石川康晴の哲学塾 Vol.26
×黒木 理也(MAISON KITSUNÉ)

音楽、ファッション、アート、カフェ…。「メゾン・キツネ」はカテゴライズできない。最先端のカルチャーを発信し続ける黒木理也氏に、自身の哲学を訊いた。

石川)ファッション、音楽、アートなど幅広いジャンルで様々な活動を行う「メゾン・キツネ」。最先端のカルチャーを発信し続けるブランドとして、世界的にも高い評価を受けています。『A.P.C』など数々のファッションブランドとのコラボアイテムで業界の注目を集め、コレクションを発表してからは、直営店をパリ、NY、東京などに出店。上質でいて日常に溶け込むウエアで、多くのファッショニスタを魅了し続けており、僕も大好きなブランドです。今日は、そのファッションディレクターを務める黒木理也さんをお迎えしました。共にブランドを設立したジルダ・ロアエック氏は、ダフトパンクの元マネージャーという経歴の持ち主。音楽レーベルのディレクターは彼が務めており、数々の有名アーティストを手掛けたり、コンピレーションアルバムをヒットさせるなど、お二人で分野の垣根を越えた活躍をしておられる。黒木さんは、以前は建築の分野に身を置き、世界的建築家ジャン・ヌーヴェルのオフィスで働いていたこともあるそうですね。建築からファッションディレクターと、ユニークな経歴をお持ちの黒木さんですが、まず、ブランド設立の経緯を教えてください。

黒木)12歳でフランスに渡ってから、人生の多くをパリで過ごしてきました。思い返せば、子どものときからブロック遊びが大好きだったので、その頃からコンテンツを作るということに興味があったのかもしれません。パリにある建築の大学を卒業した後は、ジャンのオフィスで2年間働いて、一級建築士の資格を取得。その頃は、毎日深夜まで働いて、週末は古着屋でバイトするという生活。ジルダと出逢ったのはその頃で、彼が経営するレコード屋に僕が客として通ってたんです。音楽が本当に好きなオタクみたいな奴らが集う場所で、そこにダフトパンクとかフェニックスのメンバーもよく出入りしてて、みんな仲良くなったという感じ。ジルダと一緒に日本へ旅行したことがきっかけで、ファッションとか音楽とか、いろんな分野を融合したブランドをつくろうと意気投合して、2001年に「KITSUNÉ」をスタートしました。パリを拠点に活動を始め、翌年から音楽レーベルもスタート。僕はファッション、ジルダは音楽のディレクションを主に手掛けるようになりました。

石川)ブランド設立当初から世界的に高く評価され、今や世界400箇所以上の店舗で取り扱われているメゾン・キツネ。黒木さんは、世界各地を訪れ海外の人とも交流があると思いますが、黒木さんの目から今の日本はどんなふうに映りますか?

黒木)日本にもファッションやアートなどコンテンツはいっぱいあるはずなのに、活用しきれてないように感じます。正直、ダサい人が多い。それは、ファッションにしてもそうだし、考え方においても同じように思います。特に中高年世代。この世代の多くが、バブル経済の体現者。キャッシュフローが良かったから、何も考えずにモノを作っても経済が成り立っていたのでしょう。だから、何も発想できない、問題がないところに問題をつくって行動しない。そんな、厚みのない大人が多いことが残念ですね。日本という国には、美しい四季と綺麗な水がある。その環境で育った日本人て、もともと繊細な感覚を持った人種だと思うんです。日本の伝統文化や技術にもそれは反映されています。例えば食の分野においても、非常に優れたセンスを持っているのは世界も認めるところ。それも、綺麗な水を飲んで育ったことに起因していると僕は思います。素晴らしい環境の中で生活し、せっかく良い感覚を持っているんだから、もっともっとアンテナを張って毎日を過ごすべきだと思います。

石川)日本人の良さは?

