石川康晴の哲学塾 Vol.27
×鈴木京香

人生の豊かさを日常の中に見つけること。

日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ、数々の受賞歴を誇り、華々しいキャリアを持つ名女優、鈴木京香アートを愛し、日常の何気ない瞬間を慈しみ、現状に驕らず努力を続ける何気ない幸せを大切にするライフスタイルが、彼女の気品や美しさをもつくっている。

石川)日本を代表する女優である鈴木京香さん。一九八九年に映画『愛と平成の色男』で女優デビュー。その三年後にはNHKの連続テレビ小説『君の名は』でヒロインを演じられるなど、これまでの経歴を改めて拝見して、私も鈴木さんのご出演になった作品と共に人生を歩んできたような気がしました。これまで数々の賞を受賞し、『血と骨』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得。ドラマや舞台、CM、雑誌など幅広くご活躍されており、もはや知らない人はいない大人気の女優さんです。鈴木さんには、当社のファッションブランド『earth music&ecology』のブランドキャラクターをつとめていただいておりますが、実は、私自身が鈴木さんへの出演を熱望したことから実現した企画なんですよ。鈴木さんは、名女優というだけでなくファッション誌のカバーガールとしての魅力も兼ね備えた方。ファッションアイコンとしても、三十代、四十代の大人の女性だけでなく、若い世代の方にも憧れを抱かせる稀有な存在だからです。CMには「学校・職場・家庭、どんな場所でも日々懸命に生きる女性の、世代を超えた日常着として新しいアースを表現したい」という想いが込められているのですが、鈴木さんをはじめ三人の女優さんには、まるで日頃から愛用している服のように着こなしていただき、理想的な映像を作ることができたと嬉しく思っています。鈴木さんといえば、クールでラグジュアリーなイメージをお持ちの方も多いはず。シルクやカシミアなど上質なものが似合うのは明らかなのですが、CMのように、麻やコットンというプレーンな素材を纏ったナチュラルな姿は、視聴者の目にも新鮮だったそうです。また、同ブランドに対して、若い女性が着るものというイメージを持っていた方々も、今回の鈴木さんを見て、自分も着ていいんだと背中を押された気分になった、という声も非常に多くいただきました。鈴木さんがCMで着用されたコーデは、幅広い世代に大人気で、売れ行きもトップクラスなんですよ。まさにエイジレスな魅力をお持ちの方だと改めてその影響力を感じました。ちなみに、普段の装いはどんな雰囲気のものが多いですか?ファッションへのこだわりなどがあれば教えてください。

鈴木)自宅のクローゼットには、いろんなタイプのお洋服が入っています。どんなジャンルの服でも、着なければ似合わなくなってしまう、と思っているので、あえて偏らないようにしていますね。それは、様々な役を演じさせていただくお仕事の上でも重要だと思っています。先ほど石川さんがラグジュアリーなイメージと言ってくださったのですが、普段はデニムやTシャツも着ますし、スニーカーも好きですよ。そんな風にカジュアルな装いでも出掛けるというと、驚かれることも多いのですが、イメージが偏りすぎるのは良くないと思っているので。それによって、いろんな役柄をできなくなってしまうのは怖いなという思いもあります。自分に似合う似合わないは別として、いろんなお洋服を着ることを心掛けています。

石川)普段からファッションを限定しない理由が職業柄ならではですね。鈴木さんと言えば、可憐な女性から豪快なキャリアウーマンなど、多彩な役を演じる演技派女優として有名ですが、ご自分では、鈴木京香とはどんな女優だと思われますか?

