INTERVIEW
LOCAL PRIDE -Hyogo-清川あさみ
11 January 2019
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島で暮らした16年間が、クリエーションの原点。

読モから引きこもり、そしてアーティストに

「ポスト団塊ジュニア」だの「ロスジェネ世代」だのと呼ばれたアラフォー界隈の女性なら、彼女を知らない人はほとんどいないだろう。身長150㌢と小柄ながら、整った顔立ちとセンスの良さでモードもパンクもなんなく着こなし、『Zipper』や『CUTiE』、『A‐GIRL』など90年代の人気ファッション誌に次々登場。読者モデルという言葉もまだなかった当時にプロモデルたちをも凌駕する人気ぶりを見せ、のちの読モブームの礎を築いた。専門学校卒業と同時に突如表舞台から姿を消したが、01年に山梨県で初個展を開催しアーティストデビュー。写真に刺繍を施すという独特な手法で注目を集めると、その後はCD・DVDジャケットやテレビ・映画のビジュアルデザイン、アニメーション原画など業界を股がけて活躍。比類ない感性と才能をいかんなく発揮し、日本を代表するアーティストのひとりにのぼりつめた。「モデルのお仕事もとても楽しかったし、美術系の大学に進学する話もあったんですけど、どっちも何となくその先が想像できてしまって。私よりスタイルが良くて洋服を上手に着こなせる人はたくさんいるし、どうしてもやりたいことでもなかったし。その後はしばらく自宅に引きこもって、ただ黙々と製作に没頭していました」。

色彩の闇に浮かぶ光と影の矛盾と本質

見事に開花させた唯一無二の才能と端正な容姿を併せ持つ彼女はメディア露出も多く、華やかで洗練された女性のイメージが強い。けれどその一方で、彼女の色彩豊かでどこかファンタジックな作風は、表層的な美しさや華やかさとは裏腹の《何か》を訴えているようにも見える。誤解を恐れずに言うならばその《何か》とは、人間の心の奥底に巣くう暗澹とした闇の気配のようなものだ。 例えば、「美女採集」と並ぶ彼女の代表作「Complex」シリーズ。若く美しいモデルの《裸体》の上に糸を重ねて表現したのは、肥満や体毛、老化、そしてメンタルシックII。本来であればその現実から目を背け、ごまかし、隠し通したいと願う女性の典型的なコンプレックスばかりだ。シリーズの名の通りといえばもちろんそうなのだが、美しい女性に美しい色と装飾を重ねて、隠したいはずのものをあえて《露わ》にしようとするのはなぜか。「マイナスをプラスに変える力を表現したい、というのももちろんあります。でも、もともと私が矛盾とか歪みみたいなものにすごく興味を持っていて、そこにフォーカスしてみたかったというのもあります。物事を深く見つめたり考えたりしたときに感じる矛盾や歪みは、私にとって、創作意欲を駆り立てる最大のモチベーションで。私の作品は一見ファンタジックに見えるかもしれないですけど、実はそこで表現しようとしているのは、普通なら表からは見えない、もっとリアルで本質的なものなんです。誰もが憧れるような美しい人にもコンプレックスや悩みは必ずあるし、事実の裏側に無数の嘘が隠れていることもある。どちらが真実なのかということではなく、その事実と嘘が織り成す矛盾や歪みの中にこそ本質があるような気がするんです。それを突き詰めたくて作品を作り続けているような感じですね」。 2016年に発表した『Ⅰ:Ⅰ』も、そんな本質を追求する過程の中で生まれた作品のひとつ。彼女自身のインスタグラムにアップされた画像のネガポジを反転・転写。二つのレイヤーを少し離して重ねることで、一枚の写真に残った記憶を複層的に表現したものだ。 「最近はSNSが発達して自分をプロデュースすることに長けた人がすごく多いですよね。でも、そこでもきっと本当と嘘が無数に重なり合っているんと思うんです。一枚の写真の裏に潜む二面性を同時に見るような作品にしたかった」。 そこはかとなく宿る闇の気配は、いわば、彼女の目に映る愛すべき女性の本性のようなものなのかもしれない。

都会の彼方で培った視線

都会的で華やかな印象の彼女だが、文化服装学院に進学するまでの16年間を過ごしたのは、兵庫県淡路島。地元では人気観光地としても知られる、自然豊かな瀬戸内の島だ。「地元の自慢は、って聞かれても『自然』としか答えようがないかな(笑)。あとは、食べ物とか? 美味しいものなら、たくさん。自然しかないって、ネガティブに聞こえてしまうかもしれないんだけど、私にとってそこで得たものはすごく大きくて。東京のように人も情報もあふれるところで生きてきていたら、不思議や矛盾に思うようなことも、さらっと通り過ぎてしまったかもしれないんだけど、島では自然と人以外に心惹かれるものがほとんどなかったから。小さな存在も目に留まったし、ささいなことも強く印象に残った。見えない本質を見抜く力が人より高いとすれば、それはきっとあの島の暮らしの中で、光にも影にも矛盾にも、向き合いすぎるほど向き合ってきたからだと思います」。 事実を伝える写真の裏に隠れる嘘、美しさや自信の奥に潜むコンプレックス、そして、都会の華やかさとは無縁の地方の島のリアル。時として忌み嫌われ、闇に隠され、そうでないとしても決して歓迎されることのない影の存在たちは、けれど、彼女にとっては本質へ導くための重要なパズルのピースになる。矛盾の中に本質を探り続ける彼女の創造性は、今も闇の中をさまよいながら、色とりどりの光を放つ“どこか”へと向かい続けている。

○清川あさみ
1979年9月15日、兵庫県淡路島生まれ。文化服装学院卒業後、2001年に山梨県のギャラリーで開催した「SAUCE」でアーティストデビュー。写真に刺しゅうを施した個性的な作風で人気を博し、現在は衣装、空間デザイン、映像、広告、イラストレーションなどさまざまな分野で活躍。2004年にベストデビュタント賞受賞、10年にVOCA展で佳作賞受賞。2013年「VOGUE JAPAN Women of the Year」受賞。代表作に「美女採集」「Complex」シリーズ、絵本『銀河鉄道の夜』、最新の作品集『清川あさみ 採集』など。11月21日~12月10日まで京都の『両足院 建仁寺山内』で原画展を開催予定。

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