INTERVIEW
THE OWN WAY 伊澤一葉(東京事変)
10 January 2019
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2012年に解散した椎名林檎がリードするバンド「東京事変」で鍵盤楽器、コーラス、ギターを担当。また作詞、作曲、編曲と東京事変で椎名林檎の新しい一面を引き出した人物とも言われている。「あっぱ」のピアノ&ボーカル兼バンドリーダーとして活動しながら、数多の一流アーティストのバックバンドのメンバーとしてコンサートやライブにも帯同。ミュージシャンから絶大な信頼を寄せられている。主演と裏方を兼ねる音楽生活、これが、伊澤一葉の求めたスタンスだ。

ギラギラした野心を捨て、自然体で生きる

 倉敷市出身のミュージシャン伊澤一葉。自身のバンド「あっぱ」のリーダーを務めながら、ピアニスト、キーボーディスト、ボーカリスト、作詞家、作曲家、編曲家、プロデューサーとして、現在も数多のミュージシャンの作品やライブにも携わっている。そんな、知る人ぞ知るプロフェッショナルとして活躍していた彼の名前を一躍有名にしたのは、椎名林檎が結成したバンド「東京事変」への加入だろう。「もともと東京事変でキーボードをしていたH是都Mは、僕の大学の同級生。以前僕がソロライブをしていた時に椎名さんを連れてライブに聞きに来てくれたことがあって。彼が東京事変をやめることになった時に、新しいキーボーディストを探すことになり、僕のことを思い出してくれたみたいです。椎名さんから直接電話をいただいて東京事変に合流することになりました」。第一期はエンターテーメント性、第二期は音楽の質や演奏力が評価されているとも言われている東京事変。第二期メンバーとして椎名林檎と共に作詞・作曲、編曲などを精力的に行った伊澤さんはその功労者と言えるかもしれない。それまでの東京事変にはなかったジャジーな曲調をはじめとする伊澤さんの世界観を色濃く反映した楽曲が、一部では椎名林檎のアーティストとしての新しい一面を開花させたとも言われている。「椎名さんの配慮で、大規模な興行では見過ごされてしまいがちな倉敷をツアーに組み込んでくれたり、ファイナル公演を倉敷にしてくれたこともありました。僕の地元だからっていう配慮がすごく嬉しかったですね。何より、岡山のファンの方にとっては嬉しいサプライズだったと思います」とは、バンドにとって伊澤さんがいかに大切にされていたかが伺えるエピソードだ。

東京事変は、2012年2月29日に惜しまれつつ日本武道館のコンサートをもって解散したが、日本の音楽シーンを語る上で欠かせない軌跡を残した、極めて稀有なバンドの一つであることは間違いないだろう。そんなチームの一員としても活躍した、倉敷が輩出した不世出のアーティストは、高校生の時に組んだバンドで演奏した文化祭のステージの余韻が、すべてのはじまりだったと話す。「進学校と呼ばれる高校に通っていましたが、そこから音楽を学ぶために専門的な学校に進んだのは当時僕くらいかもしれないですね(笑)。幼少期にピアノを習っていたのが音楽との最初の関わりですが、文化祭のライブで表現することの喜びを知りました。母親の『やるならきちんと学んだら』という言葉も後押しになりました。ただ、上京してものすごく売れてやろうとか、よくある野心みたいなものはまったくといっていいほど持っていませんでした。ただただ、音楽を続けたいっていう気持ちで、すごく自然体だった。それはいまも変わっていないですけどね」。プロとして活動をはじめ、現在まで楽曲に関わったアーティストの数、バックバンドも含めたライブ出演回数は数え切れない。また、ハードロックからポップス、歌謡曲まで、多彩なジャンルに対応できる幅も伊澤さんの音楽的センスを表している。aiko、大橋トリオ、土岐麻子、米津玄師、Chara、由紀さおり、吉澤嘉代子、片平里菜など、そうそうたる面々から全幅の信頼を得る数少ないミュージシャンだ。「僕がメンバーとして呼ばれる時には、少し変わったことをやってみたいという場合が多いみたいです。そういうチャレンジをする場面で声をかけてもらえるのは非常に光栄なことだなと」。さまざまなアーティストと関わる中で、自分自身の音楽にもそこで得た刺激をフィードバックしているという伊澤さん。2004年に結成した「あっぱ」は、伊澤さん本人が作詞作曲のすべてを手がけ、自身の音楽をもっとも自由に表現しているという意味でも大切なバンドだ。楽曲によってはブラジリアンポップミュージックのようなディティールを感じたり、アルゼンチン音響派のような不思議な世界観も入り混ざったような独特なサウンドを感じる。

いま現在の等身大の伊澤一葉を知るには、あっぱのライブを見るのが一番かもしれない。「演者でも裏方でも、音楽に携われるならどんなカタチでも良いと思っています。ただ、ギリギリ陽の当たるところにいたいなというのはありますね。半分表舞台、半分裏方が自分の中で一番バランスが取れているような気がします」。甲本ヒロトや稲葉浩志など、伊澤さんと同じ岡山出身でいまも表舞台で活躍するミュージシャンはたくさんいる。しかし、現在の日本の音楽シーンを支える裏方にこそ、岡山出身者の力が隠れているとも話してくれた。「サウンドエンジニアやスタジオミュージシャンなど、腕が立つ人がいると、けっこう岡山出身の人が多いんですよ。楽曲制作やライブ演出、音響といった一見すると地味な部分がすごく大切で、誰が聴いても分かる良し悪しとして表れるもの。裏方のプロフェッショナルの仕事ぶりを見て感動したことも、いまの自分のスタンスにつながっているような気がします」。ギリギリ陽の当たるところ、その境目で強烈な存在感を示す稀有なミュージシャン。伊澤一葉の音楽にはそんな彼のコントラストが滲んでいる。

○伊澤一葉/Compose / Arrange / keyboard / vocal …and more
1976年生まれ、岡山県出身。4歳からピアノを弾きはじめ、中学2年でギターと出会い高校でバンド活動を開始。1996年に上京し国立音楽大学作曲科へ進学。2004年に全曲の作詞・作曲を手がける自身のバンド「あっぱ」を結成。2005年キーボディストとして東京事変に加入。ロック、ジャズを核としたアプローチから生み出す多角的な楽曲と独特の世界観をもつリリックセンスでファンのみならず、多くのミュージシャンからの支持を受け、楽曲制作やツアー帯同など幅広く活動中!

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