Vol.2
AKIHIKO FUKUDA
CASANOVA&CO Buyer _ Okayama city
Age.32
渾身の矜持が、感動になる。
セレクトショップ「CASANOVA & CO」バイヤー。
Tシャツへの愛を、想いを、喋りだしたら止まらない。
ファッション界のタブーを冒しても貫く、“語りすぎ”スタイル。
縫製職人出身だからこそのミクロな視点から魅力を紐解く。
PHOTOS BY. Shinichiro Uchida(SUPC)
未知のもの、そこに宿る哲学と完成度に感動するものを扱いたい。
岡山でファッション感度が高い人が集うセレクトショップといえば、必ず名前が挙がるであろう「CASANOVA & CO」。バイヤー兼運営責任者である福田さんは、「自分が一番好きだと思える、服の世界で生きたい」と、卒業直前に大学を中退。ファッションの専門学校に編入し学びなおした後は、「服を根本から知りたい」と児島デニムの縫製職人となった。 7年前に販売員として「CASANOVA & CO」の一員となってからも、既存のアパレル業界の常識を覆しまくっている異色の存在だ。最大280倍までズームアップできるという、工業用のマイクロスコープを駆使して生地の細部まで解き明かす。さらには《喋りまくる》接客で、デザイナーの想いを、訪れた人たちに余すことなく伝える。その姿勢は販売者というよりも研究者であり伝導者のようである。「Tシャツに限らず、僕が服に求めるのは《自分の思考を妨げないこと》。スタイリングや自分がどう見えるかどう見せるか、ってよりも快適に着れるかどうか、なんです」。特にTシャツはそれ一枚で着るシーンが多いもの。また、一年でもっとも不快な季節に着るものでもある。肌に触れたときの印象が最重要だ、と話す。服屋としてはあんまりだなと自覚はあるものの、福田さんがこだわるのはスタイリング以前にあるという。「見せたい、よりも《着てもらいたい》。うわーって感動する、今までになかったものを扱いたい。ブランドの想いや考え方が服の中にあるかどうかが、僕にとっては重要なんです」。
地方だからって諦めない。 服を通してつくる接点と体験。
「CASANOVA & CO」で展開しているブランドは、地方都市に居たままでは触れられないものが多い。また、ただ陳列するだけではなくその服を《そうさせている》理由や背景、生い立ちに至るまで追求する。「こうなったのは、子どもの頃に感じた、服へのコンプレックスにあるんです」。 幼少期を過ごしたのは鳥取県米子市。小学校に制服はなく、周りの友達はとんでもなくオシャレだったのだそう。「当時流行っていたナイキやアディダスをはじめ、プレミアがついているスニーカーを履いてる子もいました。自分もいいなあと憧れて、お年玉を貯めて買ったり、ねだって買ってもらったりしてた。でも、インターネットや雑誌など情報だけは手に入るのに、そこに載っている、本当にほしいと思えるカッコいいもの、を手に入れることができなかったんです」。当時は今のようにECが当たり前ではなく、店舗で買うしかなかった時代。店舗数も商品の種類も少なく選ぶことは到底、叶わなかったのだ。「鳥取は遅れている」との悔しさが、コンプレックスになってしまったのだ。 「東京に行かなければ着れない、触れないという境界線のようなものをなくしたい、って思いました。今はSNSがあって、ネット上ではデザイナーも一般の方と触れ合うことは可能になりましたが、実際に服を見て触りながら話ができるってのはなかなかできない体験なんじゃないかって」。時代が流れ、地方でも自由に手に入るようになった。流通格差はなくなったように見えるが、「体験」と「接点」において、確かに格差は広がっている。 地方都市のセレクトショップにしかできないこと。「CASANOVA & CO」だからできること。様々な新しいチャレンジも、未来を見据えてのこと。「例えばエリアで一番、とか。そうした格付けみたいなものにはいろいろな意味があると思っています。ただ売上高や知名度ではなくて、スタッフの知識やスキルなども含めて、来店してくださる方へのパフォーマンスをどれだけ高めていけるかに価値を置きたいって考えているんです」。価格的にも雰囲気も、敷居の高い場所にはしたくない。でも他にはない価値を感じられる、服の本当の良さや楽しさを伝えられるエントリーポイントではありたいと言う。「お客さんにいただいた言葉ですが、入口であり出口であることを大切にしたいと思っています。僕はまだキャリアが浅いし失うものがない。若さをアドバンテージにできるように、これからもやれることをたくさん探して、実現していけるようにしたいと考えています」。
Tシャツとは、 ブランドの力が試されるもの。
服にソウルを求める福田さんにとって、Tシャツはシンプルだからこそ難しいと考えている。「そもそもTシャツをつくらないデザイナーさんもいる。面積も装飾も、限りがあるものだからかなり難しいと思います。難しくてシンプルで、差別化しにくいからこそ、ブランドの力が試されるもの、だと言えるでしょうね」。 近日予定されているイベントゲスト「BODHI」のTシャツは、福田さんに新鮮な驚きを与えた。プロダクトはすべてカシミヤオンリーなのだ。「カシミヤ100%の、Tシャツなんです。多分、扱うのはうちだけなんじゃないかな」。カシミヤは繊維が細すぎるために、Tシャツにはなり得ないものだ。手入れにも気を遣う。「展示会でサンプルとして置かれていたものに、一目惚れしてしまって。次のシーズンに置かせてもらう予定にしています」。 この日持参してもらったのはすべてシンプルなデザインばかりだが、ストイックなまでに繊維と生地を追求したものだ。「着ているのは、これまでにない生地と縫製に驚きと感動をもらって惚れ込んだ『山内』の一枚です。実はTシャツはあんまり持ってないし、持っている中でも価格にして最高額は3万円。でも、もしそんな僕の考えを払拭するような、スゴいものができるなら、20万でも30万でも、100万円だって惜しくない」。
刺繍もオリジナルの別注品。街を照らす太陽のモチーフ。—amachi.
