年でもある二人による凱旋ファッション・シューティング。それは、今号でテーマとした「装い」と「人の佇まい」によって、街がいつもとはまったく異なる光景に見違えることを証明してくれるものだった。気鋭のファッションデザイナー土居哲也と、モデルとしてランウェイだけでなくCMなどにも活躍の場を広げる神原むつえ。二日間に及んだロケ撮影の終了後、スタジオで訊いた地元とファッション、二人のこれから。

服を作るということは、変えたい未来、作っていきたい社会があること装いを作り、誰かの生き方を作るということ装いは衝撃と流行を作り出し、それが時代を作り、文化を構築する。やがて文化は伝統になって、文明に、伝記に、伝説になる。装いは選択できる。人は皆、装いで心を表現できる。

ーー同郷の共演撮影を終えて

P)二日間お疲れさまでした。まずは今回の撮影を終えて、それぞれの感想や気付きがあれば教えてください。

神原)デザイナーとモデルが同じ出身地同士、共通の故郷である岡山をロケ地として撮影する、巡り合わせのような機会を頂きました。企画を伺ってからずっと楽しみにしていたんですけど、デザイナーご本人に何ルックもフィッティングしてもらえるのは貴重な経験。ランウェイの裏舞台は誰もが大忙しで、作り手とそこまで密にコミュニケーションを交わしながら本番に臨むことは意外と少ないんです。でも、今回の撮影では土居さんの拘りやデザインに込めたディティールなどをその場で教えていただきながら、ロケ地にも合わせて自分なりの表現を探しました。また一つモデルとしての学びを得たような気がします。

土居)RequaL=2021-2022 A/Wで神原さんにはモデルとしてショーに出演していただいたことがありますが、その時も同郷の話題になりましたね。ファッションデザイナーとして、一人のモデルさんにこれだけ沢山のスタイリングをするのは私も初めての経験だと思います。神原さんはランウェイや撮影など、現場と内容によってキレイやカッコいい、カワイイといったイメージを使い分けることのできる、表現の奥行きと振り幅を持ったモデルさん。スタイリングを重ねるごとに、こちらもイマジネーションを膨らませることができました。地元を離れて随分経つので、ロケ地を巡りながら街の変化や岡山の新たな魅力を再発見することも。いいチームで二日間の撮影を終えることができました。

ーー創作する祖母 肯定する家族 

P)「デザイナー」「モデル」を目指したきっかけを教えてください。また、生まれ故郷の「岡山」が現在の仕事に与えている影響はありますか?

土居)この業界を目指したのは、ファッションが社会を変える可能性に満ち溢れている事に魅了されたからです。人は誰しも表現をする事ができる、人は装う事で驚きや発見と夢を描く事ができる。その偶発的な現象は時にカウンター的な衝撃や流行となり、時代を彩り、時代の上に文化をも生み出します。そして、文化の中から伝統として時代を超えて残るもの、伝記になったり伝説と呼ばれるようなものが生まれる。そういった可能性に携われることもそうですが、何よりもファッションをデザインする事が愛おしいから。ただ、ファッションデザイナーという仕事を私はあまり仕事だとは思っていません。それは、仕事にしてしまった瞬間、何処か窮屈で楽しめなくなる自分に気づいてしまうからです。私にとってファッションは生活そのものであり、寝食と同じ生活の一部。私の生き方そのものです。つくることが生きる事であり、生きるためにつくっているとも言えるかも知れません。

