COLUMN
井上万都里の「道」_vol.17
09 February 2019
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葬祭業界と地域社会の活性化に邁進し、儀礼文化の形骸化に警鐘を鳴らす井上万都里が連載する対談企画。それぞれの道を強い意志で歩み続けるゲストの言葉から、あなたの人生を切り拓く明日のヒントが見える。

お二人の出逢いは?

井上)我々いのうえグループのスタッフが岡山県神道青年協議会の方々と一緒に、お互いの知識を学び意見交換をするという目的で勉強会を開催しました。そちらでご一緒したのが初めてですね。

難波)御社の社員の方々が、とても丁寧でいて作法も素晴らしいという評判をよくお聞きしていました。そのホスピタリティやご葬儀に向かう姿勢を、我々神職を務める者も見習おう、というのがきっかけで企画されたものです。お互いに、葬儀の作法や手順などを確認し、今まで当たり前にやっていたことに対しても改めて一つひとつの意味を共有することで、学びのある有意義な時間になりました。ご葬儀の場ではゆっくりお話しする時間もないので、こういった交流を持つのはとても良いことだと思います。

双方が積極的に交流を持つことによってどのような効果を期待されていますか?

井上)ご葬儀で、ご遺族と一番身近に接するのは当社スタッフです。命の尊厳や葬儀を執り行う者としての心構えを学ぶためにも、宗教家の方々と交流を持つことは重要だと考えています。また、我々葬祭業に携わる立場の者からみると、葬儀の主役は故人であり、そのご遺族。故人を中心としながら、葬儀に関わる葬儀社と宗教者がしっかりと連携することは、故人の生きてきた証を形にするという使命を全うする上で欠かせないファクターです。おくる人、おくられる人の想いに向き合い、手順や作法一つひとつにおける理由や意味を掘り下げ、お互いが同水準の知識で意識共有していくことは、より良いご葬儀の実現に欠かせません。

難波)それは私たちにとっても大切なことです。ご葬儀といえば、仏式をイメージする方も多いかと思いますが、神道にも神祭葬という儀式があります。これは、神道で行うご葬儀のこと。私たち神職も大切なご葬儀に関わる以上、日々学びを深めていく努力が必要です。冠婚葬祭は人間の一生の中で最も重要な儀礼文化の一つですが、時代の流れとともにその様式も変化しています。神職としての役割を果たしながら、現代のニーズや動向を知っておくことは、日々のお務めにも活かすことのできる大切な学びだと思っています。

儀礼文化が形骸化している現代社会についてお二人はどうお考えですか?

井上)近年は、ご葬儀もせず火葬場へおくる直葬や、お通夜を行わない一日葬など、お葬式というものの形式も様変わりしています。一概にいろんな儀礼文化を簡略化しようという風潮には賛成できませんが、費用や家族構成の問題など、それぞれに事情はある。我々にも今の時代に応じたご葬儀の在り方を提案していく責務はあると考えています。

難波)都市部を中心に、いまは一般的にホール葬が主流なのでしょうが、この地域では昔ながらの自宅葬というかたちが未だ多く残っています。自宅で儀式を行った後、私も火葬からお骨が帰ってくるまでご遺族と一緒にお待ちしたり、儀式後に神酒や神饌を頂く直会に参加させていただくことも。田舎のご葬儀は、宗教者と故人、ご遺族との繋がりがまだ残っていると感じます。地域性による違い、時代の移り変わりによってご葬儀のかたちも変わってきていると思いますが、井上さんのお話をお聞きしていると、人間として何が大切なのかという根本的な問いに立ち返る必要があるように感じます。

井上)昔はほとんどの葬儀が自宅で行われていたこともあり、ご遺族と宗教者の関わりが今より密接なものだったように思います。ともに故人の思い出を語らい、別れという悲しみを乗り越えていた。これが宗教者と人々の結びつきを強め、宗教への理解を深める接点にもなっていたのだと思います。近年の若者の宗教離れは、葬儀の簡略化によって人々と宗教の繋がりが弱くなったことも影響していると思います。生を受ければ誰もが死に向かっていくもの。葬儀は、故人の死を通して自分の限りある生を見つめ直す時間でもあります。時代の変化とともに葬儀のかたちも様変わりする今だからこそ、その大切な場に深く関わる者として、我々は宗教者の方々と共に、儀礼文化の衰退に歯止めをかけなければならないと痛感しています。

過疎地における神社の現状とその対策について、お考えを教えてください。

難波)現在、全国的に神社の数は減少しています。観光地のようになっている知名度の高い神社はまた別ですが、過疎化が進む地域の神社では、氏子の数が激減し、神社の維持そのものが困難になっているという状況です。その結果、廃止や統合など、これまで地域にあった社がなくなってしまうという悲しい出来事も実際に数多くあります。当社でも、氏子さんや参拝客は減少しており、危機感は常にあります。この現状に対し、当社では人々が神社に足を運ぶ機会の創出にも積極的に取組んでいます。毎年一つずつ祭事を増やす試みを行っており、昨年は、長らく途絶えていた『茅の輪くぐり』を復活させました。これまでと同じことをやっていては現状維持すらできません。当社存続と神道継承のためには、日々お務めに精進するのは当然ですが、創意工夫のもとに行動を起こしていくことが必要なのです。そして、神社の在り方を考えると同時に地域の在り方を考えることも重要だと私は思っています。ここ新見市哲西町でも、過疎化は急激に進んでいます。若年層が流出し、昨年の出生数は4人だけ。これは神社だけでなく地域存続の危機でもあります。私たちの世代が頑張って打開策を講じなければならない。幸いにもこの地域には、そうした同じ志を持つ仲間がたくさんいます。職種や立場は違えど、それぞれの立場から「自分は何ができるか」を探り、地域そのものを盛り上げていく取組みにも今後一層力を入れていく考えです。

