1961年、笠岡市にて《アカセ木工所」創業。10年後の1972年に法人化、さらに1981年には現在地である里庄町へ新工場を設立。
1999年のウォールナット無垢材テーブル《ワイルドウッド》シリーズ発表以降、ウォールナット無垢材のプロダクトをアイデンティティに据えたものづくりがスタート。2006年、45周年を期に“100年後のアンティーク家具へ”をコンセプトとした《Masterwal(マスターウォール)》にリブランディング。
毎年のように全国に拠点拡大を続け、2011年に初となるショールーム《マスターウォール東京》を東京都港区南青山にオープンし、現在では銀座本店をはじめ大阪、仙台、ニューヨークなど国内に9拠点、海外1拠点を展開している。
2021年7月に創業60周年を迎え、商号を《AKASE》に変更。家具製造販売だけでなくトータルでの住空間提案、家具のアップサイクルなどにも積極的に取り組みを開始している。
10年後、さらに100周年を目指す同社の藤井社長に、ウォールナット無垢材家具と会社、さらに地域への想いを訊いた。
◎藤井 幸治(Yukiharu Fujii)
AKASE株式会社 代表取締役社長
1967年生まれ、笠岡市出身。東京モード学園卒業後帰岡、1992年に株式会社アカセ木工の代表取締役社長に就任。1998年オリジナルブランド「BOCCO」を立ち上げ、2006年に「master wal」と名称変更。創立50周年を迎えた2011年、東京青山に「master wal Tokyo」をオープン。2021年に創立60周年を迎え、社名をAKASE株式会社へ変更。さらに新規事業「マスターウォールの家具と建築を融合した暮らし」を提案する住宅ブランド「JUGU」を始動するなど
https://www.akase.co.jp
【HISTORY】
婚礼家具からウォールナット無垢材へ、コンセプチュアルなものづくり
本場北米産の最高峰ウォールナットを厳選、素材を引き立てるオイルで艷やかに仕上げる、シンプルで洗練されたデザイン。ソファやダイニングテーブル、チェア、チェストetc…AKASE《Masterwal》のプロダクトは、後発でありながら国産ウォールナット家具ブランドの一翼を担う存在として広く知られている。
「1961年の創業当時からしばらくの間は、家具といえば嫁入り道具のタンスでした。当社も時代に倣い、タンスを主流としたものづくりを進めていましたが、1990年代には婚礼家具の需要が徐々に減少する転換期を迎えていました」。
タンスは専門性が高く、“職人技”の集大成。クオリティを満たす一棹を創れるようになるまでには長い修業が必要だった。当時の代表赤瀬浩成氏と職人たちにとっては苦渋の決断だったに違いないが、時代を見越して “脱婚礼タンス”を目指して試行錯誤を続けていった。
システム収納家具《シトラス》で1997年にグッドデザイン賞を受賞。ちょうどその頃、当時はまだ少なかったウォールナット無垢材に目を付け、翌年《BOCCO》が誕生した。さらに翌年にはいよいよ《ワイルドウッド》シリーズの登場を迎えることとなる。
「当時の国産家具によく使われていたのはナラやタモ、チェリーなど。ウォールナットは、薄く削った突板を使うことはありましたが、無垢材を使うことはあまりなかった時代だったんです」。濃い色と木目の美しいウォールナットの無垢板。天板にオイル仕上げを施し、アイアンスチールの脚部という異素材の組み合わせによって完成するシンプルモダンなデザイン。ファーストプロダクトとなったダイニングテーブルは《ワイルドウッド》の名に相応しく木の良いところも悪いところもすべて採り入れたものだった。“プリミティブモダン”根源的で自然のディテールを生かすというコンセプトが多数の支持を受け、現在に続く《Masterwal》の源流ともなっている。
そして2006年に45周年を迎え、藤井社長への代替わりと同時に《Masterwal》のブランドが誕生。「リブランディングと共に打ち出したコンセプト“100年後のアンティーク家具へ”。ウォールナットという年月を経てなお価値を失わない素材と、長年使っても飽きが来ないスタンダードなデザインがあってこそ打ち立てることができたものです」。世界的なウッドショックが続く危機的状況ではあるが、今後も最高級のウォールナットへのこだわりを続けていくとのことだった。
【CHALLENGE】
60周年の今、家具メーカーから住空間全体のトータル演出へ
