INTERVIEW
LOCAL PRIDE -Hiroshima-谷尻誠 ( SUPPOSE DESIGN OFFICE )
09 January 2019
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東京と広島を行き来する
ダブルローカル

渋谷公園通りに『hotel koetokyo』がオープンして数か月。谷尻誠さんのもとでは、既に次々と新たなプロジェクトが進んでいた。広島平和記念公園近くに移転する予定の自身のオフィスもそのひとつ。ただのオフィスではない。1階は社食を兼ねたダイニングで2階がワークフロア、3~5階のホテルに加え、地階ではクラブイベントもできるようにしたいという。といっても、谷尻さん達が手掛けるのは今や県外、海外の仕事ばかり。ここへきてなぜ広島オフィスなのか。「確かに広島の仕事は最近あんまりないですね(笑)。でもスタッフの数は広島の方が多いし、僕の家も広島にある。あえて東京に一本化しようっていう発想は今のところ全然ない。オフィスの新築は単純に今のところがボロボロだから(笑)。ただ折角の場所なので、世界中から人が遊びに来てくれるような場所にしたいとは思っていて。10部屋だけですけど客室をつくろうとしてるのは、そこをホテルというメディアにしたいから。アート、カルチャー、グルメ、ファッション、音楽。どれもウェブコンテンツになり得るものですけど、ホテルにはそれが全部詰まってるんですよ。だからこのホテルとウェブをリンクさせながら情報を発信することで、新しい人の流れをつくれないかな、と」。

町家暮らしから得たもの

住宅もつくるし商業施設もつくる、アートインスタレーションもやればプロダクトデザインを手掛けることもある。常に新たな可能性を探り続ける谷尻さんの機動力の根幹には、広島県三次市で過ごした幼い日の記憶がある。「実家はすごく古い町家で、家の真ん中に庭があった。自分の部屋から台所に行くにも雨なら傘をささなければいけないし、五右衛門風呂だから湯につかりたければ薪をくべなければいけない。友達の家は現代的な家ばかりだったから『なんでウチだけ』ってずっと思ってて。でも自分なりに工夫しながら暮らしていくうちに、ほかの家にはない豊かさも見えてきました。家の中に庭があるのは自然が身近にあると思えば豊かなことだし、自然と折り合いをつけて快適に暮らそうと思うと自ずと知恵も養われていく。失敗や苦労もあったけど、いつからかそんな暮らしを楽しむようになりましたね」。

経験を買うということ

「仕事も、生活や遊びも、似たようなものじゃないかと思うんです。理想を手に入れたいなら、苦労や失敗も必要なプロセス。高級ホテルに泊まるためにバイト代全部はたくことになっても、憧れの時計ひとつにローンを背負うことになっても、そこまでやって手に入れた物や経験はそれまでとは全然違う景色を見せてくれますから。リスクは怖いけど、失ったものはその経験を糧に何倍にもして取り返せばいい。失敗を恐れるあまり新しい経験を重ねる機会を失うのは、すごくもったいないことです」。

”そこそこ“への満足がもたらす地方の限界

そんなもどかしさを、地方にも感じることがある。広島のような中都市を見続けてきたから、なおさらだろう。平和記念公園と厳島神社という2つの世界遺産を持ち、お好み焼やカキに代表されるグルメもある。大企業や有名ブランドの支店やショップが集まる中四国の要衝で、ヒト・モノ・カネが集まる仕組みもある。不自由ない環境は決して悪ではないが、それは時として新たな可能性を拓く弊害にもなり得る。「本当はもっと上に行けるのに”そこそこ“で満足してしまうから、上を目指す人たちは大都市に流れ、未来の発展も減速する。国がどれだけ地方創生を叫んでも、その地にいる人たちから機運が生まれてこなければ、うまくはいかないと思います」。 「地元の仕事はない」と言うものの、『ONOMICHI U2』は近年の代表作のひとつ。築約70年の船荷倉庫をリノベートした空間には、自転車ごと宿泊できるホテルやレストランバー、ライフスタイルショップなどが混在し、訪れた人は周囲の美しい景色、人・物との出会いを通じて、ここでしかできない経験を刻んでいく。谷尻さんはそんな体験の場の提供を通じて、三次にはぐくまれ都会で研ぎ澄まされた経験を、新たな波動に生み換えようとしているのかもしれない。

○谷尻誠
建築家、「SUPPOSE DESIGN OFFICE」共同代表。「建築をベースに新しい考え方や、新しい建もの、新しい関係を発見していくこと」を信条に、一般住宅や商業空間設計デザインのほか、アートイスタレーションや展示空間デザイン、ランドスケープ、プロダクトまで多彩なジャンルで活躍。著書に「1000%の建築~僕は勘違いしながら生きてきた」、「談談妄想」など。「穴吹デザイン専門学校」特任講師、「広島女学院大学」客員教授、「大阪芸術大学」准教授も勤める。

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