INTERVIEW
感情の赴くままに。自分が“おもしろい”と思ったものを表現できる場所。
28 December 2021
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2021年5月3日月曜日、倉敷警察署の対面に小さな古着屋がオープンした。《ダヴダムドゥーナイン》ちょっと変わった名前とロゴ、お店の立地すらもここでいいの? と、心が少しウロウロしてしまう感じ。

「だが、それがいい」と思わせる吸引力、それこそがオーナーYUKI氏の世界観。

人気美容室《baho IZM》を経営するカリスマサロンオーナーがなぜ古着なのか? なぜ《ダヴダムドゥーナイン》でなくてはならなかったのか? その狙いとビジョンに迫ってみたい。



◎YUKI(木下 行巳〈Yukimi Kinoshita〉)

ダヴダムドゥーナイン オーナー

倉敷市生まれ。倉敷《トップヘアー》にてディレクターを務めた後、1997年に独立し《baho》を立ち上げ。2000年に有限会社アイ・エープロジェクトを設立し、代表取締役に就任。《baho IZM》トップスタイリストとしてヘアーサロン経営の傍ら、創作芸能集団《倉敷芸能塾》を主宰。箏や尺八、和太鼓などの伝統楽器と祭ばやし、備中神楽などの地域に根づいた文化と音楽を共演させ、日本伝統の“音”を表現する活動を展開。子どもたちをはじめ地元への伝承活動のほか、東日本大震災復興支援公演にも精力的に参加している。

https://www.baho80.com





【OBJECTIVE】

語るべき理念はない。あるのはただ「楽しいかどうか」。

警察署の目の前、県内有数のでっかい総合病院のある幹線道路。正直言っておしゃれでもなんでもないロードサイドに《ダヴダムドゥーナイン》の店構えが自己主張している。

通りから見えるのは一面ガラスの真ん中に象られた、四角い額縁。ここから見える店内が、さしずめ一枚の作品だと言いたげだ。

わずか00㎡、アンティーク調のチェストやガラス張りのディスプレイ、無造作に備えられた棚やディスプレイハンガーには文字通り、色とりどりの古着がぎゅううっと詰め込まれて、一つひとつが「ねえねえ! 私を見て! さわって! 着てみて!」と主張する。

なんで古着屋なのか。

「景気が悪くなったとき対策に、とか? 違う違う!」

屈託のない顔で笑うYUKI氏。この人はいつも誰の前でもこの調子で、くしゃくしゃと子どものように笑みを絶やさない。

「ただ、好きなものを置いている。それだけなんよ」。

副業でもなく、事業のもう1つの柱というわけでもない《パラレルキャリア》という働き方が注目されている。YUKI氏はれっきとしたトップスタイリストであり実業家でもあるから、この言葉の本来の意味とはかけ離れているかもしれない。昔ながらの《二足のわらじ》という言葉のほうが相応しいか。

「僕の周りだけでも美容師って、オシャレな人が多いよ。美容師とファッションは切っても切れん間柄でもあるし。だから美容師とアパレルショップの両立っていう道をつくれればええなあっていうのもまあ、ある。でもホンネ言うとビジネスってより《自分》。僕が好きじゃなあ、可愛いなあ、と思うものに囲まれたいって、その想いが強いんですよ」。

《baho IZMのYUKI》という名前は今や大きく、本人の思惑を外れたところにまで膨れ上がってしまったと言う。「わざわざ名指しで来てくれるわけよ。なんていうか、リスペクトしてくれてるというか。ありがたいんだけどそれはもう、フラットな関係じゃない気がして」。



【CATALYST】

「未熟者の放つ、“毒”を見て欲しい」


カリスマトップスタイリストの名前から少し離れたところで、好きなものが集まっているまさにそこは“秘密基地”。「若いお客さんから見たらただのおじさんでしかなくて、それがもう楽しくて仕方がない。原点に立ち返って、接客方法とか集客とか勉強し直した。好きなものを見ていられる仕入れはもう、本当にワクワクする。開店からずっとコロナとの戦いの日々だったけど、しんどくても好きなものに囲まれていられる幸せがあった」。

もともとYUKI氏は学びたがりの勉強したがり。いくつになってもわからないことがあることがうれしいんだそう。

それにしても、そもそも《ダヴダムドゥナイン》って何だ。

「ドゥナインが“毒”って意味。昔後輩に『YUKIさんの伝記を書くとしたらタイトルは“毒”にするよ』って。彼が言うには“毒”ってあるときは栄養にもなる表裏一体の刺激物。いい意味でも悪い意味でも誰かに何かしら影響を与える“刺激”。そこに“愚か者”とか“未熟者”の意味の「dob」と「domb」をくっつけた。出来の悪い愚か者みたいな感じです。」
店の名前も、YUKI氏そのものだと、そういうことだ。

「今のファッションってシンプルというか、みんな冒険したがらないでしょ。だからこそ“刺激”、逆にブルーオーシャンになりうるとも考えてる」。真逆というわけではないけれど、少しだけの冒険。そこにおもしろさを感じてほしいというのがYUKI氏のフォーカルポイントになっているようだ。「“変な服”よ。カテゴリーまとめると。僕が好きなものって、かなり世間のスタンダードからズレとるけぇね」。


【AXIS】

究極の自分軸キュレーションショップ

流れるレコードも、YUKI氏セレクターのレア盤ばかり。「今はクラシックが多いけど、決まってないよ。昭和歌謡からロック、色々混ざってる。お客さんからもらったレコードも多いしね」。

意外とレディースが充実しているのも新鮮だ。「ウチの2人の娘を見てると、5,000円以上の服を買うのはすごい勇気がいることで、ご褒美感覚みたい。できるだけ勉強してあげて気軽に買えるようにしたいとは思ってる」。

欧州の古着が充実しているが、有名ブランドもアメカジも置いてある。ついでにYUKI氏の私物も混じってる。ジャンルをひとくくりにできない、つかみどころのなさが特長だ。「中心はあくまでも“自分の好きなもの”。自分軸、自分視点でのキュレーションショップだから」。

ただ仕入れるだけもおもしろくないだろうと、次に目指すは“オリジナル”リメイクデザインだとのこと。「美容師も楽しいけど、長くやってるとクリエイティブが落ちてくるんよ。新しい視点と場所でブラッシュアップしていけたらいいなってずっと思ってて、それが叶ったと思ってる」。

縫製がどうとか、素材が、とか細かいことはよくわからんからどうでもいい、とYUKI氏。コンセプトがないのがコンセプト、デザインが良ければそれで良し。そして手にとってくれる人が喜んでくれればなおさら、良し。

自分軸と言いながら、ノーコンセプトと言いながら、相手を喜ばせたいというYUKI氏の宝箱なのだ。

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