COLUMN
VOL.26 道
10 November 2022
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Where there’s a will,there’s a way
葬祭業界と地域社会の活性化に邁進し、儀礼文化の形骸化に警鐘を鳴らす井上万都里が連載する対談企画。それぞれの道を強い意志で歩み続けるゲストの言葉から、あなたの人生を切り拓く明日のヒントが見える。

倉敷の偉人たちが創立した 社会福祉活動のハブ

井上)今回は、倉敷の街とともに歴史を刻んできた「日本基督教団倉敷教会」の中井大介牧師にお話を伺います。創立メンバーには大原孫三郎や林源十郎という方々が名を連ねていますが、まずはどのようないきさつで倉敷にキリスト教会が設立されたのか教えてください。

中井)倉敷教会は、明治39年(1906年)の創立から116年を迎えました。設立当初の仮教会堂は、ここではなく大原美術館の斜め向かいの、現在はレストラン「亀遊亭」があるところにありました。正式な礼拝堂は、建築家の西村伊作さんの設計で建築され、1923年に献堂されました。お話の通り、創立には大原美術館を開館した大原孫三郎、薬種商を営んでいた林源十郎、倉敷町長を務めた木村和吉など、倉敷のまち作りに貢献した人たち、キリスト教に関心のある人たちが関わっています。私財を投げうって孤児の世話をしていた石井十次さんに出会った大原さんが、「こんな生き方もあるのか」と深く感銘を受け、倉敷で社会福祉活動のハブとなる教会を建てようと計画したのが創立のきっかけです。当時は、創設メンバーたちが「新しい時代の生活」がいかにあるべきか考えていた時代でもありました。キリスト教の布教のための施設というよりも、新時代の価値観や教育、ライフスタイルを伝播していくための拠点としてスタートしたというのは、当教会の個性としていまも息づいているような気がします。

信仰を通じて創造する新しい生活様式

井上)先進的な考えを取り入れていた識者や活動家、地元の有力者が結集していたとはいえ、明治後期の当時にこんなにも立派な教会を造るのは一大事業だったと思います。未来を見据えた確固たるビジョンと覚悟がなければ成し得ないことです。

中井)キリスト教では想像を超えたことを創造することを《ビジョンを持つ》と表現しますが、大きな希望を持って、小さな仮会堂から100年後のキャパシティのビジョンを描いて実現されました。家族が集まる「リビング」があるような生活や地域を思い描き、それを作ろうとしていた人たちなんですね。日本の昔ながらの家父長制の時代から、家族それぞれがフラットに共生するファミリーという概念を、教会から《新しい生活様式》として伝えようとしていたのだと思います。


石積みの塔とスロープが導く
地域に開かれた祈りの舞台

井上)教会堂の設計は、大正・昭和を代表する建築家・西村伊作氏が手がけたものですね。倉敷の街を象徴する名建築として国の登録有形文化財に登録された貴重な建築物ですが、建築様式や建物自体の魅力についてお話いただけますか。

中井)教会堂は、木骨コンクリート造の建築で、石積みの塔と石造りのスロープが大きな特徴です。笠岡諸島の北木島から産出された花崗岩を使い、その天然の色味を生かしたことで、とても自然で落ち着きのある印象を与えています。こういう建築様式は西日本ではほとんど見られないと思います。内部も明るく開放的な造りで、誰もが自由に憩えて精神を解放できるように、また子どもが礼拝の場を共有できるように配慮されています。当教会を訪れる方の中には建築を学ばれている学生さんも多く、設計士など専門家の方も見学にお越しになられていますね。


コーヒーのおいしい喫茶室は
社会に開かれた窓口

井上)喫茶室が併設されている教会というのは全国的にも珍しいのではないでしょうか。しかも50年前からあるというのもすごいですね。来店される方の様子を拝見しながら、これは地域社会の《拠りどころ》のひとつだと私は思いました。

中井)礼拝堂に隣接するキリスト会館は、1971年、社会に開かれた窓口として作られました。1階には喫茶コーナー、交わりと憩いのフロアを併設していますが、当時は教会としてはどこにもない取組みでした。教会の門戸を広げたい、地域とのつながりを持ちたいという創立者の意思がここに見て取れます。

井上)いまより地域コミュニティーがしっかりしている時代はよかったのですが、昨今は人間関係が希薄になったり、宗教が形骸化したり、様々な要因で共同体としての地域の基礎が脆弱になってしまっています。葬儀の現場でも、会葬者はだんだんと少なくなってきている傾向があります。だからこそ、人の繋がりを生み出し、それらを保つ結節点があることはすごく大事だなと思っています。そういう意味では、今の時代だからこそ教会に併設されたカフェというのは新しく感じるし、その役割は高まっていくのではないでしょうか。

人々が集まる《場》として
何でも受け入れる懐の広さ

井上)人が出入りする回数や人数でいうと、神道や仏教でいう神社やお寺よりもキリスト教会は圧倒的に人の流れがあるような気がします。倉敷教会では礼拝以外にも文化的なイベントが数多く催されていますね。

中井)そうですね。竹中幼稚園やキリスト会館、喫茶室を併設していますので、毎日幼稚園児が登園しますし、お茶を飲みにいらっしゃる方、毎週の日曜礼拝に訪れる方など、人がいらっしゃらない日は無いと言ってもいいかもしれません。毎年のクリスマスにはキャンドルライトサービスなども開催しており、幼稚園の子どもたちを主役としたコンサートや劇など、地域の年中行事として定着しているものもあります。また教会以外の主催者によるチェロのコンサートや落語会などもしたことがあるんですよ。

井上)教会と落語とは意外な組合せで、新鮮ですね。

中井)教会の語源は、ギリシャ語の「集会」「呼び出された者たち」という意味の単語です。教会はもともと話をする場所とされているので、落語とは親和性が高いんです。一見ミスマッチの新しさはあるんですけれども、話を聞いたり、催したりする環境としては、まったく支障がありません。また、キリスト教は《歌う宗教》と言われるほど、歌と教会に密接な関わりがありますので、音楽のコンサートはどの教会でも頻繁に行われている印象です。

井上)以前から、キリスト教以外の宗教や他宗派の人々もすべて受け止める懐の深さというのが倉敷教会にはあると感じていましたが、お話を伺いながらそれが印象だけではなかったと分かりました。しかし、そういったスタンスはその教会の牧師さんの考え方によるところも大きいのではないでしょうか?

