石川康晴の哲学塾 Vol.6
×藤巻幸夫(株式会社シカタ)

大手百貨店の敏腕バイヤーだった彼は、いつしかその発想力と行動力、そして飽くなき情熱で、企業の再生からブランドのプロデュースまでを手がけるようになっていった。今回は今もその生涯を懸けて挑戦し続けるプロデューサー藤巻氏にお話を伺った。

石川)これは出会う方々によくお聞きする事なんですが、予算も規制もなく、自由に好きな事をしたらよいとなったら藤巻さんはどんなことをされたいですか。

藤巻)僕は二十年前から同じ事を考えているんですけど、銀座四丁目の和光を買い取りたいですね。僕のルーツはやっぱり百貨店なんですよ。和光を買い取って、扱う商品やディスプレイからすべてを日本のものにしたいですね。なんだかんだ言ったってやっぱり世界の銀座なんですよ。海外からの観光客にも、地方からきた人にも、ここにくれば日本を感じられる、日本を知れる、日本のあらゆる良いものが買える、そんな強い発信力を持った、世界に向けた求心力も強いアンテナショップです。海外の一流品を集めるんじゃなくて、岡山だったら備前焼であったり児島のデニムであったり、日本全国の良いものだけを集めるんです。社長になりたい訳じゃなくて、バイヤー兼店長とかでもいい。今まで日本中のほとんどの地域に行ってきましたが、自分の見てきた日本の技術力や芸術性、全てをここに集めたいんです。これは本当に夢ですね、だから言い続けているんです。

石川)いいですね。日本の百貨店もきっとどこかで海外の百貨店に習ってやってきたところがありますよね。それを逆に見られる側、参考にされる側にしていきたいっていうところに特に共感します。日本の匠の技術やファッションからグッズ、食品に至るまで何でもそろった、世界がやきもちを焼くような百貨店が銀座にあるっていうのは日本人の新たな誇りにもなるかもしれませんね。実は、僕が最近考えている事と共通点があって驚きました。共通点というのは「集める」というところなんですが、僕は世界中の天才と評されるような学者や研究者、クリエイターを一同に日本に集めたいと考えているんです。

藤巻)それ、いいなぁ(笑)。面白いです。

石川)そういう人たちとチームを結成して、何かプロジェクトを企画するんです。考えただけでもワクワクしますよね。ところで、先ほどの百貨店の件もそうですが、藤巻さんは、どういったときにアイデアや企画を思いつくんでしょうか。

藤巻)人と話すときに、緊張と弛緩の瞬間ってあると思うんですけど、そういう時にアイデアが出てくることが多いかもしれませんね。基本的には机に向かってるときよりも、外に出て何気ない人との会話の瞬間に思いつく事が多いです。ただ、その会話や相手に没頭するのではなくて、どことなくその場にいる自分を客観視していますね。例えば、新人デザイナーの商品を集めた「解放区」という売り場を作ったときですけど、このネーミングはトンカツ屋からきているんです。あるトンカツ屋の主人と話をしている時にふと目をやった厨房の開放感にインスピレーションを受けて閉塞感を拭い去るという意味も込めて解放区にしました。あとは、ライフスタイルを提案する売り場として「BPQC」という売り場を作ったときもそう。原宿にユニクロができたときに、これからの時代はグッドプライス・グッドクオリティ・グッドセンスだなと思ったんです、それでフランス語が出来る友人に、この三つをフランス語で何て言うのか聞いたところ「ボンプリ、ボンカリテ、ボンシック」だったんでBPQCにしたんです。こんな感じで常に脳を浮遊させてて、それを言葉にしていくっていうことですかね。石川さんもそうだと思いますけど、僕らってオンとオフがなくって、常に何かに反応してませんか。

石川)二十四時間マーケティングですよね。例えば、テレビを見る人ってCMを飛ばしたりする人が多いって聞くんですけど、僕の場合は一つのCMが十五秒くらいの間に何を伝えようとしているのかが気になって、逆にチャンネルを変えてCM探しを始める事もあります(笑)。あとは、何気なく入った飲食店でも、このお店は客層がこのくらいで客単価がこのくらい、とか。海外の看板を見ただけでもそうですけど、常に好奇心を持っているってことでしょうか。そういうことを考えているときがすこぶる楽しいですしね。

藤巻)何か気になる、この頭の回転って大切ですよね。石川さんの言われる楽しいっていう感覚、好奇心を失ったら僕の仕事もおしまいです。何でも興味がある事は恥ずかしげもなく聞いてしまいますね。例えば、僕はワインのプロじゃないから、気になる女性とお店にいっても知ったかぶりをせずに何が良いか聞きますし(笑)。昔ある方に情報というのは「情に報いる」と教えて頂いたことがあって。インターネットや本は知識を得るには有効なんですけど、顔を合わせてお互いの情けを交わさなきゃ、本当の意味での情報にはならないと。

石川)そんな藤巻さんがお仕事をされる上で大切にされているのはどんなことですか。

藤巻)実は来年あたり、「直あたり(じかあたり)」って言葉を流行らせたいなと思ってまして(笑)。こうやって石川さんともお話しさせてもらって、やっぱりいろんな刺激を受けるんですよ。いまはバーチャルでのコミュニケーションがどんどん浸透していってますけど、やっぱり直に相手に会って話す、これをしないと駄目ですね。石川さんが色々と論理的に思考されている元にも、いろんな方に直あたりされてきた経験が生きているはずだと思うんです。

