COLUMN
LIFE HUNT Raku Gaki & Skat Linda
10 April 2020
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《日本の棚田百選》にも指定されている、美咲町大垪和西棚田。のどかに広がる田園地帯、いきなり原色に彩られた建物が視界に飛び込んでくるのは、なかなかロックなサプライズだ。 楽画鬼(Raku Gaki)さんとスカット☆リンダさん夫妻の住居兼アトリエは、廃園になった保育園を改造。アート&ヨガ道場「キッサコ」として、コミュニケーションの場にもなっている。
 楽画鬼さんは神奈川県生まれで哲学科出身、リンダさんは京都生まれで美術系短大からクリエイティブの道へ。まったく異なる環境で生きてきた2人の人生が交わったのは、2002年のパリだった。

2002年のパリだった。 ただ《アート》を目指して渡仏 パリで過ごした10年を経て美咲町へ

「東京は《アーティスト》と出会える場所じゃない」と感じた楽画鬼さんは、まさかの不動産営業で渡仏費用を捻出。「ガッツリ絵を描きたかった」リンダさんと、導かれるままパリの美術学校で出会い、結婚。「パリは街中がアート。絵だけでなく音楽、文学、演劇…ありとあらゆるすべてが《アート》。衝撃でした」。パリ郊外に「スタジオN゜9」を構えて活動を開始する傍ら、当時アーティスト達が不法占拠(スクワット)して話題となった「59リヴォリ」で多くのアーティストと交流を深めた。同時期、リンダさんはアーティストでもあるインドネシア王室専属ヨガ講師に出会い、インドネシア独自の「ダヤプティ」ヨガを習得。
そうして、刺激的なパリでの暮らしが10年を迎えようかという頃、パリで知り合った日本人の地元を訪れるようになる。「ちょうど《田舎暮らし》ブームみたいなのが起きていた頃で、アーティストも移住する人が増えていました。岡山でも直島のプロジェクトや瀬戸内芸術祭などアートイベントが興っていた時期じゃないかな? いろいろな街を訪れる中で『もしかして日本、面白くなってる?』って感じるようになったんです」。

 日本に帰るつもりは当初はなかった2人。しかしたまたま、友人の持つ美咲町の空き家を『好きに使いなさい』と勧められるというラッキーな話が舞い降りる。「窓を開けると棚田がわーっと広がっていて、五右衛門風呂もあって。家もきれいにしてあったし、試しに住んでみようかって」。これまで田舎暮らしを経験していないリンダさんもすぐに順応し、生業として開いたアート&ヨガ道場が評判を呼び、生活にも目処がついた。「それまで岡山のことはまったく知らなかったけど、人も優しいし、食べ物も美味しい。今暮らしているこの保育園も、地域の方に『あなた達にピッタリ!』と紹介してもらいました」。

「美咲を元気に!」アートとの融合

2011年に移住して8年、3人の男児にも恵まれ(うち次男・三男は夫婦2人だけの無介助自宅出産!)すっかり街の一員として溶け込んでいる。移住前保育園に居を構える際、村には不似合いに見えた2人に難色を示した地域住民に約束したのは「ヨガとアートで美咲町を元気にする」ことだった。  リンダさんのヨガ道場は口コミだけで受講者が引きも切らず、楽画鬼さんが企画した「美咲芸術世界」は県の事業にも認定され今年で開催4回目。「59リヴォリ」で出会ったアーティストを招き、毎年話題をさらっている。地域のシンボルとも言える「食堂かめっち」のオブジェの「夢のタマゴ」もリンダさんと仲間の共同製作だ。「人の手で丁寧に創られている棚田の造形美も、地元の奇祭『護法祭(両山寺)』の力強い無縫さも、『日本はまだまだ面白いものがたくさんある』と気づかせてくれます」。  2人は確実に「美咲町を元気に」している。それどころか、岡山県全体を《アートの街》として国内外にアピールする一翼を担うまでに影響力が拡大しているに違いない。2人にとって美咲町は、生活の拠点としての優秀さもさることながら、アーティストとしてのインスピレーションを与えてくれる場所だと口を揃えるが、これからの2人の着地点はどこにあるのだろう。

 楽画鬼さんは「正直『もっと有名になりたい』『一つの作品に没頭したい』などのアーティストとしての欲望はゼロではありません。でも今のところは、自分たちのやりたいことをどう表現するか、自分たちも含めて素晴らしいアーティスト仲間やその作品をいかに皆さんに知ってもらうかが、とりあえず目の前の課題なんです」。と話す。リンダさんは「私の場合『かめっち』のオブジェは『草間彌生を超えたい!』という気持ちがたっぷりと込められていますけどネ(笑)」。

移住で感じた《人と人との縁》

「パリはアートが溢れかえっていて、街中にアーティストがいました。パーティーやイベントで毎日たくさんの人と出会い、たくさん刺激ももらえていたけど、だんだん疲れてきてしまって」。  美咲町で自分たちが受け入れられたのも日本が《アート未開の地》だったおかげかもしれない、と感じていると楽画鬼さん。「パリでは、精魂込めた自信作をギャラリーに持ち込んでも、見てももらえないこともあったんですから」。 アートどころか、美咲町は限界集落だ。学校も遠く、医療も交通も整っているとは言い難い。しかし、2人を訪ねて遠方からでも足を運ぶ人は絶えない。「こんな遠くまででも訪ねてくれる方はいて、本当にうれしい。パリ時代にはなかった、一人ひとりとしっかりと向き合える機会に恵まれて。これまでにない《縁》を感じるのはここだからこそ、なんでしょうね」。

◎美咲芸術世界/Misaki Art World https://dojokissako.wixsite.com/m-a-w https://www.facebook.com/misakiartworld/ (2019年10月末まで開催予定)

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