「これまでできなかったけれどやりたかったこと。子どもたちへのアプローチや、家具を中心にした住まい全体のトータルプロデュース、そして“創る”だけでなく古くなったりライフスタイルに合わなくなったりの家具のアップサイクルです」。
《Masterwal》から15年、60年の節目にもう一度事業を振り返り、一段高みへ上るために、《AKASE》への商号変更と公式キャラクター《ナッツくん》がアイコニックな存在になっている。また、注目すべきは“100年後のアンティーク家具へ”のコンセプトがさらに具体的なカタチとなってユーザーに届けられる2つの事業だ。
《JUGU(ジューグ)》は、周年記念プロジェクトとしてキックオフ。切り離せない関係性でありながら、常に家具を後付けにしていた従来のアプローチではなく、“家具を起点とした住まいを創る”というありそうでなかった発想が元になっている。今日までに空間の組み合わせで創るプロダクト《JUGU COMO(ジューグ コモ)》や、コテージレジデンスを提供し世界中の建築家にリスペクトされてきたラグジュアリーな住宅《VILLAX(ヴィラックス)》とのコラボによるブランド体感ショールーム《マスターウォール アーキテクツ JUGU横浜》をすでに展開している。
もう1つの事業は「“認定中古”のようなイメージ」と藤井社長。「無垢材ですから、少々の傷や色落ちなどはリペアすればまたよみがえり、また何十年も使っていただくことができます。また、引っ越しされたり世代を越えて受け継がれたりとライフステージが変化した際に持て余してしまうこともあるでしょう。そうした古い家具を捨ててしまうのではなく当社が回収し修繕、また違うご家庭のもとへお届けするといった新しいサイクルに乗せる計画(マスターウォール・アプルーブド・ファニチャー)も進行中です」。
《Masterwal》のプロダクトには、素材の時点から焼印が刻まれる。オーナーの名も同様に刻印され、それがアンティークとしてのステイタスになりうるのだろう。「近年深刻になっているウッドショックによって、当社の求めるウォールナットはさらに希少性を高めていくと考えられます。商品ラインナップは以前より格段にバリエーションが増え、より多くのニーズに応えられるようにしておりますが、“創る”だけでなく様々な方面から“100年後”を見据えた事業展開を実施したいと考えています」。
【to the FUTURE】
100年企業を目指して—人と地域との関わりをより深める
「次のステップに必要なのは“人づくり”と“地元貢献”にあると考えています。次の70周年、100周年を迎えるためには常に変化していかなければなりません。商品ラインナップは増えていますが、顧客層もどんどん変わっていく。さらにスピード感を持って対応していく必要がある」。
日本の中心である銀座にショールームを展開したことで《Masterwal》はアッパー層を含め、幅広いターゲット層にまたがる多くのファンの獲得につながった。次の取り組みを考える中で可能性を感じたのは某有名家具店だと語る。「限られたスペースの中で、価格帯もイメージもバラバラなのに絶妙にまとまった空間演出がなされています。スキャンダルばかりが取り沙汰されましたが、それだけ注目され時代をつくってきた企業だと言えるでしょう」。その老舗家具店から学んだのはサービスや提案力を含めたスタッフ一人ひとりのマンパワー底上げだ。家具メーカーとして“ものづくり”ばかりに目を向けるだけでなく、サービスの充実を含めて企業力を高めていく所存だ。
また、地域への想い入れも深い。「これまでは東京、大阪の国内都市部を中心に展開しましたが、次は海外特にASEANを視野に入れる必要があると考えています。《クールジャパン》の一角を家具が担ってもいいじゃないか、と。そのためにも自分たちのルーツである地元・里庄を忘れるわけにはいきません」。
《Masterwal》ファンにとって里庄は聖地のようなもの。わざわざ東京、大阪など遠方から足を運ぶ人も少なくない。「ここでしか見られないもの、ここでしかできない体験を充実させていきたい。里庄は意外にも“新しいものに抵抗が少ない”という特性を持っていますので、今後さらに面白い取り組みへの可能性が大いにあると思います」。
事業の幅が広がり、どれだけ拠点を拡大しようとも、中心にあるのは里庄。自身が取り組むべき“役割”としても地域への想いは強くなるばかりだ。