石川康晴の哲学塾 Vol.7
×猪子寿之(チームラボ)

中学生の頃、「日本を再生しろ」という電波が届いたという猪子氏。彼が創業したシステムインテグレート企業チームラボの目的はその「日本再生」だ。ITの寵児、猪子氏に次代のメディアと企業戦略、仕事哲学を訊いた。

石川)早速聞きたいんだけど、日本のメディアって二十年後どうなっていると思いますか?最近では通信技術の発達で個人がメディアになってきていて、テレビや新聞といった既存メディアの影響力が薄くなってきているように感じるんだけど。

猪子)すごい勢いでテレビ離れは加速するでしょうね。本来テレビっていうのは膨大な資本を投じて制作するから、面白いコンテンツを生み出せる可能性はあるんですけどね。例えばお笑いコンビのダウンタウン。当時、ダウンタウンの笑いは新しすぎて、先輩芸人にはバッシングされるし、大衆にもなかなか受け入れられなかった。それでも、その新しい笑いに一パーセントの熱狂的なファンが生まれて、その熱狂の渦がどんどん広がっていって、まず深夜帯で異例の視聴率をたたき出したんですよ。これが後のメインストリームに成長していくんですけど、今後はこんな風にテレビから新たなスターは生まれないんじゃないかと思っています。いま、この新しい一パーセントがネットに一極集中してしまっている。テレビ局で働いている人たちって超優秀だと思うんですよね。だから、いまのメイン視聴者である高齢者に向けてコンテンツを最適化しちゃうんです。つまりは、視聴率を上げる為に、ネットが分からない層に向けてコンテンツを作るから若年層のテレビ離れも進んでいく。高齢者の方にとってニコニコ動画はどう見たらいいか分かりにくいかもしれないですよね。こんな風にどんなメディアもネットが分からない層に向けて情報発信する構造に変わってきちゃってるんですよ。

石川)残った視聴者に特化していく事が一つの選択と集中ではあるけど、長い目で見ると最善の最適化がその場しのぎにしかなっていないのかもしれませんね。優秀であるが故に盲目になってしまうっていうこともあると思うし、気づいていても構造的にがんじがらめになっていて新たな可能性に挑戦しづらい。でも、何故新しいものがネットにばかり集中するようになったんでしょうか。

猪子)もちろん情報発信が容易なこともあると思うんですけど、一番はプロじゃないから。プロって、何故プロと呼ばれるかって言うと「外さない」からプロなんだと思うんですよ。テレビでも視聴率をキープ出来る放送作家さんや一流のスタッフが集まって、多額の資本を投じてやっとあれだけの放送コンテンツが生まれる訳じゃないですか。失敗したとしても六割七割成功させるのがプロなのに対して、ネットの場合は極端に言うと費用もさほどかからないし失敗しても関係ないんですよね。それに、選ばれて勝ち抜いてきたプロだけじゃなくって、素人やアマチュアかもしれないけど、ネットの中には作り手が無限と言ってもいい程たくさんいるんですよ、世界中に。言ってみれば永遠にヒットが生まれ続ける可能性があるってこと。プロはある意味負けてしまう訳です。この差は大きいですよね。

石川)そんな現状の中で、今後テレビが生き残っていく為にはどうしたら良いと思いますか?

猪子)一つは素人にはできない映像表現を極めて、シフトしていくってことじゃないでしょうか。例えばアバターはその好例だと思います。本来ハリウッド映画ってどれだけ有名な俳優を起用するかが肝になっている部分って否めなかったと思うんですよ。この監督もタイタニックでも分かるように元々はその路線だったはず。でも、アバターって正直いって俳優誰でも関係ないじゃないですか(笑)。膨大な予算をかけて、それを出演者に充てるんじゃなくって素人には真似の出来ない映像技術に費やしてコンテンツを生み出すっていうことが、ひとつの活路になるんじゃないでしょうか。金額的にも技術的にも素人ができないことをすることが大事なんですよ、きっと。ソフトウェアの領域っていうのは個人もプロも差がなくなっちゃう訳だから。

