石川康晴の哲学塾 Vol.23
×中村里砂

モデル・タレントとしてもいまだ人気上昇中!独自の世界観と感性でクリエイティビティを発揮する“イット・ガール”に石川康晴が仕事に対する哲学を訊いた。

石川)今春、当社が展開するヤングレディース向けブランドの新レーベル「E hyphen world gallery BonBon」(イーハイフンワールドギャラリーボンボン)のプロデューサーにモデル・タレントとして活躍する中村里砂さんをお迎えしました。二月十一日にはラフォーレ原宿の同ブランド店舗を大幅にリニューアル。こちらの店舗デザインも含めたブランドの世界観をトータルでプロデュースしていただきました。パステルカラーが基調のファンシーな雰囲気があったBonBonですが、モノトーン、ピンクを基調とした”Dark Romantic”(ダークロマンティック)な世界観に生まれ変わり、店舗もフレンチライクな外観に様変わり。オープン当日には二百人を超える女の子たちが行列を作ってくれるなど素晴らしいスタートを切ることができました。里砂さんにはアイテムのデザインや生地選びなど全てを手がけていただいたわけですが、予想以上に大変だったのでは?

中村)表現しようのないプレッシャーで吐き気をもよおしそうになることもありました(笑)。最初は不安もありましたが、ものすごく貴重な勉強の機会とチャンスを頂けたことに感謝しています。大企業にブランドを任せていただける機会なんてそうそうないことなので。自分のSNSでも新生BonBonのアイテムにたくさんの嬉しいリアクションがあって喜んでいます。ぜひお店にも足を運んでもらえると嬉しいですね。

石川)里砂さんは単なるモデルやタレントといった枠にとらわれない、当社としても今後いろんな面でタッグを組んでいきたいマルチな才能の持ち主。非常に優れたクリエイティビティと独自の見識を備えた女性で、お話をするたびに刺激を頂いています。この企画はゲストの哲学に迫るというテーマで毎回対談をしているのですが、ずばり里砂さんにとって仕事とは何でしょうか?私もこの問いに対する答えは少しづつ変化しているのですが、最近は友人探しのようなものではないかと感じています。新しい分野の新たな友人との出会いによって自分の世界が広がり、それが直接仕事にもフィードバックされる。仕事とは友人探しである、これがいまの自分の答えです。

中村)私はこれだっていうところまで掘り下げられてはいないのですが、思い浮かぶのは「みんなが幸せになれば良い」という私の行動や思考全てに共通する言葉です。仕事は堪えるものでもなければ苦しむものでもないはず。ただし、甘えた気持ちで言っているわけではありません。やりたいことのためにやりたくないことはするけれど、ただただやりたくもないことのためには動かない、これが自分のモットー。例えば、今回のブランドのお仕事もお洋服の生地選びから一つひとつものすごく時間がかかったけれど大変だと思ったことはありません。クリエイターになりきれていないからなのかもしれないけれど、自己中心的な満足ではダメだと思っています。納期や予算やいろんな制約がある中で、結果を出すための落とし所を見つけて何事にも取り組んでいます。それが関わる大勢の人の幸せにも繋がるはずですから。

石川)妥協ではなく落とし所という表現が里砂さんの個性を表していますね。ご自身の中で二つの違いをもう少し詳しく教えてもらえますか。

中村)自分の感覚が正解ではないし、必ずしも自分が良いと思ったものに人から同じように評価が下されるわけではないというか。なるべくたくさんの人の幸せにつながるものであれば、それが自分の心から納得いくものでないとしても、それはそれで成立しているわけじゃないですか。妥協したという感覚を捨てて、そうした落とし所を見つけるという考え方が大切だと思っています。対外的な評価はもちろん、数字に表れる結果もきちんと追っていかないと、関わってくれる人たちにも申し訳ないので。そういう意味でも今回頂いたお仕事はプレッシャーがありました。

石川)憂鬱になるほど結果にこだわる姿勢というのは自己主張や表現欲の強いタレントやクリエイターとしては珍しいようにも思います。そこまで危機感を持って結果にこだわる理由は?

中村)例えばお洋服を作らせてもらえる機会が訪れた時に、売れなくても良いとか自分の世界観が表現できればそれで良いって思っている人たちは、その結果が何に繋がるのかを知らない人たちだと思います。その結果によって自分にとってもっと楽しいことが起こったり、大きなチャンスに繋がるかもしれない。だからこそ絶対結果にはこだわるべき。私自身はいまのところ数年後の明確な目標のためにコツコツ何かを積み重ねているというよりは、いま自分に求められていることと実際にできることのバランスで生きていますけど、来年には仕事がないかもしれないっていう危機感は常に持っています。だからこそ、目先の結果にも自然とこだわるし、きちんと向き合いたいなと思っています。

石川)私も経営者としてそうした危機感とは日々向き合っていますが、二十代でそうした感覚を持てるのは素晴らしいですね。危機感が持てているということはまだまだ成長過程にあるという証拠のように思います。ただ、結果にはこだわるけれども、スタイルとしてやりたいことだけをしたいというお話もありました。世の中にはやりたいこととやらせてもらえることのギャップに悩みながら仕事をしている人も少なくないと思います。そうした人たちに何かアドバイスをするならば。

中村)生きていく上での選択肢ってものすごくあると思います。ただし、だからこそいろんな勇気が必要だなって。始める勇気、やめる勇気、それらを選ぶ勇気。そして、その判断は自分の生活を楽しくさせるためにすべきだと思うんです。私は学生の時から既に宿題をしない勇気を持っていました(笑)。ただし、もちろん成績として自分に返ってくることも受け入れていましたけど。でも、どうしてもこれが苦手だっていうことは仕方がないじゃないですか。だったら他の好きな科目で百点取ればいいって思ってました。

石川)ちなみに百点は取れたの?

