INTERVIEW
LOCAL PRIDE -Kanagawa-川村元気
11 January 2019
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映画界の異才が狙う、“非”ど真ん中のスタンダード。

映画界では監督やメインキャストばかりがフォーカスされがちだが、映画プロデューサー・川村元気さんとなると話は別だ。05年の映画『電車男』を皮切りに、第34回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『告白』にて企画・プロデュースを担当。16年公開の『君の名は。』では、興行収入250億円を超える大ヒットを記録し、異色の存在感を放ってきた。今や小説家としても活躍する川村さんだが、その多彩な着想の原点として自身が語るのは、小1で体験した「粘土板事件」だ。

ピンクは女子の色

「小学校に入学してまだ間もないころ、粘土を使う授業があって。それぞれ粘土板を買って持って行くことになっていたんです。僕が自分のを出すと、周りの子たちがざわついたんです。なんだろうと思ったら、クラスメイトに『お前、なに女子の粘土板持ってきてんだよ』って言われて。はじめは何を言っているのか分からなかったのですが、僕が持っていた粘土板がピンク色で、それが女子の色だって騒いでたんですよね(笑)」。 家庭の方針で幼稚園にも保育園にも通わず、テレビもゲームも一切ない家庭に育った。同世代の子どもと接する機会がないため当然友達もできず、昆虫採集やザリガニ釣りといった日常の遊びもいつも一人。男の子の色といえば青や緑が常識であることなど、知るよしもなかった。「大げさに聞こえるかもしれないけど、僕にとってはそれがものすごく衝撃的で。周りの子たちと違うものを選んだことへの恥ずかしさとかではなく、合理性も根拠もないルールに何の疑いもなく従ってる周りの子どもたちに、そもそもそんなルールが存在していることに対する否応のない違和感。ありものに対する一種の疑心みたいなものは、そのころからずっと自分の中にくすぶっているような気がします」。 横浜という街に、長らく故郷の愛着が抱けずにいたのは、そんな原体験のせいばかりではない。両親はともに青森県弘前市出身。親の休暇に合わせてたびたび帰省したこともあって、弘前人としてのアイデンティティは自然と心に刻まれたが、生まれ育った横浜に自分の血縁はない。大半が埋め立てによってできたその地の成り立ちも、いかにも「移住の地」然としてなじめなかったのだ。

都心から片道1時間のガラパゴス

地元でありながら《異郷》であったその横浜に、ようやく故郷の愛着が芽生えたのは、東京に移り住んでしばらくしてからのことだ。「大学を卒業して、完全に東京に軸足を置いて生きるようになると、日本のど真ん中ではない絶妙な立ち位置がしっくりくるようになって。横浜って、弘前や岡山みたいな地方から見ればいわゆる都会のイメージじゃないですか。でも実はそこには東京とは違うカルチャーが育っていて、音楽もファッションも人の感性も東京のそれとは違う。地元には『こっちの方がいけてるぜ』みたいな東京に対抗心があるんですけど、自分の中にもそういう横浜人特有のプライドが息づいてるような気がします。映画を作ったり本を書いたりするときも、中央的なスタンダードに対する疑心がくすぶって、あえてど真ん中ではないすれすれのところを狙いたくなるんです」。 東京に次ぐ日本№2の都市として商業や娯楽は充実し、その一方で一歩郊外に踏み出せば豊かな自然が広がる。都心からおよそ30㌔あまりの距離ながら、強大な東京のエネルギーに巻き込まれることなく独自の文化と気風を育んできた横浜は、いわば東京最寄りの「ガラパゴス」だ。けれどそんな「ガラパゴス」は横浜だけではない、と川村さんは言う。弘前然り、名古屋、京都、福岡然り。東京と距離を置き、その浸食を免れて根付いた固有のカルチャーを持つ地方はそれぞれにガラパゴスであり、それがゆえに人を引き付ける力を持つのだ、と。

「日本」といういびつで壮大な田舎国

「地方創生っていうと『東京』対『地方』みたいな構図になりがちですけど、これからは『日本』対『世界』という風に視点を切り替えるべきじゃないかと思うんです。全国各地にそれぞれ多様な文化が息づいていて、日本という国をその結晶体ととらえるならば、日本自体がものすごく壮大でいびつな田舎国。そのいびつさが日本の個性だし、世界で勝負しようとするときには最大の強みになるはずです」。

○川村元気
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『君の名は。』『怒り』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』などの映画を製作。2010年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表し映画化される。以降、絵本『ムーム』、小説『億男』、『四月になれば彼女は』など絵本作家・小説家としても活躍。『億男』は76万部を突破し映画化が決定。対話集『仕事。』は9月に文庫化された。今後のプロデュース作品として、『来る』(中島哲也監督/ 12月7日公開)がある。

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