黒木)すごく真面目なところじゃないですかね。追求し始めたら半端じゃない。徹底して完璧主義なんですよ。これには、完全を求めすぎるが故に物事が遅々として進まないという欠点もあると思うのですが、この完璧を追求する姿勢というのは、海外どこの国の人種より、非常に強いと思いますね。それは、仕事だけでなく日常の生活においても感じます。例えば、家の庭の芝生は絶対この長さじゃなきゃいけない、とか、料理の手順ひとつでも各家庭によって細かいこだわりがあったり。繊細な感覚と真面目な姿勢、日本人のそういった部分を、もっと自身のクリエイティビティとかセンスに繋げれば、凄いことになると思う。イノベーションする人も増えると思います。でもそうならないのは、やはり日本の教育に原因があるのかな、と感じています。

石川)私も、日本人のクリエイティブの質が落ちてきたことには危機感を感じています。石川文化振興財団のアートプロジェクトの中で、様々なクリエイターと関わったり、作品をみる機会も多々ありますが、日本人アーティストの勢いが弱っているという印象は否めない。対して同じアジア圏である韓国のクリエイターの方が、ファッションや音楽、アートなどの分野において、グローバルに活躍しているように感じます。黒木さんのおっしゃるように、もともと日本人のセンスは非常にレベルが高い。ですが、ロジカルな方向に頭を使うことが増えすぎて、アートアンドサイエンスのバランスが崩れてきているように思います。それは、教育や考え方による影響も大きいのかもしれない。私は財団の活動を通して、岡山で芸術活動をしています。世界のアートや最先端のカルチャーを岡山の人々に感じてもらい、「創造性」を提供していきたい。それが、クリエイティブな感性を養う機会になればと願っています。メゾン・キツネのウエアでは、岡山のデニムも使われていますが、黒木さんは、岡山を訪れてどんな印象を持ちましたか?

黒木)岡山出身でグローバルに活躍している人はたくさんいるし、石川さんが世界の最先端のアートやカルチャーを持って来ている。すでに岡山自体の「濃さ」はある程度PRできているのではないでしょうか。カルチャーの土台があるのなら、今後はそれに柱を立てて屋根を造っていく。観光できる環境づくりが必要ではないでしょうか。まずは、人を呼び込めるような魅力ある宿泊施設の必要性を僕は感じます。僕自身、岡山には縁もゆかりもないのですが、なぜか空気感がすごく好きなんですよ。岡山のように水辺が美しいところは、それだけでアドバンテージが高い。絶対に人が集まる場所だと思います。

石川)私も何度か岡山に新たな宿泊施設をプロデュースすることを計画していました。黒木さんとは岡山の今後についても意見交換していけたらと思っています。さて、地域の話から再び世界と日本という視点で更にお話を伺いたいと思います。今年6月、キツネの音楽レーベルから、ダフトパンクが初プロデュースするバンド『パーセルズ』がデビューしました。代表である黒木さん自らが、ラジオ局を回ってプロモーションしたとお聞きしました。その際、世界と日本の音楽に対するリテラシーの違いに愕然とされたそうですね。

