石川康晴の哲学塾 Vol.21
×森川 亮(C Channel株式会社)

絶頂期ともいえるLINEの社長を退任。今年4月、新たに女性向け動画配信サイトC CHANNELを起業した森川氏に独自の人生哲学とこれからの展望を訊く。

石川)森川さんには独自のマーケット解釈や事業に対する思いなど、お話をするたびにいつも新しい発見と刺激を頂いています。日本テレビ、ソニーといった国内でも有数の企業を経て、つい最近までいまや多くの日本人が利用しているアプリケーション「LINE」の社長としてご活躍でした。そんな中、今年四月に絶好調といえるラインの代表を退任。女性をターゲットにした動画メディアC Channelを新たにご自身で起業されたわけですが、これにはIT業界の方を始め多くの方が驚いたことと思います。確かに地上波やその他の既存のメディアとは違う「動画」という手法がこれまで以上にマーケットに対して大きな影響力を持ってくるというのは感じているのですが、上場前のタイミングで退任されたことも非常に興味深かった。改めてこのタイミングで起業に至った経緯を教えてください。

森川)まず、今後の人生を考えた上で、LINEを辞めた後、何か日本を元気にできるような事業をしたいと思っていました。最初は教育やヘルスケア、地方再生に関わるようなことを思い描いていましたが、いまの日本社会を形成しているのは何かということを考えたとき、自分の中でそれは「政治家」と「国民」、そして、「メディア」の三要素であるという結論に。政治を変えるのは正直なかなか難しい上に、政治家になれば何かに迎合しなければいけない。そして、国民は政治家とメディアによって影響を受けているきらいがある。更に、政治もメディアも人口の多い年配層に向けたものばかりになってしまっている。ならば、次世代を担う若者に向けた新しいメディアを作ろうと立ち上げたのが動画配信プラットフォームC CHANNELです。十代から三十代の女性をメインターゲットに、「クリッパー」と呼ぶモデルやタレントが日本のファッションやフード情報などを動画で配信。ECと広告でのマネタイズを進め、世界展開も視野に入れています。私は、ちょうどいまの時代感に地上波から新たにケーブルテレビが生まれた時と同じような雰囲気を感じていて、まさにこのタイミングで始めなければならないと起業を決断しました。八十年代に新たなファッションや音楽のカルチャーを強烈に伝えたMTVのような存在を目指しています。その為のアドバンテージを得る為にも立ち上げるタイミングは非常に重要でした。

石川)私も世代的にリアルタイムでMTVを見て育った世代ですが、とにかくカッコ良かったですよね。ダンスミュージックをはじめ、ファッションや海外の様々なカルチャーをタイムラグ無く日本に伝えてくれたセンセーショナルなメディアだったと思います。いまの二十代の人たちには分からないかもしれませんが、幼い時から洋服好きだった私もいろいろと影響を受けたのを覚えています。

森川)リアルタイムでMTVを見ていて肌で感じたのは、メディアとコンテンツは一緒に育てていかなければならないということ。昔もいまも、この先も、その時代を少し先取りしたオシャレなものが時代を作るのだと思います。

石川)今回の起業は、そうしたご自身が体感してきた時代の流れを掴む感覚、そこにこの先の成功を見いだせた結果なのかと思うのですが、そうはいってもなかなか踏み出せるものではないと思います。自分の地位や手に入るお金よりも事業のタイミングを選択した、森川さんにとっての成功とはどういったものなのでしょうか。

森川)まず何が成功かと言うことですが、お金持ちになることが成功では無い。私の周りには経営者や資産家といったもの凄いお金持ちの方が大勢いますが、彼ら全員が成功しているとは言えないと思います。人を信頼できなくなったり、お金を持ちすぎることによって生きる意味を見失ってしまった人も少なくありません。死ぬまで生きる意味を持ち続けられるかどうか、それが成功だと思っています。最後までギリギリでいたいというか。そんな自分にとっての生きる意味は、周りの人を幸せにしたいという欲求。最近はどのメディアも暗いニュースや人の不幸を取り上げたようなものが多いような気がしますが、C CHANNELにはピースフルな情報しかありません。そうした意味でも、メディアとしての影響力、存在意義を高めることはもちろんですが、昨今の世相にハッピーな空気感をつくっていければと思っています。

石川)森川さんをはじめIT関連の経営者の方とお付き合いをさせて頂くようになってから、経営者の在り方ということを考えさせられるようになりました。言葉を選ばずに言えばスーツを着て偉そうにしている経営者が優れている訳ではないということ。もっと自分が若い時には、そうした人たちにお会いする時には少しビクビクしていましたけど(笑)。いまは日本ならではの古い大企業体質と抑圧的な経営者がこの国をダメにしているような気さえします。

森川)日本には年配の方を尊重する風潮がありますが、今後の生き残りを考えると必ずしもそこを大事にし過ぎるのはどうかと思います。いまの若い人たちには偉いという概念そのものが無くなってきている。日本ではこれまでは過去に何かを成した人が偉いとされてきましたが、これからはいま何ができるかが評価される時代になったのではないでしょうか。