鈴木)良くも悪くも、自分には個性がないなとずっと思っていました。でも最近、自分のちょっとしたクセみたいなものが演技中に出ていることに気付いたんです。役を演じているとき、無意識に自分そのものが出てしまっていた。最近は特に演技中でそうしたクセが表れないように心掛けているところです。これからの自分の演技において必要だと感じるのは、もっと情熱的でエキセントリックな部分。エモーショナルな部分をコントロールしつつ、そうした表現を狙ってできる俳優になっていきたいと思います。今年でデビューから三十年になりますが、なんだか今、かつてないぐらいに、頑張ろう!という気持ちになっているんです。思い返してみると、まだまだ納得できる演技ができているとは言えません。また一から勉強していこうと思っています。

石川)華々しいキャリアを築きながらも、向上心を忘れない。常にご自分をアップデートされていることが、プロフェッショナルである所以なのですね。鈴木さんはアートがご趣味ということで、お話しの中でも非常に芸術への造詣が深い方だなといつも感じます。女優業にアートが影響を与えている部分はありますか?また鈴木さんにとって、アートの魅力とはどんなところでしょうか。

鈴木)私にとってアートは旅の目的であり、暮らしの句読点のようなもの。とても大切なものです。好きになったきっかけは、父が趣味で油絵を描いていたことだと思います。子どもの頃から画集を見る機会も多く、自然と美術作品を観る時間が好きになっていきました。時間さえあれば作品を観るために遠くへ出掛けています。それは新しいものを知りたいという探究心が尽きないからなのかもしれません。アートが女優の仕事にどう影響しているかというのは、なかなか説明が難しいのですが、新しい何かを知るということは、どんな仕事においても不可欠なことではないでしょうか。そういう意味で、アートを通して新しい世界や感性を知り、自分の糧とすることができれば、演じるということをもっと豊かにできる気がします。私にとってアートに触れることは、特別なご褒美でもあり、親しいお友達と会うように身近なものでもあるのです。

石川)私も人生においてアートは非常に大切なものであり、価値観に衝撃を与えてくれるものだと思っています。私は、岡山で開催するアートイベント「岡山芸術交流2019」の総合プロデューサーを務めているのですが、その中で岡山の人たちとアートとの接点をつくっていきたいと思っています。直島をはじめとした瀬戸内の地域は、アートの分野において既に世界に発信できる場所になってきています。瀬戸内芸術祭が島と海のアートならば、岡山芸術交流は街のアート。世界最大の現代芸術祭と言われる、ヴェネツィア・ビエンナーレのように、岡山も含めた瀬戸内という地域が、世界に注目されるアートブランドになることが私の夢です。この地域には、大原孫三郎さんがつくった大原美術館、ベネッセの福武總一郎さんが手掛けた直島など、芸術への情熱が息づいている。その芸術振興のリレーを私も繋いでいきたいと思っています。ちなみに、2019年の芸術交流では鈴木さんの好きなアーティストも招致しています。是非足を運んでみてください。

鈴木)大原美術館も直島も、素晴らしい場所ですよね。大原美術館は展示作品の素晴らしさはもちろんですが、あの時代にあれだけ価値があるものを収集されたということに感動しました。石川さんの企画されているアートイベントにも、是非行ってみたいと思います。お話を伺っていると、岡山への深い愛を感じるのですが、そこまで岡山に重きを置いていらっしゃる理由は何なのでしょう。

石川)やはり、感謝の気持ちですね。生まれ育ち、学び、起業した、その歩みを支えてくれた地域と人への感謝です。起業当初、まだ小さなお店だったとき、穴の空いた不良品のシャツを定価で買ってくれたお客さんがいました。売る直前に気付き、慌てて新しいものを取り寄せようとしたら、「いいよこのままで。お兄さん、お店大変そうだし買ってくよ。」と言ってくれて。そんなふうに、まだ何も軌道に乗っていない自分を応援してくれたのが、岡山の人たちなんです。言うなれば、たくさんの方が私にドネーションしてくださった。だから、自分も岡山にお返しをしたい、精一杯貢献したいと思っているのです。自分という人間がいたことで、ずっと先の未来の岡山に何かを残せていければと願っています。それが私の存在意義であり、自分にとって最高の幸せかもしれません。鈴木さんは、当社の昨秋のCM「幸せについて~白線の上~」篇で、詩のナレーションと共にご出演いただいていますが、鈴木さんご自身の感じる幸せについての考え方を教えてください。