神原)私は、友人から言われた「むつえってモデルみたいだね」という一言がきっかけです。十八歳からレッスンやオーディションのため大阪に通うようになり、モデルとしてのキャリアを歩み始めました。ただ、本気で活動するとなると、東京や大阪といった都市部に仕事が集中しているので、岡山を本格的に離れる必要がありました。何より、レッスンに通うためには学業もセーブしなきゃならない。反対されることを覚悟で、自分の夢と進路を親に告げたんですが、「好きなことをしたらいい、やりたいことをやればいいよ」と、怒られたり引き止められたりしませんでした。モデルやファッションの世界について何も知らない親だけど、反対どころかプレッシャーすらかけず、いまも見守ってくれています。いろんな国や地域でモデルとしてお仕事をさせてもらっていますが、海外に積極的に挑戦できたのも、最初に家族が肯定してくれたおかげ。いまでもすごく感謝しています。岡山は、家族がいる場所、変わらない私の支えですね。東京での生活はいわば毎日が戦いなので、闘争心を燃やし続ける状態はやっぱり疲れます。岡山に帰ってきた時は心から安心できるし、モデルじゃない自分に戻れる、唯一の場所ですね。

土居)今回、岡山を巡りながら自分の原体験を改めて意識することになりました。それは「アーティストとは何か」を教えてくれた祖母の存在です。彼女は二十年以上、趣味で絵を描いているんですが、一枚の作品に注ぐ情熱も、作品の数も物凄いんですよ。現在も創作意欲が衰えることなく、キャンバスに向かい続けています。「作品を作るとはどういうことか」、アーティストのアティテュードみたいな部分は、幼少期には既に祖母の背中から感じ取っていたような気がしますね。それから、僕は今回のロケ地の一つでもある岡山後楽館高校出身なんですが、岡山では珍しい私服の高校ということもあり、服装や髪型にピアス、派手な自己表現をする学友が多かったことも、幾許かの影響があるかも知れません。




Tetsuya Doi Says…

生きることに眼差しを向けて欲しい。生活の中にこそ装い、スタイルがある。

Mutsue Koubara Says…

「敵は自分」が今年のテーマ。ネガティブを克服するには過去の自分を超えること。




ーー児島の手仕事と2020年のパリ

P)これまでにファッションのパワーを最も感じた瞬間やエピソードを教えてください。

土居)あまりに多すぎて回答しづらいですね。何か一つを選び出すのは控えたいと思いますが、岡山の媒体ということもあり、ここでは児島のデニム加工メーカー癒toRi18株式会社の古林さんを紹介させてください。経年劣化やダメージ、汚れを忠実に表現する彼の手仕事は別格で、もはや世界的アーティストの域に達していると思います。古林さんの手仕事から学ばせていただいた「未来は過去にある」は、私が大切にしていることの一つですね。

神原)最近の出来事でいうと、2020年パリのファッションウィークで見た光景が忘れられません。当時はコロナウイルスのパニック真っ只中、ヨーロッパの多くの国でロックダウンが実施されていて、外出禁止令が突然に発令されたり、解除の時期もまだ見通しがつかない。ショーが開催されるかどうかさえギリギリまで判断できないような状況で、無事に入国できても外出すらできないんじゃないか、そんな不安を抱えながらの渡仏でした。ところが、パリのファッションウィークはいつものように訪れる人たちを受け入れたんです。夜間外出禁止令も解かれて、世界中から集まった人たちがファッションに興じていました。もちろんデジタルに発表を置き換えたブランドもありましたが、いろんな困難なシチュエーションを乗り越えて、想像以上の数のブランドがショーでの発表に踏み切ったんです。ファッションに対する執念にも似た底知れぬエネルギーを感じて、私も何か新しいスイッチが入ったような気がしました。

ーー王道の端を行くグルーブキャリアの区切り方

P)ファッション業界のど真ん中で活躍されている二人ですが、デザイナー、モデルとそれぞれ表現する分野は異なります。お互いに訊いてみたいこと、質問があればお願いします。

神原)土居さんのデザインする服は極端にボリューミーだったり、カラフルだったり、インパクトの強いものが多いと思うんですが、どんなものからインスピレーションを得ているのか気になりました。今回着させていただいたRequaL=のコレクションルックはもちろんですが、販売される服もリアルクローズというよりはアートピースに近いものが多いですよね。