石川)日本の企業はスピード感が足りないとも言われますが、もっと若者が企業の意思決定に近いところで仕事ができれば変わってくるように思います。マーケットが目まぐるしく変化する現代において、企業にも同様に変化への柔軟性とスピード感が求められる。しかし、選挙の投票などを見ても、どうしても年配の方になればなるほど現状から変わりたくないと思われる方が少なくないように思います。また、四十代くらいを境に日常生活でも必須になってきているガジェットでさえ使いこなせている人は少ない。今後の日本を考えた時に、若者、ベンチャーといった存在はより重要になってくると思うのですが、そんな中で、森川さんの「大企業は動物園」というお話が印象に残っています。動物園ではライオンですら自給自足できないということになぞらえて、大企業も同じような状況にある会社が多いという旨のお話でしたが、クロスカンパニーも成長と共にそうした大企業体質にならないよう心がける気づきを頂きました。面白い人材、有能な人材がいればできるだけアイデンティティを尊重できるよう管理職とも人材に対する考え方を共有しています。

森川)日本の企業は昔から順応を強いる傾向がありますね。また、上司を中心に据えた出世競争が定着してしまうと、お客さんよりも上司を喜ばせることを提案するようになっていきます。年配の偉い経営者がマニュアルを作って仕組みを構築し、カリスマ的にやったほうが経営は簡単ですが、これを長く続けると変化に弱くなってしまいます。経験上、十年同じことを続けるといよいよ変わらなくなってしまう。三年周期くらいで人員を刷新したり、企業として新陳代謝を促すべきだと思います。年配の方は尊重しつつ、本当の意味でのチームワークや企業として成長できる枠組みを構築していかなければならない。

石川)アパレル企業を始め、今後どんな企業でもテクノロジーを導入しなければ生産性も利益を上げることも難しい時代になるのでは考えています。しかし、優秀なエンジニアやプログラマーにとってアパレル企業は就職先としてはまだまだステータスは低い。クロスカンパニーでは彼らにとってもモチベーションとなるような業界を革新するようなイノベーションを計画しており、今年秋頃にローンチを予定しています。森川さんはLINE時代に彼らが仕事をする上でどのような社内体制を敷かれていたのでしょうか。

森川)LINEの場合は、デザインを集中的に強化していて、必然的にデザイナーを大切にしていました。しかし、そうなるとエンジニア達からは不満が生まれ、グーグルに転職したいというような人も出てきてしまいます。ITに限らず、多くの会社でも営業か技術かといった具合に専門分野や担当部署ごとに対立してしまうケースがありますが、本来は高め合わなければいけない。そこで、私の場合は部署ごとに営業も技術もごちゃごちゃにして不満が出ないような人員配置のバランスを保つことを心がけていました。

石川)森川さんはシリコンバレーの最先端のテクノロジーの動向を注視しながらも、北欧のアートやデザインにも造詣が深い方ですが、いつ頃からデザインの重要性を意識されていたのでしょうか。

森川)ソニー時代の経験が大きいと思います。私が在職していたころのソニーは、まずモックアップを作ってから製品化に向けた技術の検討をしていました。この行程が逆になると端末が大きくなってしまったり、当然デザイン性は低くなってしまう。大企業は技術を大切にしがちですが、技術とはデザインを具現化する為にあるはずです。更に言えば、デザインとはライフスタイルをつくるということ。デザインによって説明しなくても分かる価値を創造できるかどうかが重要だと思います。

石川)最後に、森川さんにとってイノベーションとは何でしょうか。

森川)階段をいかにつくるかということだと思います。日本人は坂道を上がっていくことは得意としていますが、ライフスタイルや価値観を一気にグンと向上させるような階段を作った経験は少ないように思います。日本のメーカーや技術者は一つのことを磨き上げ、改善する文化。これらも素晴らしい日本の魅力なのですが、自分はいかに階段を作れるかということにチャレンジし続けたい。歴史の転換点をつくる、そんな気概で頑張っていきたいと思います。

石川)ニーズを拾って組み込むことに長けた企業はたくさんありますが、自分はベンチャー気質。アパレル企業もお客様のニーズに応えるだけでなく、お客様でさえ気づいていない価値やコンテンツをいかに提供できるか。それがマーケットになったときがイノベーションだと考えています。お互いがそれぞれの分野で世界にイノベーションを提供する会社にできれば良いですね。

森川 亮

C Channel株式会社代表取締役社長。1967年生まれ神奈川県出身。筑波大学を卒業し、日本テレビに入社。新規事業に関わる傍ら、青山学院大学大学院国際政治経済学科に通い、1999年同校MBA修了。2000年ソニー株式会社に入社。事業・サービスの企画、営業などコンテンツビジネスの責任者として事業全般に関わる。2003年ハンゲームジャパン株式会社(現LINE株式会社)入社。同年8月よりハンゲーム事業部長としてハンゲーム事業全般の運営を担当。2007年10月に代表取締役社長に就任。2015年3月LINE株式会社代表取締役社長を退任、同年4月女性向け動画配信プラットフォーム事業を手がけるC Channel株式会社を立ち上げ代表に就任する。

石川 康晴

(株)クロスカンパニー代表取締役社長。1970年岡山市生まれ。国立岡山大学経済学部卒。京都大学大学院在学中。1994年クロスカンパニーを創業。1999年にearth music&ecologyを立ち上げ、現在グループで売上1,100億円、従業員約4,000名、世界28カ国で展開し1,200店舗まで拡大。2011年9月には中国に進出。宮﨑あおいを起用したテレビCMでも注目を集める一方、女性支援制度の充実、地域貢献活動へも積極的に取り組む。石川文化振興財団理事長、内閣府男女共同参画推進連携会議議員なども務める。

編集者PLUG

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