INTERVIEW
THE OWN WAY ハシヅメユウヤ(アーティスト)
10 January 2019
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長身で端正な見た目に反して、レンズを向けられるとコミカルな表情でおどけてみせるハシヅメユウヤさん。彼は各方面で物議を醸した曰くつきのアーティストだ。アパレルショップ店員、プレス、モデル、イラストレーターとさまざまな仕事を渡り歩いた先にたどり着いたアーティストとしての自分。内に秘めた絶対的な自信と盲目な大衆への疑問、クリエイティブとは何かという自分なりの主張。彼の頭の中には、まだ世の中にお披露目していない企画が数限りなく転がっている。つまり、「ハシヅメユウヤ」という作品はまだまだこんなものじゃないということだ。

社会に対する疑念を自信と創作で打ち砕く。

 どこかで見たことがある。いや確かに見たことがある女の子の絵。藤子・F・不二雄先生?いや、どこか違う。女の子のヘアスタイルや表情は、慣れ親しんできたあの絵とは微妙に異なっている。ニュースにもなったことでアートの世界を飛び出して世の中に賛否の嵐を巻き起こしたイラストレーション作品、作者は岡山出身のハシヅメユウヤさんだ。『高校を卒業したら都会に出るように』という親の方針があったハシヅメ家。大好きな地元・岡山に後ろ髪を引かれつつ、興味のあったファッションを学ぶため大阪の服飾キャリアスクールへ入学した。卒業後、某有名アウトドアブランドに就職して地方店に勤務するが、ほどなくして自らの希望で原宿本店へ移動する。すらっとした長身に整った顔立ちも手伝って一躍目立った店員として持て囃された彼は、東京でもすぐ同じようになれると思ったのだ。しかし、ディスプレイのコーディネイトや自分自身のファッションセンスに絶対的自信を持っていたが、原宿店出勤日初日で全て勘違いであったと挫折する。「高校の頃から周りにチヤホヤされるっていうことがずっと続いていて、自分よりイケてるやつはいないくらいに思っていました、良くも悪くもとにかく調子に乗ってましたね。それが、東京に来て自分がイケてないやつだと気づかされるという。いや、自分の感覚に世間がフィットしなかっただけなのか(笑)。」

それからはモテキャラからイジられキャラに転身。自称世渡り上手であるハシヅメさんは、販売とプロモーションを任されるようになり、新店舗の立ち上げにも携わった。ついに店長にまで昇格するが、5年前に自分の中で限界を感じやめることに。悪いことは重なるもので、当時付き合っていた彼女とも別れ人生最大のドン底に突入。「お金もないから持っている服を少しずつ売り払い、飲めない酒でヤケ酒を飲み…そんな折にスタイリストの友人から『ハシヅメ君、雑誌の仕事で顔だしのないモデルの仕事があるんだけどやらない?』と誘われました。それがきっかけで、以前からひっそりと絵を描いていた僕を編集者に改めて紹介してくれて。ポートフォリオを見せたら、面白いからページは全部ハシヅメ君でいこうということになったのが絵を仕事にする始まりでした」と当時を振り返る。それから、フリーランスのデザイナーと組んでクライアントワークを中心とした活動を始めるのだが、軌道に乗り始めた頃、知り合いのカメラマンから「自分の作品を作っていかないとクライアントワークばかりではいつか仕事が面白くなくなるよ」とアドバイスをされた。これが、プロフェッショナルとして生きていくか、アーティストになるかの転機となった。

仕事の合間にストックしていた作品を持ち寄って展示会の開催を決意。初回の場所に選んだのは生まれ育った岡山のセレクトショップ。プレス時代に培ったノウハウも駆使してセルフプロディースを行い、300人を超える動員を実現。新人による初回の展示会としては異例の盛況ぶりは、これまで無名だったとは思えないほどの話題を集めた。第二弾として発表した作品は、世の中でまだみんなが見たことのない変な植物を探す「変植物調査」。変植物ハンターで ある自身のドキュメンタリー映像のインスタレーション作品だが、こちらはなかなか評価を得られず、試行錯誤の上で新たに企画したのが現在も開催希望が殺到するほどの人気を集める人力顔面絵描販売機『ヘンナーベンダー』。販売機にお金を入れて、プリントシール機のようにカメラで写真をパシャリ、待つこと5分。ホッカホカの似顔絵が出来上がって出てくるというシステムの、体験型の作品だ。そして、イラストレーターから一転、アーティストとしての活動を多様化させる中で、あの物議を醸した藤子・F・不二雄の絵にそっくりな作品を世に出すことになる。想像を超える世間からのバッシングと同時に、様々な賛否両論を引き起こした。「権利の許可の中で原作者本人が描いていないモノをオリジナルとして世の人の眼に触れることへの違和感、そもそもオリジナルとは何かを突きつける意味もあって、贋作師だと公言して発表しました。いろいろ非難もされましたけど、そういう人に言いたいのは僕ほど藤子・F・不二雄先生の作品としっかり向き合っているのかっていうこと。散々言われましたけど、作者への最大級のリスペクトと勇気で作品を世に出した結果、みんながいろいろなことを考えるきっかけは作れたんじゃないかな。ここでやめてしまったら言いたいことが中途半端になってしまうので、タイミングを見て新たな作品を出していきたいと思っています」。自分の意図と世の中の関わりが腑に落ちていないという彼の主張に異を唱える人も少なくないだろう。また、「ナルシストでかっこつける自分と笑ってもらえる自分」の間を錯綜していると言うハシヅメさんは、もしかすると高校時代に確立した独特のナルシチズムをアーティストという立ち位置で思う存分発揮しているだけなのかもしれない。

しかし、素質に恵まれた絵画力、作品を商業的に成立させるプロモーション力、糾弾を恐れずアートとは何かを投げかける姿勢は、先天的・後天的な才能によって成立したひとりのアーティストに違いない。ふざけているようで真剣、高慢なようで謙虚、自信家のようで臆病。そんな捉えどころのない彼の頭の中には、まだまだ世の中をびっくりさせるような作品のアイデアが詰まっている。「ハシヅメユウヤという職業でありたい」と話す彼が進むのは、まだ誰も歩いたことのない茨の道だが、世間をアッと言わせるセンセーショナルな作品をまた生み出してくれることを期待したい。

○ハシヅメユウヤ/アーティスト
1983年生まれ、岡山市出身。アウトドアブランドで販売とプロモーションに携わり、在職中は某有名ブランドのフラッグシップショップの立ち上げにも参画。その後、モデルの仕事をきっかけにデザイナーから声をかけられ、雑誌やカタログに挿絵を提供するイラストレーターとしてクライアントワークを中心にエディトリアルデザインに携わる。並行して創作活動を始め、展示会では初年度から300名を超える動員で話題を集める。似顔絵自販機「ヘンナーベンダー」や映像作品なども発表している。

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