INTERVIEW
THE OWN WAY 西江 肇司(株式会社ベクトル代表取締役)
11 January 2019
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西江肇司の人生観_想いはいらない。ただ「素直」に考え、行動する。

スマートフォンの中で新しいモノゴトを知り、消費する。巨大広告よりも、ネットニュースや動画、インフルエンサーの情報発信がより大きな影響力を持ち始めた現在。その有効性を早くより認識し、戦略PRという新たな宣伝手法で企業の商品やサービスを広めてきたのが、株式会社ベクトル代表取締役、西江肇司だ。彼の故郷は倉敷市茶屋町。創業社長として業界で国内トップとなる上場企業を一代で築き上げた成功には、少年期の一人暮らしの経験と、岡山の精神的風土が結びついていた。

 ウェブやSNSが発達した現在、消費者が情報を得る手段は大きく変化し、また多様化した。株式会社ベクトルは、そんな時代に即した考え方で、従来とは違う新しい手法で商品やサービスを広める業界トップの独立系PR会社だ。創業者であり代表取締役を務める西江肇司氏は、1968年倉敷市に生まれた。「倉敷市茶屋町の、実家からそう遠くない一軒家で、13歳くらいから一人暮らしをしていました。一人暮らしのきっかけにあまり深い意味はないですね。空いている家が一軒あったから。夕飯なんかも実家に電話して聞いて、美味しそうだったら食いに帰ったりして。毎日、友達が誰かしら遊びにくる。楽しかったけれど途中で飽きましたよ。一人にして欲しいって(笑)。でも、早い時期での一人暮らしは自立心を育ててくれました。何から何まで自由だし、すべて自己責任。それは今の自分にもいい影響を与えているように思う。言ってみれば、自分の力で自分の絵を描けるようになった」。その後、岡山を出て関西学院大学に入学、在学中に起業し、卒業翌年の1993年にベクトルを設立した。「13歳からずっと自由でいるから、大学生になって今さら自由が欲しいとは思わないんですよ、何かをやりたくなる。実業家になろう、というのは早くから決めていたことでした。」起業当時は人材派遣や番組制作などもしていたが、とあるきっかけでPR業務を開始。子供の頃から雑誌に親しみ、記事を読んで物を買うということが自然だったせいか、今思うと、その世界は自分の性に合っていたという。2000年、PR業を事業ドメインの中核にすると同時に業界の1位になることを決めた。従来の受け身な広報の一環ではなく、積極的な宣伝活動の一環として宣伝予算内でPRを行い、メディアに企業のコンテンツを売り込む『戦略PR』は、業界に革命をもたらし、ほどなくしてトップに登りつめる。「業界ナンバーワンになった理由はたくさんあるでしょう。戦略も良かったし、時代の波に合ってもいた。世の中もPRを欲していたんじゃないでしょうか。でも、実は深く考えていないですよ。ナンバーワンになるのは偉そうな意味じゃなく、当然なんです。当時、PR業界で1位になろうと思ったのは僕一人しかいなかった。1番になって当たり前と考える、そうじゃないとやる気にならないじゃないですか。」西江氏の考え方は、非常にシンプルで合理的だ。成功を目指すプラス思考なのは間違いない、しかし、言葉の中に成功者に連想されるような執着やこだわりというものを感じさせない。「田舎で素直に育ったからでしょう。疑わない、物事を悪く考えないという現在の性格は、子供の頃の環境が影響していて、それは良かったですね。周囲にもそういう人が多かったということもあります。例えば僕は、お金がない=悪いという考え方をしない。お金がないというのは《ない》ってだけです。悩んでも仕方ないことは悩まない。悩んでお金が増えるんだったら悩みますけど、そうじゃないでしょう。マイナス思考で悩んでいるやつには儲けるチャンスは来ない。素直に物事に向かっていく人間は、そこを全部スルーして次のことを考えるじゃないですか。自分には、行動に《想い》みたいなもの、それがあまり無いんですよね。そこまで熱くならない。強いこだわりを持つということが、素直でシンプルには思えないからかな。人間は良くも悪くもどこかでひねくれてしまうきらいがあると思うんですよ。だから、素直という言葉をベクトルの社訓にも入れています。」

時代に関係なく存在している企業の《モノを広めたい》という欲求や、消費者側の《知りたい》という欲求。そんなマーケティングニーズに素直に向き合うことで生まれたベクトル。再び自分たちの採るべき方向性をシンプルに見据えたとき、ベクトルはいま大きな転換を図ろうとしている。「僕らは今、PRでナンバーワンになるという目標を叶えて、次は《広告業界のファストカンパニー》を目指すことに切り替えています。広告というより《モノを広めること》ですね。」西江氏の言うファストカンパニーとは何か、それは、ファッションにおけるユニクロやZARAのようなイメージだという。大手広告代理店とは違うやり方で、費用をかけずにモノを広く、迅速に提供する。「例えば僕はローリングストーンズが好きなんですけど、彼らがヨーロッパでツアーするという時、5年前だったら莫大な費用をかけて全世界で広告を打っていましたよね。でも今は考えられないでしょう。ツアーをやるってネットニュースで上がって、そこにトレイラー動画が一緒にあれば、それだけで必要な情報はファンに伝わる。これなら広告よりも安価ですよね。ストーンズのファンは世界で500万人くらいですから、ターゲッティング広告でトレイラー動画をぶつけて、ファンに直接情報を伝えることができるんです。そうすれば狙うところにほぼ情報が広まる。莫大な広告費をかける従来のやり方に対して、僕らが目指すのはそうした今っぽいやり方です。」動画コンテンツがついたネットニュースでの拡散、さらにニュースリリース、記者発表会、インフルエンサーからの発信、これでターゲットの9割に情報が広まると西江氏は言う。「モノを広めるのに必要なインフラはベクトルグループに全て揃っている。ターゲッティングして、届けたい対象にダイレクトに情報を届ける、ファストカンパニー、物を広めるハブになるわけです。」そして、現在、中国をはじめとした主要都市に現地法人を設立し、目指すのはアジアナンバーワンだ。最後に、岡山が輩出した稀有な起業家に後輩たちへのメッセージを求めた。「本当のこと言ってもいいですか。起業したいなら東京に出た方がいい。岡山から東京まで飛行機で片道1時間ちょっと、費用も1万円くらい。たったそれだけで岡山よりもはるかに市場が大きい東京に行けるんです。いまは情報が集約された場所、たとえば東京や上海にだって2時間以内で行けるんですよ。同じ時間を使ってこの土地に留まって、どうやって成功する?だから僕は東京に出ました。成功を目指すのなら、縛られすぎていてはいけない。土地に執着して、想いにこだわりすぎて現実を見ないというやり方を、僕は合理的とは思いません。」率直な言葉と真摯な表情には、少年期に培った《素直さ》があらわれているように感じられた。彼の視線は、遠く先の、けれど確実に実現可能なリアリティに、変わらずまっすぐに向けられている。

○西江肇司/株式会社ベクトル代表取締役・経営者
1968年生まれ、岡山県倉敷市出身。関西学院大学卒業後の1993年にベクトル設立。2000年よりPR事業を中心とした体制に本格移行し、業界トップに躍り出る。2012年東証マザーズ上場、2014年に東証一部へ市場変更。今後は、アジアNo.1を目指し、新たなPRグループの形成を目指す。著書に『戦略PR代理店』(幻冬舎)など。

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