「今思えば『amachi.』を取り扱いはじめた2019年は、僕たちにとっての分岐点だったと思います」。ダークネイビー地にオレンジの刺繍。暮れなずむ街に沈んでいく太陽をモチーフにした「CASANOVA & CO」だけの別注品として、すべて柄を違えた20種類だ。文学やカルチャーをデザインに投影する一貫したコンセプトを持つブランドだが、特筆すべきは、身にまとう際に感じられる気持ちの昂りだ。 「異なる絵柄をすべて起こしてもらった、デザイナーのハンドプロセスシリーズです。ブランドの製造ナンバーに加えて販売ナンバーもついていて、提供する側も手に入れてくださった方にとっても、思い入れの強いものなんです」。太陽には《街を照らす》という意味を与え、ディスプレイの際には街の方へ絵柄を向けた。「生地もブランドオリジナルの特注品で、Tシャツには本来なら入れない切り替えがあるなど、パターンも工夫されています。僕自身もすごく気に入って、ずっと着ていた一枚なんです」。このシリーズがきっかけとなり「amachi.」は「CASANOVA & CO」にとって、なくてはならないブランドとして、互いに信頼関係を深めていくのである。
見た目は普通。実は感動的技術の結集。—Olde Homesteader
そして、福田さんイチオシは、アンダーウェアブランド「Olde Homesteader(オールドホームステッダー)」だ。レアな超長綿「スビンコットン」を使用したリブ生地による着心地は、福田さんをして「一度着たら脱げなくなってしまった」ほどのもの。使われているのは特殊紡績によって生み出されたという新素材だ。「正直、圧倒されました。生地を独自につくるブランドは少ないながらも存在するけど、糸からつくってるのは聞いたことがない。Tシャツによくある毛羽立ちがなく、摩耗が少ないために洗濯してもなめらかな質感を維持できるというメリットがあります」。 また、黒色コットンは、生地染めが主流だが、これは「先染め」として糸の段階で染められている。「色に深みを持たせるために、黒糸だけでなくオレンジとグレーの糸を織り込んでいます。後から染め上げる生地染めだとこうはならない」。さらに、Tシャツによくある「後加工」もとことん削られており、糸の力と編み地の工夫が光っている。「Tシャツは後加工のノウハウが充実しているので、新品だと差が見えにくい。洗濯して初めてそのポテンシャルが発揮されるものなんです」。 見た目はとことん普通、しかし袖を通したが最後、これまでのTシャツを凌駕する着心地に、ただ感動しかない。「『これはなんとしても皆に着てもらいたい』と思いました。他ブランドがこのシリーズを見て、敵わないってTシャツの新作リリースをやめたほど。それほどセンセーショナルなプロダクトです」。糸、生地、染め、そして加工。Tシャツの奥深さは、まだまだすべてを知る由もない。
(紹介したTシャツについて)
◯日本の素材を日本人の手で丁寧に仕立て上げる「山内」の定番Tシャツ。世界中の一流メゾンがこぞって使いたがる老舗生地メーカー「小野莫大小工業(オノメリヤス)」の生地を採用しています。まるで競泳水着のごとく、とんでもない伸縮性があるためにこれまでどのブランドにも扱えなかった生地を、卓越した縫製技術で商品化することに成功。驚くほど柔らかくなめらかで、毛羽立ちもないきめ細やかな肌ざわりはただただ、《感動》しかありません。○表面が超強撚糸で裏面にポリウレタン、異なる素材を同時に織り込んでいます。そのおかげでなめらかさだけでなく強さが生まれ、切りっぱなしでもほつれず、くるくるとめくれるようなこともありません。ざぶざぶ洗濯しても劣化が少ないので、Tシャツには嬉しい特性ですね。○色は青みがかかっているネイビーブラック。「山内」らしく細心の注意を払って染め上げられているのはもちろん、表と裏の糸が違うことが色目の違いにも表れた美しい1枚です。
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福田 暁彦
CASANOVA&CO Buyer / Age.32
◯1990年12月、鳥取県米子市生まれ。高校卒業と同時に“日本一ミニマムな公立大学”奈良県立大学に進学、軟式野球と飲み会に明け暮れる日々を過ごす。地元米子にUターンの予定で、信用金庫に内定を獲得するも「自分の人生これでいいのか」と卒業年度に中途退学。《一番好きだ》と思える、ファッションの道に進むべく、大阪モード学園の夜間部に入学。夜は学校、昼はジーンズショップでアルバイトの日々を送る。「生き残りが難しい業界でやっていくには服の上っ面だけでは駄目だ」と縫製職人を目指し、専門学校臨時講師の縁をたどって児島デニムの縫製会社に入社。生地から裁断、仕上げまで、ジーンズに関わるすべての工程を身につけるも退職。2015年に「CASANOVA & CO」へ入社。“語る”バイヤーとして、デザイナーの想いを伝える接客と、マイクロスコープで生地を覗き込み、マクロの世界からの魅力を発信するスタイルが人気を集めている。
Instagram:@akihiko_fukuda
https://www.casanova-co.com/
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