鈴木)「ああ幸せだな」と思う瞬間は一日に何度もありますね。朝お布団の中で昨日のお仕事の充実感に浸ったり、犬の散歩に出掛けてお天気が良いとき、ご飯が美味しいとき、たまたま入ったギャラリーで良い美術作品に出逢えたときも。考えてみたら私の至福の時って、けっこう多いですね(笑)。女優業でいろんな幸せのパターンを体験させていただいたことも影響しているのかもしれません。考え方次第で何でも幸せにできるという意味では、CMの詩にはとても共感できます。「ちゃんとご飯を食べてちゃんとお風呂に入って、ちゃんと寝てちゃんと歩く。それだけで幸せは向こうからやってくる。こっちからは探さない。幸せなんてそんなもん。誰かにしてもらうものでも、誰かと比べるものでもない。幸せなんて自分次第。」すごく自分にシンクロするなと思いました。幸せという感覚に限らず全てのことは、自分の受け取り方や見方次第で、随分変わると、最近実感するようになりましたね。以前は、ちょっと辛いことがあるとそっちに引っ張られて落ち込んでしまったりしたものです。今は、少しポジティブに受け止められるようになった気がします。自分にとってプラスになるのなら、ある程度は開き直って心のバランスを保つことも大切なのかもしれません。

石川)先ほどアートについてのお話のとき、「暮らしの句読点」と表現されていましたが、アートだけでなく日常のふとしたことに情緒や喜びを感じる感性を私も大切にしたいなと思いました。最後に、俳優を志す方はもちろん、夢を追いかける全ての方へ、アドバイスとメッセージをいただけますか。

鈴木)私も学生の頃は、ただ映画が好きというだけでした。お芝居を生で観る機会も滅多にありませんでしたし、女優を目指して何か訓練をしていたというわけではなく、とにかくたくさんの映画を見ていました。そんな時間が、不思議と今にも繋がっているみたいです。何かの拍子に中学生の時に観た映画のことを思い出したり。私が思うのは、好きなことを夢中でやる時間は本当に大切だということ。学生さんだったら勉強しないといけないときもあるとは思うのですが、自分が「これだ!」と思うものを見つけたら時間の許す限り没頭してほしいと思います。そんなに夢中になれる時間は、大人になればなるほど減っていくものかもしれません。たとえ、まだ自分の夢が固まっていなくても、とにかく好きだと思うものがあるなら、それに夢中になってほしいと思います。

石川)日々に句読点を見つけながら人生をより豊かに変えていく。鈴木さんの哲学を学ばせていただきました。今後の出演作も楽しみにしています。

石川 康晴

(株)ストライプインターナショナル 代表取締役社長。1970年岡山市出身。京都大学大学院卒。1995年クロスカンパニー設立。1999年に主力ブランド「earth music&ecology」を立ち上げ、現在、グループ売上高約1,300億円、従業員約6,700名、約1,500店舗まで拡大。2016年、社名を(株)ストライプインターナショナルへ変更し、ファッションという領域を超えライフスタイルをトータルに提案する企業を目指すなど更なる進化を続けている。一方で、石川文化振興財団理事長も務め、地元岡山での地域貢献活動へも積極的に取り組んでいる

鈴木 京香

女優。1968年宮城県出身。大学在学中からモデル活動をはじめ、89年「愛と平成の色男」で女優デビュー。91年NHK連続テレビ小説「君の名は」でヒロインを演じ知名度を拡大させる。「119」で日本アカデミー賞優秀助演女優賞、その後も数々の賞を受賞し、演技派女優としての地位を確立。2004年、崔洋一監督作「血と骨」では暴力的な主人公の妻を体当たりで熱演し、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得。多くのテレビドラマにも出演しており、三谷幸喜作品の常連出演者となっている。CM、舞台等でも活躍する名実ともに日本を代表する女優である。 最新情報:映画「食べる女」2018年9月公開予定。舞台「大人のケンカが終わるまで」2018年6月30日〜8月12日

編集者PLUG

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