昨年11月、東京・目黒にオープンしたレストラン「Kabi」のオーナーシェフ安田翔平。27歳というこの若き料理人が、いまグルメやクリエイターたちの間で話題だ。日本ならではの食材や和食の技術を活かした一皿一皿は、世界に通用する新しい「日本食」をカタチにした「温故知新」ともいえるクリエイションの粋。デンマークで気づいたという発酵技術の素晴らしさも教えてくれる彼の料理は、どれも新鮮な驚きと感動に満ちている。
温故知新。新しい料理を日本から世界に。
ある特定の料理ジャンルを極めようとする職人タイプとは一線を画す独自のスタイル。若干27歳という若さながら各界著名人からも注目を集めているのが、安田翔平さんだ。2017年11月、仲間と共に東京・目黒にオープンしたレストラン「Kabi(カビ)」は、年配の食通から若手クリエーターまで幅広い客層から支持を集めている。出身は浅口市鴨方町。子どもの頃と自分の根幹は何も変わってない、と彼は言う。「すごくハングリーで、イタズラ好きな悪ガキでした(笑)。料理以外にも興味があることには何でもすぐ飛び込んでましたね。だから、いまでも国内外に音楽やアート、ストリートシーンで活躍する友人がたくさんいます。」大阪の料理学校を卒業後、フランス、大阪、東京、デンマークと拠点を移すごとに、料理の腕を磨きながら各地のカルチャーも吸収していった。その中で、現在の彼にもっとも影響を与えたのがデンマークでの生活だ。東京の一つ星レストラン「Tirpse」でスーシェフを務めていたとき、一緒に働いていたシェフの話からデンマークの食文化に興味が沸き、これまでと同じようにあてもなく身一つで現地へ飛んだ。
そこで何軒もの店を食べ歩く中、レストラン「Kadeau」の味に衝撃を受け、ここでシェフとして働くことになる。「デンマークは冬が長く、寒い時期は作物が採れないため、食材の保存技術が発達している。これは日本の発酵食品と共通するものなんです。例えばピクルスは、日本でいう漬け物。ここで使われている発酵技術は、日本の食文化でもあるということに気付きました。」味噌や醤油、漬け物など、和食には欠かせない発酵食品。日本食ブームと相まって、この技術は世界中から注目され、各国のシェフが料理のクリエーションにも取り入れ始めている。安田さんも日本の発酵の素晴らしさを再認識したことが、「Kabi」をつくるきっかけとなった。「ある時、ぬか漬けを作ってみんなに食べてもらったら、すごく好評だったんです。その時、日本ならではの食材や技術を活かしたら、もっと面白い料理ができるんじゃないかと思いつきました。Kadeauの料理人たちは、すぐに和食のテクニックも取り入れ、自由な発想で料理をつくっていた。僕はそれを日本人として自分にしかできないかたちでやりたいと思ったんです。」kabiでは梅干しをパウダーにして調味料にしたり、フレンチの調理法であるコンフィに奈良漬けを使うなど、アレンジの域を超えた解釈が随所に見られる。そんな彼がつくる料理の中で、特に注目されたのも、やはり日本の発酵技術の応用だった。「店名が「カビ(黴)」なのでよく勘違いされるのですが、発酵料理に特化した専門店ではありません。僕たちがやりたいのは、日本の食材や技術を活かして、世界に通用する新しい料理をつくること。
日本人は、フレンチや中華など、他国の料理を自国流にアレンジすることにかけては、すごく優秀。でも、その一方で、味噌やぬか漬けといった日本ならではの食文化や技術を、新しいスタイルで提案するという発想が欠けているような気がします。料理をひとつのジャンルに縛ることもしたくない。もっと感覚的に美味しいものをクリエイションする、それが、僕たちがやろうとしていることです。」オープン前はkabiのパートナーであるソムリエの江本憲太郎さんと共に、都内のレストランを貸し切って自分たちの料理を提供するイベントを開催して生計を立てていたが、その評判が口コミで広まり、依頼を受けて全国各地を巡った。これが「Kabi」の布石にもなったと安田さんは言う。自分たちのレストランができたいまでも、彼らのスタイルは変わらない。自分たちが感動できる、全く新しい食の体験をいつまでも求めているのだ。
○安田翔平/料理人
1991年生まれ。浅口市鴨方町出身。大阪の料理学校を卒業後、渡仏。帰国し、大阪の二つ星レストラン「ラ・シーム」で働いた後、東京のフレンチレストラン「Tirpse」でスーシェフを務める。2015年から、約1年間デンマークへ。一つ星レストラン「Kadeau(カドー)」でシェフを務めていたとき、日本の食文化の可能性を改めて実感し、帰国。江本賢太郎氏と共に、各地で料理のポップアップイベントを開催し、注目を集める。2017年11月、江本氏と共に東京・目黒にレストラン「Kabi」をオープン。(レストランKabi_東京都目黒区目黒4-10-8TEL:03-6451-2413[Tasting Menu] 完全予約制19:00 – 22:00[Lunch] 予約不可土・日のみ 11:00〜14:00(L.O)不定休)