土居)インスピレーションっていうと、もう100個ぐらいあるんですよね。うーん、言葉にするのが難しいけれど‥‥(長い沈黙)。一つの言語に集約するのは難しいですね。相対的なグルーブがファッションデザインに繋がっていくので。言葉にすると、わたし、あなた、他者、世界、地球、宇宙、時間、時代、未来、過去、今、歴史、季節、環境、動物、文化、風習、精神、物語、性、男、女、男?、女?、子供、子供?、人種、国籍、言語、言葉、民俗学、伝統、技術、仕立て、継承、芸術、哲学、数学、合理化、記号化、簡素化、機能性、大きさ、色、素材、形、拡大、縮小、反転、逆転、模倣、偽物、嘘、本物、正義、階級、区別、差別、大衆化、職業、制服、反抗、破壊、創造、再利用、再解釈、戦争、平和、犠牲、生命….など、これ以外にもキーワードは数え切れません。例えば、ハーケンクロイツなどのシンボルマークもファッションデザインの要素であり、様々な流用が出来てしまうため、私達はファッションをデザインするにあたって様々な問題にも意識を向ける必要がある。ただ、結局は「自分自身が楽しんで作る」を追及した結果がデザインにも反映されているんだと思います。あとは、立ち位置としていつも王道の端を行きたいとは考えていて。亜流に逸れてみたり、また王道寄りに戻したり。そういったバランス感覚は大切にしていますね。僕自身もスタイリングを考えて装うことが好きなんですが、振り返ってみると、自分の着たい服というのはあまり作ってこなかったような気がしますね。これからはもっと自分の着たいものを作るようになるのか、日常的にはなかなか着られないようなデザインへと更にシフトしていくのか、それは自分にもまだ分かりません。神原さんへの質問は、モデルとして、人間として、今後のビジョンを伺いたいです。

神原)えっ、いきなり根源的な問いが出ましたね(笑)。実は、三十歳を区切りにモデルは引退しようと考えていました。でも、実際に三十歳を迎える前になってみて、いまは辞めるという選択肢は無いですね。年齢に関わらず、自分の仕事に満足した瞬間にモデルを辞めようと考えるのかなと思っていたのですが、満足のいく仕事ができたり、目標を達成した次の瞬間には、また新しいモチベーションが湧いてきて「これができたらこれもできるな」って。惰性にならず、チャレンジする気力が続く限りは頑張っていきたいなと思っています。ただ、仕事を追及する一方でプライベートの時間を蔑ろにしてきたところがあって。昨年は特に忙しくて、ふとした瞬間に人生これでいいのかなっていう感情が自分の中で見え隠れしたりすることもありました。仕事に全力で向き合っていたので、これまでの過ごし方に後悔は一切ありませんが、オンもオフも人としてもっと幸せでありたい。幸せですかと尋ねられて、素直に幸せですと答えられる三十代にしていきたいですね。



ーー「服の先」の探求夢と人生の関係

P)今年の目標、これからの展望を教えてください。

神原)私はいつも年始にその年のテーマや目標を決めているんですけど、今年のキーワードは「敵は自分」です。昨年はかなり多忙で、成果もあった一年でしたが、今年はそれを更に大きく超えていきたい。モデルはいかに自己研鑽したとしても、決定者から「あなた素材は良いけど、今回のうちのルックとは合わないから起用できない」みたいな言葉をかけられることが日常的にあるんですよね。ついつい自分を否定されたように感じてしまうけど、ネガティブに考え始めると他人や「あの時は良かったのに」と過去の自分にすら嫉妬してしまう。だから、これまでの自分をしっかり超えていきたいと思います。

土居)「服の奥に潜むその心は服の先の方へ」。服を作るということは、変えたい未来、つくっていきたい社会があり、誰かの生き方を作るということだと思っています。どんな意志を持ち、どんな装いをするかを人は意志を持って選択できます。人は皆如何なる時でも心を表現できる。RequaL=では、人々の未来を本気で考え、ファッション業界の外へ向かうこと、意味や意義、目的を持ってファッションの外に在る課題を、社会を、デザインの魔法で解決していくことをミッションにしています。ファッションを現象と捉え、問題の定義を含めた現在や過去、あるべき未来を精一杯伝え、誰かの人生にとっての刹那、瞬間瞬々になる事を目的に、業界を超えて「服の先」を作っていきたいですね。

