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一時代の女性譚_Vol.09 女性目線
03 June 2022
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それぞれの業界で活躍する大人の女性たちに、昭和中期の岡山の写真を見せながら 「理想の女性像」「男らしさ、女らしさ」「令和の女性の生き方」などについて考えを訊いた。
彼女たちの言葉に、貴方は何を思うだろうか。


性別を超えて、対等でいられるパトーナーと歩む。

○1974年、パートナーである(能 勢 )伊勢雄さんが、岡山でも画家やデザイナーやミュージシャンが集まって刺激を受け合う場所を作りたいといって始まった場所、それがライブハウス「ペパーランド」です。参画当初の私は、ライブハウスのことなんて何にもわからないただの女でした。年前のライブハウスの現場って責任者は男性ばかりだったので、彼らに女性だからって不安がられないよう刑事コロンボみたいにゆっくり喋るよう心がけていました(笑)。私にとっては、結婚=仕事。役割分担もあるし、お互いを支え合わなきゃいけない。そういう意味でリスペクトしているのは、オノ・ヨーコと樹木希林さんかな。夫婦で何でも一緒にするんじゃなくて、お互いのしたいことを尊重し、離れて見守りながら、また集まって互いを鼓舞できる。どちらもいわゆる男性っぽさを併せ持った女性だと感じます。ジョン・レノンの「ダブル・ファンタジー」のジャケットは、ジョンが柔らかい女性的な表情で、ヨーコは男性的なの。女性が凛々しいことだってあるし、男性の心が折れやすい時もあるでしょ。性別は関係なく対等でいられるのが理想ですね。生前、永瀬清子さんにお会いした時に、「若い人みんなに私を使ってほしいの。私はみんなの椅子になりたい」と話していた。彼女の詩には、はっとさ せられるような「女性らしさ」を感じます。令和の時代、まだまだ男性社会でやりにくいとは思うけれど、女性の地位を向上するために努めてくださった先人が大勢いらっしゃる。そういった人たちのことをもっと知ることで、希望を持っていまを強く生きてほしいなと思います。

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能勢慶子
「ペパーランド」ブッキングマネージャー

◯1954年、岡山市出身。ペパーランド開業の翌年から現場で仕事をはじめ運営に携わる。同年に能勢伊勢雄さんと結婚。ライブハウスという呼び名もない時代から音楽の流れを目撃しながらブッキングマネー ジャーを務める。出演者に寄り添う自然体な仕事ぶりで慕われるペパー ランドの「頼れるお姉さん」。 

◯(捨てられない服)約10年前に古着屋で買ったジャンパースカート。憧れだったオズの魔法使いのドロシーっぽい服を探していて見つけたのがこの服です。あまり着てはないんですけどね。

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弱者をやさしく見守る視点がある寛容な社会を。

○(巻頭写真を見て)昭和30年代の岡山って、人もたくさん歩いていて案外活気があったんですねぇ。仕事のかたわら20年間ライブ活動を続けてきて、現在も2つのバンドでヴォーカルを担当しています。岡山のバンドシーン全体を知っているわけではないですが、ひと昔前の方が個性の突出したバンドも多く、何が起こるか予測できないスリリングさがあったような気がしています。今は画一化された、わかりやすい展開のサウンドがメジャーなのかな。そういう決まった格好良さも好きです。理想の女性はアメリカのシンガーソングライター・パティ・スミス。「女性として」というより、女性と男性を兼ね備えた中性的なセクシャリティに惹かれます。詩人の永瀬清子さんもそう。戦後に帰岡して以来、ずっと農業をしながらも詩の心を磨き続けた強い精神と、「あけがたにくる人よ」で綴っているような、秘めた乙女心をあわせ持っている。永瀬さんにお会いした時は普通の小さなおばあちゃんって印象でしたが、詩にはしなやかな力強さがある。そういったギャップはパティ・スミスにも通ずるかも。私は「女の子らしくしなさい」と言われたことはなく、フラットな感覚の家庭で育ったので、フェミニズムを声高に叫ぶ気持ちもないし、男女に関わらず、できる人が助ければいいという考えです。女性に限らず、弱い人を見守る世間の目がちゃんとあって、それぞれが心に余裕をもって人に向き合える社会になることを願いたいです。どんな環境の人でも安心して子どもを育てて暮らしていける世の中になってほしい。いろんな事が起き変わっていく社会をのり越えてゆけるしなやかな感性と強さを持てたらいいなと思います。

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犬養佳子
ヴォーカリスト

◯1963年、神奈川県横浜市生まれ。会社勤めの傍ら1998年に「Rrose selavy/celine」を結成。2018年に「yoromeki」に参加、ヴォーカルを務める。エフェクターを駆使した個性的なサウンドで ペパーランドを中心にライブハウスに出演。 

◯(捨てられない服)14、5 年前に買ったポール・ハーデンのニットと30年前から愛用しているバッグ。ヴィヴィッドな色づかいと使いやすさが気に入って、お出かけの時には使うとっておきです。

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ものづくりの原点のひとつは、祖母の姿。

○イラストレーター・グラフィックデザイナーとして活動して約20年になります。プライベートでは生活に根ざしたものづくりを「生活芸術」と名付けて制作活動もしているのですが、私のものづくりの原点のひとつは、祖母の姿といえるかもしれません。手先がとても器用で、お裁縫、編み物、木彫りなどの技術を使って、家族の生活道具を自らの手で作っていました。それらが暮らしを美しく豊かにするのを目の当たりにして育った私。尊敬する女性といえば、そんな祖母の姿が思い浮かびます。私の場合、仕事で日常的にジェンダーギャップを感じることはありませんが、それはフラットな関係で仕事ができる相手を本能的に選んでいるからかも。ただ、クライアントから「柔らかいデザイン」をという要望はよくあります。女性だからというより、私の一つの個性に対する依頼だと感じています。こういった様々なニーズに応えることで、相手から自分の引き出しを増やしてもらっている。そんな風に考えています。近年は企業のトップで活躍している女性が以前より増えた印象はあるものの、依然として圧倒的に男性が多いですね。日本において、いまだに女性がキャリアを積み重ねていくことの難しさを物語っていると感じますね。若い世代の方には、新旧、国内外問わず、さまざまな価値観に触れてほしいと思っています。そうやって視野を広げることは、それ自体が生きやすさにもつながるのではないでしょうか。私が非常勤講師を務めている学校では、恩師であるエディトリアルデザイナー羽良多平吉氏のことを紹介しました。その道の先駆者を知ることが、10代の学生にとって大きな刺激につながったように感じています。

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タケシマレイコ
グラフィックデザイナー・イラストレーター・アーティスト

◯岡山県岡山市生まれ。女子美術大学芸術学部芸術学科卒。2003 年にグラフィックデザイナー・イ ラストレーターとして独立。届けたいことを、届けたい相手に、心を込めて伝える贈り物のようなビジュアル コミュニケーションを目指し、県内外で活動中。『FUEKI vol.60』からデザインとイラストを担当。倉敷市 立短期大学非常勤講師。 

◯(捨てられない服)数十年の時を経て日の目を見た母手作りのパンツ。当時はモンペみたいだと思って引き出しにしまった ままに。出してみると今の気分にぴったりで、履くと温かみがあって大活躍しています。

Instagram @reiko_takeshima

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