中村)….百点は取れなかったかもしれませんね(笑)。ただ、ちゃんと結果にはこだわっていましたよ。

石川)学生の頃からいまの考え方が既に構築されていたというのは凄いですね。そもそもいまの活動に至るきっかけは?最初からモデル志望だったのでしょうか。

中村)元々ファッション関係の仕事をしている中で次第にメディアに登場させてもらう機会が増えていき、今にいたります。ちょうど読者モデルとSNSの狭間の時代。イットガールという言葉が使われ始めた頃だと思います。いまでも名残がありますが、メディアがSNSのフォロワー数で人を選ぶような時代があって。本気で上を目指していこうとする人とそうでない人が雑誌などでも同列に並ぶような傾向に疑問を感じ始めた頃、自分にプロとしての自覚が芽生えていることに気づき、事務所に入ることを決めました。

石川)雑誌やSNSでの人気上昇を皮切りに、現在ではテレビ出演の機会も増えてより多くの人が中村里砂を知ることになりました。しかし、ご両親は俳優の中村雅俊さんと女優の五十嵐淳子さんという芸能一家。ご両親の存在感から自分の努力ではなく親の力ではといった心無い揶揄をされたこともあるのではないかと思います。そうしたプレッシャーや影響はありましたか。

中村)自分は俳優でも歌手でもないので両親とは全く違う仕事をしているし、生きている時代も違うので同じ世界にいるという感覚は一切ないですね。二世タレントとして呼んでいただいた番組に出るときも、自分の仕事がテレビを主体としたものではないからこそ割り切って求められたことに応えられていると思います。両親とは違うところで一生懸命仕事をしているという自覚があるので。ただ、決めていたのは雑誌である程度のページを自分の力で担当できるようになるまではテレビには出ないと決めていました。自信を持って自分の力でやっていると言えるまでは両親のことも表には出さないようにしていました。人からしたらどうでも良いことかもしれないけれど私の中では大切なことです。

石川)自分の力で結果を導こうとするそうしたストイックで情熱的なところと一見クールな印象のギャップもファンの方々には魅力としてしっかり伝わっているのかしれませんね。また、世の中から何を求められていて、何を返せばよいのかが分かっているということは、究極的にはマーケティングが分かっているということ。今回当社のブランドをプロデュースしていただくにあたって、そんな素晴らしいセンスを更に磨いてほしいという思いから、里砂さんには前回のパリコレでクリエイションに限りなく近いところでビジネスとしても成功している当社のトム ブラウンのコレクションを見に行ってもらいました。どんな感想を持たれましたか。

中村)ファッションというよりもアートの領域にまで引き上げられている世界観に息を呑みました。本物のクリエイションだなと。自分との立ち位置の違いを感じたことで、憧れも抱きました。また、モデルというとランウェイを行って返ってくるものだという当たり前の先入観も覆されました。私はスチールが主なフィールドですが表現の仕方はそこに近いのかなと。

石川)トム ブラウンのショーはいまや世界中のファッション関係者やクリエイターも注目するほどの世界観を呈していますが、実はこれはトムだけの力では成し得なかったこと。以前の彼のショーはもっと一般的なものでした。しかし、あるイベントプロデューサーとの出会いをきっかけにして今のような形にアウトプットできるようになったという経緯があります。里砂さんにも今回の当社との出会いをひとつの契機に、より一層飛躍してもらいたいですね。また、里砂さんには起業家、経営者としてのポテンシャルと可能性がかなりあると思うので、今度は社長同士という立場で対談したいと思っています。

中村)起業するかどうかはわかりませんけど(笑)。自分は最終的にはいつまでも消費者でいたいなと思っています。どんな仕事をしていても素敵な洋服や場所にドキドキしていたい。そんな自分の感性も大事にしながら、ずっとやりたいことであるファッションの世界で生きていきたい。引き続きボンボンのプロデュースも全力で頑張ります!

中村 里砂

1989年、東京都生まれ。大学中退後ショップ店員をしながらモデル活動を開始。ファッション誌「VOGUE JAPAN」や「SPUR」、「ELLE」などにも出演。2013年よりファッション雑誌『LARME』のレギュラーモデルを務める。2014年に生島企画室に所属し、歌手・俳優の中村雅俊と女優の五十嵐淳子夫妻の三女であり芸能人2世であることを公表。タレント活動も本格化させる。2015年5月、自身初のスタイルブック「中村里砂 FIRST STYLE BOOK RISADOLL」を発売。2016年春よりアパレル大手株式会社ストライプインターナショナルの新レーベル「E hyphen world gallery BonBon(イーハイフンワールドギャラリーボンボン)」の総合プロデューサーに就任。

石川 康晴

(株)ストライプインターナショナル代表取締役社長。1970年岡山市生まれ。国立岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。1994年クロスカンパニー創業。1999年に主力ブランド「earth music&ecology」を立ち上げ、2010年には宮崎あおいを起用したテレビCMで注目を集める。翌年には中国に進出し、現在、グループ売上高約1,100億円、従業員約4,300名、約1,300店舗まで拡大。2016年3月(株)ストライプインターナショナルへ社名を変更。一方で、石川文化振興財団理事長、内閣府男女共同参画推進連携会議議員を務め、地域貢献活動へも積極的に取り組んでいる。

編集者PLUG

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