FEATURE
T-SHIRT&ME《PROLOGUE》
09 November 2022
#TAGS
  • #plugmagazine
  • #Tshirt
  • #FEATURE

EQUAL BUT DIFFERENT

PLUG MAGAZINE 編集長 YAMAMON


一昔前は、人前で、「政治」、「宗教」、「野球」の話だけはしてはならないと言われていた。いま現在、こういったタブーが日々増え続けているような気がしている。

人種問題やセクシャリティは言うに及ばず、ワクチンやマスクの有効性、ハラスメントへの見解や歴史認識、国葬の是非など、うっかり本音や持論を述べてしまうと瞬時にラベリング、カテゴライズされ、ばっさり「こういう人」「あっち側の人」というレッテルを貼られてしまう恐れがあるからだ。

多様性とインクルージョンの大切さが語られる一方、発言に過度な覚悟を求められることで表現の自由は実質的に侵され、分断は地下に潜ってあちこちに拡がっている。注意をはらうべきは敵対と孤立。私たちは、アンタッチャブルに支配された現代社会という地雷原の上を、恐る恐る沈黙しながら歩き続けなければならないのだろうか。

そんなことを考えながら、今号ではファッションスナップ特集を企画し、地元の人たち約500人にそれぞれが思い入れのある、または、単純に気に入っているTシャツを着用してもらった。

いわずもがな、Tシャツは衣類の中でも特に政治や社会運動とも密接に関わってきたアイテムだ。1984年、英国のファッションデザイナーでスローガンTシャツの考案者でもあるキャサリン・ハムネットが、当時の首相マーガレット・サッチャーに謁見する際に「58% DON’T WANT PERSHING(国民の58%はアメリカ製弾道ミサイル、パーシングを望んでいない)」とプリントされたTシャツを着て握手をしたことは、特にエポックメイキングな出来事だろう。また、プリントTシャツは特定の集団の属性を端的に示す記号としてだけでなく、映画の宣伝として取り入れられたことを発端に、広告メディアとしても活用され、ミュージシャンや文化的活動を支えるグッズとしての役割も果たしてきた。歴史を紐解きながら考察するほどに、たかがTシャツ、されどTシャツではあるのだが、ここでは仰々しく持ち上げることはしない。

ただ、このスナップ企画を見てもらえば、これだけの大人数がいても一つとして同じものが無いことだけはわかってもらえるはずだ。デザインや色、素材、プリントや刺繍といった表現技法、経年変化の具合、価格、サイジング、選んだ理由、全て異なっているがどれも同じTシャツであることに変わりはない。

プリントTシャツに代表される何かしらの記号を着ることはすなわち意思表示であり、個人の内面を表現する行為、アイデンティティの発露だとも言えるが、だからといって「こいつ、男のくせにキャラクター物のピンクのTシャツを着ていて気持ち悪いやつだ」なんて風に蔑んだり、「みんな新品ばかりで何もわかっちゃいない。ヴィンテージの良さを教えてやらないといけないな」みたいに自分の価値観を押し付けようとは誰もしないはずだ。数年前に韓国のアイドルグループが原爆投下の写真がプリントされたTシャツを着用して炎上したことがあったが、例え挑発的なメッセージがプリントされていたとしても、本誌を見て誰かを糾弾しようとする人はまずいないだろう。

それは、着るものに対しては多様性と自由を認めるコンセンサスがおおよそ成り立っており、このスナップがイシューでもないからだ。理由もなくデザインに惹かれて着用しているTシャツに、実はかなり過激な表現があった、なんていうことは誰にでもあり得る話で、要するにそれを問題にしたいかどうかだけ。僕はむしろ、この人はなぜこれを着ているのか、なぜそれが好きなのかに興味を抱くし、もっと知りたいとも思う。

こうした他者への純粋な好奇心こそ、主義主張や意見の相違による分断を是正するアティテュードではないだろうか。みんな違ってみんないいのである。対立しがちな論争も、好きなTシャツを語り合う程度のことだと気を静め、互いを尊重することさえできれば良いのにと思ってしまう。私たちは誰かに規定される存在ではなく、私見をどこかに押し込めることもしなくていいはずだ。

好きなもの、嫌いなもの、正しいと思うもの、間違っていると思うもの。カッコイイと思うもの、ダサいと思うもの、価値があると思うもの、価値がないと思うもの。言葉にするのが憚られるのなら、知らないふりをして黙って着てしまえばいい。少なくとも、僕にとって好きな服を着ること、スタイルのある人を観ること、それについて語る自由は、こんな時代を生きていく上で無くてはならないカタルシスである。

ごちゃごちゃ考えずに、好きな服を着て、今日も1日を楽しく過ごそう!

________________________________________________________

BACK TO TOP