中井)キリスト教じゃないといけないとか、こういう人でないとダメだとか、そういう厳しい戒律はもともとありません。しかし、ルーツというのは大いに関係するかもしれません。そういう意味では布教を第一としていない倉敷教会の懐は広い方なのかなと思います。人や文化の多様な背景、そしてそれぞれの人との対話を大事にしています。

井上)創立者の林源十郎さんたちも、入信させるための活動ではなく「新しい日本人の生活」の発信をするんだという強い意志を持たれていた。倉敷教会を知れば、大切なのは自分たちのメンバーシップを高めようとするのではなく、「自分たちにできることはないか」という精神だということがよくわかる気がします。


見えないものに目を注ぐ
永遠なるものに目を向ける

井上)私は児童養護施設を支援する活動もしているのですが、虐待や貧困から、子どもたちは何に変えても守らなければならない存在だと思っています。貧しい国に学校をつくる活動をしている、あるカメラマンの著書を何度も読み返しているのですが、著者は世界中を回りながらストリートチルドレンと生活をともにし、「あなたの夢はなんですか」と質問します。最貧国でマンホールの地下で暮らすある子どもは、「僕たちは人間になりたい」と答えたそうです。子どもにそんな言葉を言わせてしまう世界を少しでも良い方向に変えていかなければならない。そのために自分にできることを、できる範囲で実践しています。こういった子どもたちを取り巻く状況を改善する上で、長期的に見ればやはり教育というものが大切なのだと考えが至ります。倉敷教会は設立当初から「竹中幼稚園」を併設されており、幼児教育にも力を注がれていますが、園の方針などをお聞かせください。

中井)竹中幼稚園は、教会附属幼稚園として、大正11年(1922年)に開園しました。初代園長は竹中みつ先生です。最初は新川倉敷教会仮会堂(現在「亀遊亭」のある場所)に開いたのですが、翌1923年に現会堂の場所に移転しました。当初から、幼児や保護者を対象に、「未来は見えないけれど、信頼できるところだ」ということを伝える学び舎として開かれました。今も昔も、教師と子どもたちとの人格的なふれあいの中で、キリスト教を信仰の土台とする人格形成を目指す教育がなされてきました。それぞれの違いを認めつつ、「みんなで一緒に成長することを喜ぶ日々」を目指しています。「今日楽しかったね。明日はどんな楽しみがあるかな」という気持ちを持って帰れるような場所になればと思っています。




多様な信仰を認め寄り添う
教会は《人生の交差点》

井上)本日はありがとうございました。最後に、中井牧師が考える「信仰」についてお聞かせください。また宗教心についてどのようにお考えでしょうか。

中井)学生時代、阪神淡路大震災に遭ったのをきっかけに、地震の前と後では生活も街の様子も全てが一変しました。この経験が、「私たちはいつ壊れてもおかしくない世の中に、儚く住んでいたんや、大事にしている人間同士は一緒に寄り添って生きていかないといけない」と痛切に考える契機になりました。ひとつの宗教だけでなく、多様な信仰を持つ人々が手を取り合い、一緒に生きてゆける社会が理想です。出会い、語り合い、初めて発見できることの中には、豊かさや慰めや和解の恵みがあると思っています。教会が人々の人生における交差点や広場であるように願いながら、地道に働きかけることが務め。私がキリスト教を信仰した大学生の当時は、教会という場は自分にとって異文化で、敷居が高く感じられたものでした。いま、もし同じように感じている方がいらっしゃるなら、私は「教会に来ませんか」と声を掛けます。まずは、教会1階にある喫茶店にぜひ来てみてください。どこにもない味わい深いコーヒーもぜひ楽しんでいただきたいですしね。




◎井上 万都里 株式会社イノウエホールディングス 専務取締役
儀礼文化研究所の創設など文化伝承にも貢献する葬儀社、株式会社イノウエホールディングス専務取締役。オカヤマアワード副会長、葬儀社による全国大会ネクストワールド・サミットの実行副委員長も務める。

◎中井 大介 日本基督教団 倉敷教会 牧師
1976年大阪府豊中市生まれ。同志社大学神学部卒業。日本基督教団神戸教会、千里聖愛教会を経て2014年4月より現職。日本基督教団倉敷教会の代表役員のほか学校法人竹中学園理事も務める。



◎喫茶シャロン
日本基督教団倉敷教会の敷地に併設された喫茶店。1971年の開店以来、地元の人たちに愛されてきたが2019年に惜しまれつつ一時閉店。2021年1月より再開する。ステンドグラスのペンダントライトが映える歴史的な空間は、流行りのカフェとは違った趣を感じることができる。ここでしか愉しめない店主こだわりのコーヒーは格別の味わい。
住所:岡山県倉敷市鶴形 1-5-15 日本基督教団 倉敷教会内/営業:月・火・木・金・土 11:30〜16:30
Instagram: kissasharon.kurashiki



◎株式会社イノウエホールディングス
住所:倉敷市二日市511-1/Tel:086-420-1000/http://inoue-gr.jp/

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