井上)当社では、人気店の味が楽しめる屋台や儀礼文化を体験できるブースを設けたエヴァホールマルシェというイベントを定期的に各葬祭ホールで行っていますが、特に中山間地域に近い場所での開催は地元住民の方々にも喜ばれています。毎回大勢の来場者で賑わっており、地域振興と文化発信の取組みとしても更なるポテンシャルを感じております。最初は葬祭業がなぜマルシェをするのかという否定的な意見もありましたが、これからの時代は常識にとらわれることのない創意工夫こそが、現状の打開策になるような気がします。

神社の存在意義について、どうお考えですか?

井上)厳しい現状の中、神職の方々も生活の基盤は確保しなければならない。綺麗ごとでは済まない問題ですよね。難波さんは、子育てや家事という主婦業もこなしているとお聞きしました。相当なご苦労もある中で、神社を守っておられる、そこにはどんな想いがあるのでしょうか。

難波)地域に住む人も減り、この神社が私の代で終わっても仕方ないのかもしれない、と思ったこともありました。しかし、氏子さんたちと関わる中で、それではいけないと決意を新たにできたのです。当社は難波家が代々宮司を務めてきたとは言え、私たちのものではありません。神社は氏子さんの手で成り立っているもの。我々神職は氏子さんと神様を繋ぐ者であり、その繋がりを断ち切るわけにはいかないのです。獅子山八幡宮は八百年続いてきた神社です。その長い歴史の中では、今と同様に厳しい状況もあったはず。それでも今まで残ってきたということは、人々にとって神社が必要なものだったからだと思うのです。神社というのは、願いを叶えてくれる場所ではありません。先祖を敬い、自然の中で自分が生かされている事に感謝の祈りを捧げる。そんな心の拠り所としてある場所だと思います。以前、惑星探査機『はやぶさ』の打ち上げの際、開発者の方々が神社にお参りする映像を観ましたが、「あれだけ科学技術の粋を結集して作っても、人間は最後の最後は神頼みなんだ」と、気付かされました。「人事を尽くして天命を待つ」と言いますが、人智を超えた自然の力の前に、どうすることもできないとき、人は神に祈るのではないでしょうか。誰しも、日々の暮らしの中では苦しいこと、辛いことがあります。そういうときに、神社という場所が心の拠り所としてあり続けられるよう、これからも精一杯の努力をもって存続し、人々の支えになっていきたいと思います。井上)長い歴史の中で地域に残ってきたということが、人々の支えだったという何よりの証ではないでしょうか。言うなれば、神社は現代のWi-Fiスポットのように、私たちの生活において必要なインフラとして、存在し続けるべきものだと思います。日本の自殺率は諸外国と比べても非常に高く、特に若年層は深刻な状況だと言われています。これだけ物質的に豊かになっても、精神的に満たされない人が多い。そんな現代社会だからこそ、神社の存在意義はいまこそ見直されるべきだと思います。難波さんのように、神社と地域の未来のために行動する方がおられるというのは、とても心強いことです。少しでもその後押しができるよう、我々も儀礼文化企業という立場で応援できればと思います。本日はありがとうございました。

○難波 美帆 / 獅子山八幡宮 禰宜
獅子山八幡宮で代々宮司を務める難波家の次女として2011年当社に奉職。禰宜として神職を務める傍ら、新見市哲西町の地域住民と連携し、神社や地域を盛り上げる様々な取組みを行っている

○井上 万都里 / 株式会社いのうえ 専務取締役
儀礼文化研究所の創設など文化伝承にも貢献する葬儀社、株式会社いのうえ専務取締役。オカヤマアワード副会長、葬儀社による全国大会ネクストワールド・サミットの実行副委員長も務める。

○獅子山八幡宮
正治元年2月8日に難波市左衛門宗成と岩井甚左衛門盛次が、伊勢国朝熊滝八幡宮から御分霊を勧請し、矢田福生庄に一時祀ったが、同地が狭隘なので、建暦元年8月2日に現在地に社殿を造営し、奉遷したと伝えられる。哲西町矢田の氏神であり、住民からは八幡さまと呼ばれている。

岡山県新見市哲西町矢田2368 TEL: 0867-94-2227

○株式会社いのうえ
大正2年に井上葬具店から始まった株式会社いのうえは2013年に創業100年を迎えた。都市化を見据えた新たな葬儀スタイルの提案など伝統と革新を見極めながら成長する全国屈指の葬儀社。

倉敷市二日市511-1 Tel.086-429-1000
http://inoue-gr.jp/

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