COLUMN
VOL.09 古市大藏の岡山表町慕情。
09 May 2022
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岡山のまちづくり・ひとづくりの立役者であり世話人、古市氏による表町を舞台にした考察コラム。
Photo: Yukari Fujii text: PLUG



「表町今昔物語」戦後の原風景

今から77年前の1945年、世界大戦下の岡山空襲で現在の内山下から岡山駅まで建物のほとんどが焼かれ、表町はまさに焼け野原になっていました。ちょうどその年に生まれた私の原風景は、戦後の何もないところから立ち直ろうとする人々の姿。表町はすごいスピードで復興し、そこで商いを営む人々は“まっとうな商売をする”という誇りを持って地域と人々のために街づくりを進めていたと聞いています。当時は、お祭りも頻繁に行われていたし、活気にあふれていました。今ではもう見る影もないのがなんとも寂しい。少子高齢化がどんどん進むにつれて、街の様相も変わっていくのは時代の流れというものなのでしょう。
トミヤは“金”の売買を生業とした地金商がルーツ。当時から金は、通貨価値が不安定な際の貯蓄や投資対象としての存在で、大きな印台という指輪や首が疲れそうな重量のネックレスなど、美しさより大きさ・換金性の高いものが求められていたのです。そして時代が変わり、宝飾品が資産という位置付けから、人生を彩るためのアクセサリーへ。なくても生きていけるけれど、そばにあることで人生を豊かにしてくれるもの。トミヤの理念「デザート・オブ・ライフ」に繋がる価値観です。時代によって移り変わる価値観の変化、そういったことに対応し我が社も柔軟に変化したからこそ、現代まで続けられたのかもしれませんね。


コンパクトシティと“商い”の姿勢

岡山のコンパクトシティ化には、交通網の中核を成すバス沿線をどうまとめていくのかも大きな課題になるでしょう。現在も赤字路線が問題になっていますが、岡山は近隣との合併を繰り返したために、市域が広範囲にわたってしまった歴史があるため、まとめるのは相当困難を伴います。境界になってしまった北区の御津エリア、南区の灘崎エリア、東区の西大寺エリアなどは、そのエリアの中でまた小さいコンパクトシティを形成していく必要があるのかもしれません。ただ、あまりにも細かく分散化すると、それによって起こる弊害は今後ますます進んでしまう恐れもあります。地域の皆さんは自分事として、行政に積極的に参加し、自分たちの街づくりを進めていただきたいですね。
「地方都市の縮小、コンパクト化」という言葉で誤解しないでほしいのですが、商いそのものをコンパクトにする必要はありません。むしろ交通の結節点であるメリットをもっと活用すべきで、日本中、世界中から岡山に人を集めるくらいの気概を持たなければならないでしょう。1991年、岡山シンフォニーホールが完成した頃は、「中国エリアを代表する、本物の音楽が聴けるコンサートホール」としての矜持を確かに持っていたのです。企業と自治体がしっかり手を組み、岡山県内だけに目を向けない、グローカルな視点で事業展開をしていく必要があるのではないでしょうか。


キーワードは「先見性」と「本物の価値の提供」


少子高齢化に格差社会、そしてコロナ禍。戦後の混乱期を想起させるような、時代のうねりが起きています。これからは、戦後の混沌期と同じようなハングリーさがなければ生き残れない時代になっていくのかもしれません。「このままでいい」「人と同じでいい」という考えのままでは、今いる場所から少しずつ落ちていく。すでに誰かが持っているものや、顧客のニーズを聞いてから採り入れるようでは、もう遅いということなのだと思っています。つまり必要なのは《先見性》。そして、《ここでしか得られない価値の提供》です。
有能な若い世代の県外流失に歯止めがかからない現状において、今後地方都市は縮小せざるを得ない。表町商店街はさらに厳しい状況になっていくのは予想に難くありません。ですが、戦後の復興期から今まで商店街の振興を担ってきた表町の商人たちには“誇り”があります。その誇りの根源にあるのは、「物販だけが商いではない」という気概ではないでしょうか。つまり、表町商人の役割はモノの提供だけではなく、精神的な豊かさや、人々の交流の場を提供すること。すなわち《文化の伝承》にこそあると考えています。時代の変遷の中、消費者の購買行動は大きく変化しました。大型ショッピングモールやネット販売など「モノ」を手に入れるためのチャネルはあふれています。だからこそ、私は表町を「物販」だけではなく「人生の豊かさを得る」場として次代へつないでいきたいのです。私の長年のライフワークとして取り組んできた表町商店街振興の集大成として、《表町文化村構想》を推進していきたいと思っています。

〇古市 大藏(株式会社トミヤコーポレーション 代表取締役 会長)
1945年岡山市生まれ。世界の一流品を扱う時計・宝石の専門店を岡山県内に11店舗展開する㈱トミヤコーポレーションの代表取締役会長。岡山商工会議所副会頭のほか様々な地域経済団体でも役職に就き、長年に渡って岡山のまちづくりに尽力し、地域を担う若手の育成や教育にも携わっている。商人の精神「三方よし(売り手・買い手・世間)」に(地球・未来)を加えた「五方よし」の精神で地域の未来を見据える。

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