石川)じゃあ、アバターはやっぱりそういった時代のシフトを睨んでいたっていうことになるのかな。

猪子)絶対にそうだと思いますよ。あれはこれからのビジネスをシフトしていかなきゃいけないってことも表現したんだと思います。それに、いまは有名人が何をしているかよりも身近な人が何をしているかの方が気になるんですよ。だからツイッターやSNSがこれだけ利用されている。テレビも有名人を起用して視聴率が取れる時代は終わっていくでしょうね。いろんな意味でアバターはこれからの映像メディアの先を示したんだと思います。あともうひとつテレビが生き抜いていく方法として思いつくのは、ハードを絡めたインタラクションを構築するっていうことかな。何故ニコニコ動画なんかが面白いのかというと、ネット生放送なんかでもリアルタイムで意見が飛び交ったりするところにポイントがあると思うんです。でも、いまはほとんどの場合それは情報だけに留まっているんですよね。それは何故かというとハードを絡めるのには膨大な予算がかかる。例えば、熱湯コマーシャルってあったじゃないですか。放送中にテレビの前でみんながiphoneを振ると、どんどんお湯の温度が上がっていくとか(笑)。これって予算的にも素人にはできないことなんですよ。

石川)仮装大賞なんかも審査員いらなくなっちゃうってことかな(笑)。確かに、そんなリアルタイムなコンテンツが生まれれば強みになりますね。それに、ソフトな部分っていうのはどんどん無料で提供される傾向にありますけど、ハードな部分は金額的にもなかなかそういう訳にいかない。確かにこれができればテレビが生き残っていく強い武器になりますね。それでは、新聞はどうやったら生き残っていけると思いますか?新聞こそ、高齢者に最適化されてきているように感じますが。

猪子)新聞って、いままでは言わば選ばれた人として記者さんが情報を集め提供していたと思うんです。これからは、誰もが情報を持ち寄って交換出来るような媒体に変わっていくべきじゃないかなと思っています。その中で、新聞っていうのは集まった情報をまとめるファシリテーター的な役割を担うべきじゃないかな。ウィキリークスは集まった情報の信憑性を確認するのが仕事だったと思うんだけど、情報過多の現代、新聞記者さんの仕事っていうのがまさにこの信憑性を担保することになっていくんじゃないかな。例えばメイド喫茶の情報を届ける場合、記者さんよりも毎日メイド喫茶に通っている人に聞いた方がたくさんのことが分かるじゃないですか。それに、ネットで情報を提供しまくっている人って暇な人が多いと思うんです(笑)。記者の人は暇じゃないですから。情報集めはそれぞれの道に精通した時間のある人に任せて、記者さんはその信憑性を担保するプロに変わっていくべきじゃないかな。

石川)メディアに関しての質問はこれで最後なんだけど、ファッション誌をはじめとする雑誌はどうやったら生き残っていけると思いますか?だんだんと紙で読む必要性も無くなってきていて、昔ほど影響力のあるカリスマモデルも少なくなってきている。それに比べてテレビや雑誌に出ている訳でもないのに、個人のブロガーやSNSに書き込みばっかりやっているような女の子が渋谷でライブするってつぶやくだけですぐ何百人と人が集まるような現象が起きているじゃないですか。

猪子)雑誌が一番難しいかもしれないですね。でも、やっぱりモデルでも商品でも、雑誌に出たっていう権威みたいなものは残ると思います。これは長年掛けて各媒体が積み上げてきたものだし。ただし、それを実際に強く訴求していくのはネットに変わっていくんじゃないかな。その辺はアパレルメーカーとして雑誌に掲載することの多い石川さんの方が詳しいんじゃないですか(笑)。実際どうなんですか?

石川)各紙やっぱり苦境に立たされていて、クライアント離れも進んでいってるように感じます。逆にネット広告っていうのは今後どうなっていくのかな?