黒木)パーセルズは、僕自身も大ファンですし、すでに世界から注目され始めているバンドです。彼らのライブを見たダフト自らが一緒にやりたいと言い出して、それから半年程かけて制作し、6月に発表しました。今回あえて事前告知とかプロモーションに力を入れなかったのは、先入観なしにただ聴いてもらうだけで、絶対響くと思っていたから。実際、ダフトが初めてプロデュースしたバンドがキツネからデビューするというだけで、海外のラジオ局はどこも騒然となっていたし、曲を聴いた世界中のリスナーも、瞬間的にその良さをキャッチしたわけです。でも、この島国だけは違った。日本のラジオ局では、事前にメールでリンクを送り、担当者がアポを取って赴くという一般的なリリース方法を取らないだけで、意味がわからない、というリアクション。だからこそ僕は、簡単にリリースをすませるのでなく、自分で持ち込んでちゃんと聴いてほしいと思って直接赴いているのですが、なんで代表が来るのか?そのシチュエーションが分からない、という反応なわけです。どんな手順だったとしても、良いモノは良いはずなのに、日本では、いつもとやり方が違うということだけではじかれる。大きなラジオ局ほどそうでした。こんなふうに、音楽を発信するアンテナが腐っているから、日本の音楽のレベルが落ちるのだと痛感しました。日本人自らが自分たちの音楽のレベルを下げてしまったのではないでしょうか。90年代、CDが売れまくった時代の栄光にしがみついている世代が筆頭になって、CDやDVDを売ることが全てだと、未だに思い込んでいる。社会の風潮がそうだから、音楽に対するアプローチも発想力も乏しいのでは。もともと日本人は、カラオケをつくるぐらい音楽が好きな人たち。しかし今の日本には、その音楽を感じる場所自体が少なくなっている。僕は、ネット配信やSNSでは伝わらない熱量を、ダイレクトに体験することが大切だと思っています。今年日本でもスタートした「キツネアフターワーク」などのイベントを通して、音楽を楽しめる環境そのものをつくっていきたいですね。

石川)昨年、ストライプインターナショナルとキツネ・クリエイティブはパートナーシップ契約を結びました。我々はヨーロッパにおける事業ノウハウやネットワークの取得を、メゾン・キツネのアメリカおよびアジアにおける成長のサポートなど、両社にとって今後の戦略に大きなシナジーが見込めることから締結に至りました。まだ、具体的に事業を一緒にするということはしていませんが、来年2月渋谷に出店する「KOE」についても、アドバイスなどをいただけたらと思っています。アパレルの店舗に飲食やイベントスペース、ブランドの世界観を体現する弊社初のホテルを併設し、新しい情報や体験を提供する「進化型ライフスタイル業態」として展開する予定です。黒木さんに施設内で流す音楽を一緒に考えてもらうというのも良いですね。

黒木)ファッションに限らず、自分のできることはどんどんやっていきたい。石川さんとは、いろんなプロジェクトを一緒にやってみたいですね。

石川)最後に、黒木さんにとって、仕事とは?

黒木)仕事とは、僕にとって生き方そのもの。食べることや漫画が好きな人と同じように、仕事と趣味を分けるという概念もないぐらい、僕は仕事が大好きなんですよ。音楽とかファッションとか、自分の大好きなものを発信し、そういったカルチャーが楽しめる環境自体をつくる。そんな仕事をしていきたいと思っています。

石川)これからも、良いパートナーとしてお互いに高め合えることを期待しています。本日はありがとうございました。

黒木 理也

「MAISON KITSUNÉ」ファッションディレクター。1975年東京都生まれ。12歳でフランスに渡る。パリにある建築の大学に進学し、一級建築士の資格を取得。2001年、ジルダ・エアロック氏と共に「KITSUNÉ」をスタート。翌年に音楽レーベルを立ち上げ、2005年初のコレクションを発表するなど、音楽、ファッション、アートなど幅広い分野で活躍している。2013年、日本初となるショップ、青山店と本格的なコーヒーを提供する『Cafe Kitsune』を2店同時オープン。昨年オープンした代官山店も含め、すべての店舗を建築の知識を持つ黒木氏が内外装のデザインを手掛けている。2017年には、音楽イベント『Kitsune Afterwork』を日本で初開催。

石川 康晴

(株)ストライプインターナショナル 代表取締役社長。1970年岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。1995年クロスカンパニー設立。1999年に主力ブランド「earth music&ecology」を立ち上げ、現在、グループ売上高約1,200億円、従業員約4,700名、約1,400店舗まで拡大。2016年、社名を(株)ストライプインターナショナルへ変更し、ファッションという領域を超えライフスタイルをトータルに提案する企業を目指すなど更なる進化を続けている。一方で、石川文化振興財団理事長も務め、地元岡山での地域貢献活動へも積極的に取り組んでいる。

編集者PLUG

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