それぞれの業界で活躍する大人の女性たちに、昭和中期の岡山の写真を見せながら 「理想の女性像」「男らしさ、女らしさ」「令和の女性の生き方」などについて考えを訊いた。
彼女たちの言葉に、貴方は何を思うだろうか。
命が細分化し再び還る場。宇宙を内包する田んぼを詠む。
○短歌や詩を書きはじめたのは十九歳の頃。結婚する気もなかったのに嫁ぐこ とになり、そこに自分の居場所がなく寂しかったのがきっかけでした。ですが、自分の心中を抉るような短歌を詠むのは辛くなって、四十四歳の時に俳句に転向します。作品に通底するテーマは、「田んぼ」。私自身、結婚してからずっと封建的な義父に従って田んぼを手伝ってきました。子どもを置いて農作業に出る時はつらかったですね。自分の居場所もなかった。それで居場所を作るために自分のやり方で田んぼを任せてもらうことにしたんです。田んぼっていうのは、命が分かれて細分化し、また集まってくる場所。そういった農業の実景や命を詠んでいます。理想の女性像は、そうやって田んぼで働き続けた田舎のおばあちゃん。おばあちゃんの内面はすごいきれいで、ふわーっと解かれている感じ。今、誰もが「男」だ「女」だと主張しすぎるでしょ。そんなに張り合わなくてもいいと思うんです。おばあちゃんはそんなことは言わんかった。淡々と生きていた。一人ひとりが人間として自立して、自分ができることをする。自然体でいればいいと思うんよ。だから、私は男らしい女性とか、女らしい男性とか、「男と女」という相対関係が近づいている存在が好き。そのどちらをも超越した存在が、田舎のおばあちゃんなんよ。そういう人を目指すことで、社会は成熟し、平和になるんじゃないかと思うんです。今の世の中は少し「個」に偏り過ぎているような気がするね。社会が個に細分化したとしても、巡り巡って集まってくる「田んぼ」のような場が、いまの時代には必要なのではないかと思います。
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前田留菜
俳人
◯1944 年岡山県生まれ。63年福武書店(現・ベネッセ)に入社。1989年俳句結社「童子」へ入会し、俳句を始める。93年総社市文学選奨受賞。2000年岡山県文学選奨受賞。06年句集「田んぼ」(文学の森)出版。文学の森優良賞受賞。16年より句集「夏」(フランス堂)出版。
◯(捨てられない服)30年前に倉敷の『YOMOGI』で買った綿生地のシャツ。夏でも涼しくて着心地が良いんで 擦り切れてレース状になっては継ぎはぎして着て、最後は田んぼ用におろすんです。
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がんばらない保育・介護で女性の進出を応援。
○3人の子育てをしながら40代で作業療法士資格を取得し、医療福祉の道に進みました。現在は理学療法士養成校、介護付き有料老人ホーム、障がい者支援事業、保育園などを岡山県内と首都圏で運営しています。理想の女性像はマザー・テレサ。自身で経済的に自立して、人や社会の支えになれる女性を目指したいですね。というのも、夫が運営する医療法人で、かつて私の意見や思いが女性だからという理由でなかなか受け入れられない現実を知りました。そうした体験から、やはり経済的にも社会的にも自立しなければと、勉強して作業療法士の資格を取り、2つの法人と株式会社を設立したのです。今、ジェンダーギャップについて世の中で問われていますが、女性自身が経済的自立をして意識を変える必要もあるんじゃないかしら。役職や転勤に尻込みし、能力があるのに発揮できずにいる女性をたくさん見てきました。子育てしながらキャリアを積みたい女性を応援するために、当保育園では、持ち物をすべて園で準備する「がんばらない保育・手ぶら登園」で育児支援をしています。「女性らしさ」や「男性らしさ」を完全に否定することはないと思います。男性らしい力強さだとか、女性らしいかわいらしさや、心遣いは美点です。そういうほめ言葉としての「女性らしい」はウェルカム(笑)。男女が互いの良さを認め合いながらも、古い価値観を払拭し、ダイバーシティの意識で日本を盛り上げていきたいものです。岡山には、永瀬清子さんのような詩で女性解放を歌いそれを届けようと活動した先人がいらっしゃいます。今改めて、彼女の詩を読み、女性の生き方について女性自身が考える必要があります。なぜならば、新しい時代をつくり、子どもたちにより良い世界を届けるのが私たちの責務なのですから。
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福嶋裕美子
法人・会社経営者
◯1953年、神奈川県横浜市生まれ。75年、青山学院女子短大を卒業。47歳で作業療法士、54歳で医療福祉学博士を取得する。99年に株式会社ドルフィン・エイド代表取締役に就任。2012年に福嶋学 園理事長、18年にドルフィン福祉会理事長に就任する。
◯(捨てられない服)「YOKO CHAN」のワンピース。滝川クリステルさんが結婚発表会見で着用されたものと同型です。美しいカッティングや華やかなパールがアクセントで、年齢に関係なく着られるデザインです。
Instagram @yumiko.fukushima.50
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暮らしの中の小さな幸せを、大きな喜びに。
○12年前に円山に移り住み、この自然や四季を、たくさんの人と共有できたらと思って、季節ごとの暮らしの発信をはじめたんです。私の思いに共感してくださる方々がここに集まって、一緒に手仕事を楽しんだり、お料理を作ったり。回を重ねるごとに徐々に人数が増えていきました。その延長線上ではじまったのが私が企画する「円山マルシェ」。もっとたくさんの方に豊かで癒される暮らしのあり方を提案していきたい、そんな思いで開催を続けています。理想の女性は、アメリカの絵本作家、ターシャ・テューダーさん。自分で広大な土地を開拓して花畑を作って、自給自足の生活をされていました。小さな幸せが、大きな喜びにつながるっていうお手本のようなライフスタイルに憧れます。円山ステッチでは、ここを誰もが一個人に戻れる場所にしたくて、皆さんを下の名前でできるだけ呼んでいます。誰もが性別や他人に縛られるべきじゃない。でも、目には見えないけれど、この場所には他界した建築家の夫の精神が宿っていて、今も守られている感覚があるの。そういうとき、やっぱり男性は女性を守ってくれる存在なんだなあって気づくんです。現代は、情報が外へ外へとあふれ出しているじゃない。でも原点回帰して、一回足を止めて考えて、「自分は何なんだろう」とか「今日は何をすると幸せかな」って、自分と向き合う時間を持ってみるのもいいんじゃないかな。小さな幸せを積み重ねるうちに、人から喜ばれたり感謝されたりすることもあって、それってすごく幸せなことですよね。小さな幸せや喜びが積み重なると、思いもよらない大きな気づきに到達するんじゃないか、そんな風に思いながら毎日を過ごしています。
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佐野明子
「gallery 円山ステッチ」代表
◯1959 年倉敷市出身。2010年に岡山市中区円山に移り住み、「季節の声に耳を澄ませて、心豊かな暮らしを」をコンセプトに、豊かで癒される暮らしを提案する暮らしのデザイナー。自身がセレクトした手仕事の品を集めたイベント「円山マルシェ」は県内外で 22回開催。
◯(捨てられない服)赤磐のレース工場で制作された「音の絵」オリジナル刺繍生地(テキスタイルデザイン 佐野明子)で、 採寸し、仕立ててもらった一着です。
Instagram @maruyama_stitch
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