猪子)どこまでがネット広告になるのかっていう線引きが難しくなると思いますね。単純にバナー広告にいくらって話じゃなくなってくる。どういうことかっていうと、広告枠をたくさん買って告知していくのがいいのか、口コミを誘発しやすいフェイスブックをいかに確立するのがいいのか、どこに金額を充てるかっていうことだと思うんですよ。だから、いまは企業によっては販売促進、広報、webといった具合に部署が分かれているところが多いと思うんですけど、極端な話、自社のことや商品を認知させていく事においてこれらの部署を分ける必要がないんですよね。

石川)結局のところ、これからの企業にとって大切なのは、広告代理店任せにするんではなくて、いかに影響力のある個人と直接コネクションをつくれるかっていうことになるのかな。

猪子)渋谷109系のブランドを複数展開する会社も、一般の中学生とか高校生なんかをブランドの顔にして成功しているみたいですけど、石川さんのおっしゃる流れは確実にすぐそこまで来ているでしょうね。

石川)いま猪子くんが話してくれたような話が本当に分かる企業って、いま日本に何パーセントくらいあるかな。

猪子)本当に理解して、そこに危機感を持って取組んでいる企業って考えると一パーセントくらいじゃないですかね。最近海外に行って思うんですけど、中国や台湾とか、近いアジアの国でも経営陣が若いことにびっくりするんですよ。自ら起業した人でなくとも、三〇代で抜擢されて代表をしている人なんてざらにいるんです。若い人を起用する年配の人たちもすごいですよ。そういう意味では日本はやっぱり遅れているように感じますね。経営陣が若いってことは、こういうネットを駆使した今後の企業戦略においても有利だと思います。

石川)これからの時代を企業が生き残っていくには、猪子くんの話してくれた感覚と、世界のビジネスがどういう風に進んでいるか敏感に感じとる感性が必要かもしれないね。最後に、猪子くんにとって仕事とは?

猪子)仕事は、「自分が好きだと思う人と遊んでもらうための道具」ですかね。女性をうらやましいと思うのは、女性って目的とかなくても好きな人と一緒にいられると思うんだけど、男性って何か道具とかがないと遊べないんですよ。人生は長いんで、たくさんいろんな人と遊びたい、ただそれだけですね。僕って中二病(ちゅうにびょう)で、いつまでたっても中学二年生みたいなことばっかり考えてるんですよ。ちょうど中学二年生のときに「日本を再生しろ」って電波が届いたんですけど、自分が何かをやって、少しでも未来をワクワクするものにしていきたい。使命感とかではなくて義務みたいに思っています。放っておいたら未来って面白くならない気がして。

石川)僕も中学二年生のときに洋服屋になるって志を立てたからね、同じ中二病かな(笑)。今日は忙しい中ありがとう。

猪子 寿之/チームラボ株式会社 代表取締役社長

1977年徳島県生まれ。1年間の渡米を経て、東京大学工学部計数工学科卒業。2001年3月にインターネットメディア、ソフトウェア開発事業を行うチームラボを創業。同社は東京大学発のベンチャー企業としても知られ、プログラマーやエンジニア、数学者、建築家、デザイナー等情報化社会の様々なものづくりのスペシャリストから構成されている。同社が設計・開発した産經新聞社のニュースサイト「iza」は「web of the year2006」に選ばれる等、受賞歴も多数。経済産業省クール・ジャパン官民有識者会議民間委員も兼任。

石川 康晴/株式会社クロスカンパニー 代表取締役社長

1970年岡山県生まれ。大手紳士服メーカーで経験を積んだ後、23歳の時に起業。セレクトショップを出店し、1995年に株式会社クロスカンパニーを設立。1999年にアパレルSPA企業へと転換し、感度の高いデイリーカジュアルを発信する都市型セレクトショップearth music&ecologyを中心に展開している。現在は岡山大学経済学部に在学中。

編集者PLUG

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