COLUMN
井上万都里の「道」_vol.18
09 March 2019
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葬祭業界と地域社会の活性化に邁進し、儀礼文化の形骸化に警鐘を鳴らす井上万都里が連載する対談企画。それぞれの道を強い意志で歩み続けるゲストの言葉から、あなたの人生を切り拓く明日のヒントが見える。

青龍立ちのぼる地に奉斎した大美彌神社

井上)初めて大美彌神社を訪れましたが、太古の息吹すら感じる雄大な自然の中に鎮座するお社にただただ感動しました。まず初めに、貴社の成り立ちを教えていただけますか。

林)上古香々美郷総産土神大宮大明神として鏡野町の香々美(藤屋)に鎮座する神社であり、御祭神に大宮能比賣神を奉祀しています。創建から少なくとも1300年以上経っているというのは確かなのですが、天和元年の大洪水で文献が失くなってしまい、詳しい時期については不明なのです。その洪水で御神体が流れついた所に青龍が立ちのぼり、当時の氏子たちが御神体を迎え、社殿を造営したのだと言い伝えられています。明治6年、社号を大美彌神社と改称して郷社に列し、その後大正2年、この周辺地区の神社8社が集まって本社に合祀し、現在地に移転しました。こちらの主祭神が女神様ということもあり、芸能や子宝の神様として、氏子さんはもとより、津山など遠方からもご参拝やご祈祷に来てくださる方もいらっしゃいます。

神社の祭事と住民同士の結びつき

井上)地域の方にとって大美彌神社とはどのような存在であると、宮司はお考えでしょうか。

林)地域という観点で考えると、神社は氏子さんのもの。言わば、私も氏子の一人であり、代々宮司を勤めさせていただいていると思っています。その中で私が大切だと思うのが、祭りを継承していくことです。そもそも神社で行われる祭りとは、神様にご奉仕するという本義に基づくもの。神様に神饌を捧げ、ご神徳を頂いて地域の安寧と発展、氏子や崇敬者の繁栄を祈るものです。大美彌神社では一年を通じて様々な祭事を行っていますが、その中で最も賑やかなのが秋祭りです。昔から神社では立派な神輿の御神幸があり、また各地区からは華やかなだんじりが集い、老若男女いろんな方が参加し盛大に行われてきました。ですが残念なことに、最近はこの神輿の担ぎ手である若者が少なくなっているのが現状です。今はなんとか地区同士で助け合って神輿を出していますが、過疎化によってますます地域から人が減れば、祭りの存続すら危うくなってしまうと危惧しています。我々のような田舎の神社では、お祭りを維持していくことが最重要課題です。

井上)神社で行われる祭事は、地域社会そのものと密接な関係があると思います。コミュニティの崩壊が叫ばれて久しいですが、その観点から見ても、お祭りが果たす役割は大きいのではないでしょうか。祭りの際には、準備や稽古事のため、神社や公民館などに若者からお年寄りまで様々な年代、立場の方が集まり、交流を深めます。祭りを介して地域コミュニティが形成されているのです。例えば葬儀にも、その一端が出ていると私は思っています。いろんな地域の葬儀に関わるうちに気付いたのが、都市部よりも田舎で行われる葬儀の方が、故人のお身内以外の会葬者が多いこと。これは、祭りが盛んな地域ほど、普段から世代間で交流があるため、地域の方が亡くなったとき葬儀にも参列するということなのだと実感しました。宮司が尽力されているように、祭りを定着させ、継続発展させていくことは、地域社会の存続という観点においても重要なことだと思います。

神社と地域における関係性の変遷

林)氏神様が失くなれば、その地区自体の存続にも影響するのではないかと私は思っています。氏子や神社が中心となって行われる祭事では、その地域の伝統や文化風習も伝承され、次世代へと継承されます。また、子どもの頃からその行事に関わることは、自らがその地域の一員であるという自覚を芽生えさせ、若者が故郷に戻ってくる動機にもなり得るのではないでしょうか。井上さんが言われるとおり、祭事の維持と継承は、地域存続のためにも重要なことだと思います。これは当社に限ったことではなく、神社界全体の問題として、全国どこにでもある課題ではないでしょうか。

井上)宮司がおっしゃるように、昔は地域社会の中で、地域の文化だけでなく、日本人としての礼節、先祖、神様を敬う心が伝承されていました。しかし地域コミュニテイの崩壊が進む現代においては、昔のように放っておいては伝わりません。伝承する手段を講じ、意識的に伝えていかなければならないと私は思っています。では、自分たちに何が出来るのか。この課題に対し、我々が取り組んでいることの一つが、2年前から始めた「エヴァーホールマルシェ」という活動です。これは、弊社の葬祭ホールを会場に、地域の飲食店や生産者などに出店してもらい、餅つき体験やワークショップなどのコンテンツも併せて開催するイベントです。言わば、地域の新しい「縁日」として、このマルシェを拠点に人が集い、賑わいを創出すると同時に、希薄になってしまった地域の縁を再び繋いでいきたいという想いを込めて企画しています。単に一過性のイベントとして終わるのではなく、これをきっかけに、小さなコミュニティが繋がって大きく発展していけるよう継続していきたいと思っています。

