COLUMN
VOL.10 古市大藏の岡山表町慕情。
09 November 2022
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岡山のまちづくり・ひとづくりの立役者であり世話人、古市氏による表町を舞台にした考察コラム。
Photo: Yukari Fujii text: PLUG



岡山の《シグネチャー》とは何か

すばり、「金烏城」です。金烏城という言葉は、貴金属商から創業したトミヤの《金》と岡山のシンボル《烏城》とをかけ合わせた新しい価値観です。来年2023年は令和の大改修を経た岡山石山城450年の節目。同時に表町商店街の町開きの年であり、トミヤ創業90周年のアニバーサリーイヤーでもあります。その記念として、今年の創業祭の時に純金製の「金烏城」を特別プロデュースしました。岡山城のアシンメトリーなフォルムを純金で忠実に再現し、天守閣の瓦や石垣の一つひとつまで丁寧に設計した一品で、11月3日の岡山城リニューアルオープンに合わせて完成させてお披露目するつもりです。改めて「岡山のシグネチャーとは何か?」と尋ねられても、桃太郎とかマスカットとか、どうしてもワンパターンな答えになりがちですね。岡山を語る時、金沢を引き合いに出されることも多いですが、金沢には伝統的な地場産業がいくつもあります。たとえば九谷焼きとか輪島塗りとか。ところが岡山に何があるかと考えると、「備前焼かなぁ」ぐらいしか思いつかない。岡山をモノで形容しようとするのはなかなかに難しい。岡山の場合、物質的なモノではなく「圧倒的な歴史」にこそ価値があり、それをもっと誇示すべきではないかと思います。5世紀頃の古代吉備国には日本を席捲するぐらいのパワーがあって、大和朝廷が吉備津彦命を遣わせて征伐しようとしたほどでした。それ以後も吉備真備や和気清麻呂といった、中央政府を動かすような人材を多数輩出しています。江戸時代には、山田方谷をはじめとする学者や偉人も生まれました。明治時代以降に東大の医学部や阪大の医学部の基礎を築いたのも岡山の人です。このように歴史を紐解くと岡山の人が歴史を背負い、日本の発展に貢献してきたにもかかわらず、形として残っていないためにシグネチャーにふさわしいモノのイメージが希薄なのです。また、重要な交通の結節点でありながら、通過都市になり兼ねないような状況であるのも残念です。岡山にとって歴史的な節目の時こそ、岡山が日本人のふるさとだと自信を持って言えるぐらいの価値を再発見する必要があると感じています。




《文化の伝承》が今後のライフワーク

現在、当社の90周年を前に記念誌を執筆していますが、そこにはトミヤの生い立ちも記しています。岡山藩士・奥村安心の子で、伝説の剣豪と呼ばれた奥村左近太を祖先に持つ創業家として、今こそ450年前の表町町開きの原点に立ち戻らなければならないとの思いを強くしています。振り返れば、戦後の復興期から現在まで、商店街の振興を担ってきた表町の商人たちには、「よい商いをしたい」「物販だけが商いではない」という誇りと気概がありました。表町商人の役割は、モノの提供だけではなく、精神的な豊かさや、人々の交流の場を提供すること。すなわち「文化の伝承」にあると考えてきたのです。私もその思いを継承し、表町を「人生の豊かさを得る」場として次代へつないでいきたいと活動しています。永続性のある、《サスティナブルコミュニティ》にしたいという思いもあり、岡山をシンボライズする烏城をテーマとして、郷土の歴史をもう一度見直していきたい。人それぞれにとって、思い浮かぶ岡山の象徴的なものがあると思いますが、もっと郷土を深く知ることで、ぜひご自身にとっての地元シグネチャーを新たに確立してもらえればと思います。


「Agedor(黄金時代)」に込めた期待


11月3日に、トミヤの原点である金を主軸にした売場とギャラリー、3・4階には大学生の情報発信サロンを併設した店舗をオープンします。店名である「Agedor」は、「Age of gold」(黄金時代)を意味するフランス語。当社の主な取扱商材である貴金属類において、ここ4、5年は「アセット・バリュー」/資産価値への注目が高まりましたが、トミヤでは一貫して「エモーショナル・バリュー」、すなわち「心の満足」をテーマにしてきました。コロナ禍を経て「暮らしの豊かさ」が再び求められていることから、インテリアなどの商材も新たに加え、岡山県出身アーティストの絵画や工芸品も紹介する予定です。3・4階の学生サロンは、私がライフワークとして取り組んでいる《表町文化村構想》の一環でもあります。岡山県立大学、中国学園大学・中国短期大学と連携協定を結び、地域社会の発展や、地域で活躍する人材の育成を目指しています。彼ら彼女らの感性を発揮してもらえる情報発信の拠点として活用してもらい、主体的にまちづくりに参加することで、若者たちに「私のふるさとは岡山なんだ」ともっと実感してほしいですね。この店から岡山の《アジュドール》(黄金時代)を新たに築いていきたいと思います。

Agedor
岡山県岡山市北区表町2-1-44
2022年11月3日グランドオープン

〇古市 大藏(株式会社トミヤコーポレーション 代表取締役 会長)
1945年岡山市生まれ。世界の一流品を扱う時計・宝石の専門店を岡山県内に11店舗展開する㈱トミヤコーポレーションの代表取締役会長。岡山商工会議所副会頭のほか様々な地域経済団体でも役職に就き、長年に渡って岡山のまちづくりに尽力し、地域を担う若手の育成や教育にも携わっている。商人の精神「三方よし(売り手・買い手・世間)」に(地球・未来)を加えた「五方よし」の精神で地域の未来を見据える。

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