ーー眼差しを向ける先勇気と挑戦の過程

P)最後に、ファッションの世界を志す若者、岡山の読者にメッセージをお願いします。

土居)岡山でファッションを志している若者がこれを読んでくれているとしたら、作ることに集中しすぎず、生きることにもっと眼差しを向けて欲しいですね。人の生活があって、その上に装いがあり、ライフスタイルがある。ファッションに夢や希望を抱いている人には、まずはその前提をしっかりと見極め、感じ取ってもらいたい。着せることよりも、まずは自分が着ることを楽しんでください。具体的に作り手を目指している人には、「ファッションは国境を越える」と伝えたいですね。デザイナーを育成する「me fashion school」の大阪校が近く開校予定で、僕も講師として参加することになっていますので、続きはこちらで。

神原)夢に向かって一歩踏み出すのは凄く勇気が必要でした。でも、成功したいためではなく、努力をする過程を大切にしたくて飛び込んだ世界。私は、人は夢を持てた時点で良い人生なんじゃないかって思っています。夢にどんな風に向き合って、どんな努力をして、どんな人たちと関わって、どんな話ができるようになったか。その一つひとつがとても大切。成功や失敗は結果でしかなくて、良い人生かそうで無いかは過程が意味を持つのだと思います。夢への過程を大切にする人が、岡山からたくさん羽ばたいてくれたら嬉しいですね。

P)「岡山が繋ぐ縁」によって実現した「岡山の街の風景を、装いと人の佇まいで変える」今回の巻頭特集。本企画が、ファッションの世界を目指す岡山の若者が一歩踏み出すきっかけになること。東京や海外のファッション主要都市にも一脈通じる、岡山の装いを愛でる文化の萌芽へと繋がって欲しいと思っています。街も人生も主体であるその「人」次第。二人の更なる活躍を期待しています。





土居哲也 どいてつや/東京モード学園・文化ファッション大学院大学を卒業後、COCONOGACCO/Meで坂部三樹郎氏や山縣良和氏に師事。2015年、第89回装苑賞イトキン賞受賞。2016年、友人と3名で「Re:quaL≡(リコール)」としての活動をスタートさせる。リコールというブランド名は、「Re:quaL≡ Re:時の単位 / :equal=常に=等しく(≡)」という意味。同ブランドでは、ダイナミックかつ構築的なフォルムのユニセックスウェアを展開。アヴァンギャルドな作風で知られる。若手ファッションデザイナー/写真家向けの大会である第34回イエール国際モードフェスティバル モード部門で準グランプリ相当のHonourable mention from the jury(審査員特別賞)を受賞。世界的に注目される若手ファッションデザイナーとなった。2020 A/WCollectionより東京コレクションに参加。TOKYO FASHION AWARD 2020受賞デザイナー。


神原むつえ こうばらむつえ/1993年生まれ。岡山県岡山市出身。身長175cm。高校では家政科を選択し、ファッション造形について学ぶ。モデルレッスンのために岡山から大阪へ毎週通い、2011年にモデルとしてのキャリアをスタートさせる。2017年、ミス・ユニバースジャパン岡山大会第3位入賞。2019年はアジアを中心に活動、2020年からはパリ、ロンドンのコレクションにも出演。adidas asiaキャンペーン、LIMI feu 他ファッションブランドのルックブック、資生堂、shu uemura、UNIQLO、GU、SONYなどポスター(紙媒体)に起用された。2021年夏に開催されたRakuten Fashion Week TOKYOでは10ブランドのランウェイで起用され、ファッション専門業界誌の表紙にも採用。国内外ブランドのコレクション、ファッションショーだけでなくSPURや装苑などの雑誌、広告、CMで広く活躍するファッションモデルとして注目されている。

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