FEATURE
TOUGHNESS OF THE DENIM_Vol.03
05 November 2021
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INTERVIEW;

YUTA YAMAMOTOSOUMO デザイナー


(自由) → 自由

2015年に岡山で誕生したブランド「SOUMO」のコンセプトは ものがたり と こだわり に囚われるばかりで
勘違いされ履き違えた(自由)から抜け出すことにある。 ユーザーを置き去りにする業界の慣習や都合から解放された 01/01からはじまる、数はわずかだが鮮烈な印象を残すプロダクト。
デザイナー山本雄太によって岡山児島から生まれた新たなデニムは、 古来の技法に着目した「和紙」との融合からはじまった。 手織り和服の概念を採り入れた1本に《GENE(遺伝子)》が宿る

「SOUMO」の新作発表はいつもゲリラ的。“シーズンだから”でもなければ、“展示会が控えているから”でもない。「つくりたい」と思ったとき「つくりたいもの」をつくる。そして「つくれた」ならばすぐに発表し、ユーザーの元に届けられる。とてもシンプルで、何にも縛られない。こだわりから解放されたクリエイティブは、形骸ばかりの「自由」という名の束縛からもっとも離れたところにその身を置いている。





慣習と伝統からの解放


業界の慣習や決まりごと、セオリー、商業主義。クリエイティブの周りにつきまとう、足枷のファクター。時に新たな驚きや感動の邪魔をする。それらをできる限り排除してただ《自由》に。相反する矛盾に抗いながら。「SOUMO」の挑戦から見る、もうひとつのデニム。



好きなものを好きでいたい


子どものときから服が好き。古着ショップの店員となったころは好きなものに囲まれる喜びにあふれていた。やがてバイヤーとして海外で仕入れを行うようになってしばらく経つころには「仕事」としてのルーティンに変わってしまっていた。「アパレルの新作というのは、発表されてから店頭に出るまで半年から1年のタイムラグが生まれるのが常。お客さんに着てもらうころには発表時のテンションも新鮮さもすでに失われている。それを『最新のコレクションですよ』なんて言うのは嘘じゃないかって」。 そうしたタイムラグは供給側(つくり手)の都合でしかなく、実際に着る人のことは考えられていないと感じた。業界の慣習から抜け出したいと考えて自ら渡米し仕入れも行いすぐに店頭に出す「thePLACEBOX3129」を始動。「ギャラリー的な立ち位置ではありましたが、インテリアやアート作品セレクトの中に自身の製作する洋服を空間の1ピースとして配置したんです。その洋服たちの評判が良く、それが現在のSOUMO の原点となりました。」 シンプルで落ち着いたデザインと洗練されたカッティング、素材の質感、プロダクトコンセプトの自由に相応しく、なにものにも囚われず自分が着たいと思ったものが形を成している。シーズンも一応くくりとしてあるだけで、基本はバラバラ。リリースもゲリラ的で、完成した時にリリース。告知もSNS で行うのみだ。「コレクション(セクション) が10の時にグラフペーパーにお声かけいただき個展を開催しました」。その個展をきっかけに業界の玄人たちから高く支持されるようになる。 (自由)から自由へ 《凝り固まったもの》—山本氏は世にある《自由》をこう捉える。「()閉じ込められた、自由だと勘違いされた何か。素材とかデザインとかこだわればこだわるほど、その(こだわり)と言う製品になってるんじゃないか。こだわるのはもちろんなんですが、(こだわり)の外、解放されたところにこそ本当のクリエイティブは存在するんだと思っています」。評価の高さをもってすれば、商業ベースに乗せようとすればできるのかもしれないが、バランスは崩したくない。あくまで自分が着たいもの、いいと思うものだけをつくりたいという姿勢は崩さない。デニムの採用も単なる閃きからだった。「元々それほど好んで着る素材ではありませんでした。決まりも多いし、履きやすさを求めるならデニムである必要もない。でもやっぱり岡山を拠点にしている以上はデニムは特別なもの。自分がこの業界に飛び込んだ原点でもある。今までにない新しい考え方で、囚われないデニムをつくってみようと思い立ちました」。 それまでにも100%綿の伝統的なデニムを使った作品はあったが、「Super low tension paper denim」はひと際異彩を放っている。フォルムは「SOUMO」らしいビッグシルエット、手触りはごわごわとしている。和紙を撚り、横糸として使用した《未踏の生地》。試作を経て、プロダクトとして完成しているものとは異なるが、何にもしばられない彼らしい作品となっている。




《ちょうどいい》岡山


「グラフペーパー」をはじめ、著名なディレクターからも支持されて都市部で引っ張りだこの「SOUMO」だが、拠点を岡山から動かすつもりはまったくない。「生まれた場所に足をつけたいという理由の他に、服づくりを『楽しくない』と思いたくない」。好きなことをストレスなく実現するには、岡山はちょうどいい場所だと言う。「岡山は隣にいる人がいきなり有名になったり、いきなり成功したりすることがないので、自分のいる環境を守ることができる場所だと思っています。人と比較して、勝ち負けの中に自分を置いてしまうと欲や焦りが出る。その欲はやりたいことでない場合がほとんどですからね」。プロダクト告知以外はSNSも使わなければ、ネットで情報を過多に得ることもしない。「生まれ育った土地だから、業界以外の知り合いも多い。つまり業界話や服の話以外もできる。そうしたゆるいつながりも必要だと思っています。刺激やインスピレーションがほしいときだけ都市部に足を運べばいい。《自分で選べる》のは自分の人生を楽しくするには大切なんです」。彼の周りには、気心の知れた児島の職人たちがいて、全面的な協力を惜しまない。「出すぎず、引っ込みすぎず。細々とでいいから長くやっていければいい。『SOUMO』が目指す場所は東コレやパリコレにはありません。最初からエンドユーザーのためのレーベルなんですから」。