石川)確かに、いまは実際に会う事を意識的ではないにしろ敬遠される方も多いかもしれません。私も極力いろんな方に直接お会いしてお話をするようにしていますが、実際にお会いするのと会わないのでは吸収出来る内容の厚みが違うように思います。僕は仕事をチャレンジゲームだと思っていて、仕事も人生もリアルにチャレンジし、課題をクリアしていくことに喜びを感じています。ただ、最近はゲームなどバーチャルな世界でのチャレンジはできても、実生活では安定を求めてチャレンジする事を疎ましく思っている人も多いように感じますが、藤巻さんのおっしゃる直あたりすることがまずは最初の一歩かもしれませんね。

藤巻)そうなんですよ。多少のリスクがあったとしても、仕事も人生もチャレンジの中にこそ楽しさや喜びがあるはずですから。何か気になったらまずは直あたりしていく、そういったアグレッシブな行動が大切なんだと思います。チャレンジして失敗したら辛いかもしれないけど、チャレンジしなければ喜びもないんですから。それにチャレンジしてない若い人って実年齢より年老いて見えるんですよ。僕が知っている生地屋の社長さんに御年七十歳で、業界を活性化するために色々チャレンジされている方がいらっしゃるんですが、実に若々しい。若い人にはもっともっとチャレンジしていってほしいし、これだけ日本社会が成熟してしまっているからこそ、イノベーティブなことをしていってほしいですよ。僕だって明日にはどうなるか分からないし、いままでもたくさん失敗もしてきていますけど、何とか這い上がれる、そんな気概が何より大切ですね。

石川)僕はいま岡山大学の四回生なんですけど、学生と一緒に飲みにいって居酒屋講義みたいなことをすることもあります。学生の中にも起業家精神が旺盛な人もいれば、研究者志望など熱い志を持った若者は意外に多いと思っています。ただ、彼らに言える事は、自分の野心というよりは広く世の役にたちたいという思いを持っていることですね。ボランティア活動なんかに積極的な若者も多いですし、非常に優れた考え方に感心させられることもたびたびです。ただ、だからこそ貪欲なハングリーさみたいなものを感じづらいのかなと。これからの若者には藤巻さんの言われるイノベーティブな発想を実行していく強い意志がもっと必要かもしれませんね。

藤巻)石川さんはきっとそういったイノベーティブな感覚を持っていると思うんですよ。幕末の志士じゃないけど、やっぱりだれかが変えていかなきゃいけないし、それを後押ししてあげる人がもっと必要ですよね。

石川)クロスカンパニーの当面の目標は、アジアでの展開も含めた成長と共に、イノベーションという事で言えば、ナチュラルで可愛い「ナチュかわ」と呼ばれるようなファッションスタイルをモードなんかと並ぶような新たな日本発のジャンルとして確立し発信していく事なんです。日本のファッション文化は海外からも注目を集めているとよく聞きますが、実はアジアだけを見ても日本のアパレル企業の進出状況は優勢とは言えません。ましてや独自のジャンルが海外にまで浸透しているかと言えば決してそうも言えない。だからこそ、単に服のブランドではなく、レース装飾やナチュラルな風合いが特徴でもあるナチュかわというジャンルを海外に投じる事で、少しでも日本のアパレル企業のイノベーションに繋がる事例になればと考えています。藤巻さんの今後の目標は?

藤巻)「ファッションビジネスプロデューサー」という職業を確立したいと思っています。いまも優秀なデザイナーや職人さんとの出会いからブランドのプロデュースもさせてもらっていますが、僕が一番していきたいのは「人と人を繋ぐ」ことなんですよ。本当にくまなくと言っていい程日本中を見て回らせてもらって、この国にはすごい技術や伝統があるということを学びました。ただ、それがいかに素晴らしくても、プロデューサーが不在だという事で海外のものに負けてしまったり、国内でも日の目を見ないものが実に多いんです。例えば、ある地方独自のガラス細工、本当に素晴らしいのですが、いまの世論ではそれがダサいと思われたりするわけです。バカラには勝てない。かといって、そういった地方の職人さんにいまのトレンドを伝える人もいなければブランディング戦略を考える人もいないんです。そういった日本中の素晴らしいものを、国内はもとより世界に向けて発信出来るように、適材適所の人と人を繋げて、それらをブランディングしていく、これが夢である百貨店の構想にも結びつくんじゃないかと。仕事っていうのは僕にとって人生で、人生っていうのは旅だと思っています。いままで旅して出会ってきたものを繋げて、そこからまた新たな旅に出る、そんな生き方をしたいですね。

石川)今日はどうもありがとうございました。藤巻)こちらこそありがとうございました。そういえば石川さんにぜひ紹介したい人がいるんで、これから電話してちょっと話してもらってもいいですか(笑)。

藤巻 幸夫/株式会社シカタ代表取締役プロデューサー

1960年東京都生まれ。上智大学卒業後、伊勢丹に入社。バーニーズジャパンバイヤーを経て、新人デザイナーを集めた売り場「解放区」、ライフスタイルを提案する売り場「BPQC」などを立ち上げ、カリスマバイヤーとしてその名を知られる。2000年に独立し、2003年には民事再生法適用となった福助株式会社代表取締役社長となりファンドと再建に取り組む。その後、様々な起業の役員や顧問を務め、新たなブランドのプロデュースも多数行っている。雑誌や新聞でのレギュラー連載を多数持ち、テレビコメンテーター、講演会講師、審査員など幅広い分野で活躍中。

石川 康晴/株式会社クロスカンパニー 代表取締役社長

1970年岡山県生まれ。大手紳士服メーカーで経験を積んだ後、23歳の時に起業し1995年に株式会社クロスカンパニーを設立。セレクトショップを出店する。1999年にアパレルSPA企業へと転換し、感度の高いデイリーカジュアルを発信する都市型セレクトショップearth music&ecologyを中心に展開している。現在は岡山大学経済学部に在学中。

編集者PLUG

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