連綿と繋がれてきた命に人生の意義を重ねる

林)我が家は先祖代々宮司を務めてきた家系で、私で23代目になります。実はもともと、神職に就く気はなかったのです。お恥ずかしい話ですが、若い頃の自分は半端者で、神職とは対局のところにいたと言っても過言ではありません(苦笑)。そんな時分、ある日墓参りに行った際、ふと「自分がもしこのまま死んだら墓に入れてもらえないな」と思ったのです。このままではいけない、と一念発起して勉強に励み、神職の資格を取得しました。今思えば、ご先祖様からの目に見えない力に背中を押されたような気がしています。 

井上)私は毎月1日必ず家族で墓参りに行きます。父は花入れ、私は暮石の掃除、と役割分担も決まっているくらい長く習慣にしていることなのですが、行く度にご先祖様との縁を感じます。今の自分の存在は誰のおかげだろうと思いを馳せると、両親はもちろん先祖という存在があってのことだと改めて思い知らされます。脈々と繋がれてきた命が一つでも欠けたら、自分の存在はなかったわけですから。宮司と同じように、ご先祖への感謝と使命感が自分の中にあったからこそ、私も家業を継承したのだと思います。この使命を全うすることが、私自身の人生の意味なのかもしれません。人間誰しも生まれてきた意味があるとするならば、人生はその意味を考えるための歩みではないかと思います。

林)私は研修会で講師を務める機会があるのですが、そこで若い方に生まれてきた意味を訊ねると、答えられない方が非常に多いのです。もちろん、人生とは、生きていく中で自分自身が切り拓いていくものですが、私は命の継承ということが人の使命の一つではないかと思っています。先祖代々から受け継いだ命を未来へと繋いでいく。子孫を残していくということは、自然界の摂理でもあります。もちろん、人の人生においてそれが全てだとは言いませんが、非常に大切なことではないでしょうか。日本の若年層の自殺率が諸外国と比べて高いという事実を知った時は、本当に悲しい気持ちになりました。人間誰しもいつかは死が訪れます。その時まで、与えられた命を一生懸命に生きて未来へと繋いでいくことがどれだけ大切かということを、現代に生きる方々には心に刻んでいただきたい。その中で、どうしようもなく辛いことや苦しいこともあるでしょう。そんな時には、我々神職に就く者が少しでも支えになれるよう、寄り添いたいと思っています。

神社の本懐に立ち返る

林)私は宮司として、神社本来の在り方や意義を大切にしていきたいと思っています。近年はパワースポットという言葉が生まれ、そのブームに乗っている神社仏閣もありますが、神社経営を成り立たせるための一つの手段として、ビジネスという観点も必要なことかもしれません。ですがやはり、神様にお仕えし、地域の安寧を祈り住民に寄り添うという、本来あるべき姿を守り継承することが、私たち神職の使命ではないでしょうか。その中の一つに、祭りを絶やさず次世代へ継承していくということも含まれていると思います。ここ大美彌神社には、氏子さんだけでなく遠方よりご参拝やご祈祷に来てくださる方も多くいらっしゃいます。私は、そのお一人おひとりとの時間を大切に、一期一会の精神でこれからもお勤めしていきたいと思っています。また、私は岡山県神社庁の理事、神社本庁の参与を務めさせていただいております。この大美彌神社と地域のために尽力するのは当然ですが、神社界全体に対しても、本来の神社、神職の在り方を提唱し続けられるよう、精進していきたいと思います。

井上)昔から神社という場所は、人が集まるコミュニティの根本として存在してきました。しかし、現代の過疎化という波は神社界にも確実に押し寄せており、日本全国の問題として横たわっています。私たちはその中で、自分たちに出来ることを今一度見つめ直し、行動していかねばならないと改めて思いました。本日はありがとうございました。

○林 浩平/大美彌神社 宮司
大美彌神社を本務宮司とし、香々美北神社と三鏡神社も兼務宮司として神明奉仕。岡山県神社庁では理事として研修企画室長を務め、講師としても活躍。神社本庁参与、神宮評議委員も務めている。

○井上 万都里 / 株式会社いのうえ 専務取締役
儀礼文化研究所の創設など文化伝承にも貢献する葬儀社、株式会社いのうえ専務取締役。オカヤマアワード副会長、葬儀社による全国大会ネクストワールド・サミットの実行副委員長も務める。

○大美彌神社
上古香々美郷総産土神大宮大明神として鎮座しており、御祭神大宮能比賣神を奉祀する。天和元年の洪水により社殿流失した際、氏子は寺和田八幡に社殿を造営した。明治6年社号を大美弥神社と改称し、郷社に列する。大正2年周辺地域にある神社8社を合祀し、現在地に移転、本殿・拝殿を造営。

岡山県苫田郡鏡野町香々美995 電話: 0868-56-0290

○株式会社いのうえ
大正2年に井上葬具店から始まった株式会社いのうえは2013年に創業100年を迎えた。都市化を見据えた新たな葬儀スタイルの提案など伝統と革新を見極めながら成長する全国屈指の葬儀社。

倉敷市二日市511-1 Tel.086-429-1000
http://inoue-gr.jp/

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