上は最新のコレクションで展開されたキービジュアル。デザインとは何かを突き詰めていく過程で辿りついた「改善-Improvement-」というテーマと、自身の思考回路を表現している。多色展開でパネルも販売。



秘められたポテンシャル

エシカルやサスティナブル、SDGsの概念はこれからのファッションを語るのに欠かせないファクターだが、「SOUMO」の考えはどう向かっているのだろうか。「僕らの業界は環境汚染産業2位と言われる位置にあり、重く受け止めなければいけません。ですが、大量生産・消費とは逆に、生産数と販売店を限定し、ユーザー数を把握することで、過度な数量を生産しない。あくまで求めていただける部分がレーベルの価値だと思います。また、いつもクオリティの高い仕事をしてくれる機屋さん、縫製工場さんに相応の対価で応える。その価値を認めてくれるユーザーが長く大切に使ってくれる。当たり前で、特別なイノベートではありませんが、そのバランスを上手く保つ事が大切だと考え、レーベル立ち上げから心がけて行っていることです。業界全体が二十世紀後半から進化だと思ってやって来たことが実は間違っていたとわかってきています。特別な取り組みも大切だと思いますが、もっと素直で純粋な所にある信念がいる。世の中の消費が本質的にそういった物しか買わない、作らない。流行では無くそれが当たり前な世の中は理想ですね」。 今夏発表された最新のプロダクト「12/12 Improvement」。込められているのは「改善」と「再構築」。日々せわしなく反復を繰り返す今の世の中で新しさを生み出すために、自らの足跡を振り返りブラッシュアップすることでまったく違う価値を生み出している。 アメリカから輸入された(自由)と、伝統の象徴。守りながらも打ち崩し、リスペクトの中で自らの哲学を組み入れる。《対極》のカオスの中で、新たな潮流を感じることができる。


カウント以上の意味を持たない、“01/01”から“12/12”までのコレクション。シンプルなフォルムだが、身に着けることで完成される独特のルックスに魅了される。「こだわらない」と謳いながらも質実剛健としたしっかりとしたつくりも特長的。手の届きやすい価格帯も熱いファンを増やし続けている要因なのだろう。


〔BEFORE/TRADITION伝統〈リーバイス〉以前へ〕

— 「Super low tension paper denim」はどうやって生まれたのですか。

「どうしたら先へ進めるか?」という考え方からのスタートでした。素材もフォルムもすでに完成されていて、愛好者も多い。進めば進むほど「自由」からは遠ざかってしまうので「SOUMO」にとっては難しい課題。進めないなら戻ってみれば、とデニム史以前、リーバイスという伝統よりも前の時代に立ち戻ることにしたんです。 そしてたどり着いたのは《和服》。「紙布」といって、古くは和紙を横糸に使って織られた和服がありました。それに倣い、古紙を撚った横糸に生藍染にした縦糸で生地をつくりました。さらに旧式力織機を使ってできるだけ手織りに近づくように、徹底的に和服に寄せました。「縦糸をたるませる」という無茶振りもしました。相当に手間がかかる作業で、無理を通したチャレンジでしたね。職人さんからは「死人が出る」と言われ、実際にシャトルが飛んで窓ガラスが割れたそうです(苦笑)。 決死の覚悟でつくられた生地でできたパンツは、展示会でのみ発表したサンプル品に留まってしまいました。「自分たちの知っているデニム」から程遠いものになってしまうと考えたからですが、よくあることではあります。完成品は藍染をインディゴに代え、より《らしい》プロダクトに仕上がったと思います。

— 「SOUMO」にとって児島とはどんな存在ですか。

自分のやりたいデザインのベクトルはどちらかというと違う場所に向いています。デニムはどうしてもワークウエア寄りになってしまう。ただ、児島という地の利は生かしたいとは考えています。 半径50m以内ですべてが完成してしまう土地は世界のどこにもありません。児島のポテンシャルを利用できるというのは、デザイナーとして圧倒的なアドバンテージだと思っています。

— 児島が《聖地》と呼ばれることについてどう思われますか?

< 聖地> と自身で言うことは簡単ですが、既に海外や都市部からも高い評価をうけています。 作り手から見れば世界でこれほどに地域産業として確立してきている場所はありません。 聖地として疑いようが無い気がします。これからの20年50年後を考えることで確立的な場所になりますし、なにより県民がどうすごいのかを理解することでより地元からも愛される場所になると思います。 作り手から見れば完全に聖地です。

— 未来のデニムのカタチとは。

「SOUMO」は崩してしまいましたが、本来デニムとはその歴史と伝統を守るべきものだと思っています。これ、というスタイルが浸透していて、それが世界中の老若男女に受け入れられているということは、進化の必要性がないということなのでは。だから「未来」とか「新しさ」を追求すると逆に陳腐化してしまう難しさがありますね。 デニムやジーンズの持つ《簡素》な美しさを「SOUMO」も追求していきたい思いはあります。クラシックなデニムらしいディテールを取り込みながら、「SOUMO」のアイデンティティを表現できればと考えています。



○山本 雄太
1983年岡山県生まれ。「SOUMO」デザイナー、アトリエ兼ギャラリー「thePLACEBOX3129」主宰。

https://www.soumo.co/ @soumo_theplacebox3129

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