INTERVIEW
THE OWN WAY 岩井 志麻子(作家)
11 January 2019
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岩井志麻子の人生観_思うとるほどダメな人でも、立派な人でもない。

人気深夜番組にヒョウ柄の衣装で登場、過激な下ネタを披露して人気再燃。高校在学時にデビューを果たし、岡山県の農村に生まれ育った経験を活かした作品を多数発表。独自のキャラクターを武器にコメンテーター、女優、タレントとしても活躍している。受賞作を持つ有名作家でありながら文壇でもひときわ妖しく輝き続ける女性。衝撃的な離婚を乗り越え、彼女が第二の故郷に選んだのは日本最大の繁華街である新宿・歌舞伎町。波乱万丈、自由奔放に見える人生のバックグラウンドにはいつも岡山があった。

 化粧から衣装まで全身ヒョウ柄のコーディネート、いや、豹そのものになった年配女性の異様な風貌。ある深夜番組にレギュラー出演するようになると、芸人顔負けの下ネタや過激な比喩表現で一躍注目を集めた。2000年に著書『ぼっけえ、きょうてえ』で山本周五郎賞を受賞した岡山県出身の作家、岩井志麻子さんだ。映画やドラマで役柄を演じることも増えたが「いまは豹が収入源」と冗談交じりに話す彼女は、岡山県和気町の農村で育った。幼いころから小説家になることを目指していた彼女の原体験もここにある。娯楽の少ない環境で唯一の愉しみは父親が岡山市内で買ってきてくれる本や漫画だった。好きだったのは上村一夫や西岸良平、楳図かずおに丸尾末広といった後に大御所と呼ばれる個性派の作家たち。インターネットも無い時代に、有名になる前の作家の中から娘が喜ぶ作品を探し当てる不思議な嗅覚を持った父親だった。「いまのようにスマホやパソコンのある時代だったら父親は作家になれたかもしれない。逆に私は、父から与えられた本しか情報が無かったから作家になれたような気がします。私は書き手で父がプロデューサー。二人で初めて一人の作家なのかもしれないと思うときもあります。」高校在学中に小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入賞したが、卒業後はフリーターのような生活を送りながら執筆を続けた。「当時の女性といえば、高校を出たら大体が地元で腰掛の就職をするか結婚するかといった時代。大学なんてよほどの意気込みが無いと進めませんでした。でも、どうせなら自分らしくないことをしようと20歳くらいのときはバニーガールのバイトもしていましたね、いまは豹ですけど(笑)。あの頃から無意識にネタ作りに励んでいたような気がします。」

1998年に岡山県で最初の結婚。執筆を続けながら二人の子供を育てる主婦となる。しかし、相手に長く付き合っている女性がいるからと別れを切り出され、『ぼっけえ、きょうてえ』が第6回日本ホラー小説大賞を受賞したことを機に離婚を決意。単身上京した。「まさに青天の霹靂。離婚するかしないかの話をしているときに作品が最終選考に残ったことを知り、受賞したら離婚をしようと決めました。ホラー小説を書いている割にオカルトには興味のない私ですが、ノストラダムスの大予言で1999年に現れる恐怖の大王は私のところにきたのかと (笑)。」彼女の作品はそのほとんどが岡山を舞台に描かれており、週刊新潮で連載している『黒い報告書』は実際に起こった事件を元に官能小説仕立てにする企画だが、これも全てシチュエーションが岡山に置き換えられている。「私が日本ホラー小説大賞に応募したときは、瀬名秀明さんの《パラサイト・イヴ》や貴志祐介さんの《黒い家》などが受賞されていました。研究者が書いたミトコンドリア遺伝子の反乱を描くSFホラーと、もう一方は、元生命保険会社の会社員が書いた保険金殺人を題材にしたホラー。前年に大賞を受賞した作品に似た題材の応募が増える傾向にあるのですが、真っ向から勝負してもかなわない。彼らでも私に及ばないものは何かを考えた結果、岡山と貧乏をテーマに『ぼっけえ、きょうてえ』を書いて大賞を受賞しました。その翌年からは貧乏ホラーが増えたみたいですね(笑)。私は普通の人だから岡山以外に売り物がないんですよ。京極夏彦さんには攻撃的な田舎者だと言われたこともあります(笑)。」郷土愛からテレビやラジオで岡山のことを幾度となくネタにしており、『岡山県は結婚が夜這い』『岡山県では日本円がまだ流通していない』などのフレーズも話題になったが、考え方は小説の題材選びと同じだという。「有名な観光地に対抗して、地味な岡山県が声高に後楽園や瀬戸大橋で勝負しても印象に残りませんよ。それよりもヤバい田舎があるって思ってもらったほうが記憶に残る。岡山には日本円ちゃんと流通してますからって過剰反応されるのも困りますけどね(笑)。」今年、35年ぶりとなる高校の同窓会で帰岡した岩井さん。そこで感じたのは、学生時代に見つけた処世術でいまも生きているということだった。「昔からいまみたいな子供だったと周りは言ってくるんですが、勉強もスポーツもできない地味で普通の女の子でした。メディアの印象で歴史は改ざんされるものだなと(笑)。ただ、ある時から周りにからかわれるようになって、ハードないじめに発展する前に対処しようと思いついたのがエロい話と怖い話でした。誰でも興味のあることだったし、なぜか話すのが上手だった。いまだにこれだけでサヴァイバルしていることを考えると自分でも凄いなと思います。」そんな岩井さんが第二の故郷に選んだのは、日本最大の繁華街 新宿歌舞伎町だった。「ここには風俗嬢やヤクザ、怪しい外国人も含めて、物凄い人生を歩んできた途方もない人間がたくさんいます。ここにいると自分が恐ろしく凡庸に感じてしまうほど。岡山で生まれ、歌舞伎町で生きる、それがいまの岩井志麻子を作っている気がします。歌舞伎町は私にとって約束の地だったのかもしれません。」自分を過大評価することも無ければ卑下することも無い。そんな彼女の信条は《豊作は二年続かない》、そういった用心して生きる岡山県民ならではの気質があると話してくれた。彼女の作品や日頃見せる過激な表現の裏側には、全てを逆手に取って、練り上げた緻密な戦略が隠れているようだ。

○岩井 志麻子/作家
岡山県和気町出身。高校在学中の1982年に、第3回小説ジュニア短編小説新人賞に佳作入賞。少女小説家を経て、1999年「ぼっけえ、きょうてえ」が日本ホラー小説大賞を受賞。2000年に第13回山本周五郎賞受賞。2002年「岡山女」が直木賞候補に。「エロくて変なオバちゃん」を自称し、TV番組では、ヒョウの全身タイツを着用した強烈なキャラクターが注目を集めている。

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